介入体験記

介入体験記

惨事介入体験記 5   2015年09月 MRC(当時) 亀田紀子

<7年目にして初めての介入参加>
2015年9月の初めに、介入に参加させていただいた。今までも、介入メンバー募集の案内はいただいていたが、なかなか仕事の都合がつかず、MR協会で勉強を始めて7年目にして初めての介入参加である。 私は企業の相談室で非常勤で働いているが、もともとMR協会で勉強をしたいと思ったのは、災害や事件、事故があった時に、当事者や周囲の方の役に立ちたいと思うものの、どんなふうに接すればいいのか、何をすればいいのか、まったく見当がつかなかったため、MR協会の実践的なノウハウを身につけたいと思ったからである。 今回、介入に参加させてもらうにあたっても、「自分に何ができるのだろう」「どうすればいいんだろう」という思いは、あいかわらず頭をかけめぐっていた(「6年以上、何を勉強してきたんだ!」とお叱りを受けそうであるが‥)。今回は、下園MRSIと戸上MRIのベテランお2人と一緒なので、何があってもどうにかしてくれるという絶大な安心感はあったので、ともかくジタバタして迷惑をかけることだけはしないようにしようと心に決めて臨んだ。
<いよいよMRCとして惨事カウンセリングを実践>
新幹線で現地に着いたのは夕方5時半ごろ。雨の中、宿に荷物をおいて、先方の会社の最寄り駅に移動する。7時に待ち合わせとのことで、はじめに東京の本社からいらっしゃった人事の方にお会いし、その後、事故のあった拠点の責任者の方が姿を現される。その時私は、とっさに「こんな大変なことがあったのに笑ってはいけないのでは」と思い、また、いよいよ始まるという緊張も走り、非常に硬い表情になったのを自分で感じた。でも、ふと、横の下園MRSIを見ると、満面の笑顔ではないか!「そうだ、これこそ、この時こそ、ベストスマイルだ!」と気がつき、私も笑顔に移行する。「そうだよなー、東京からわけのわからない人たちが表情もなくやってきたら、そりゃこわいよなー」と実感として思う。ベストスマイルは、基礎講座Ⅰで習う初歩の初歩だが、実践と結びついた瞬間だった。 この拠点では、日中は社員のみなさんは外回りをされているとのことで、夜に個人カウンセリングが設定されていた。また、希望者のみということで、この日は先ほどお会いした責任者の方ともうお1人の2つの個人カウンセリングのみとのこと。はじめに、下園MRSIと戸上MRIがその責任者の方のカウンセリングに入られ、私は待機している間、カウンセリングをやっている会議室の前のフリースペースで、東京の人事の方から会社の事業内容を教えていただく。そうするうちに、会議室からなごやかな笑い声が聞こえてきて、よかったと思う。 1時間ほどではじめのカウンセリングが終わり、続いて、もう1人の方とのカウンセリングに、戸上MRIと私が入る。はじめに戸上MRIがお話をされ、クライエントさんの不安や緊張をほぐしてくださる。続いて、K-10とIES-Rをやっていただき、そのフィードバックをし、この方の体験された出来事を5ステップを意識しながらお聞きしていく。この方は、亡くなられた方と親しくされていた方で、突然のことに「なぜ」とどうしても考えてしまうとのことで、悲しさややりきれなさ、自責感、無力感、不安感が伝わってくる。今までふつうの生活を送っていた方が、突然の事件で生活がガラッと変わってしまい、混乱、不安、戸惑いの中で日々を過ごしておられることがわかり、惨事後のサポートの必要性を実感した。そして、戸上MRIとともに、今のつらい状況の中での過ごし方について、7つの無力感対策なども含めアドバイスさせていただく。カウンセリングが終わり、この方はもともとクライエント力の高い方と見受けられたが、最後に笑顔で部屋を出られたので、ほっとする。 この日の介入は以上で終了。宿に帰ってからフィードバック・ミーティング。翌日は3人の個人カウンセリングの予定とのことだったが、私は仕事の都合で参加できず、翌朝、先に帰京した。
<介入を終えて>
このように、あっという間の介入体験であったが、帰り道、行く前に思っていた「自分に何ができるのだろう」「どうすればいいんだろう」ということの答えは、自分の中にあるのではなく、現場にあるのだということに、はっと気がついた。現場がどういう状況で、そこにいる方たちがどういう状態で、何が必要とされているのかということがわかれば、おのずとやることが見えてくる。そして、このことは、今まで基礎講座、上級講座を通して一貫して教えられていたことに、今さらながらに気がついた。もちろん、気がついたからといって、すぐにできるわけではないのだが。 ただ、現場の状況や相手の状態を味方になってきちんと聞く技術、そこから何が起きているかを把握して何が必要とされているかを見極める力、必要とされているものを提供できる引き出しをたくさん持つこと、引き出しの中のものをスムーズに使いこなせるように訓練をすること、と自分がやるべきことが整理されたように思う(本当に「今さら」とお叱りを受けそうだが、名前のとおりカメなので、ご容赦ください!)。また、このように整理されたのは、今回、現場の空気を肌で感じたこともとても大きかったと思う。引き続き、講座で学んだことを身につけて、現場で役に立てるよう、修練していきたい。この度は貴重な機会を与えていただき、本当にありがとうございました。  

惨事介入体験記 4   2014年11月 MRC(当時) 堀内和史

<介入メンバーとして初参加決定>
11月某日(2日間)介入メンバーに加わる機会を頂きました。 活動名簿に登録して初めての介入メンバーの募集があり、会社に休暇取得を確認し介入メンバーに応募しました。数日後、介入メンバー確定(戸上MRIの他7名)の連絡を受け一気に緊張感が高まりました。介入2日間の予定は、1日目午後、希望者に対する個別面談。事前配布をお願いしたアンケートの集計。2日目は「情報提供とストーリー提示」を3回に分けて実施するというものです。 介入当日、8時30分羽田空港に集合、その場で今回事案の概要資料を受け取りました。機内で資料を確認し、どのような介入になるのだろうと、不安な気持ちでいっぱいでした。
<いよいよMRCとして惨事カウンセリングを実践>
今回の事案は、従業員が自社ビル屋上から飛び降り亡くなってしまい、従業員の皆さんのメンタル的なケアについて、MR協会に依頼があったものです。 13時頃、介入先企業に到着、いよいよ介入が始まります。 (先方からの要請で、介入の数日前に下園MRSIが現地入りし、関係の深い方への個別面談を実施されています。) 先ず、総務担当責任者の方と、戸上MRI・小野田MRIが、2日間の進め方について面談を実施。その様子を同室内で聞かせていただきました。今回の介入のために、20人位で使用できる会議室、個別面談のための応接室、会議室が準備されていました。責任者との面談終了後、介入メンバー皆が会議室に移動しました。その後すぐに、13時30分から1人目の個別面談が始まりました。時間をずらし2か所の会場で順次個別面談を進めていきます。面談にいらした方は皆さんそれぞれの思いがあり「当初30分くらいかな」との予想を超え、1時間近くになる方がほとんどでした。私は先ず、戸上MRIが進める個別面談に同席をさせていただいた後、次の方は私が面談を進める機会となりました。 私が担当した方は、亡くなられた方に近い関係の方で、話を伺っていくと、予想できない話しの展開に、私自身固まってしまうこともありましたが、戸上MRIに助け舟を出してもらい、なんとか45分間の面談を終了することが出来ました。面談を終了し感じたことは、面談に来られた方は、惨事対処講座で教えていただいたとおりのファーストショック(回避・侵入・過覚醒)の症状を感じ、つらい気持ちを抱えられていたことです。また、「もっと声をかけてあげることが出来たのに・・・」とご自身に対し悔いる気持ちなど(惨事の痛いところ、無力・自責・不安・疲労)を持たれていました。 事前にアンケートを配布し記入をお願いしていたこともあり、会社で設置していただいた回収ボックスには多くのアンケートが集まっていました。事前にお願いしたアンケートは、「K-10(記名式)、心の疲労を見る」「IES-R(記名式)、ファーストショックの大きさを見る」「白紙の自由記載(記名・無記名を選択できる)」の3種類です。個別面談を希望された方は、面談時に記載したアンケートを持参してもらい、面談につなげました。個別面談と並行しその他のメンバーは、アンケートの集計を行いました。「K-10、IES-R」の集計結果はグラフ化し、翌日の情報提供で、全体の傾向として説明する準備を行いました。「自由記載」については、従業員の皆さんの声(個人を特定せず)として会社にお伝えするため、一覧表形式で整理しました。
<2日目 情報提供とストーリー説明の見学>
介入2日目、介入先企業の勤務シフトの関係から「情報提供・ストーリー提示」を3回に分けて行うこととしています。8時45分から1回目の「情報提供・ストーリー提示」が開始されました。説明者は、下園MRSIです。1日目の夜遅くまで掛けて準備したPPT資料に沿い説明されました。 今回の「情報提供・ストーリー提示」には大きく2つの目的があります。 1つ目は、「ショックな出来事の後の反応の理解と心の整理をお手伝いさせていただくこと」 2つ目は、「身近な人が突然自殺をされると周囲の人たちは「どうして、何があったのか」と不可解で理解できないものです。何故お亡くなりになったのか、専門家としての一つの見方を示すこと」です。 下園MRSIは、講座で話をされていたとおり、「弱いものシフト」を実践され、細心の注意・配慮で受講されている皆さんを傷つけないよう話を進めていました。 1回目が終了し、会社側から何点かの要望事項が出されましたが、そのすべての事項に対応しPPT資料を修正・反映させ、15時から2回目の「情報提供・ストーリー提示」が実施されました。2回目は、戸上MRI・高楊MRIのお2人が分担し説明されました。短い準備時間にもかかわらず、受講者への配慮に満ちた「情報提供・ストーリー提示」が展開されました。(すごい!) 私は、2回目の「情報提供・ストーリー提示」が終了した時点で帰京するため介入メンバーから離脱しました。
<介入を終えて>
今回は、介入メンバーに加わる機会を頂き感謝しています。実際に企業への介入を体験し感じたことは以下のとおりです。 「惨事後の身体と心に起こる反応で皆さんが苦しんでいること」 「その反応は、講座で教えていただいた通りの反応であること」 「個別面談時に、何とか少しでも楽にしてあげたい、と、強く感じ自身の気持ちが乱れてしまったこと」 「情報提供での、弱いものシフト、を体感できたこと」 「惨事後の介入は、会社・従業員の皆さんにとって、力になれること」 そして、「今後、実践で力を発揮できるよう、更に自己研鑽が必須であること」 を痛感しました。 帰宅後には、普段使わない筋肉を使った時の、あまり感じたことの無い変な疲れを感じていました。介入メンバーの皆さんから温かいフォローを頂きながらの活動でありましたが、自分の中では緊張した状態が続いていたのだと思います。今後は、勉強を重ね実践力を高め、介入メンバーとして活動していきたいと考えています。貴重な機会を頂きまして、ありがとうございました。
 

惨事介入体験記 3   2013年12月 MR(当時) 秋本陽子

X月、初めてクライシスサポートチームの一員として、ある企業に介入した。X+3ケ月にも同案件の継続支援に携わる機会に恵まれ、継続ケースでの貴重な経験をここに寄稿させていただく。
<初めての職場へのクライシスサポート>
MRとなってからというものの、現場経験が東日本大震災の被災地に限定されてきた私にとって、企業に介入することで被災地とは違った緊張が走ったのはいうまでもない。被災地での介入は「惨事ストレス」とはいえ、大切な誰かを、自宅を、そして職を失い、仮設住宅に入居している方々の継続的サポートであり、本案件のような身近に起こりうる突発的な惨事内容及び組織介入ではない。組織介入の経験が無い私にとって、未知の世界であったことには違いはなかった。 余談ではあるがX月介入時、職場にて不運にも私しか出来ないシステム作業(通常30分位かかる)を日程に入れてしまい、上司の不安そうな目にも構わず無理やりにも作業を終わらせ(5分で終わらせた!!)、電車の乗継等、1分たりとも違えば時間通りに合流出来ないといった別の緊張感と焦燥感に追い立てられ企業に駆け付けたことは、今となっては、よくできたものだと、良い意味での経験になっている。 介入までの幾日かの日々、そして企業に到着するまで、これまでの講座資料を基に惨事対応のシミュレーションしてみる。しかしイメージが沸かない。惨事後ミーティング、構造化面接、回避・過覚醒・侵入、痛いところ、自責・不安・・・などなど、教わったこと全てを思い出しても、介入時にどういったこところで言葉となって自分の口から出るか、ちゃんと出てくるのか?とても不安があった。と言いつつも、初めての介入ということで、自分自身の気が高ぶっていたように今思う。「自分自身が過剰反応してどうする!?」とお叱りを受けそうな状況であったことは、今でも反省点ではある。 当日、午後から下園MRI、小野田MRLをリーダーとするチームに合流し、状況説明及び手順を確認後、個別カウンセリングに移行した。 リーダーが事前に企業内のコーディネーターと介入の手段について綿密な打ち合わせを行い当日を迎えるが、介入現場というものはお互いの信頼関係、リーダー及びコーディネーターの手腕にかかっているといっても過言ではないと改めて感じた。よく聞く「成功への秘訣は段取り8割」である。当日までの段取り等どんなにご苦労があったかと、実際介入しみると全てとは言えないが感じることが出来る。その意志を受け継ぎ残り2割を私たちが担うわけだが、企業側にとって、初めて見る私たちをどこまで信頼するか、どんな対応をすればよいのか、困惑と不安の中、私たちを出迎えなければいけない負担は、惨事後の企業にとっては決して少ないものではない。私たちは惨事介入のプロ集団として最大限の能力を発揮して企業(社員)支援を行わなければいけなく、それは今以上の負担感・不安感を社員に与えるわけにはいかないことからも、最短の時間で信頼関係を築き介入していく。回避・過覚醒等が見受けられた当時の状況下にあっては、メッセージコントロール・守ってやるよルートといった基本事項は絶対不可欠であり、丁寧に且つ慎重に言葉を選び、味方であることを言語的・非言語的を活用して一筋に伝えていく重要性を実感した。
<初めてのクライシスサポートが終わって>
2日間、多くの社員からお話を聴かせていただいたが、皆それぞれ経験したことが、思いが、心身の調子が、それぞれの表現で語られ、マニュアルどおりではないことを痛感させられた。普通に生きていれば、人生の中で滅多に遭遇しない惨事を経験した当事者方々の不安と恐怖は大きいものであろうと思う。私たちはMR協会で学んでいるからこそ、自分がそうなったら回避する術を持ってはいるが、ほとんどの人々はそうではないと思う。だからこそ、私たちが学んだことを駆使し、時には社員自身の時間の流れに身を委ね、苦しかった過去の時間を、迷い戸惑いながら生きる今の時間を一緒に過ごし、社員にとっての最善策は何かを見つける共同作業を行っていく。X月は企業内の雰囲気も慌ただしく、かなりの緊張感が漂っていた。通常業務の多忙に加え、本案件での多忙。安否も不安な中、惨事後ミーティングや個別カウンセリングを行うために業務を調整して社員それぞれが集まる。 個別カウンセリング時「なぜ自分はここにいるのだろう、今からの時間で自分たちは何か変わるのだろうか?調査されるのか?救われるのか?」社員の目からは、私に向かってそれが問いかけられていた。私自身も率直に言えば、かなりの緊張と不安はあった。初めての企業介入現場、初対面の方々とどのように進めていけばよいのだろうと、見立てはどうすればよいのか?CPSもそばに同席、自分の言葉ひとつひとつが、その場にいる人々に影響を与える。今振り返ってみれば、自分にやれること、MR協会の手順と自分の持ち味を最大限に生かしてやりきったとは思う。その時の社員がどのように感じていたかは分からないが、その答えはX月+3ケ月の2度目の介入でいただいた。
<フォローアップ>
X月+3ケ月、まさか、同案件に介入機会が巡ってこようとは思っていなかった。この時もまた、不運にも職場で重大案件を抱えており参加できるかどうかの瀬戸際だったが、またX月の如く、上司に有無を言わせぬ対応(とんでもない部下確定であることには違いない・・・)で日程をやりくりし参加の方向で話を進めた。 私自身どうしても2度目の介入に参加したい理由があった。継続支援をさせていただきたいことは勿論のこと、1度目の介入での反応と時間経過することでどのように惨事後の社員方々が変化されるか?変化しないのか?そこを知りたかったのだ。 X月+3ケ月は朝からチームに合流できたため、すんなり入れた。企業への第一印象として、社員方々の雰囲気が非常に穏やかになっていた。継続して介入するからこそ肌で感じとれることなのかと思うが、表情、声、言葉、動き、どれをとってもX月のようなピリピリした感覚を受けることがない。なによりも、X月では笑顔のなかった社員に笑顔で出迎えて貰えたこと、これは私自身とても嬉しかったことである。3ヶ月経過したことで時間薬というものは有効であり、また、X月に企業が社員のためにMR協会に依頼してチームで介入したことによる「企業は社員を守る」姿勢が社員に伝わっていること、私たちが社員からの言葉を聴き、企業と一緒に共同作業でこの大きな出来事を乗り切ろうとしてきたからかもしれない。 X月に介入したメンバーが全員揃うというチームに恵まれ、そのことが社員にとっても非常に良い影響を及ぼしたと思われる。人間、初対面よりは1度会っている方がより話しやすい。前回担当した社員を担当できるようにコーディネートしたこと、たとえ面談が長引き次の対応が無理であっても、すぐさま状況を読んで誰かがカバーに入るなど、柔軟性と調整力をもって対応できたことは、チームとして素晴らしい統制が取れており、そのことが社員にとっての今以上の負担感・不安感を与えない・和らげる結果に繋がったことと感じる。 X月+3ケ月は惨事後ミーティングは実施せず、前回面談を受けた約40名の社員の個別カウンセリングのみを30分実施、という2日間であった。9:30からスタートし16:30までの間、3部屋に分かれMRとCPS2人一組になっての実施である。その際、X月に行った心理テストと同様のテストを事前に実施してもらい、時間経過しての変化比較のために持参してきてもらう試みがなされていた。ほとんどの社員は大幅に点数が下がっていた。感情等を含め人間の心理状態というものは数字だけでは測りきれないものではある。しかし、心理テストの結果をもって心理状態を数値化・説明することで、目に見える安心感を与えられることが実際分かった。また私自身が思う今回の大きな特徴として、個別カウンセリングでの30分間、X月のような無言が続く重苦しい時間や社員からの話が止まらない興奮的な時間を過ごすことがなかったことである。無言であった社員からは自ら「思い」やプライベートを語る場面、話が止まらなかった社員からは落ち着いた間合いの会話の続く場面と、通常の自分自身を取り戻した感が伝わってきた。社員からは安定した生活を送れている言葉が出る反面、X月に起きた惨事の出来事以外のところでの不満や悩みというものが出てくるのは働いている限りどうしても切り離せない。確かに、人事絡みの悩みが多くはあった。今後はキャリア面での支援が必要になってくるのだろうと、実感させられた。
<クライシスサポート、フォローアップの介入を振り返って>
X月とX月+3ケ月の2度にわたって介入させてもらったことは、MR協会の方策が惨事を受けた方々に非常に有効であり、惨事から時間経過した後でも使えるツールがあること、下園MRIや小野田MRLの手腕を間近で実践的に学ぶことができ、また社員側からは人間が変容成長する姿を間近で見させていただけた機会に恵まれた。このことは理論とか実習では体感できない、何にも代えることが出来ないものである。勿論、自分に足りないところは沢山あり今後もまた継続して学んでいかねばならないし、MRとして自信があるかといったら100%と答えられないのは事実である。自分自身が成長できる場でもあるが、プロとしてその場に存在する以上、費用対効果を考えた時に、私たちは依頼人にどれだけ返していけるか?だと私は考える。本来は、このような悲しい惨事といった出来事はあってはならないものであり、ないことが人間の幸せに繋がっている。しかし、悲しくもそれが起きてしまった時、多くの組織は混乱し途方に暮れることと思う。今回、企業が継続依頼してくださったということは、MR協会チームの活動が信頼に値するものであり、それは個々が、MR協会の理念を念頭に講座等で得たスキルを駆使し最大限の能力を発揮して、企業のために尽力した結果である。 これまで自殺危機・惨事ストレス等へのスキルを体系化し、指導してくださってきたMR協会の皆様方に、この場をお借りして御礼を申し上げる。

惨事介入体験記 2   2013年09月 CPS(当時) 大内理絵

そのチャンスは、突然やってきた。ある夜「MR事務局 介入事案についてのメンバー募集」のメールが届いた。そこには、場所・発生日・介入予定日などの他に、募集人数と募集期間が記されていた。経験するチャンスだが、すぐには決断できなかった。私が活動名簿に登録したのは、ちょうどひと月前。こんなにも早くその機会がくるとは思っていなかったからだ。希望しても選ばれない可能性がある、自分にきたタイミングも大事にしたいと1日悩んだ末、誰にでも初めの一歩があるのだと思い切って応募した。
<介入メンバーに決まる>
その6日後「介入案件応募の結果について」の返信があり、介入リーダーを小野田MRLとする、OJT指導者の下園MRIを含めた8人のメンバーに名前が入って・・・・・・いた。一気に不安に襲われる。 私は、本年度2013年3月のCPS試験を受けたばかりなのだ。講座やロールプレイ、机上のみの未経験者が、いきなり介入現場に行くのは早いのではないかという心配。チームに迷惑をかけてしまったらどうしようという不安。この心配や不安感は介入当日まで続き、未知な先のことを考えて1人ナーバスな気持ちになっていた。 今回の介入は、突発的な出来事により組織メンバーに動揺があることと、人員減による業務ストレスの訴えがあるという某社からのポストベンション依頼。事前に配布したアセスメント(K-10と自由記述)をカウンセリング時に持参してもらう形で、約30名の個人カウンセリングが行われた。
<初めてのチーム介入>
1日目。先に現地入りしていたMRL、MRの方々と合流する。小野田MRLよりCPSの3人に追加情報の説明があり、概要を改めて頭に叩き込む。介入の現場にいるという緊張感で、気持ちが更に引き締まる。その後すぐに、MRL、MRが実施する4つの会議室に分かれて行われる個人カウンセリングに同席した。1人30分目安のカウンセリングであったが、人によっては長くなることもあった。限られた時間の中で、相手の状況や状態に合わせ、臨機応変に対応するカウンセリングの進め方を間近で見ることは大変勉強になった。また、メッセージコントロールの重要性を改めて認識することもできた。 2日目は昨日に引き続き、午前に個人カウンセリングをし、午後からは会社への報告が行われた。そして、この日はCPSもMRの指導の元でカウンセリングをするという指示が既に出ていた。事前に他のCPSからその情報は聞いていたので、とうとう来たかと覚悟を決めたが緊張感は高まるばかり。カウンセリング開始前に、指導MRの発する「大丈夫だよの味方メッセージ」に心が落ちついた。メッセージコントロールはどんな場面でも生かされるのだと、妙に納得してしまった。 30分程度と思っていたカウンセリングが60分の長丁場となり、カウンセリング中、彷徨い始めた自分がいて焦りが出たが、MRのフォローで無事終了することができた。終了直後は、ため息しか出なかった。まさに、目一杯な状態だったのであろう。その後は時間が経つにつれ、反省点ばかりが浮かんできた。MRからのフィールドバックは、実際のカウンセリングに対して行われるので、できなかったことを具体的に理解することができ、自分の課題の確認につながる。1対1のフィールドバックは、私にとって価値あるものとなった。
<介入を振り返って>
惨事介入現場では、惨事そのものが与える影響だけでなく、個人が抱えている問題が大きくなったり、新たな問題を生じさせたり、様々な形で表出してくることを知った。個々の反応は人それぞれで、個別に多くの要因が存在することを前提に、限られた時間の中で相手とどう向き合っていくかが難しい。 今回、参加して特に良かったと思うことは、チームの連携を肌で感じることができたことだ。一緒に参加したCPSの方からも多くの助けを頂いた。今回のチームの方々に改めて御礼申し上げます。 今後私は、このような連携が担えるカウンセラーになることを目標に、能力向上をはかっていきたい。そして、目指すはMR!決意を新たに進んでいこうと思っている。  

惨事介入体験記 1   2013年07月 CPS(当時) 東峰由佳

仕事から自宅に帰りメールを開くと、活動名簿登録のメンバーに対し、介入事案参加メンバー募集の案内が届いていた。一週間前に会社でクライシスが起こり、それをサポートする危機介入。活動名簿には、1か月前に登録したばかり…しかも、「CPSは見学のみ」と書いてあるし…。ためらいがあったものの、翌日上司に休みの申請をしたところOKが出て、こんな機会はめったにない!ダメでもともと!と、応募した。
<1日目>
1週間後、酷暑。下園MRI以下10名の介入メンバーが、9時30分頃某社に到着。控室に向かう途中、今回の事故現場付近を通過。声を低くしながら、メンバーが互いに申し送り。緊張感がさざ波のように広がっていく。会社上層部5名との対面。全員腕組みし、緊張した面持ち。本事案の介入リーダー下園MRIから惨事介入戦略サポートのメニューの提案が始まった。MR協会として、A案、B案の2つの案を提案、専門家である我々からお勧めするのはB案と。微妙で繊細な押し引きを繰り返しながら、下園MRIは丁寧に言葉を重ね、それぞれの施策の狙い、メリット、デメリットについて説明をされる。会社側は、真剣に話を聞いていたが本クライシスについては原因・事実がはっきりしないこともあり、当該社員、その他の社員への影響も考え慎重に対応したいとのことから、A案を選択された。下園MRIは最後に施策の限界についても説明。できること、できないことを明確にされた。 目の前で繰り広げられる「メッセージコントロール」、「介入目的調整面接」。基礎講座、上級講座で学んだ内容そのままだ。しかし、現場の緊張感には、現場で触れてみないとわからない。そう感じたとき、CPSで見学といえども、会社側はMR協会のメンバーの一員として見ていることを強烈に意識した。内心はドキドキおどおどしていたけれど、背筋を伸ばし専門家然とした振る舞いをする、という課題を自分に設定した。 10時過ぎ 緊張感漂う中、実働へ。惨事後ミーティングと個人カウンセリングが並行して行われ、私は、惨事後ミーティングを見学させていただくことに。 下園MRIと幾田MRLがファシリテーター。日本で数少ないディブリーフィングが見学できるとはこの上ない貴重な体験。上級講座Ⅱで学んだ光景がそのまま繰り広げられる。グループのメンバーから情報が語られ、それぞれの自責感が減って行く過程を目の当たりにした。これが、惨事後ミーティングの効果なのか。 その後、MRの方が実施する個人カウンセリング(30分/人)にも同席させてもらった。(会社側には、事前打ち合わせの段階で、CPSを勉強のために同行、同席させていただくことを予め了解を得ています) 昼からは、2回に分け全社員に対して、挨拶と、心理テストを実施した。今回は、K10・IES-R・自由記述の3種類。下園MRIは、IES-Rを説明する際に、簡単に惨事後の症状とその継続期間などについてブリーフィング(心理教育・情報提供)を行った。 その後、もう一組の惨事後ミーティング、並行して2部屋で個人カウンセリングが実施された。カウンセリングに同席しないメンバーは、控室で心理テスト・自由記述の入力と集計を実施。心理テスト・自由記述は、最終的には100以上に及んでいたと思う。メンバーが手分け協力して、PCで入力したり、点数が高い人、連絡先を記入されている人(メール・電話)を仕訳したりした。 その夜は、近くのホテルで宿泊。翌日の打ち合わせを行うため、ホテル内のレストランにて集合し、夕食をとりながら、解除ミーティングをした。本日の感想をそれぞれ述べ、翌日の申し送りや対応について意見交換。 日中、アンケート分析、入力作業が進んだので、当初予定されていた夜間作業はなかった。
<2日目>
翌日、本日も猛暑。会社の方がホテルへ迎えに来られ、一同、車に乗り込む。 本日も引き続き、個人カウンセリング。 会社上層部や当該社員の直属の上司のカウンセリングも予定されていた。その人たちのスケジュールにあわせて、臨機応変に対応しなければならない。 下園MRIより、「CPSはMR指導のもと1名のカウンセリングをすること」との指示がある。『来たー、どうしよう…』と内心ビビっていたが、天下のシモフリ、避けては通れぬ。と観念し、勢いに任せて、カウンセリングに突入してしまった。先輩MRが見守られながら…。基礎講座で取得したように、事実を聞こうと話を進める。惨事の反応を確認しようと思っていても、話がそちらへ流れない。焦っている私を見かねて、MRのフォローが入り、惨事反応の確認・説明をしてもらう。それを受け、対処の方法を私のほうから説明させてもらう。なんとか終了。どっと汗が流れてきた。反省点ばかりが思い浮かぶ。 別の室では、社長、取締役へのカウンセリング。その後、当該社員のご家族のカウンセリングのため、MRIとMRLがご家族宅へ。 午後も引き続き、カウンセリング。私ももう一度見学させてもらった。家族宅から帰ってきた下園MRIを中心に、これまでのカウンセリングから得られた情報、家族から得られた情報、心理てストの集計結果等が総合分析され、会社側への最終報告内容を下園MRIが作成。わずか、30分しかない作業だった。 16:00~17:00頃、会社への最終報告。 まず、心理テストの結果の報告。次に社員の関心事は、やはり「情報」であることを、下園MRIが説明。「もしB案で今回の支援を実施していたら、このような情報を皆さんに提供するつもりだった」という流れで、当該社員の当日までの心理的経緯について、ホワイトボードを使って、ストーリー提示。(MRIによると、メンバーの学習のためにあえて説明したと、とのこと)会社上層部も、経緯については納得した様子だった。特にMR協会が、ご家族に対し適切な対処をしてくれたことを、大きく評価してくれているようだった。下園MRIからは、今後の対応についても具体的なアドバイスがあった。 会社からは、再発防止に尽力したいゆえ、MR協会に今後の対応について、コンサルテーションをお願いしたいというリクエストも出た。 ここでもメッセージコントロールを駆使し、会社上層部の気持ちを慮りながら言葉を選び、がけ崩れしてもさらに丁寧に言葉を重ね、話を進めていく、実際の現場対応の難しさを目の当たりにした。 車でE駅まで送っていただき、解散。昨日初めて会った時は厳しい顔つきだった担当が、笑顔だったことが印象深い。
<初めての介入を終えて>
私が今回の介入を体験して強く感じたのは、一にも二にも「メッセージコントロール」の大切さ。抵抗感が強い相手に、どのようにこちらの言いたいことを伝えるか、難しいけれど、チャレンジしていかないと上達しない。基礎講座、上級講座で学んだことのすべてがこの介入では体験できた。
そして、10人のチームワークが、まるで何度も同じ経験をしているかの如く自然で、本当に貴重な機会であった。MRを目指すモチベーションにもつながり、さらに上を目指したいと思った。