平成22年度CPS認定会における認定者アドバイス

平成22年度CPS認定会における認定者アドバイス

平成22年7月17・18日 CPS認定会における認定者アドバイス

CPS実技試験が、7月17日及び18日の両日、広尾の「JICA地球ひろば」で行われました。
合計35名が受験し、合格者は16名(合格率は45%)でした。
 
<具体的アドバイス>
1 面接手順へのこだわり
自殺企図対処、惨事対処ともに、面接の手順については良く覚えていただいているようです。ただ、講座でもお伝えしているとおり、手順はあくまでも手順にしか過ぎません。カウンセリングの流れ、クライアントの表情や発言によって、手順は柔軟に変えていかなければなりません。実技試験でも、そこが見られています。メッセージコントロールの階段を上り下りする(つまりがけ崩れ対策)のと同じように、手順も前後したり、あるいは飛ばしたりするのが、むしろ自然なのです。いわゆる常識的対応です。
 
2 説明が不十分
惨事後や自殺企図を持つクライアントには、傾聴でしっかり「味方」になった後は、その立場を崩さないように配慮しながら、上手に症状の原因、意味、対処法を説明したり、クライアントができることを一緒に考えてあげるという支援が必要になります。
大学や産業カウンセラー協会などで、質問や説明することを極端に「抑えた」トレーニングを積んでいる方は、どうしても、この説明が苦手なようです。いざ説明しようとなると、一方的に講義になってしまう人、たたみかけるように説明する人、説明がたどたどしく分かりにくい人が多かったように思います。上手な説明をするには、次のようなことに気をつけて、練習してください。
 
  • 相手の反応を確かめながら説明する。
  • クライアントが「分からない」という表情をしたら、どこが分からないか確認する。
  • 表情が曇っていれば、裏メッセージに取られていないか自問しながら説明を進める。
  • 頭の中で、「説明できる」と思っていても、口に出すと上手に言葉がつながらないことも多い。口に出して練習しておく。誰かを想定して、説明し、(仮想の)質問を受け、更に説明するなどのトレーニングが必要。
  • 説明する内容を、自分自身でしっかり「納得」しておかないと、どうしても浮き足立った説明になる。うわべだけの理解でとどめておかない。分からなければ、協会講師等にしっかり質問する。
  • 事例や比ゆなどを使用(準備)する。(今回も何人かの人が事例や比喩を使って上手に説明していました。ただ、今伝えようとする内容にそぐわない比ゆもあったので、事前に仲間に紹介してみて、内容をチェックしておくべきです。)
  • 受診などの説明が、「脅し」になっている人がいる。「不安」はうつ・惨事の「痛いところ」のひとつ。脅しは、この不安を刺激する。相手の痛いところは絶対に刺激してはならない。不安情報は、安心情報とセットで、という原則を忘れてはいけない。例 「あなたは、このまま医者に行かないと大変なことになりますよ…、PTSDになりますよ…」
 
3 メッセージコントロール
まだまだ全体的に表情が硬い人が多いようです。ぜひ、自分のカウンセリングしている姿を、VTRで見てみてください。特に、不合格だったは、VTR撮影トレーニングお勧めします。
また、「繰り返し」が裏メッセージに取られやすいことは、以前にも指摘していますが、症状などをクライアントが訴えたときの、カウンセラーの要約(…か?で終わる質問型要約)やパターン化された対応が、同じように裏メッセージに取られやすい人が何人かいらっしゃいました。
 
例:Cl「眠れないのです。自分が情けなくって‥」
Co「眠れないのですか。自分が情けなくなっているんですか」
→裏「あきれている?本当かどうか、疑っている?」
 
Cl「自分が足を引っ張ってしまって‥」
Co「足を引っ張っていると、感じているんですね‥」
→裏「信じてもらえていない?私だけの感じだってこと?」
 
Cl「病気なんでしょうか」
Co「病気かどうかは、私は医者ではないので判断できません…」
→裏「う、やはり病気なんだ、この口ぶりだときっと重症なんだろう。しかも、医者に投げられた、ここではこれ以上話をするなということか…」
 
4 要約・質問をもっと磨く
要約・質問がまだ不十分な方が多いようです。
特に、味方メッセージを伝えようとするとき、いきなり言葉で、「それは大変ですね」とか「苦しかったですね」と返す人がいました。 必ず、要約をして、「私はしっかり聞きました。その上で、感想を持ちました」というメッセージを伝えてから、言葉で「大変ですね」と言うようにしてみてください。
質問するときも、突然質問する人がいました。
この場合も、要約を質問の前に入れることで、「私は、こう理解しています。その上で、疑問がわいたのですが…」というメッセージを与えてから、質問をしてください。これが質問の刺抜きの基本的方法です。
 
5 自殺企図対処についての注意点
自殺企図対処において、当事者の苦境や対処方法を、職場に説明してあげるという発想はありましたが、家族に説明する必要を指摘した人はいませんでした。家族が安心することは、当事者の今後の戦いにとって非常に大きな要素になります。
職場や家族への説明は、これまでの伝統的なカウンセリングでは、カウンセラーの仕事とは認識されていないかもしれません。しかし、現実には、ただ当事者の話を聞くだけでなく、周囲の人に上手にアプローチすることにより、結果的に当事者の戦いを支援できるのです。
 
6 惨事対処についての注意点
惨事対処においては、まだ多くの皆さんが「事実認識の聞き方」が甘いようです。15分のカウンリング時間なら、クライアントが特別の反応をしない限り、事実認識をしっかり聞いているうちに、試験が終わるぐらいでなければなりません。多くの人が、5分ぐらいで事実認識を終えてしまっていました。
一番大きな原因は、聞く勇気が無いことだと思います。「話したくないこともあるだろう」という配慮の気持ちなのですが、しかし実際、惨事での支援を経験すると、話したくない人はあまりいません。ほとんどの皆さんが、事実関係を詳しく話してくれます。(こちらが関心を持って「聞けば」、です。このとき「驚き」の表情が特に重要ですが、試験ではこれができていない人が多かったように思います。)
事実認識を聞きながら、上手に味方メッセージを出していく。惨事のカウンセリングのもっとも効果のある過程で、かつもっとも難しいところです。ぜひ、もっともっと、ロールプレイをつんでみてください。
また、惨事のカウンセリングは、初対面の場合が多いので、自己紹介やカウンセリングの説明などをしっかり練習して、最初の3分で安心感を与えられるようにしてみてください。
 
7 不合格だった方へ
試験では、特別な環境のなかで緊張し、時間制限もあることから、なかなか日ごろの実力を発揮できなかったかもしれません。しかし、惨事や自殺企図を持つクライアントに接するときは、カウンセラーも緊張するのです。その緊張の中でも、最低限のパフォーマンスを発揮しなければなりません。
克服するには、練習しかありません。ぜひ、VTR撮影を活用した、ロールプレイを行ってください。
昨年、不合格だったのですが、今回見事合格された方がいらっしゃいます。非常に成長されていらっしゃいました。試験員共通の意見です。
確かに、試験は水物です。試験員の目も絶対ではありません。
しかし、この方の1年の成長を目の当たりにすると、「不合格」を緊張や試験員との相性のせいにせず、これを機会にもう一度しっかりトレーニングして、誰が見ても「合格」の実力を身につけるための、きっかけにして欲しいと思うのです。
 それこそが、MR協会が認定制度を設けている本当の狙いなのですから。
 
8 実技認定試験における個人へのフィードバックについて
今回は個人の試験終了直後に、クライアント役から、フィードバックをお伝えしたと思います。
MR協会としては、単純に合否だけを伝えるのではなく、実技認定試験を通じて少しでも成長していただきたいという思いから、このようなシステムを試みてみました。
 ただ、クライアント役の会員は、カウンセリング場面でクライアントの気持ちになっていますので、客観的に受験者を見ることはできません。クライアントからのフィードバックは、あくまでも、MR協会の公式なものではなく、個人的なフィードバックと捕らえておいてください。