平成25年度CPS認定試験におけるアドバイザー講評

平成25年度CPS認定試験におけるアドバイザー講評

平成25年8月3・4日CPS認定試験におけるアドバイザー講評

今回の試験について下園MRインストラクターより講評をいただきました。
皆さんの今後の参考になさってください。  2013.8.7 認定委員会
 
1.メモ、メッセージコントロールについて
クライシスカウンセリングにおいては、体験を共有化することや、症状などの説明をすることがとても重要になるため、メモを上手く活用しなければなりません。
この時注意しなければならないのは、メモは、表情と同じレベルでメッセージを強く発するということです(つまり要約・質問よりも強いメッセージ)。例えば、驚きや納得のタイミングでキーワードをメモすると、表情や要約質問でメッセージを返した時より、さらに相手は、「とてもよく分かってくれた」と思うでしょう。
一方メモが出すメッセージが大きいことは、悪い印象のほうも伝わりやすくなるということでもあります。メモを取ることによって、会話のリズムが崩れたり、「カウンセラー自身のためにメモを取っている」という印象を与えることもあるでしょう。
メモのメッセージコントロールのマイナスを補う具体的な方法としては、
 
  • メモに書く字を大きくして、相手にも見えるようにする(共同作業のためのツールであるという認識を作る)。
  • すべてをメモするのではなく、図で表した方が共通の理解を得られやすい内容やテーマを書く。
  • メモを取るリズムができている場合は、メモをとらないことによる裏メッセージが出てしまうので、相手にとって重要だと思われることは必ず書く(重要なポイントの要約と同じことである)。
  • 相手の話のリズムを崩さないために、メモしながら、要約したり質問する。
  • メモを取るべきか、相手を見て表情でメッセージをコントロールすべきかのタイミングや場面をうまく見極める。
  • メモをしている最中であっても、相手の話や態度によって、メモを中断し、相手の方を見るなど柔軟に対応する。
などのことに気をつけると良いでしょう。
メモのメッセージコントロール上でのマイナス点は、相手の顔を見ないことであると思うかもしれないが、そうではありません。ずっと見つめることが重要なのではなく、正しくメッセージが伝わるのが重要なのです。時折目線が会った時に、あるいはその他の手段で、しっかりメッセージを伝えることができれば、それで問題はありません。
目線を外すことを気にしすぎて、相手を見つめながらメモを取る人もいますが、メモを取る時はメモに視線を移してもいいでしょう。そのほうが自然なメッセージが出ます(変なメッセージを出さなくてすむ)。
ここではメモのメッセージコントロールについて説明してきましたが、メッセージコントロールは総合的なものです。メモが出すメッセージにマイナスがあるとすれば、それを要約質問、表情などで補えばよいのです。しかしながらその場合でも、表情、要約質問、メモなどが出す様々なメッセージが一致していること必要となります。メッセージの不一致は、わざとらしさを産んでしまうからです。
例えば頷き、相づちがが良くても、表情が伴っていない場合は、スキルで(言葉だけで)誤魔化してるような印象になります。そのような印象がある人がメモをすると、メモのメッセージがより悪い方に取られる可能性も高くなります。
メッセージコントロールにまだ自信がない人の場合は、メモを限定的に使ったほうがいいのかもしれません。たとえば場所を確認するときとか、間柄を確認する時などはメモを活用したほうがよいでしょう。あるいは説明するときはメモを積極的に活用するべきです。
それ以外の状況では、例えば最初の30分ほどは話聞くことに集中し、ある程度コミュニケーションがとれ味方が確立した以降にでも活用し始めるのが良いのかもしれません。
また今回残念ながら不合格になった方に共通するのは、「顔の表情でのメッセージコントロールが不十分である」というのが、試験委員の共通した認識でした。
 
2.要約・質問について
要約・質問については、ある程度できていました。しかしながら要約の部分が「薄い」ために、メッセージを乗せきれていなかったり、表面的な応答に感じられる人がいました。
頭の回転の速いカウンセラーの場合、相手の発言を自分なりに解釈し、要約というより感想だけを述べて、質問を加えるという応答になりがちです。会話は流れていくが、なんとなくうわべだけの共感である印象を与えてしまいます。
よりクライアントに寄りそった感覚を演出するには、相手が言ったことをしっかり繰り「伝え返す」ような要約を練習する方が良いでしょう。
 
<例>
CL:疲れて家に帰ると、夫がテレビで見ていたようで、「どうだった」なんてしつこく聞いてくるんです。なんかすごく他人事の様で、腹が立っちゃって、つい大きな声を出しちゃったんです。
 
CO(薄い要約の例):家に帰ると、ご主人が他人事のようにいろいろ聞いてきたんですね。どんなことを聞かれたんですか?
 
CO(しっかり伝え返す要約の例):そんな長い一日を終えて疲れて家に帰ったら、ご主人がテレビでそのことを知っていた。それでいろいろ質問されちゃったんですね。それがとても他人事の様で、あなたは腹が立っちゃった。そうですか。そりゃつい、大きな声も出ちゃいますよね。ご主人は結構しつこく聞いてきたんですか?
 
このように薄い感じのする要約になりがちな人の場合、相手の発言の伝え返し、自分の感想(メッセージの付与) 、質問という3段階で予約・質問を構成すると良いでしょう。
 
3.事実認識(体験)の聞き方
感情をよりよく理解するためにはまず事柄をしっかり聞かなければならない、ということは、ほぼ全員が理解していたように思われます。しかしながら事実認識という概念を誤解してる人がいました。
今回はゴンドラからの落下による事故のケースであったが、クライアント自身はゴンドラが落ちたその瞬間は見ていません。だからゴンドラがどのように落ちて、どのように死人が出たのかについての事実関係を深く掘り下げてもあまり意味がありません。
必要なのは、クライアント自身がどのような体験をしたかということです。自分はその日、事故に遭遇するまでどういう行動をしていたのか、どういう位置にいたのか、どんな音を聞いたのか、自分はどんな発言や行動をとったのか、どんな映像を見たのか、自分の周りには誰がいたのか、周囲はのような反応したのか、どれぐらいの時間が経過したのか…このような情報をクライアント目線で詳しく聞いていけば、それに伴う感情を理解し共感しやすくなります。
事故の話を聞くときは、どうしてもその事故そのものに関心を持ってしまいがちですが、関心はクライアントの個人の「体験」に向けるべきであるということを忘れてはなりません。
また、講座では、体験を聞く段階でクライアントが感情面を話し始めたら、表情や要約で味方メッセージを軽く出して、また体験に戻ることを勧めています。というのも、感情面に入りすぎると、限られた時間の中で、クライアントが遭遇した体験の全体像を聞くことができなくなる恐れがあるからです。惨事の話は、ある部分の感情より、事実そのもののを共有するほうが、味方になる、つまりより深い共感をすることができるのです。
ところが、今回の受験者の中には、この講座での教えを極端に守りすぎた方がいらっしゃいました。クライアントが語る事実をあまりにも淡々と要約し、次にどんどん進んでしまうのです。
クライアントがつらい場面を話したら、「体験を聞く」段階であっても、「それはびっくりしましたよね」「こわかったでしょう」等というメッセージを表情や要約で入れてから、体験に戻るべきです。
要はバランスです。感情に深く入りすぎてもいけないし、感情を全くスルーしてもいけない。そして、もちろんこのバランスは、カウンセリングの進みぐらい(体験を聞く段階か感情を聞く段階か)でも変えていかなければならないし、がけ崩れ対策をするときも変えていかなければなりません。MR協会の試験では、実践で必要になるこのようなバランス感覚が、チェックされているのです。
 
4.第二の無力感対策(無理もないよメッセージの出し方)
今回のクライアントは、事件後1ヶ月たっても症状が治まらないという第二の無力感に苦しんでいました。その方に症状説明をするとき、ASRの症状だから誰にでも起こること、 1ヶ月くらい経ったら次第におさまる事、のみを説明している人がいました。しかしながら、これでは「私だけ1ヶ月たっても症状が残っているのはなぜ?」という疑問に答えていません。むしろ「他の人は1ヶ月で収まるのに、私だけ残っているのは、私は壊れているからなんだ」という裏メッセージに取られかねません。
このようなケースの場合、あなただけ違うのは、あなただけの特別な理由があるから(その理由がなければみんなと同じだよ)という特異性を説明してあげることがポイントとなります。このクライアントの場合は、2人の子供、特に乳飲み子を育てていること、職場のリーダーになったていること、自分の一言で事故が起こってしまったのだと強く悔やんでいること、なかなか夫の理解を得られないことなどがあって症状が長引いているという説明をするべきです。症状説明は、決してパターン化することなく、このように、相手の痛いところを緩めてあげるような説明を模索しなけばなりません。
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【認定委員長コメント】
今回は、受験された方のほとんどの試験に立ち会うことができました。合否の判定結果に関わらず、受験された方ご自身の受験に対する動機付けの強さ、ふり返りと改善が、基礎講座修了~試験の間での大きな実力アップにつながっていることを感じました。複数回受験されている方は、自主勉強会への参加等を通じて惨事のカウンセリングのポイントの理解を深めながら、クライエントの状態に合わせたカウンセリングを意識して改善されてきた努力を感じることができました。受験された皆さんの努力にあたまが下がります。
審議、判定は難しいものとなりましたが、認定試験に関わる協会スタッフとしては嬉しい悲鳴です。レベルの高い認定試験となりましたことを感謝いたしますとともに、さらに高いレベルを目指して研鑽を継続していただけるものと確信しております。

平成26年3月1・2日CPS認定試験におけるアドバイザー講評

3/1,2のCPS認定試験には30名の受験者の方が応募されました。
前回の昨年8月のCPS認定試験同様に、結果の如何にかかわらず、受験されたみなさんのレベルの高さに驚かされています。 これは、基礎講座を通じて、受験者のみなさんがロールプレイのあとでのご自身のふり返りと実技指導者からのフィードバックを十分に活かして、改善されてきた成果だと思います。
基礎3講座を連続して受けていただいた方は実感されているかもしれません。メッセージコントロール講座で実習したことの意味がわかっていただけるのは自殺企図対処講座での実習であり、自殺企図対処の講座でお伝えしたことの理解が進むのは惨事対処講座の実習です。 惨事対処講座の実習が身についたことを少し実感できるようになるのは…CPS認定試験に向けてご自身で勉強されたり、勉強会に参加されて実習を積み重ねた時です。
基礎講座の中でお話させていただいたとおり、認定試験は基礎講座の内容をご自身の中に定着させることに利用していただければと思います。昨年度より、基礎講座の再受講料金を設定しています。再受講、協会主催の勉強会や自主勉強会をとおしてさらに研鑽を積んでいただけますようお願いいたします。   2014.3.10 認定委員長 塩坪 純
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今回の試験について下園MRインストラクターより講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。  2014.3.7 認定委員会
 
<①メッセージコントロール>
裏メッセージになるような表情や態度は少ないのですが、相手に対して味方をよりアピールするような「驚き」や「共感」の表情が乏しい人が多かったように思われます。特に惨事では、驚きの表情が重要となります。驚きについては、全体的に、もう少し大根役者を意識したほうが良いと感じました。
 
<②まだ事実認識(体験)の聞き方が不十分>
惨事後のカウンセリングの最大のポイントは、惨事の体験を詳しく聞き、そのことによって共感を深め、クライアントの味方となることです。しかしやはりまだ、通りいっぺんの事だけ聞いて、「わかったつもり」になっている方がいるようです。
今回は、薬局に車が突っ込んでくるという事例でしたが、その事故の時に、飛び込んでくる車を見ていたのか、はねられる人を見たのか、その時自分はどのように反応したのか、事故の直後どのようなことをしたのか、事情聴取ではどのようなことを話したのか、そのまま帰宅したのか、家に帰って家族とどんな話をしたのか、翌日はどのような行動したのか…などをしっかり聞くことにより、初めてクライアントが遭遇した出来事(惨事体験)を共有することができるのです。
さらにこのように事実を丁寧に振り返ると、出来事の後にクライアントを苦しめることになった第二の出来事(例えば警察の事情聴取で再び傷つく等)が存在する場合、その話を聞きやすくなる(聞き逃さない)手順でもあります。
(ですから、あまり時間がない時でも「それから今までの間に、この事故に関してさらにショックを受けるようなことを言われたり、新たな情報が入ってそれから一層辛くなってしまうような事はありませんでしたか」などと聞いてみてください。)
また、このように事実を丹念に聞いていくと、罪悪感や無力感が強くなっているクライアントの主観的な記憶が、話してるうちに、より客観的なものに変化していくことがあるのです。例えば「案外自分はいろんなことをしていたんだ」と無力感が緩んだり、「自分だけのせいではなかったのかもしれない」と自責が軽くなることがあるのです。
講座でお伝えしている、事実認識(体験)を丹念に聞く意味を、もう一度整理していただくといいと思います。
 
<③症状の確認について>
症状の確認が十分でなかった人が多かったようです。症状を確認する意味についてもう一度考えてみましょう。
惨事対処の場合は、クライアントが圧倒されている症状を確認し、その症状に対して適切な説明をして、第二の無力感を緩めていくために症状を聞きます。
一方、自殺念慮対処(うつ対処)の場合は、症状の苦しさについて理解し、共感を深めるために症状を確認するのが主な目的です。
今回のクライアントは、出来事の前からの「2段階うつ」と、惨事後のファーストショックと セカンドショックの症状が、混在していました。
まず、惨事後のファーストショックについては、誰でもそうなることや理由があること、期間限定である、などの説明(無力感対策の7つのステップ)を、事例や比喩を使って上手に説明し、安心させてあげることが重要です。
また、クライアントの「人が死んでいるのに、悲しいとも感じずに淡々と事情聴取に答えている私は冷たい」という発言について、「回避症状(感情の麻痺)した状態を、これまた反応の1つである罪悪感の視点で見ている」と正しく理解してる人が少なかったように思います。
一方、うつの症状については、その苦しさを理解するために、「眠れない」という表面的な理解だけではなく、眠るためにどんな努力をしているのか、眠れない時間はどんなことを考えているのか、眠れない期間はどれくらい続いているのか、などを詳しく聞く必要があります。
 
<④メモの使い方について>
惨事対応として、事故現場をノートに描く人は多かったのですが、クライアントが話す惨事後特有の症状や、気持ちの変化などをメモする人が少なかったように思います。ファーストショックに対する「普通だよ」や「理由があるよ」という説明は、そのクライアントが今苦しんでいる症状について説明しなければなりません。しっかりメモしておかなければ、せっかくクライアントがいろいろ話をしてくれているのに、一般的な症状説明になってしまいがちです。メモをもっと効果的に活用してください。
 
<⑤事例と比喩の活用>
ほとんどの人はファーストショックについて、「みんなそうだよ」、「理由があるよ」と説明しているのですが、ただ「そんなものだ。だから心配しなくていい」などと言われるだけでは、むしろ「おおごとだよM」を否定する裏メッセージにとられてしまう可能性があります。いわゆるがけ崩れです。
普通だよMを出すときは、ぜひ事例で説明してほしいと思います。事例と言うと「自分が体験したこと、事実でなければならない」という認識があるかもしれませんが、ここでは、人物像を使った物語形式で伝えること、と理解してください。フィクションでいいのです。「例えばある人が交通事故に遭ったと思ってください。」と切り出して、「その人は現場にいたのに、その時はちっとも怖いと感じなかったんです。しかし家に帰った後にブルブルと体が震えてきて、次の日から車で出勤することができなくなってしまったんです。」などとできるだけ具体的なリアルな話し方で説明すれば、クライアントは「自分だけではないんだ」と実感しやすいのです。
比喩や事例は、その場で即興で創り出せるものではありません。日ごろから準備しておき、少しずつ使って洗練して行きましょう。
 
<終わりに>
今回の合格率は52パーセントでした。残念ながら合格しなかった皆さんも、ほとんどが合格ラインギリギリで、最終検討会の対象となる方ばかりでした。不合格の方も、本当にあと1歩なので、これであきらめず、ぜひもう一度訓練して、次回の試験にチャレンジしていただきたいと思います。