平成25年度MR認定試験におけるアドバイザー講評

平成25年度MR認定試験におけるアドバイザー講評

平成26年2月16日,3月30・31日MR認定試験におけるアドバイザー講評

今回の試験について下園MRインストラクターより講評をいただきました。
皆さんの今後の参考になさってください。   2014.4.1 認定委員会
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年々、MR受験者のレベルが上がっているように感じます。うれしい限りです。
特に複数回受験の人は、前回の受験の時よりもかなり実力が向上しているに見受けられました。MR協会のスキルの習得はスポーツの場合と同じです。これまでの熱意と努力がそのまま現れているような気がします。試験で不合格になるのは誰でもとても大きいショックですが、ぜひこれをバネにして、一段と大きく飛躍していただきたいと思います。
以下、アドバイザーとして気が付いた点を解説します。   MRI 下園壮太
 
【介入目的調整について】
<介入目的調整面接の目的を正しく理解する>
介入目的調整面接の目的を十分に理解していない人がいました。
介入目的調整面接は、依頼側のニーズに合致したサービスを提供するためのものです。これを行わずに介入すると、介入側の勝手な理想や思い込みを押し付ける支援になりがちです。また、支援側は十分なサービスを提供したと考えていても、相手は全く違う次元の効果を求めているかもしれません。サービス提供側が「どんなことができ、何ができないか」を明確に伝え、依頼側と共通の認識を持つことが、介入成功の要件となるのです。例えば、一般的には「個人個人の苦しさを早く除去し、仕事に集中できる状態に戻すこと」が介入の目的である場合が多いと思います。
ところが例えば3月の試験では「4月前の決算期で消費税前の売り上げセールの中で、社員、特に正社員に辞めてもらっては困る。あるいはアルバイトが一斉にやめていくのは困る」という事が、店長の一番のニーズでした。また、見知らぬ人の落下事故で、すでに2週間が経っており、事故の目撃や対応によって大きなショックを受けている人は、あまりいないという状況でした。
このような状況の場合なら、介入の目的は、「離職者を予防する」ことになります。それを受けて、メニューも変化します。例えば、1日の介入の中で個人面接を正社員のみに集中することが考えられます。また、情報提供も、ファーストショックの一般的な説明にとどまらず、「惨事の後には、(イライラや不安で)組織や上司に対し疑心暗鬼になり(あるいは回避の為、職場や仕事が怖くなり)、辞めたくなることがある。これは一つの反応として起こりうるので、このようなときには重大な決心は先送り(例えば3ヶ月後)にするべきである」という内容を強調するでしょう。このような流れを調整するのが介入目的調整面接なのです。
 
<介入目的調整面接でリーダーの信頼を十分に得る>
介入目的調整面接は、通常依頼側の責任者と行うことになります。この面接において、責任者の信頼を得ておくことは、事後のケアを効果的、効率的に進めるためにも重要なことです。責任者の信頼を得るには、
 
①通常自分自身も惨事の被害者である責任者にカウンセリング的に接し、クライシスサポートの効果を実感してもらう。
②過去の介入の経験などを紹介し、支援のプロであることを理解してもらう。
③クライシスの心理や介入の手段を事例や比喩を交えて、わかりやすく説明し、適切なアドバイスを行う事が必要です。
 
特に、②③の説明が不十分な人が多かったようです。
クライシスの心理状態やアンケートの効果や手順、惨事後ミーティングの意義、目的の説明が不十分でした。一応説明はしているのですが、表面的です。言うことと「伝わる」ことは別です。ここでは、皆さんの経験値を問われていると思ってください。作ってでも事例で説明すべきです。事例は「自分の経験したこと」ではありません。学会ではないのです。相手に理解しやすいように「物語形式で説明する」これが現場でいう、事例で説明する、という事だと理解してください。
また、用意したツール全部を説明する必要はありません。今回、資料をあらかじめ準備するでもなく講座内のスライドを使用し、責任者に説明をしている受験者の方が数名いました。説得力に欠け、これが本番であれば信用がなくなってしまいます。相手が興味を持つツールを、いくつか、事例を使って説明し、今回のケースに適応できるように具体化してみせる過程で、説明者の経験値や深い洞察を提示できれば、責任者はあなたのことを信頼し、あとの説明は要らなくなります。
 
<介入目的調整面接の相手(リーダー)のケアのコツ>
受験者の中には、上の①の目的を意識して、基礎講座で練習した惨事後の個人対応カウンセリングの手順で、相手(責任者)の話を聞こうとした人が多かったように思います。
確かに、体験を詳しく聞くのは、共感の為の近道です。しかし、例えばいきなり体験を聞かれても、何のためにそれを聞かれるのか、相手(責任者)にはわからないでしょう。強引に進めると信頼を損ねます。構造化面接の手順は協会で勉強した会員には、当たり前のことでも、相手(責任者)はまったく知らない事なのです。そのことを十分に意識する必要があります。
体験を聞きたいなら、どうしてそれを聞くのか、相手に納得できるような説明をしてから、聞く必要があります。
この場合も、正しい説明であることより、相手が納得できる説明であることが重要です。例えば支店長(店長)に「あなたの味方になるために(あるいは惨事後の心のケアをするために)体験を聞かせて下さい」と(正しく)説明しても、「私の事は良いので、社員をケアしてください」と答える人が多いかもしれません。そのような場合、裏(本当の)の目的ではなく、建前の目的を説明すると良いのです。
例えば、「今回事故の状況に応じたサポートをしていきたいと思いますので、当日の状況を支店長さんがご存知の範囲で結構ですので、まず少し詳しく教えていただけませんか」と切り出して、後は臨場感あふれるような聞き方で、支店長個人の体験や感情を聞くといいしょう。
話の展開の中で、特に、責任者の自責の念を、一生懸命に否定しようとしている人が多かったように思います。気持ちはわかりますが、相手の立場になってみると、今日会ったばかりの第三者に、「事故後の対応が良かった。十分やった」「あなたは正しかった、あなたは悪くない」と言われても、むしろ、「よそ者くせに、わかってないくせに」と、裏メッセージに取られ、がけ崩れをおこしてしまいがちです。
基礎メッセージを正しく理解しましょう。
6つの味方だよメッセージのうち、基礎メッセージは、聞いているよ、大ごとだね、変わらなくていいよ、責めないよ、ですが(さて、あと2つは何だったでしょう)、自責の念については、「(私は貴方を)責めないよ。(責めているあなたは)変わらなくていいよ」と理解してください。責めないよ、を表面的に理解しているだけだと、責めているあなたは変わらなければならない、と「変われメッセージ」になってしまいやすいのです。
また、<責任者自身のケア>=<責任者の個人面接>と考えている人が多かったように思います。例えば、支店長へのケアは、個人的な話を聞くだけでなく、従業員の皆さんの状態を正しく伝えること、今後の組織運営について現実的なアドバイスをすること、上級組織に意見具申をすることなど、様々な方法があることを理解して下さい。むしろ、話を聞くことより、「情報でケアする」という意識を持つといいでしょう。
 
<メッセージコントロール上で注意すること>
今回は、早口の方が何名かいらっしゃいました。早口は、ただでさえ緊張して不安になっている相手を、更に急かせてしまいます。たとえ正しいことを伝えていても、どうしてもその人に頼りたいとは思いにくくなります。
早口の方は、頭のいい方が多いようです。しかし、自分が話したいことや、自分の頭の理解に集中してしまい、相手の反応に気がついていない感じがします。クライシス介入において、早口はぜひとも修正していただきたいと思います。早口は癖なので、自分でしっかり意識して修正してください。
また、早口と同じように、うなずきや相槌のタイミングが早すぎる人も何人かいらっしゃいました。特に、「あ」「え」など短い相槌の場合、焦らせるような感じが顕著になります。相手の話をしっかり聞いて、それを理解し、落ち着いてリアクションする練習をしましょう。
直接質問が多い人、表情の少ない人は裏に取られやすい傾向があります。
声が小さいのは早口と同じぐらい致命的です。クライシスのクライアントは、ただでさえエネルギー不足なのです。そのような人に「聞きづらい」話をするのは、サービス精神が足りないと心得てください。
 
【情報提供について】
<情報提供で何を伝えるか>
「情報提供」という言葉は、上級講座のタイトルです。教育という上から目線の言葉を避けたかったので、情報提供というタイトルにしました。
しかし、それ(情報提供)を惨事の現場で、そのまま使うと、「事件に関わる情報提供」という違う意味に取られがちです。情報提供という言葉より、「ショックな出来事の後のメンタルヘルス講習」などと、言い換えて表現するといいでしょう。内容は、皆さんが選定したように、ファーストショック、セカンドショックについての説明が主体となります。しかし、それだけでなく、介入全体におけるこのプレゼンの地位と役割を考えなければなりません。
例えば、メンタルレスキュー協会の紹介、介入の目的や日程、介入メンバーの紹介などを入れる必要があります。また、全員に面接を予定している場合、面接の効果的な活用法などを説明すると、事後のカウンセリングをより効率的、効果的にすることができます。
 
<ファーストショックについての説明が表面的>
情報提供の時にファーストショックの説明をする人は多かったのですが、説明側としては当然のことでも、相手は「なぜ、いま、この説明をされるのか」よくわからないことが多いと思います。
ファーストショックのことを知らないと、いわゆる第2の無力感が大きくなります。表現としては「自分の症状に驚いて自信を失ってしまい、それが悪循環となってショックから立ち直れない人がいます。それを避けるために直後のことを、もう一度客観的に整理し、これから起こりうる反応を、事前知識として学んでおきましょう」などと前置きして、ファーストショックの説明を始めればよいでしょう。ファーストショックについて反応を並べた後、症状の説明をせずに、「普通のことです」「正常な反応です」とだけ繰り返す人がいました。
反応を紹介するときは、一般的な反応ではなく、その現場特有の反応で説明する必要があります。例えば、ある場所や行為を避ける、ではなく、駐車場のゴミ捨て場所に行けなくなった、携帯電話が使えなくなった、車が運転できなくなったなど、受講者が現実に困っていて、関心の高い症状を取り上げると効果的でしょう。
反応を紹介した後は、無力感対策7つのステップでも強調している通り、普通だよ、理由があるよ、という事を、必ず説明するべきです。
①まず「普通だよ」を、その言葉ではなく事例で説明します。
②普通だよを説明できる事例が思い当たらない場合は、原始人などの比喩や、簡単な理屈(理論)で「理由があるよ」を説明します。
期間限定だよという説明をするとき、ASRのピークを2から3日とか、2から3週間と理解している人が何名かいらっしゃいました。講座でそのような説明があったかもしれませんが、それは、特殊なケースで、一般的にはASRの症状は出来事1日目がピークで数日でがくんと減っていきます。
情報提供の際セカンドショックについて情報提供するかどうかは、バランス感覚が必要です。すでに2段階の人が多い場合を除いて、惨事後1か月未満の介入であれば、セカンドショックには触れない方が余計な不安を引き起こさなくて済むと思います。
また、セカンドショックについて触れる場合も、責任者クラスには、仕事を減らす努力をお願いしても、一般の社員に「休んでください」とだけお願いするのは、「無理なお願い」になりがちです。結局は、休ませてくれない上司に怒りが向くことにもなりかねません。 仕事は仕方がないこととして、できるだけ余計なエネルギーを使わない工夫として、脱力の方法や、こまめに休息を入れる意識、日曜などの過ごし方、ハシャギ系やアルコールを控えることなどを具体的に紹介するといいでしょう。
 
<興味を喚起する>
情報提供の時のメッセージコントロールは、比較的上手だったと思います。ただ、ここでも早口の方は、その癖が出ていました。また、話し方が単調になる方もいらっしゃいました。話し方のペースを変えるか、事例や比喩を使うか、質問形式(実際に質問はしない方がいい場合が多いが)の構成にするなどの工夫が必要です。
パワーポイントやホワイトボードの活用の仕方にも差が出たように思います。
ホワイトボードは、介入目的調整での変更をすぐに反映できるという利点があります。ただ、多くの要素を書くことはできないので、そのような場合は、配布資料を準備するといいでしょう。ホワイトボードには、重要な要素だけを、わかりやすく、見やすく、太い線で描きましょう。丁寧に書く態度は、その人の人柄を表します。練習するといいでしょう。
フリップを使用する人もいましたが、現場特有の反応(例えば、携帯電話が使えない、ゴミ捨て場に行けない等)を確認できた場合は、付け足して、ホワイトボードに書くなどの臨機応変な対応が必要となります。
比喩や提案は、現場の雰囲気とあうようなものを選定すべきです。2月の事例では、同僚が危篤状態という緊張した状態でした。その中で、対処の方法の一つとして呼吸法などを提示すると、「そんな簡単なことで…」と裏メッセージに取られがちです。呼吸法がどれぐらい効果的か、どんな時に効果的かなど、それなりの理由を具体的に説明する必要があります。
事例や比喩が適当かどうかは、自分の感性だけで判断してはいけません。必ず他の会員や友人などに紹介して、適切かどうかを事前にチェックしてください。
 
<どこまで準備するか>
情報提供(講習)を口述原稿レベルまで準備している人がいらっしゃいました。確かにそこまで準備しておくと安心して本番に臨めるとは思いますが、現実には、介入目的調整面接で介入の焦点が変わる、現場特有の症状に合わせた症状説明や、事例、比喩を使う必要がある、などの理由から、本当に効果的なプレゼンをするためには、現場でかなりアレンジしなければなりません。
あまりにも準備し過ぎると、準備以外のことをする「怖さ」が生じ、相手の知りたいことを言うのではなく、「こちらが準備したことを正しく言おうとする課題」になってしまいます。これを避けるためにも、準備は、ある程度の筋に止め、むしろ(単体で練習した)事例集や比喩集を心のポケットに入れておければ、いいのではないかと思います。
口述原稿を準備していくと、どうしてもメモを見る回数が多くなり、自信のなさのようにうけとられがちです。
 
<おわりに>
MR試験に合格すると基礎講座の実技指導者になれます。つまり、試験では基礎講座の実技指導者として独立できるかという視点でも評価されます。実技指導者は、正しいことを教えるだけでなく、相手のモチベーションやレベルを考えて、相手にとって最適のアドバイスを与えなければなりません。例えば、講座ではリアルなクライアント役を演じるのは良いか、それによってカウンセラー役の相手を傷つけたり、モチベーションを下げてしまうような実技指導者(クライアント役)は良い指導者とは言えません。
つまり、自分の事だけでなく相手のことを考えられる全体的な余裕がなくてはならないのです。当然、そのことは、介入目的調整面接や、情報提供でも必要です。そのバランス感覚を持っているかがチェックされているのです。
MRを受験する人は、この態度や視点を訓練するために、積極的に基礎講座や勉強会に参加して、クライアント役や実技指導者補助として、フィードバックについても練習することをお勧めします。