平成27年度CPS認定試験における主任試験員講評

平成27年度CPS認定試験における主任試験員講評

平成27年7月25・26日CPS認定試験における主任試験員講評

CPS試験を受験された皆さん、酷暑の中の受験、お疲れさまでした。
今回は8名が受験されました。残念ながら不合格の方もおられますが、僅かな点での取りこぼしが合否に影響した印象です。あともう少しのところですので、ここで諦めずに是非次回チャレンジしてください。
以下に主任試験員として気づいたことをコメントします。   MRインストラクター 戸上尚子
 
<メッセージコントロール>
すべての受験者が「CLの味方になる」ということの重要性をしっかり理解されていると感じました。しかしながら、5ステップ、メッセージの階段、要約・質問を「何のために」使うのか、の点については、もう少し頭を整理して理解を深めて欲しいと思います。以下を参考にしてください。
1.味方になるということ
今回のシナリオの事例は「警備会社のリーダー社員と入社間もない部下が、勤務先の地下駐車場で危険ドラッグを使用していた男と遭遇し、部下が刃物で斬り付けられて怪我をした」という事件でした。カウンセリングは3週間後、対象はリーダー社員です。
な出来事と、その後の心理的・肉体的負担(加えて、実はこの出来事の前からエネルギーが低下する他の要因もあったのですが…)により「4つの痛いところ」が過剰になり、惨事の症状もずっと強いままで、ガチガチの防衛モードになっています。こういった状態のCLは、警戒心が高く、敵か味方かよくわからない相手のことは「敵」と誤解しがちです。つまり、些細なことも裏メッセージに取りやすくなっているのです。
しかし、このような非常に苦しい状態のときに、孤独な自分を支えてくれる「味方」が出来れば、防衛がゆるみ、不安が軽減され、自分のことを客観視してとらえ直す余裕がでてきます。さらには具体的対策にも手が出るようになるのです。したがって、ピンチのCLには、曖昧さを避け、味方であることを積極的に分かりやすく表現する必要があります。今回の試験の中では「敵」と誤解されてしまう関わりがいくつか見られました。
 
2.表情、相づちが単調
表情の表出が得意な方、相づちのバリエーションや抑揚が豊かな方、など、それぞれ自分の得意・不得意があるようです。得意なパターンのメッセージばかり使っていると、ワンパターン化し、CLの気持ちに沿わないメッセージとなる可能性があります。
特にCLが自分を過剰に責め、「私が刺されるべきだった」的な発言をしたときに「保留」せずに「うん、うん」と「納得・了解」してしまう方がかなりいました。「その苦しい気持ち、わかるよ」を意図した返しだとは思いますが、CLにはそのように伝わっていない可能性があります。「保留・疑問」をしっかり身につけておいてください。
 
3.促しでリズムをつける
CLに安心して話してもらうためには、余計な心配や不安を与えないような関わりが重要です。例えば
 
CO「事件当日のことをお聞きしていいですか?」
CL「あ、はい。大丈夫です…」(不安そうな声のトーン、表情)
CO「・・・」(CLが当日のことを話し始めるのを待っている)
CL「・・・」(戸惑ったような表情。心の中は「えっと、何を話せばいいのだろう?」)
 
上記のようなやりとりが、数名の受験者に見られました。この場合であれば、COは、CLが話始めるのを待つというよりは、話しやすい「促し」をしていく必要があります。例えば「事件当日は、何時から勤務開始だったのですか?」などと、CLが「何を話せばいいのか」がすぐにわかるように、話し始めは優しくリードすべきでしょう。
また、こんなシーンもありました。
 
(体験や事柄を聞いている時)
CO「振り返ったら部下とその男がもみ合っていたのですね」
CL「はい、そうなんです・・・」
CO「・・・」(心の中:この後どうなったのかな?)
CL「・・・」
 
こういう風にお見合い状態になってしまう時も、COの言葉の最後に「それからどうされたのですか?」などの促し質問を入れて、その先を更に話してもらうよう、やりとりにテンポを持たせると良いでしょう。
 
<体験を聴くということ>
今回はほとんどの方が、CLの事件当日の体験を図なども活用しながら丁寧に聴こうとされていました。体験を聴くことは、慣れないとなかなかスムーズにいきませんが、何のために体験を聴くのか?についても、いま一度確認しておいてください。
1.私的体験として聴く
CLの体験(出来事)の中に、無力感や自責感などの「痛いところ」が隠れているというのは、既に皆さんよく理解されていると思います。また、惨事であれば、当日のことを思いだし語ることで、記憶の整理ができたり、事実認識の修正が起こりうるというということも講座でお伝えしました。
では、この体験をどう聴いたらいいのでしょうか?
体験を聴くというのは、CLが遭遇した出来事をただ聴くのではありません。その出来事に対してCLが「どう関わった」か、CLの行動に「どのような理由」があって、その出来事を通して「どのようなことを思い、何を感じたか」という「私的体験」を聴くのです。「私的体験」として聴かせてもらうには、CO側の理解がずれていないか要約して確認し、分からないところは質問&納得・了解しながら丁寧に聴きすすめる必要があります。この手順をおろそかにしてしまい「CLの体験をわかったつもり」になっているパターンが多いようです。この「わかったつもり体験」に基づくCOの共感やねぎらいの言葉が、CLの心情とはズレているために、CLには裏メッセージと受け取られ、味方感が薄れてしまう(=がけ崩れが起こる)方がおられました。
 
2.がけ崩れを避けるには
人は皆、他人から「自分を大切なオンリーワンとして扱って欲しい」という欲求をもっています。
この「大切に扱われている感じ」は、「自分の個人的な状況や思いや行動を、よーーーく分かってくれていると実感できるCOの言葉や態度」によって生まれるものなのです。
COが出来事の概要をさらっと聞いただけで発する言葉は、CLの体験、生き方、思いを反映していないので、嘘っぽい感じがしてしまうのです。COとしては、概要を聴いただけでも十分その辛さが想像出来るし、CLの苦しみに共感して、その頑張りにも寄り添いたいと思っているにも関わらず、そこがCLに誤解されてしまうのはとても勿体ないことと思います。
是非「私的体験として聴き、CLの体験、生き方、思いを反映した応答」を意識してみてください。
 
<症状の説明と対処について>
話の途中でCLから「この自分の症状(地下の巡回にいけない等)は、一体いつまで続くのでしょう?」との訴えがあった時、今回の試験では、ここをスルーした人はどなたもいませんでしたが、説明が不安情報になってしまったり、説得気味になってしまった方が多かったようです。説明に納得感がないまま、ごり押ししてしまうと「変われ」メッセージになってしまいます。
今回のCLは事件後3週間たっても、症状の治まりをほとんど実感できないということを訴えていました。第2の無力感の「自分が壊れた」感が強くなっていると見て取れます。
無力感の7つのステップを参考に、症状の落ち方が遅れている理由を、事例や比喩などを使って、分かりやすく説明してあげてください。特に男性の場合には「あなたは壊れていないよ(=まだまだ立派に戦えるよ)」の根拠となる「理由があるよ」の部分はしっかり伝えた方がいいでしょう。その際には事例や比喩を活用したり「体験を聴く」の段階で聴いたCLの「私的体験」から、症状説明に使える情報を引用しながら理由を伝えると効果的です。伝え方も工夫してみてください。
対処については「休む」「病院へつなげる」の提案が多かったようですが、CLのニーズと合っていない印象でした。まずは、最善と思える対処を提示してみて、それがCLのニーズと異なる(抵抗を示された)場合には、対処のゴールを柔軟に修正していきましょう。CLの味方になって「変わらなくていいよ」メッセージをだしながら、今のCLを無理に変えずに出来ることは何か?を一緒に探してみましょう。

平成28年2月20・21日CPS認定試験における主任試験員講評

CPS試験を受験された皆さん、
寒暖の差が大きく体調管理もむずかしい中での受験、お疲れさまでした。
今回は16名が受験され、10名の方が合格されました。
試験の回数を重ねる毎に、受験される皆さんのレベルが高くなっていることを感じます。そのため最近では、合否判定の審議に時間がかかることが多く、試験員、試験スタッフともに嬉しい悲鳴をあげています。講座のロールプレイや勉強会での皆さんの努力の成果がはっきり表れていることの証かと思います。残念ながら今回は不合格となった方もいらっしゃいますが、合格まであと一歩のところですので、ここで諦めずに是非次回もチャレンジしてください。合格された方も結果に満足することなく、講座の再受講、勉強会への参加、講座のクライエント役などを通して、いまの能力を実践で充分に使える「技」にまで高めていただけますようお願いします。
以下に主任試験員として気づいたことをコメントします。    MRインストラクター 塩坪純
 
<メッセージコントロール>
まず、メッセージを伝えるとはなにかを、もう一度考えてみてください。
惨事介入の現場では、クライエントさんとカウンセラーは『その時』初めて向き合います。その時、クライエントさんが気になっているのは、この人(カウンセラー)は、「味方になってくれる」人かどうか、この人についていっても大丈夫なのか、だけです。カウンセラーがクライエントさんを観察するよりも鋭く敏感な目で、クライエントさんはカウンセラーを観察して、評価していることを忘れないようにしてください。カウンセラーは観る側ではなく観られる側であること、自分の表情や言葉がどのようにクライエントさんに届いているのか常に意識していることがたいせつです。これを発展させていくと、がけ崩れが起こったことに気づけること、気づけたら修復ができるようになります。
もう一点、メッセージコントロールの「技」以前に、メッセージを意識した時にたいせつにしていただきたいことに触れておきます。服装とネックレスなどの装飾品です。カウンセラーとしての実力があれば服装など関係ないという考え方もあるかもしれませんが、ここでもう一度、惨事介入の場面を考えてみてください。クライエントさんに関われる時間は限られていて、しかも「一発勝負(関われるのはこの時だけ)」です。メッセージコントロールの目的には短時間でラポールを作り上げることがあります。これを意識すると、クライエントさんに余計な思いを抱かせない配慮としての服装や装飾品があります。介入の現場では、入り口で躓いている時間はありません。繰り返しになりますが、クライエントさんはカウンセラーを観察して、評価していることを忘れないようにしてください。
 
以下を参考に、もう一度整理してみてください。
1.表情と相づちについて
ロールプレイのあとの実技指導者からのフィードバックを受けて、改善する努力をされてきたことははっきりとわかります。
5ステップのうち、「興味津々」、「共感」などは比較的うまく使っていますが、「驚き」、「疑問・保留」、「納得・了解」はまだまだ練習が必要です。「興味津々」と「共感」を繰り返すだけでは、単調になり、クライエントさんの気持ちに寄り添うことはむずかしくなります。今回のシナリオで言えば、「あわてて駆けつけてみるとB君が血を流していた…」では「驚き」を、「頭が真っ白になって救急車を呼ぶ指示をしただけで、結局なにもできなかった…」では「疑問・保留」を表情で伝えられるようになるとカウンセリングのリズムや流れを作ることができるようになります。「徹子の部屋」や「サワコ(阿川佐和子)の朝」などインタビュー番組を録画して練習してみるのもよいかもしれません。
相づちは、重ねすぎると別のメッセージになることは、講座でお伝えしたことです。 今回の試験で気になったのは、相づちをクライエントさんの話の内容やペースに合わせるためというよりも自身のタイミングを合わせるために使っているように見えたところです。まわっている大繩に入るタイミングを窺いながら、いくぞいくぞという感じで待ち構えている、カウンセラーの意気込みが前面に出すぎている感じでしょうか。ここは皆さんご自身でふり返ってみてください。
 
2.「伝わってきます」だけでは、伝え返せていない
カウンセラーの初期のトレーニングでしっかり訓練されたためでしょうか。「おつらいお気持ちが伝わってきます」と返すこと、これに準じる応答をされていたことも気になるところです。伝わってきことをカウンセラーがどう受けとめたのか、これを伝え返してください。自分が話したことがカウンセラーにどう受け取られたのか不安なクライエントさんに余計な想像をさせないためです。
「おつらい気持ちを抱えながら、それでもご自分のお立場や役割を考えてお仕事を続けていらっしゃった…苦しい中で、今日までがんばってこられたんですね」
という応答はいかがでしょうか。
 
3.投網(とあみ)の言葉は使わないようにする
カウンセラーが抽象的な言葉を使うことも気になりました。基礎講座の実技指導でもお伝えしたことがあるので、覚えている方もいらっしゃるかもしれません。「困惑しているのですね」は投網(とあみ)の言葉で、微妙で繊細な感情を一網打尽に括ってしまう言葉です。カウンセラーからこのように言われたときに、クライエントさんは、はずれてはいないけれど、なにかしっくりこないものを感じながらも「はい」と言うしかなくなります。これを避けるためには、まず、漢字二文字の言葉はひらがな言葉に変換してください。そのあとで、感情や気持ちを表す言葉に状態を形容する言葉を加えてみてください。たとえば、「困惑しているのですね」ではなく、「どうしていいかわからないほど困ってるのですね」などです。ニュアンスがちがっていればクライエントさんに訂正してもらってください。クライエントさんの気持ちがさらに具体的になります。
 
4.体験を聴くということ
試験では、クライエント役から話し始めて、それを受ける形でそれまで話されたことを要約しながら応答するところから始まります。ここで、唐突に事実の確認に入るのではなく、事実の確認が必要な理由をクライエントさんに伝えることが必要です。
 
「このような時は(ショックな出来事を経験した時は)、いろいろな思いや感情が湧き起こって、なにが起きて、なにができたかを整理できていないことがあります。こうなると、できなかった/やってしまったことばかりに目がいってしまって、必要以上にご自身を責めてしまうことがあります。私も○○さんの苦しさをもっと具体的に知りたいので、その時何が起こってどうしたのか、どう感じたかを一緒に振り返ってみたいと思います。事故が起こった時から今日までに起こったこと、感じてきたことを確認したいのですが、□□が起こった時のことから詳しく聞かせていただけますか?」
 
少しくどいかもしれませんが、このようにして事実の確認に入っていくのはいかがでしょうか。考え方の基本は、「要約してから質問する」と同じです。事実を確認する意図をはっきりさせることがたいせつです。
試験時間は20分間なので、事実を詳細に聞くのは難しいかもしれませんが、実際のカウンセリングでは、その時のクライエントさんのたいへんさや苦しさを感じられるように、事故当時の場面を具体的にイメージできるまで図に描きながら聴いてください。
 
5.まず、症状が出ていることの不安に応える
試験の中でも、クライエント役が症状とそれが続くことの不安を訴えたと思います。これにすぐに応えることも、事実の確認を進めることもできますが、まず、クライエントさんの要望に応えることです。すぐに応えて後で事実の確認に戻るつもりならば、このようにお話しすることができるかもしれません。
 
「ご自身に起こっていることに不安なお気持ちが強いようですので、いままで伺ってきたお話しから、○○さんに起こっている反応や症状と対処方法についてお話しさせていただきますね…、他にも症状が出ていることがあるので、そのあとでまた続きのお話しを聞かせてください。」
 
原始人の喩え、ボールが飛んでくるお話しなど、人間にもともと組み込まれている反応としてお話しされる方が多かったと思います。講座でお伝えしたことはしっかり理解されていることがわかりました。自分が言われてしっくりくる喩えを自分の言葉で考えてみてください。ここでも気になったのは、唐突に説明に入るところです。いきなり喩え話を始めるのではなく、
 
「いま○○さんに起こっている反応や症状は、もともと人間に組み込まれているものなので、意志の力ではコントロールできないのです。どういうことか説明させていただだいてよろしいですか」
 
と確認してから、説明に入ったらどうでしょうか。
ここの考え方の基本も、「要約してから質問する」と同じです。これから何を説明しようとしているのか予告して、クライエントさんが説明を受け入れる準備をするための間をとってみてください。
 
6.対処方法は押しつけない
反応や症状が落ち着いていく曲線を示して、観察することを勧めていたことからも、講座でお伝えしたことを理解されているのがわかります。観察する内容は具体的にして、 事故が起こってからいままでの変化の様子を丁寧に確認しながら、少しずつ落ち着いてきていることを実感してもらってください。たとえば「眠れない」についてです。同じ「眠れない」にしても、少しずつでも長く眠れるようになっていること、中途覚醒の回数などを確認することがたいせつです。これは、これから先もしばらく観察を続けてもらう時に、なにを観察したらよいのかをはっきりさせることにもなります。
うつの症状に焦点をあてながら、「休養」、「受診」、「環境調整」を提案される方もいらっしゃいました。これもよい視点と提案ではありますが、クライエントさんが言葉や表情で抵抗を示したら、無理に押しつけることなく、抵抗する理由を伺いながら、「たしかに、そのようなご心配があれば、いまはこの(提案した)方法には無理がありますね」のように返してください。クライエントさんは負担感を感じているのですから、無理強いされることはないと安心してもらうことがたいせつです。
また、お酒の量が増えた話に、すぐに飲酒のデメリットを説明された方もいらっしゃいましたが、いまの苦しさを少しでも楽にしたいと思うクライエントさんが、もがきながらも自分なりになんとかしようとしてやっていることです。いきなりデメリットを説明するのではなく、まず、その切羽詰まった気持ちをしっかり受けとめてください。飲酒のデメリットは、良質な睡眠と合せてカウンセリングの後半でお話ししてもよいことですね。
 
試験を通して感じたことを書かせていただきました。私ならこのようにお話しするということで書いたところもあります。ここに書いた言葉をコピーして使うのではなく、ご自身の言葉に置き換えて、何度も声に出すことで、ご自分のものにしてみてください。
少しでも皆さんのステップアップの参考にしていただければと思います。