平成29年度UCPC認定試験における主任試験員講評

平成29年度UCPC認定試験における主任試験員講評

平成29年7月15日・16日UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。
※受験者へのアドバイスCPSはこちら              平成29年7月 認定委員会
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平成29年7月15・16日に実施されたUCPC試験には、13名の方が挑戦していただきました。今回は4名の方が合格しました。
4名のうち2名はすでにMRIを持っている方なので、この試験がいかに難しいものかを改めて感じる2日間となりました。
今後の更なる実力向上のため、次のようなアドバイスを紹介いたします。   主任試験員 MRSI 下園壮太
 
1 体調を整える
まず、残念だったのは、万全の体調で試験に望めなかった方がかなり多くいらっしゃったということです。主任試験員の私も10日間風邪で体調を崩しました。今年の不順な気候のせいです。自分ではどうにもできない部分だということはわかっていながらも、指摘しておきたいと思います。
やはり、体調がよくないと、本来のパフォーマンスが発揮できません。MRCクラスの試験までなら、まだ練習や事前の学習内容の整理で、体調が悪くてもなんとか合格できるでしょう。しかし、UCPC以上になると、思考力を使わないと対応できない状況が仕組まれています。ぜひ、ご自分のパフォーマンスを最大限発揮できるように、環境の調整にも配慮してください。
 
2 時間管理
いろいろ思考は巡っているのに、20分で終了できずに、焦って最後に言わなくてもいいことを言ってクライアントを不安にして終わった方もいらっしゃいました。実にもったいなかった。
ただ、同じような傾向は多くの受験者に見られました。3つの問題があります。
一つは、時間管理。自分がこれからやろうとしているケアの手順、例えば、症状確認、説明、出来ること探し、などに、どれぐらいの時間がかかるかのイメージが不十分なのです。厳しいことを言いますが、ひとえに練習不足。頭だけでやっていては、時間間隔は磨かれません。クライアントの対応により、どう展開していくか、展開が違ったとき、どう治めるか、そのためにどれぐらいの時間が必要か…などを、ぜひロールプレイの回数をこなすことで習得して下さい。
 
3 自分の作戦に縛られない
先の方が惜しかったのは、非常に良いカウンセリングをして味方になっており、もう本当に簡単なアドバイスだけで充分、というところまで来ていたのに、「うつの対処を説明しなきゃ」と思ってしまったからです。急に「うつ、受診、休養」などと言われて、クライアントは動揺し、それをフォローする間もなく終了してしまいました。
そうなったのは、問題の2つ目、事前の作戦にこだわりすぎたからです。個人上級で学んだ「状況把握」「カウンセリング目標」などが頭にあると、いろいろと思考が巡ります。もちろん良いことです。ただ、それは一回実施しただけでなく、常に修正しながら進めていかなければならないのです。
ご紹介したケースでは、もし最後の方で「バリア病…」をやれていたら、「残りの時間はない、うつもそれほど切迫していない、もう十分味方になれた」と状況を理解し、「ここでは、味方になるだけで安心してもらい、何かあった時の連絡だけつければいい」というカウンセリング目標に移行できたかもしれません。
どうしても、思考優位の男性は、よく考えて自分で納得した分、決めた作戦、説明、手順を、そのまま突き通す傾向にあります。相手の反応をよく見て、修正をしながら進める技術がUCPCには求められていることを忘れないでください。
と、書きましたが、これも理屈ですね。これができるには、やはりロールプレイの回数をこなすしかありません。
 
4 クライエントによって、説明の入りやすさが違うことを認識する
そして3つ目の問題は、どうしても私たちは、正しいことは通じると思ってしまう。
講座で紹介したように、カウンセリングとは「相手理論」を探す作業です。カウンセラーは、「これは遅発疲労」だと分析しても、それがクライアントにしっくりこなければ、クライアントが、納得し、落ち着き、苦しさを減らす方向の行動ができるような説明にはなっていないということです。クライアントにとって力となるような説明を必死で模索しなければなりません。
今回のクライアントは、疲労はピンときませんでしたが、娘さんが独立した「寂しさ」には、非常に強く反応していました。うつを説明するときに、疲労→うつの流れでなく、愛する人がいなくなるとうつっぽくなるという方向からの説明の方が、入っていきやすかったのです。
 
5 とにかく「事例」が足りない
残念ながら前回のCPC,UCPC試験に比べ、事例を出す方が少なかったと思います。事例は、同じようなケース、ということで、コップや電池の話は、比喩です。比喩はほぼ全員が使っていましたが、事例は使えていません。
例えば、上の例でも、理屈で「愛する人の喪失→うつ」を説明するのでなく、自分や友人の経験を借りたり、必要に応じて創作するのです。
例えば、長男、次男が相次いで大学生として独立し、受験の大変さからは、肩の荷が下りたはずなのに、夫が帰ってみると、暗いキッチンに電気もつけずに、だだボーっとしている妻がいて、話を聞くと「寂しい、息子たちに会いたい」と泣く。それでも、子供たちに、メールをするようにお願いするなどしていたところ、半年ほどたつと、以前の快活な妻に戻った…などという話をする。これが事例です。
余計な理屈なしに、今のあなたは「ムリもない、だれでもそうなる」でも「回復できる」というメッセージを差し上げることができます。
 
6 もう少し説得力を持って説明できるために、講座内容の理解を深めておく
単純理論で説明する場合も、自分理論、相手理論の区分で言えば、まだ、「借り物理論」の方が多いようです。なので、アレンジと、説得力がない。
例えば、今回の事例では、娘の大学受験の支援で半年感の心労と不眠がちな生活により、年明けごろには、2段階に陥っていたのです。そこに、3月から4月の娘の独立支援のために、何度か新潟に訪れた。また、4月以降もこれまで配慮していただいた分を取り戻そうと、休みを入れずにバイトに出ていた。それで、2段階下に来ていたところに、火事に遭う。だから、普通の人より2倍から3倍のショックを受けてしまった。 そういう流れで説明すれば、「どうして私だけ…」「以前より楽になっているはずなのに…」「疲れている実感はないのですが…」という疑問にも答えることができます。そして、その流れで、もしかしたら「死にたい気持ち」が出ている可能性も考慮して、そのことを確認することもできます(疲労を自覚できない2段階でも死にたい気持ちが出ていることがありましたよね)。
 
いずれにしても、受験した方々のレベルは本当に高い。他のカウンセリング関連組織では、リーダーとして十分やっていけるレベルです。ただ私たちの協会が目指すのは、もっと高いスキルです。そこに至るには、理論もさることながら、何度も練習することです。実践の機会はそれほどないと思いますので、勉強会はもちろんのこと、講座の実技指導や試験などのクライアント役、試験員役などの機会をぜひ活用して、レベルアップを図っていってください。

平成29年12月2日・3日UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。
※受験者へのアドバイスCPSはこちら        平成29年12月 認定部
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平成29年12月2・3日に実施されたUCPC試験には、14名の方が挑戦していただき、6名の方が合格しました。うち3名はMRIの保有者です。
MRIの方々は、底堅い実力を発揮していただきました。支援戦略の面では、まだ必ずしも十分とは言えませんが、UCPCとして「運転免許レベル」の実力は十分認められました。合格したMRIの中には、カウンセリングの現場を持っていらっしゃらない方もいます。しかしMRIのトレーニングを積む中で、基礎講座の内容をしっかり自分のものとして落とし込み、講師としての表現力や惨事後ミーティングなどでの全体に対する視野を鍛えてきたことが、結局個人カウンセリングのパフォーマンスを底上げしているのだと感じました。
MRI以外の3名の合格者はいずれも今回が複数回目の受験での合格です。UCPCの受験失敗後に、それぞれ努力し、とにかくロールプレイの練習をこなしてきた方々です。
残念ならが不合格だった方々も、かなり高いパフォーマンスを示していただきました。他のカウンセリング団体なら、カウンセリング業務のエース級の実力を持っていると思います。ただUCPCは、さらに実践力の高いカウンセラーを認定するものなのです。
引き続き、ロールプレイの練習を積んで再チャレンジしてください。皆さんの今後の更なる実力向上のため、主任試験員として気が付いたポイントを2つご紹介します。これは合格した方々にも気を付けていただきたい事項です。   主任試験員 MRSI 下園壮太
 
1 カウンセリング目標を柔軟に変える力が不足している
話したいことを話してもらうだけのカウンセリングなら、カウンセラーが考えることはそれほど多くはありません。ただ現実のカウンセリングでは、クライアントの満足度を少しでも高くするため、時間管理を含め、クライアントのどういう苦しみをカウンセラーの知識や技術をどう使って和らげるのかという戦略的な思考が必要になります。
ただ、この戦略的思考が難しいのが、あくまでも最終パフォーマンスを決定するのはクライアントであるということです。いくらカウンセラーが、戦略的に物事を進めようとしていても、結局それが独りよがりなら、パフォーマンスは上がるどころか、相手を苦しめるカウンセリングになってしまいがちです。
つまり、戦略的にカウンセリングをコントロールする力と、相手の意向や要望に合わせる力の両方が必要で、そのバランスをとっていかなければなりません。
ところが、一般的に男性に多いのですが、自分が立てたカウンセリング目標を達成することだけに視点が向き、クライアントから別の情報が出ているにもかかわらず、カウンセリングの方向修正ができない人がいます。
例えば、カードゲームのようなものだとしましょう。自分が思い描く上がりの姿がイメージできると、カウンセラーは、足りないカードを探しながら相手の出すカードに注目します。なかなか思い描くカードが出てこない時、おかしいと感じて他の質問をして、所望のカードを引き出そうとします。いよいよ終盤になり、自分の予想した上がりカードは半分もそろっていない。でも最後は「あなたはこうだ、だからこうしろ」と説得を始めてしまうのです。岡目八目で横から見ていると、クライアントは違うカードをたくさん出しています。なのにカウンセラーは、クライアントが出すカードをしっかり見ずに、自分の思い描くカードだけに心を奪われて最後までそれを離せないのです。
一般的な仕事や論理的な作業手順では、自分の設計図で主体的に進めることができます。それは大切なことなので、大人になる段階では、自分の設計図を明確にする技術をかなり鍛えられてきました。ただ、カウンセリングはもっと高度な思考をしなければならないのです。自分の設計図だけでなく、相手がそれを受け入れられるか、納得できるかという視点を忘れてはいけません。上級講座でご紹介した「カウンセリングとは、相手理論を探す支援」という一定義を思い出してください。
 
2 不安への対処法
今回のクライエントの主訴は何だったのでしょう?
今回のクライアントは、明日の会議が怖くて仕方がないという主訴を持っていらっしゃいました。
なかなか上手に支援できなかった受験者は、上で述べたカウンセリング目標の設定、修正で失敗した人が多いようです。つまり、3か月前の上司の突然の死亡や、遺族からの叱責、上司からの叱責、その後の過労と不眠という事象から、うつや惨事の対応を中心に設計図を組み立てた方が多いのです。その設計図自体は誤りではありません。その方向でうまくいくクライアントもいるでしょう。
ただ、今回のクライアントは違いました。とにかく「明日の理事会が怖い、何とかしたい」ということを訴え続けているのです。痛いところで言えば、自責感、無力感、疲労(負担)感より、まずは「不安」が強いかただったのです。ですから、休めばいいでしょうとか、FSは時期に収まりますという説明では、少しは楽になっても、今日突然カウンセリングに来た目的は達成できないのです。
ロールプレイの後で、クライアントの不安のことを尋ねると、そこに意識が向いていないわけではありませんでした。ただ、「それは仕方がないでしょう」という認識で、結局自分の持っているツールでの解決に突き進んでしまったのです。
確かに、大人だったら、明日出席しないわけにはいかないという現実が変わらないことは理解できます。だからそこにふれないというのなら、父が亡くなって悲しい、というクライアントにも、その話は聞いても仕方がない(現実的対処方法がない)、と切り捨てるのと同じことです。
不安は、まずその具体的な事象を聞いてください。惨事の「体験を聞く」のと、同じ感覚です。どんな状況で、どういう怖いイメージを持っているのか、そのために、今どんな準備をしているのか、他の人はそれにどう対処しているのか…。
不安という思考は、最終的な悲惨な結論のイメージだけを反復させます。カウンセラーと冷静に具体的に話をしているうちに、本人なりに「そうか、それほど心配することはないのかも…」とか、「どんなことをしても怒られるんだ」などと、本人なりの覚悟ができることがあるのです。
その効果がなくても、少なくともしっかり怖さを共有してくれた人がいる、という味方感ができれば、カウンセラーからの「明日は、本当に大変だけど、なんとか頑張ってね。」というエールに勇気づけられるし、たとえそこでダメージを受けても、この人を頼ればいいという安心感が生まれるのです。
カウンセリングの経験が豊富になってくると、このような不安への対処の勘所がつかめるようになってきます。それまでは、「仕方がない、どうしようもないこと」と思うことでも、そのテーマをスルーせず、勇気を出してその事柄をもう一度具体的に聴く努力をしてみてください。きっと新たな展開を感じられるようになっていきます。