平成30年度CPS認定試験における主任試験員講評

平成30年度CPS認定試験における主任試験員講評

平成30年7月14日(仙台)・15日・16日(東京)における主任試験員講評

CPS認定試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。
今回は東京と仙台会場合わせて19名が受験され、13名の方が合格されました。
受験者の皆さん全員が、試験に向けメッセージコントロールを磨き、惨事体験を聴くことや症状説明に果敢にチャレンジされていました。中には短期間で見違えるほど上手になっている方もいて、この試験にかける熱意に圧倒されるほどでした。
今回、合格を逃してしまった方については、全員「あと一歩!」の惜しい点数であったことをお伝えしておきます。苦手分野をもう少し、今の調子で練習してみてください。惨事やうつ対応に必要な知識は、皆さん概ね頭に入っているようです。その知識を活用するには、ロールプレイでのトレーニングが不可欠です。勉強会や講座の再受講を利用して、是非再チャレンジしてください。
以下に主任試験員として気づいたことをコメントしますので、今後の参考にしてください。   MRインストラクター 戸上尚子
 
1.メッセージコントロール
【5ステップ】
教科書の30ページで、クライエントの味方になっていく為には、「それは大ごとだね」「聞いているよ」「変わらなくていいよ」「責めないよ」という4つの基礎メッセージが重要であることをお伝えしています。それを5ステップや要約・質問で伝えていくのですが、5ステップについては、受験者のどなたもが、意識して練習をされていたと思いますし、前述の通り、短期間で飛躍的に上手になっている方もいて、努力の跡が感じられました。一方で惜しいところがいくつかありましたので、ここでは多くの方に共通する修正点をお伝えしたいと思います。教科書の30ページで、クライエントの味方になっていく為には、「それは大ごとだね」「聞いているよ」「変わらなくていいよ」「責めないよ」という4つの基礎メッセージが重要であることをお伝えしています。それを5ステップや要約・質問で伝えていくのですが、5ステップについては、受験者のどなたもが、意識して練習をされていたと思いますし、前述の通り、短期間で飛躍的に上手になっている方もいて、努力の跡が感じられました。一方で惜しいところがいくつかありましたので、ここでは多くの方に共通する修正点をお伝えしたいと思います。
今回の試験では、ほとんどの皆さんが「興味津々」は、しっかり表現できていました。これで最低限の「聞いているよ」は伝わります。ところが興味津々のうなずきだけだと、次第にやや単調なリズムになり、クライエントが体験した出来事をカウンセラーが「深く受け止めている」というメッセージが伝わりにくくなっているのです。
相槌のバリエーションを増やし、首の振り幅や速度・回数、表情を変化させることで、様々なニュアンスの「聞いているよ」が伝えられるようになりたいものです。まずは、「了解」を使って、「実はそのような思いをお持ちだったのですね」「お話いただいて事情がよく分かりました」という深い「聞いているよ」を出したり、「驚き」のうなずきを使って「大ごとだね」メッセージを出すことを意識して下さい。上手な先輩のやり方をまずは真似してみて、自分のものにしていってください。
【要約・質問】
驚きが少し薄かったです。合格者も含め、練習が足りないと感じたのは、「中要約が少ない」という点です。どの受験者もクライエントが大変な思いをしたのは理解しており、目の前で校長先生が突然苦しみ倒れる、という混乱状態の中、クライエントが無我夢中で頑張っていた点(「救急車!」と声を発したことや、心臓マッサージをすぐ始めたこと)を積極的に言葉にして伝えているのですが、「うん、うん」と聴いている中で、要約がないまま突如「よくそこで〇〇出来ましたよね」「それってすごいことですよ」という言葉が入ると、せっかくのカウンセラーの思いを込めた言葉が、思いよりも軽く聴こえてしまうことがあります。また、クライエントの話すリズムを切りたくない、と思ってしまい、要約を入れるタイミングを逸している受験者もいました。
惨事にあったり、うつ状態になっているクライエントの中には、警戒心が高くなっていたり、対人恐怖が出ている人も多いものです。そのようなクライエントの警戒心を緩め、カウンセラーを味方だ、と思ってもらうには、「このカウンセラーは、私が伝えたい事をよくわかってくれている」という実感を持ってもらわないといけません。短い時間で早く味方になるために、中要約を入れながら聴き進めると、クライエントに「このカウンセラーは自分の話をちゃんと聴いてくれ、なおかつ私を理解してくれている」という安心感が生まれ、会話にもリズムが出てきます。しっかり要約した上で、カウンセラーからの労いや善戦を評価する言葉が発信されると、その言葉に込めた思いがクライエントに深く染み込んでいくのです。<?div>
要約の中で気になった点がもう一つ。「自分がクライエントの話をこんな風に受け止めた」と伝える事を少し怖く思っている受験者も複数いたようです。おそらく「がけ崩れが怖い」からだと想像します。
カウンセラーがクライエントの話を、相手の思い通りに理解出来ていないことはよくあることです。クライエントの意図から外れた受け止めをする事自体は決して悪いことではなく、会話の中ではどうしても生じてしまうものです。それよりも、ズレがあるにもかかわらず、そこに触れることが怖くてスルーしてしまうことの方が問題なのです。相手とのズレを感じたら、そこで、クライエントに質問し、教えてもらいましょう。そして、この後が更に重要です。自分の理解が誤っていたこと、教えてもらったことに深く「納得した」というメッセージを強力に出すのです。具体的には、相手の話を「了解」のうなずきで聞き、そのあと、今の内容を復唱するぐらいのつもりで中要約(「そういうことだったのですね」「〇〇かと思っていましたが、むしろ〇〇だったのですね」)するのです。クライエントは、カウンセラーが伝えたい事を正しく理解してくれた、ということに安心し、丁寧に関わってくれるという姿勢を知って、徐々に信頼を寄せてくれるはずです。
 
2.体験を聴くということ
全ての受験者が「クライエントの惨事体験を聴く」という作業を行なっており、ここを外した方はいませんでしたので、基礎講座で伝えたベースの部分をしっかり押さえていたと思います。しかしながら、体験の聴き方がやや定形化しすぎて、クライエントに合わせた言葉遣いやタイミングになっていなかったように感じます。例えば「〇〇さんに起こったことをもっと理解したいので、もう少し詳しくお話を聴かせてください」と前置きしてクライエントの惨事体験を聴き始める、ここはいいと思うのですが、冒頭から「図を描いていいですか?」の言葉もパッケージ的に添えてしまうと、図示することが前提の聴き方となり、カウンセラーがクライエントの「体験」を教えてもらいたい、という自然な感じが薄れてしまいます。
これは講座でやや定形的にお伝えしているせいかもしれませんが、本来であれば、「(話を聴きながら)えっと、教務部長さんの横に、司会をされていた校長先生がいて、向かいには〇〇さんがいて…(ちょっと困った感じになり)すみません、ちょっと絵にさせてもらいますね。(紙に机の絵を書きながら)ここが教務部長さんだとするとこっちが校長先生で…」という感じで、一連の会話の流れの中で描く方が自然でしょう。「自然に」出来るようになるためには、回数をこなすことが一番です。うまく出来なくても、最初はぎくしゃくしても、めげずに何度もトライしてみてください!
 
3.症状説明
今回のクライエントの症状については、惨事の反応の落ち着き方を示した曲線のグラフをメインに説明した方がほとんどでした。視覚的な分かりやすさを意識して、今後の見通しを伝えようとする説明の仕方はとても良かったと思います。
講座で伝えている惨事のファーストショックからの回復曲線は、だいたい1ヶ月で治るパターンだったと思います。しかし、今回のクライエントは、3週間経っているのに、まだ強い反応が残っている人でした。この状況への対処として「もう1ヶ月くらい様子を観察しておいてくださいね」と説明する受験者が多くいましたが、辛い症状を訴えているにも関わらず、あと1ヶ月も我慢しないといけないとなると、クライエントは更に強い無力感に陥ってしまう可能性があります。また、出来事直後と今日を比較して症状は落ち着いているか、それとも変わらないか、むしろ強くなっているか、を聴いた受験者は少なかった印象です。症状の比較をして、ゆっくりではあるけれど、おさまってきていれば、その変化こそが回復の兆しである点を説明する事で多少なりとも安心情報になりますし、「治っていない、あるいはむしろ強くなってきている」のであれば、その理由をしっかり説明して、「観察していればいいよ」ではない、今の状況にあった対処の提案を検討する必要があるでしょう。
症状説明は、カウンセラーとしての経験が長くても苦手とする人が多く、言葉の選び方にも苦労しますし、慣れないうちは教科書的な言葉を説明するだけになってしまい、「クライエントが不安に思っていること」へのアンサーとなっていないことがあります。事例や比喩を積極的に説明に取り入れて、クライエントの納得感を高める努力をしましょう。上手な人の言い回しも大変参考になります。
 
最後に
今回は、教科書を使った基礎講座での初めての試験となりました。その影響もあるのか、例えば、うつ・惨事の症状や無力感対処7つの手順など、重要なポイントをしっかり押さえきれていない受験者もいたようです。教科書に図示してある情報は、現場でも覚えておくべき情報です。しっかり教科書を読み込み、その内容を理解・記憶しておきたいものです。

平成30年12月1日・2日(東京)・8日(仙台)における主任試験員講評

CPS認定試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。
今回は15名が受験され、10名の方が合格されました。
試験一週間前の基礎講座4の時点では、正直、合格レベルには達しているとは言い難い受講者が、わずか1週間で見違えるほどに上達していたのには本当に驚きました。認定試験という明確な目標を定めたことによって、今まで以上のモチベーションで自己研鑽に励んだ結果だと感じています。
合格された皆さんは、ここからが新しいスタートになります。合格に甘んじることなく、更にご自身のスキルを磨いていただきたいと思います。
残念ながら不合格となってしまった方は、知識・能力の問題ではなく「試験」という体裁を意識してクライエントへの対応を深読みしすぎてしまったり、緊張からか、ご自身の対応の癖が出てしまったように思います。メンタルレスキュー協会の実技試験は、ひっかけ問題的なものはなく、教科書や講座でのロールプレイでお伝えしていることをしっかり実践すれば、必ず合格できるものです。どうか諦めずにもう一度、チャレンジしてください。
以下に主任試験員として気づいたことをコメントしますので、今後の参考にしてください。   MRインストラクター 戸上尚子
 
1.メッセージコントロール
【5ステップ】
5ステップについては、受験者のどなたもが、意識して練習をされていたと思います。
しかしながら、うつや惨事のカウンセリングにおいては、簡単に見える「興味津々」でさえも気を抜かずに実践して欲しいところです。クライエントの惨事体験を聴き進める中で、何人かの方に、全体を通して同じ首の振り方、同じ言葉(「はい」のみ「ええ」のみの応答がずっと続く等)、抑えた抑揚のままで聞いてしまう様子が見られました。同じリズム・トーンでの聴き方が続くと、クライエントとカウンセラーの間に微妙な距離感が生まれることがあります。それはクライエントの心中に「聴いてはもらっているけど、私の体験(体験から感じた恐怖、不安、心の痛み、辛さ)を、本当にわかってくれているのかな?」という不安や戸惑いが生まれるからなのです。講座でもお伝えしているように、私たちがメッセージ・コントロールを使って聴くのは「短い時間で素早くクライエントの味方感を得るため」です。
「興味津々」一つとっても、相槌言葉の種類、抑揚、うなずきの速度・回数、表情をつけることでより効果的なメッセージを発信できます。今回の試験では、出来事の様子を図に書き始めると、途端にメッセージが貧弱になってしまう方が複数おられました。どうしても図を描く方に意識がいってしまいがちですが、そんな時こそメッセージ・コントロールを強く意識してカウンセリングを進めて欲しいと思います。特に「驚き」は惨事を聴く中で重要になります。今回の試験のシナリオでクライエントがショックを受けた出来事(機械音で気づいたら後輩の同僚が手から流血していた、店長が入ってくるなり叱責めいた怒鳴り声をあげた)のところでは、カウンセラーがしっかり驚きのメッセージを表現出来ていたでしょうか?クライエントの体験を他人事として聴くのではなく、本人を苦しめている記憶のその場面に、あなたが寄り添う形で5ステップをフル活用して聴くことを意識してみてください。
【要約・質問】
受験されたほとんどの方に共通していたのは、中要約が少ない、あるいはほとんど入れていない点でした。
出来事を聴き進めていく中で、カウンセラーが理解した体験の内容にズレがないか確認したり、クライエントが言葉にしていない思いや葛藤を、「クライエント寄りの解釈」を添えて要約してみましょう、と講座でお伝えしていると思います。この「クライエント寄りの解釈」を伝えることは、皆さん積極的にチャレンジ出来ていたと思います。しかしながら、カウンセラーの解釈を伝えることに気持ちが行きすぎて、クライエントの体験そのものを要約せずに、解釈のみを返していく方が多かった印象です。クライエントの苦しみの背景、つまり出来事の経緯とそこで体験した感情・感覚の双方をクライエントへ返していくことで、クライエントは「このカウンセラーは、私をわかってくれようとしている」という安心感を得ることとなります。カウンセラーがどのようなエピソードからクライエント寄りの解釈をするにいたったか、そこをしっかり要約しましょう。解釈のみでは、薄っぺらく聞こえてしまうことがありますので注意してください。
 
2.体験を聴くということ
今回の試験でもほぼ全ての受験者が「クライエントの惨事体験を聴く」という作業を行なっていました。体験を図示して聴くことに迷ってしまった方もいらっしゃいましたが、クライエントの体験をより深く理解するためには、惨事の場合は、図を使いながら聴き進めた方が良いでしょう。図示に抵抗を感じてしまうのは「興味本位や取り調べのようにならないか?(信頼関係が結べないのでは?)」という不安があるからだと思います。
クライエントが興味本位と受け取ったり、取り調べのように感じるとしたら、それはカウンセラーがメッセージ・コントロールを使って聴いていないからです。5ステップ、要約・質問のスキルを使って聴いていけば、図示することをクライエントが上記のようにネガティブに捉えることはありません。図示しながらのカウンセリングも慣れないと上手には出来るようになりませんので、苦手な方はメッセージ・コントロールと共に繰り返し練習しましょう。
 
3.症状説明
今回の試験も7月と同様、惨事の反応の落ち着き方を示した曲線のグラフをメインに説明した方がほとんどでした。クライエントに安心情報を伝えようとしていることはとても良いと思いますが、説明の全てを安心情報でカバーしようとしている方が多く、クライエントが知りたがっていること(自分はおかしくなってしまったのか?)に対しての説明を行った方は少なかった印象です。
今回の事例でいうならば、まずはクライエントに対して「今の症状には、そうなっても仕方ない理由があるよ」という点を説明してあげる必要があったでしょう。そして次に「この苦しい症状は期間限定のものなので、心配しなくていいよ」の安心情報を伝えれば、クライエントの疑問と不安に対応したものになったでしょう。
ただし、今回のクライエントは、出来事から2週間経っているのに、症状がほとんど落ち着いていない方でした。事故直後の症状の強さと、カウンセリング当日の症状の強さを比較したところまでは、皆さんとても良い対応をされていたと思いますが、症状が落ち着かないことをクライエントから告げられて、ここで応答に困ってしまった受験生が多かったようです。
惨事直後に特有の症状として現れるファーストショックは、時間と共に徐々におさまっていくはずですが、症状がなかなか落ち着いていかない、または死にたい気持ちが出ている場合、カウンセラーは2つの可能性を想定しなくてはいけません。1つは今回の惨事に見舞われる前からうつっぽくなっていて疲労が蓄積しているような場合、もう1つは似たようなショックな出来事を以前にも経験しているような場合です。したがって、症状が落ち着かないと言われたら、事故よりも前のクライエントの生活がどのような状態であったかを聴いてみたり、「似たような出来事を以前にも経験していませんか?」と尋ねてみるのがいいでしょう。こういったやりとりが「症状が治まっていないのには、ちゃんと理由があるよ」の説明につながっていくのです。
症状説明は、慣れないと本当に難しく感じますし、一つの説明でクライエントが納得してくれないと、カウンセラー側が焦ってしまいがちですが、一つ一つ知識を整理していくと、その流れや関連性を理解出来るようになってきます。今回の試験のように人に説明をしてみると、自分が何についての理解が不十分であるか気づくことが出来ます。今回の試験での気づきを大切にして苦手分野を引き続きトレーニングしていってください。
また今回、事例や比喩を使っての説明にチャレンジした方は3名程度でした。事例や比喩は受け手の分かりやすさを強力に促進することが出来ます。こちらも積極的に自分の説明に取り入れる努力をしてみてください。
 
最後に
我々は悩み苦しんでいる方を目にすると、どうしても「元気にしてあげたい」と無意識の目標を自分に課してしまいがちです。しかし、うつや惨事の苦しみを持つ「クライシス」状態のクライエントは、なかなか一回のカウンセリングで目の覚めるような回復がみられることはありません。でも、孤独でひとりぼっちの戦いだったその人の人生に、一人味方ができるだけでも、十分な支援になりうるのです。味方になるには、まずメッセージ・コントロールです。
合格された方も、再チャレンジの皆さんも、トレーニングを継続して是非ご自身のフィールドでメッセージ・コントロールを活用してください。