2019年度(令和元年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

2019年度(令和元年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

令和元年7月13日・14日(仙台)・15日(福岡)・20日・21日(東京)UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。  令和元年7月 認定部
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今回は、東京、仙台、福岡の3か所で同じシナリオで試験が実施されました。それぞれの主任試験員の講評を下園が取りまとめました。
いつも思うことですが、トレーニングは裏切りません。きちんと練習してきた人は、それなりのパフォーマンスを上げています。試験員としても、受験者の成長が感じられるのはとてもうれしいことです。
一方で、ものすごく努力をしているのは感じるのですが、それが「実力」につながっていない方もいらっしゃいます。メンタルレスキュー協会が求めている実力は、机の上だけの学習では身に付きません。カウンセリングは、必ず相手がいるものです。「やり取り」が必要なのです。ぜひ、仲間と一緒にトレーニングを積んで、実践力に通じる練習の量を増やしてほしいと思います。
以下、皆さんの実力向上に役立て頂きたいいくつかのポイントを解説します。
主任試験員 MRSI 下園壮太

 
1.場を正しく理解する
受験験者の皆様は、「場」と言うと、自発的にカウンセリングを申し込んだとか、相談室がクライアントの生活圏の近くにあるかどうか…などを考えますが、それだけではありません。このカウンセリングに伴うクライアント、カウンセラー、時間、場所、関係者などの大きな要素の特性をつかみます。
このカウンセリングにどのような流れで来たかも重要です。今回の場合は、職場で体調が悪いのを同僚に認められ、内科を受診したところ、内科の医師から精神科を受診したらと勧められて、カウンセラーを訪れたという流れです。 通常なら精神科に行くところをカウンセラーに来ている、というということに着目しなければなりません。
この場の情報から、このクライアントさんは精神科受診に対して何らかの不安を持っている可能性が予想されます。つまり、この精神科受診の不安を和らげるということが白紙的なカウンセリング目標の一つとして上がってくるのです。その目標に進むためには、クライアントの不安の正体を明らかにし、カンセラーが持っている情報でどのようにケアできるかを考察する必要があります。
精神科の受診となると、親族からひどく責められたり、夫から離婚を言い渡されたり、子供を奪われたり、あるいは職を失ったりするなどという不安を持っているかもしれないのです。薬に関しても精神科の薬を飲むと一生依存することになると考えているのかもしれません。また、会話の中でこれらの情報に触れる流れやタイミングも計っておく必要があります。
更に、その不安を情報によってケアする際も、クライアントの不安がこれまでの経験やご自分が他人に取ってきた態度などの影響を受けているかもしれないのです。そのあたりを確認しながら、相手に合った説明をすることが必要になります。
場の情報だけで、カウンセリングの進め方についてこれぐらいの大まかな方針が立っているべきなのです。
受験者の皆さんの中には、クライアントのうつっぽい症状を聞いてうつ対処の3点セットを強く勧めた方がいらっしゃいますが、クライアントの持っている根本的な不安への対応が不十分なまま解決策を無理強いすると、3点セットという正しい対処でも相手を苦しめることになります。基礎講座で学習してきたのは、ある条件で有効な一つのパターンです。UCPCでは、一回ごとのカウンセリングの特性に応じて、柔軟かつクライアントに最も有益な方向を探りながら、カウンセリングを進める力が求められているのです。
 
2.カウンセリング目標の修正
何名かの方はカウンセリング目標の設定、変更がうまくいかなかったようです。
目標には方向の要素と程度の要素があります。
まず、「方向」について。今回は、話を聞き進めていくうちに、子供の学校の先生に「発達障害」について疑われたことが、もう一つの大きな不安になっていることがわかってきました。これも、専門家として何らかの安心情報を与えてあげたいところです。
この時点で、「精神科の不安と子供の発達障害の不安を情報でケアする」と「うつ状態に対して何らかのケアをする」というという大きな2つのカウンセリング目標(方向性)が浮き上がってきます。
これを、バリア病の変化(例えば、まだ明らかになっていない希死念慮の強さ、子供のトラブルの事後処置のリスク、カウンセラーが持っている知識、クライアントのエネルギー度、味方度)などを考察しつつ、今回は、どの山(方向)に向かって、どこまで(程度)進むかを決めていくのです。
今回のケースで一番効率的だと思われるのは、精神科受診と発達障害に対して安心情報を与えて、落ち着いてもらうことです。うつ対処は、確かに王道ですが、説明や「できるところ探し」にかなりの時間がかかります。ご自分の説得力に自信があれば、そちらに向かってもいいのですが、かなり厳しい行程になることを理解しなければなりません。少しそちらの方向を伺ってもいいですが、抵抗が強ければ、「次回に仕切り直し」という方が味方度を崩しません。
「程度の修正」とは、今回のカウンセリングで、当初目標としていたところまで行けないのなら、もっと手前の目標で我慢するという態度です。例えば3点セットの行動までどうしても納得してもらえないのだったら、「うつが疲労である」ということの啓発だけで止めておいても良いのですし、それも難しいなら、もう一歩前の目標、つまりもう一度苦労話を聞いて「味方になる」を強固にして次回に展開するという方法でも良いのです。
ただしこの判断をするためには 当面対処すべき切羽詰まった問題がないかという「場」の情報をきちんと把握しておく必要があります。早急な対処が必要な場合は、どうしてもそこまで話を進めなければなりませんが、今回のようなケースの場合は再来も可能ですし、絶対に精神科を2~3日以内で受けなければならないというような時期的期限やリスクもありません。
どうしても何か行動を約束させたい…というのは何とかクライアントに早く良くなってもらいたいという支援者癖の一つです。カウンセラーの持っている価値観をきちんと整理しておくことが重要になります。
 
3.精神科や医療、薬に対する価値観
今回は医療への不信や発達障害と言う病名が出てきましたが、皆さんが、それ等の話題を避けてしまっている部分が見受けられました。「医療については専門ではない自分が口を出してはいけない」という無意識の価値観があるのかもしれません。死にたい気持ちやうつ病に対しての一般的なカウンセラーが持つ「触ってはいけない感」と同じようなものを、薬の説明や発達障害の説明などにも皆さんが持っているように感じました。
クライアントの過剰な不安に対して、うつや惨事のサポートを数多くしている専門家(うつ・クライシス専門カウンセラー)として、適切な情報提供をしてあげなければなりません。なにも、医師や薬剤師のような知識が必要なわけではありません。クライアントが知りたいのは、薬漬けになるのではないか、廃人扱いになるのではないか、周囲からひどい目で見られることになるのではないか…という不安です。その不安を軽くしてあげる説明をすればいいだけです。
そのためにはある程度、医療や薬についての情報を知り、安心できるような説明ができるように準備しておく必要があります。精神科医療や薬については、ご自分が活用した体験があれば説得力がありますが、そういう体験がない場合は、他のクライアントさんが薬を飲んだ時にどういう風な感じになるのかなどを、よく聞いておくと良いでしょう。自身や身内、知り合いの話として伝えるのではなく、クラアイントの事例として伝えたほうが、カウンセラーとしての経験値を伝えることもできます。
また発達障害などについても、余分な不安をクライアントさんに持ってもらわないように基礎的な知識を持っておくと良いと思います。今回は、公認心理師さんの発達障害への説明は見事でした。
薬や診断、病名について我々が断定する必要は全くありませんし、してはいけません。ところが、ある程度勉強してきた者として安心情報を与えることは全く問題ないのです。それがクライアントさんの安心・安全を増やし、理性的な判断ができる状態にしていく助けになるのです。
あまり知識がないということで話題を避けてしまうと、うつとか死にたい気持ちを避けるのと同じように、そのことが逆に大問題であるというような裏メッセージをクライアントに伝えてしまうことになりかねません。また今回のケースでは一番気になる発達障害のことについて専門家に聞けるチャンスと思って来ているのに、その話題をスルーされてしまうと、お母さんも「分かってもらえなかった、相談できなかった」という感じが強くなってしまうのです。
 
4.説明力不足
精神科への不安をケアするには、このクライアントさんの場合、内科の先生がどうして精神科を受診しろと言ったのかについて、内科の先生を否定しないような説明を加えてあげると良いでしょう。
精神科疾患について少し偏見がありそうなクライアントですから、ここでは疲労の説明をしてあげると受け入れやすくなると思われます。ここまでは良いのですが、多くの受験者は、疲労の説明が十分にできませんでした。特に疲労の3段階の説明や2・3段階で受けたファーストショックが2倍3倍になるという説明などが不十分だったと思います。
今回のクライアントは、悪夢、眠れない、食べられないという症状は、時間とともにある程度軽くなっていますが、逆に不安は大きくなっています。これは、ファーストショックは低下しているのですが、うつをベースにした不安(無力感、自責感が背景にある)が、下がっていないからです。セカンドショックというより、もともとの蓄積疲労によるうつがあるからです。これらの説明をきちんとしないと、クライアントは、今の症状をきちんと把握し、「だからこうすればいい」という光を見出せません。
多くの受験者が、この説明が不十分なまま、うつの対処を勧めてしまっていました。なぜそれをすれば良いのかがよく理解できてないので、クライアントの抵抗が強くなるのは仕方ありません。
疲労の3段階の説明やファーストショック、セカンドショックの説明は理解しているだけでは不十分なのです。自分が頭で理解した段階は、「借り物理論」でしかありません。まずは自分で十分納得して「自分理論」にすること、そして次には相手に説明してきちんとわかってもらえる「相手理論」にするという段階、つまりアウトプット練習が非常に重要になるのです。
分かっているけれども説明が不十分であるという方が多く見受けられました。説明の練習を沢山すると良いと思います。
 
5.事例、比喩、単純理論などの使い方
メンタルレスキュー協会では説明のポイントとして事例・比喩・単純理論を重要視しています。説明が下手だった人も多くは、単純理論ではない場合が多く見受けられました。説明が大変冗長であったり、今回のカウンセリング目標に進むのに必要ない部分まで説明しようとしていたり、頭の回らないクライアントに複雑な思考負荷を要求しているのです。
このような場合は理屈ではなく、事例で攻めると良いのです。しかし事例も十分にあまりまだ使えてないようです。比喩に関してはピタリと当てはまる比喩を使うことがUCPC には望まれます。ずれた比喩を何度も使われると、「これで理解しろよ」というようなプレッシャーになってしまいがちです。
単純な理論にしても事例や比喩にしても、相手が理解できなければ話になりません。必ず相手の様子を見ながら説明すると同時に、説明し終わった後も、自分の伝えたい内容がクライアントに伝わったかどうかをきちんと聞きながら進めると良いでしょう。
 
最後に
UCPCの試験は、実力向上のためのとても良いトレーニングの場となります。協会では、この機会をさらに活用しようと前回より次のことを実施しています。
一つは、試験会場にスマホなどを持ち込んで、自分のパフォーマンスを撮影できるようにすること。そうすると、あとで自分自身で客観的に確認できますし、試験員のアドバイスもより理解しやすくなるでしょう。
もう一つは、UCPCビデオ解説勉強会を開催します。認定試験後に皆さんが視聴したMRI以上の後半ビデオの解説をしようと思っています。一度ご覧いただいていますが、しっかり解説したほうが皆さんの理解が深まると思うからです。

令和元年12月7日・8日(東京)、12月21日・22日(福岡)、令和2年2月11日(仙台)UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。  令和2年2月 認定部
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今回のUCPC試験は 令和元年12月07日・08日(東京会場)・12月21日・22日(福岡会場)・令和2年02月11日(仙台会場)で同一試験問題にて実施いたしました。そしてその試験を合計23名の方が受験してくださいました。本当に皆様のUCPCへの関心の高さが伺えたのと同時に、レベルの高さも実感いたしました。
ただ、この試験はMRIと同じレベルのカウンセリング力を問う試験でもあります。やはり難易度は高くなっております。
各試験会場の主任試験委員からのアドバイスをまとめましたので、今後の研鑽の参考にしてください。
MRシニアインストラクター 下園壮太

 
1.リハビリの途中であるという「場」の認識が薄い
 試験の冒頭では現在時点での「バリア病」を発表していただきますが、多くの方が場の認識が甘かったように思います。
 今回のカウンセリングの場を端的に表すと、「リハビリ期の復職後の失敗の後、医療ではなく新たなカウンセラー助けを求めて来た人に対する初回面談」ということになります。
 この条件だけで、いくつかのことが予測されます。
 ①まず、リハビリ期の苦しさが根底にあること。つまり治らないのではないか妄想、元に戻ってしまうのではないか妄想という第二の無力感が非常に大きくなっていること。
 ②次に、医療や職場、家族などのサポートに対してある種の限界を感じている可能性があるということ。
 これから長く(おそらく1年以上)サポートすべき対象に対して、きちんと味方の関係を作らなければならない面接であるということ。
 そのためにはこれまでの支援者たちとは違う、説得力のある新しい説明や支援方法などを提案したいということ。そして、決して今回は、無理強いをしないということ。
 ③リハビリ期の中で活動が活発化している後半部分の落ち込みであるため死にたい気持ちがかなり強くなっている可能性を考察しなければならないこと。表面飾りを考慮しつつ、死にたい気持ちは、前提として対応すること。
 
 復職後のリハビリであるということだけでも、このようにかなり具体的な支援方針が見えてくるのです。
 更に、前半のカウンセリングを聴き進めた中で、
 ・この方の業務が3月に向けて非常に過剰になる状態にあること
 ・仕事を休む事に非常に強い抵抗感があること
などが分かってきていました。このことから、
 ④あと20分で本人が納得し確実にうつ状態を回復させる方向に進むことはまず不可能であろうと予測しなければなりません。
 すると、カウンセリング目標は、今回は、味方を確保し、今後の有効なサポートを感じてもらうこと。現状と悪化した原因を理解してもらい、次回面接までにこれ以上状態を悪化させない生活習慣の何らかの改善を合意すること。カウンセリングの長期的な目標である今後の根本的な対処方法については、大きな方向性だけを示して、次回以降に具体的な回復のための道のりを共同で模索していくことに、なるでしょう。
 基礎講座で練習した現状説明、対処法説明(3点セットの提示し)、できること探しをするという対処スタイルが適切な場面だと予想されます。
 
2.表面的な問題に囚われてしまう
 どうして、この場の認識が薄いカウンセリングになったかというと、多くの受験者が、表面的な問題解決策強く目が向いているからだと思います。
 服薬が途絶えている、ということに、目が向きすぎ、医療と薬の説明に多くの時間をとりすぎました。
 確かに、服薬の改善は、即効性もあり、今後の状態が改善する可能性のあるテーマです。攻撃したくなります。ただ、クライアントの医療不信は、これまでの面接でも、かなり強固な感じがします。20分で、わざわざその難攻不落な目標を責める必要はありません。
 よほど、その分野の説明や説得に自信があればそこに進んでもいいでしょう。実際に、服薬事例や比喩を上手に使って説明した合格者もいました。ただ、一般的には、もっとクライアントと合意しやすい、つまり味方の関係を崩しにくい対処法を提案するべきです。
 例えば、3日間ぐらいの休みを取ること。昼休みぐらいはゆっくり休むこと。家で休めないのなら、週末はホテルで休むこと。年末年始は姪っ子の面倒を見ずに、ひたすら休養に努めること…など、「仕事以外の疲労」について切り込む余地はあったはずです。
 今回は味方になることが重要、という場の特質をいつも頭においておかなければなりません。
 
3.クライアントの立場になってクライアント目標を考察する
 これは、これまで何度か指摘していることですが、カウンセラーはクライアントの状態が客観的に見えている分、問題改善のポイントが目につきやすいのです。また、自分がよく知り、経験し、仕事のパターンとして慣れている方法論を提案しがちです。
 ところが、その提案をクラアイントがどう感じるかという想像力が欠けている受験者が多いように感じました。
 カレーの準備をしていてルーがないことに気が付き、ルーを買いに来た人に対し、「今日入った、このパスタソースは安くてうまくてみんなが喜ぶよ」と熱弁する店主がいます。その理屈は一般的には正しくても、カレーの準備が進み、パスタが嫌いな娘がいるそのお客のこころは動きにくいのです。なのに、パスタの説明ばかりされると、次からはそのお店に行きたくなくなります。お客が知りたいのは、カレールーがどこにあるかのかなのです。
 医療や薬の説明は、勉強しやすいし、説明も慣れている。ただ、今、クライアントが一番の関心を持っていることではないのです。
 
4.リハビリ期のクライアントが知りたいのは
 では、リハビリ期のクライアントが知りたいことは何か。
 リハビリ期は、長く暗いトンネルの中を山登りしているようなもの。今どこにいるのか、ゴールに向かっているのか、下がっているのか、そもそもゴールはあるのか…。不安な中重い一歩を続けている苦しい旅です。
 クライアントが知りたいのは、自分の位置、ベクトル、下がった理由、上がるための方策、上がるまでのプロセス予測(時期、回復可能度)なのです。それをきちんと説明してあげることが、クラアイントの「治らないのではないか」「また落ちてしまうのではないか」という妄想や第2の無力感を緩め、「この人がサポートしてくれる(第3の無力感対策)」、「こうやれば回復できそう(第1の無力感対策)」につながります。
 この説明のために、受験者のほとんどが、経緯表や疲労の3段階を使って説明していました。ただ、まだまだ使い慣れていないようです。 落ちた理由は、出来るだけうつと相性の悪い出来事と、しがみつきにする。今度上がっていくときは、疲労のコントロールをし、しがみつき(例えば、仕事へのしがみつき、趣味へのしがみつき)などに気を付けるという構造にすると、クライアントは希望を持ちやすいものです。
 また、事例や比喩を使う方も多くいらっしゃいました。さすがUCPC試験です。
 比喩の場合、普遍性のある、すべての方が知っている変わらないものであることが前提です。例えば、エネルギーがなくなることを、掃除機に例えて「掃除機も充電がなくなると吸い込みが悪くなりますよね。」と表現した方がいらっしゃいましたが、CLは不思議な顔をしていました。その表情に察して表現を変えることは大事です。ですが、カウンセラーが思っている掃除機とクライエントが思っている掃除機が違う場合もあります。そうするとせっかく伝えた比喩が無駄になってしまいます。
 説明に際しては、クライアントの発言から重要な要素を聞き逃さないようにメモし、事例も比喩も交えながら、短時間で説得力のある説明ができるよう、さらに練習を更に積んでください。
 
5.リハビリ期の長期目標を見据える
 このクライアントは、今回の初回面接では、基本的にうつになった原因と今後の対策を示して、具体的な方法論をごり押しせず味方になれば、それでやり過ごせます。
 ただ、本当に難しいのは、これから数回のカウンセリングです。仕事を続けたいという強い思い。しかし、客観的な疲労の回復予測からは、普通の人でもつらい高負荷の決算業務を乗り越えることは、予測できない…。
 クライアントの人生の選択を、辛抱強く支えるタフな山登りガイドになります。
 ガイドとしては、白紙的登山目標として
 ・1月まで2カ月間しっかり休んで、決算期を迎える
 ・休日+年末年始の休みで、決算期を迎える
 ・決算期も業務量や勤務時間を制限する
などが本人の意向に沿うプランでしょう。そのためには、クライアントが気にしている部長や部下への理解を求めるバスケット法が有効になるはずです。また、そのほかにも「仕事以外のストレス」を低下させる方法も併用します。例えば、妹家族との付き合い、兄との付き合い、彼との付き合いなどで消耗する負担を減らすこと。医療を上手に活用することなどです。
 そして、実際にどれかのプランで活動しても、今の疲労の状態からの予測では、決算期とその後の業務をうまく乗り切れる可能性は、10%ほどだと認識してください。90%は、再び疲労収支が悪化して、
 ・再度長期休養になる
 ・それを嫌がり、退職する。そして、休養し、再就職する
という目標に向かわざるを得ないかもしれないのです。
 カウンセラーとしては、このあたりまでをキチンとイメージしておく必要があるのです。
 いずれにしても、クライアントにとって何らかの「あきらめ」というつらい選択が必要になります。それを支える作業です。
 
6.リハビリ期の死にたい気持ちについて
 「リハビリ期は、死にたい気持ちが当たり前」と認識してください。例えクライアントが、今、死にたい気持ちがないと言っても、うつの波に翻弄されるこれから数か月の間で、かなりの確率で死にたい衝動が生じ得ると予測しておかなければなりません。
 特に初回面接では、カウンセラーにそのことを言えないクライアントも多いものです。
 表面飾りをしているクライアントに対して、そのクライアントとの付き合いが長くなるにしたがって、この人は自殺はしないのだ…と、カウンセラーが軽く感じてしまいがちです。
 「死にたい気持ちは当たりまえ」ということをカウンセラー自身が再認識するうえでも、死にたい気持ちは、毎回でも確認しても良いでしょう。