2024年度(令和6年度)UCPC認定試験における主任試験員講評
令和6年8月3日・4日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評
認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。令和6年8月 認定部
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全般
主任試験員 MRI 前田理香
1.クライアントの状況を理解し、新しい情報を柔軟に取り入れていく
予約受付表に書かれていた主訴や症状については、ほとんどの方はしっかりと把握をしてはいましたが、前半で得られた情報を踏まえた理解…刻々と変化していくバリア病の捉え方が薄いように感じられました。
例えば、前半を踏まえた場面の中で、「チームリーダーである」ことをあげている方はいらっしゃいましたが、「航空会社の広報」であることをあげた方はいませんでした。広報のチームリーダーであるクライアントが「人と関わるのが怖い」ということは、「既に仕事に大きな影響が出ている可能性がある」もしくは「今後影響が出る可能性がある」ということになります。
皆さんの頭の中にはあったのかもしれませんが、言葉にしないとカウンセリング目標を定めるために必要な情報収集の要素からこぼれてしまいます。言葉にすることで「現在どれくらい・どのように仕事に影響しているのか」「今後どんな仕事があるのか」が、確認しなければならない項目として意識でき、確認することでクライアントの困りごとの程度を理解することができます。症状も、確かに困りごとではありますが、「それによって何に困っているのか」を把握できるようにしましょう。
(2)クライアントはどこが痛いのか
お話しはどんどん進んでいきます。主訴の話から事故当日の様子、そこから3.11の地震にまつわる体験と事故との関係、そこで感じた自責感や無力感について、クライアントはとうとうと語ってくれました。それによってほとんどの方が、「これは惨事の前に似たような体験があったパターンだ」と思ってしまったのではないでしょうか。でも果たしてそうでしょうか?
クライアントは「熊本地震の時は苦しくなかった」と言っています。また、事故前も疲れてはいたものの仕事も生活もやれていて、「出来事から一気に崩れた」と話しています。でも、これについてもバリア病で言葉にする方はほとんどいらっしゃいませんでした。言葉にしなかったことで、クライアントの痛いところ「事故から一気におかしくなった」「本当は3.11も乗り越えていなかった」という第2の無力感に気づけなかったように思います。
私たちカウンセラーは、クライアントの苦しいところを理解しようとするあまり、出来ていること・上手くいっていることを聞き逃しがちです。クライアントの状態を正しく理解するためには、プラスな情報も重要な情報として聞き逃さないようにしましょう。
また、後半で能登に行ったことを話してくれましたが、そこでの詳細を聴く方も、バリア病の変化した情報として伝える方もほとんどいませんでした。もちろん、時間が限られる中、クライアントの全ての体験や心情を聴くわけではありませんが、痛いところを確認して緩めるチャンスがあった部分でしたので、とても残念でした。
(3)体調(症状)の把握
ほとんどの方が事故前の疲労に繋がる状況や希死念慮について確認していらっしゃいました。これら疲労の状態を把握することは、惨事反応が一般的な期間で落ちついていくのか、それとも疲労の影響を受けていて他の対応が必要なのかを把握する上で重要なことですし、目標を柔軟に変えていくことにも繋がりますので、とても良かったと思います。
ただ、事故後の体調の変化を確認せずに説明を始め、クライアントに受け入れて貰えなかった方もいらっしゃいました。出来事の前だけでなく、今日までの変化も意識しましょう。
(4)惨事反応とうつ症状の理解
多くの方がうつの症状(5+5)はしっかりと理解されているようでしたが、惨事反応についてはどうでしょう。惨事に遭って眠れなくなったり食べられなくなるのは回避・侵入・過覚醒のどれにあてはまりますか? また、パニック・茫然自失・感情感覚のマヒの違いを説明できますか? 特に茫然自失と感情感覚のマヒを混同している方がまだまだいらっしゃいます。曖昧な部分は、MRIやMRSIに確認したり、自分や家族・友人・クライアントの体験などから、具体的な状態を言葉にして整理しておきましょう。
2.説明力を磨く
ほとんどの方が事例を用いて説明していらっしゃいましたが、「事例を使う」ことはできても、その目的まで意識できていないため、今回のケースにピッタリしていないように感じられました
。 事例は非常に効果の高いツールです。しかし、目的もないまま用いればクライアントを「何が言いたいのだろう?」と混乱させてしまったり、反対に苦しめたりすることにもなりかねません。その事例でクライアントのどんな苦しさを緩めたいのか、または回復の方向を示したいのか、それとも行動につなげたいのか、など 目的を意識して事例を活用するようにしましょう。
(2)「説明」と「聴く」のバランス
ほとんどの方がファーストショックの図を使ったり、手振りで惨事反応が時間と共に落ちついていくことを説明していましたが、クライアントは「むしろ悪化している」と教えてくれました。自分の説明が受け入れて貰えなかったときや状況に合わないと気づいたとき、焦りや緊張からより言葉数を増やして説明をしてしまいがちです。ところがそれがクライアントを置いてきぼりにし、味方感を崩してしまいます。説明が伝わらなかった時カウンセラーは、「話す」のではなく、クライアントがどの部分に引っかかったのか、どこがどんな風に説明と合わないのか、「聴く」必要があるということを理解しましょう。
今回、経緯表を使って説明された方は少なかったですが、その中でエネルギーの変化を説明しつつ、クライアントに確認しながら頂点部分を変えていった方がいらっしゃいました。PCの操作に慣れていないと難しいことではありますが、状況に合わせて柔軟に説明を変えていった素晴らしい対応だったと思います。
(3)上級のスキルはパターンだけでは対応できない
基礎講座では、まずパターンを学習しました。これは武道でいうと「守・破・離」の「守」の部分です。いわゆる基本の型とも言えるでしょう。惨事であれば「惨事反応はショックな出来事を体験した人に起こる正常な反応で、時間と共に落ちついていきます」ということであり、うつであれば「うつは疲労の蓄積によって現れる症状で、疲労がとれれば回復します」ということですが、実際のクライアントにはパターンの説明は通用しません。例えるならば、基本の型を忠実に守るだけでは試合には勝てない…ということです。
一方で、試合に勝てる人は型の練習も大切にします。型をしっかり身につけた上で、状況に合わせて、相手に合わせてアレンジをするのですが、そこには練習が必要です。学んできた説明の型を、5分ならどう説明するか、3分ならどこを省略できるかなど、時間の制約を考えて練習したり、想定するクライアント像を変化させて、その人に合う説明を練習したり、いくつかの説明を組み合わせるなど、パターンではない上級のスキルを身につけていきましょう。
今回、原始人の比喩を使った方がほとんどいらっしゃいませんでしたが、惨事の現場では非常に有効なツールです。苦手な方も、上級のスキルとして使いこなせるようにしていきましょう。
令和6年12月7日・8日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評
認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評は今回、アドバイザーとして受験者の方を応援していた下園MRSIがテキストではなく、より理解していただきたいということで動画にて講評を作成してくださました。今後の研鑽にご活用ください。令和6年12月 認定部
アドバイザー:MRSI 下園壮太