2024年度(令和6年度)MRI認定試験における主任試験員講評
2024年11月2日 MRI認定試験における主任試験員講評
今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。 2024.11.10 認定部
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今回、3名の方がチャレンジしていただきました。複数回のチャレンジの方は、本当に確実に実力が伸びてきていることを感じました。合格できなかった方も、あと一歩のところまで来ています。個人的にフィードバックを受けた内容にきちんと焦点を当てて、効果的なトレーニングを積んでください。
以下、共通的な改善ポイントについて解説していきます。
以下、共通的な改善ポイントについて解説していきます。
MRSI 下園壮太
1 論理と感情、両方のアプローチを鍛えるべき
論理だけだと、わかるけどもなかなか行動に移しにくく、感情だけだと、雰囲気は盛り上がっても、どこか奥底で、本当かな?というブレーキが働くものです。ですから、大学などの講義とは違い、人を動かすための情報提供やコミュニケーションの中では、論理と感情共にある程度のレベルに上げておく必要があります。
論理を鍛えるには、
①個人上級2の戦略的思考をきちんと自分の頭の中で回すこと。
②もうひとつは、例えば基礎講座の場合だと、スライドの一枚一枚の意味だけではなく、全体との繋がりをきちんと理解すること(本講評2,3で解説)
などを鍛えると良いでしょう。
感情面のアプローチを強化するには、
①とにかく事例を出すこと(できれば自分の体験なら人柄が出ます)。特に惨事講座の場合、惨事反応の事例紹介は必須です。
②また、自己紹介だけでなくコミュニケーションの途中でも自分の価値観を上手に表現すること(何をどう出すのがいいのかを練習で先輩などに指導を受けます)
③受講生との交流やユーモアを入れること
などを鍛えるといいでしょう。
2 場を理解する
基礎講座の課目講師をする際も、「場」の考察をしなければなりません。基礎講座は、大学の講義などとは違います。ある人をターゲットに、ある行為を取ってもらうための情報提供をしていると考えてください。 ある人というのは、一般的なメンタルヘルスに知識がない人、あるいは、例えば経験の浅いカウンセラーのように、まだ偏ったカウンセリングの知識だけを持ってる人のことです。
協会であえて傾聴という言葉を使わず、味方になるという言葉に言い換えているのは、「傾聴なら知っている」と新しい情報に関心を持たない人にきちんと傾聴の根本をMCの形で伝えるためです。
PTSD、ASDという言葉を、全面的に使わないのも、DSMだけで勉強してきた人は、回避、侵入、過覚醒だけが苦しさだと勘違いしますが、現場では、当初のパニック、麻痺、呆然自失や自責感、無力感、不安感、負担感などへの苦しさが語れることが多いからです。
以前の基礎講座では、体験者に「当時の症状やして欲しかったこと」を語ってもらい、介入するカウンセラーに「やりがちなカウンセリング」を語ってもらい、そこから「私達が気をつけるべきこと」を暗出するディスカッションを多用していました。
基礎講座でお伝えしているのは、この流れで出てきた知識なのです。
あることのメカニズムをただお伝えするのではなく、その情報が「現場でどのように使われるべき」かまでをイメージして、伝えてほしいと思います。
3 基礎講座のスライドの理解(構造と細部)を深める
基礎講座で使っているスライドは前のスライドのから後のスライドに単純に物語や論理が流れていくものではありません。例えば
①というスライドで三つの原因と二つの症状、その二つに対する対策という構造を提示していたとします。
②のスライドでは、一つ目の原因、
③のスライドでは、二つ目の原因、
④のスライドでは、三つ目の原因、
ここで三つ目の原因があまり皆さんに馴染みのないものであったら
⑤のスライドで三つ目の原因の喩比のスライドが入ったりします。
さらに⑥のスライドは二つの症状の細部、
⑦のスライドには一つ目の症状に対する対処法の具体例。
そして二つ目の症状への対処法が以前の基礎講座内容と関連するものであった場合、
⑧のスライドで二つ目の対処法のタイトルのみ(ここで受講者と交流)、
⑨のスライドで以前の基礎講座の復習スライドを入れ、
そして⑩のスライドで二つ目の症状と対処法の具体例、という流れになっていることがあります。
表れるスライドをただ説明すれば良いのではなく、上のような構造がきちんと受講者にイメージアップできるようにしなければなりません。
まず準備の段階で、このスライドは何を伝えたいのか、どんな狙い(例えば受講者の注目を得る、考えてもらう…)があるのか、ほかのスライドとどう関連しているのかなどを、考察あるいは先輩に聞いてきちんと理解する必要があります。
さらに実際にプレゼンする時にはその構造が分かるように、必要であれば前のスライドに戻りながら解説すると良いでしょう。
また、スライドの細部についても、自分で「どうしてこうなんだろう」とか「どうして今このことを伝えるのだろう」と素朴な疑問を持ちながら(突っ込みながら)理解を深めると良いでしょう。疑問を持ったら、必ず先輩に確認してください。それが勉強になりますし、質疑応答の時の回答力にもつながります。
また課目講師用に定められた基礎講座の範囲を練習する際、初めの方は、何度も練習するのできちんと理解できているスライドが多いのですが、いつもの練習でも後半エネルギー切れになっているのでしょうか、後半部分になるにつれ、説明があやふやなになる受講者が多いようです。ときには、後半部分から練習するのもおすすめです。
4 支援目的調整面接での質問の仕方
戦略的な思考はかなりできてきていますし、カウンセリングの技量も上がってきている受験者がほとんどです。ただ今回のシナリオのように、情報が曖昧だったり、クライアントが多弁な場合はどうしても、こちらから聞きたいことを聞く質問の仕方やタイミングを工夫する必要があります。
ほとんどの受験者が、戦略のために、必要な質問をしているのですが、質問が唐突になっている為に、相手が答えにくかったりあるいは、裏メッセージに取る場合が多かったようです。
質問をする時には、背景をきちんと説明する、相手とのコミュニケーションが困難な場合にこそこの基本に立ち返る必要があると思ってください。
5 服装について
Zoomなどでの面接になると、ラフな感じの服装の方が場に合うこともあるとは思います。ただ支援目的調整面接の試験の場は、介入現場です。また相手の服装に合わせる必要もあります。
そうなると、まずジャケットなどを着用して、面接に入る方が無難だと思ってください。会話の中で状況に応じてラフな格好に移行することは、問題ありません。
2025年3月8日 MRI認定試験における主任試験員講評
今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。 2025.3.14 認定部
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3人の受験者がチャレンジし、大変質の高いパフォーマンスをみせていただきました。
事前にかなりの準備、かなりの練習をしてきたと聞いていますこが、それをいかんなく発揮していただいたと思います。
以下、今後の受験生のために気づいた点を紹介しておきます。
以下、今後の受験生のために気づいた点を紹介しておきます。
MRSI 下園壮太
課目講師
〇質問に答える練習をして、自分の価値観を緩めよう良い仕事ができるかどうかは、自分の知識を様々な現場状況に適応できるか、つまり、応用力によるところが大きいのです。では、この応用力はどうやって鍛えるのでしょう。
まずは、基礎的なことを覚え、アウトプットの練習するうちに、それが次第に自分理論になってきます。
ただこれはまだ、応用力とは言えません。自分で無意識に設定した条件、いわゆる価値観に縛られた自分理論の中でのアウトプットでしかないからです。自分理論がある程度確立した後、実際の現場で色んな状況に対応する時に、初めて、自分が準備したもの(表層的な理解)以外のものが見えてくるようになります。
この時、単に新たな知識を補給するだけではなく、その知識に無頓着であった自分の無意識のバイアスにも気づくようになります。つまり、価値観の整理が進むのです。逆に言うと、価値観の整理はこのような経験なしには進まないものです。
課目講師の試験課題について言えば、質問に答えられる段階が応用力を発揮する場面でしょう。
与えられたスライドを何度も読み込み、自分自身でアウトプット練習をすれば、ある程度は上手に講義できるようになります。
ただ、メンタルレスキュー協会が目指しているのは、大学の講師ではなく、現場で傷ついた人達の心情や状況に合わせて、自在にアレンジしながら、相手の心を緩めるための情報提供ができるスキルです。一言で言うと、相手理論を意識した応用力のある支援スキル。
MRIの試験になると、多くの受験者は、自分理論で説明するところまではなんとか到達しているのですが、質問に対してきちんと答えられない人が多いのです。それは、単なる知識不足というより、質問に答えるトレーニング(体験)が不十分なため、深い理解を妨げている価値観にまだ十分に気づいておらず、それが整理できてない場合が多いからだと思います。
ぜひ受験前に、全く知らない人に自分のプレゼンを見てもらうと同時に、素朴な質問をどんどんぶつけてもらい、それに対して答える練習をもっとしてほしいのです。
そうすると、表面的な理解でなく、幅広い理解に基づく講義ができるようになるし、自分の価値観の整理も一層進むでしょう。
支援目的調整面接
〇価値観で視野を狭めない価値観についての弊害は課目講師の課題だけではなく、支援目的調整面接においても現れます。
例えば、今回の支援目的調整面接のシチュエーションは、客観的には自殺かどうかわからない状況の中で組織側は「自殺ではない」という結論を出しているという設定でした。
この時に正しいことをしたいという無意識の価値観が強ければ、どうしても、自殺の線でサポートを進めてしまいます。一方、現場に慣れているベテランのMRIは、相手理論を補強するための考察をします。
例えば、前者は無意識のうちに、自殺であったことを認めさせたいためのアンケートやストーリー説明をするかもしれません。一方、ベテランMRIなら、自殺でないというストーリーを色んなところから集めて、それを提示するでしょう。
もちろん、そのストーリーによって波及する様々な影響を考察した上での総合的な判断にはなりますが、メンタルレスキュー協会の講義や実習などでよく用いられる「自殺を前提にしたストーリー説明」という枠だけで、考察してはいけないのです。
本シナリオでも、どちらの概念で支援するかで、全く違う方向での支援になってしまいます。このような目標や方向性を、クライアント側のニーズとしっかり合わせていくのが「支援目的調整面接」なのです。
〇確認すべき重要な情報を洗い出しておく
これは軍隊でとても重視される情報収集のポイントです。ただ闇雲に情報を取ろうとすると、雑多な情報にとらわれすぎて重要な情報を見逃すことがあります。そこで、情報収集する前に、これだけは絶対に逃してはならないという情報要素を分析しておくのです。
支援目的調整面接は調整という側面もあります(もちろん、その調整を容易にするために、最初に味方になるという目的とフェーズを軽んじてはいけませんが)。
講座でも強調していますが、大きな思考の流れは①事案の特質を捉え、②そのリスクを考え、③それに対して、メンタルレスキュー協会ができることを考察し、④その中で、相手のニーズとの合致を図っていく、です。
受験者は、この中でも、リスク分析が十分でない人が多いと思います。
特にリスクは考えただけで判断できるものではなく、情報を取って考察しなければならないのです。そして、その最初で最大の場が支援目的調整面接なのです。
支援目的調整面接に臨む際は、例えば、リスク判断に資するために、「これとこれとこれは確認しておかなければならない」という情報収集の項目が分析されていなければなりません。この重点がなく、ただ行き当たりばったりに情報を確認している人が多いのです。
例えば、自殺という噂が流れる、というリスクに気がついたならば、それがどれぐらいのリスクになるのか、を判断するために、様々な情報を収集するべきです。
具体的には、既にどれぐらいの噂が広がっているのか、その噂によって影響される人が、どれぐらいいそうなのか?どのような影響が予想されるのか?
これらに関して単に頭の中で想像した分析で終わらせるのではなく、きちんと情報収集をして、現実的な分析をして欲しいと思います。
おわりに
MRI試験はまさにこれまで勉強してきた知識やスキルを総動員して臨まなければならない、高いハードルです。しかし同時に、自分の価値観を揺さぶり、整理するための非常に大きいチャンスでもあるのです。メンタルヘルスの分野で活躍するには、どうしても、この自分の価値観の整理を進めておきたいものです。もちろん少ない回数で合格することは素晴らしいことですが、たとえ今回不合格でも、受験回数を増やすごとに、自分の価値観が整理されていくチャンスをもらっていると理解して、努力を継続してほしいと思います。