2020年度(令和2年度)CPS認定試験における主任試験員講評

2020年度(令和2年度)CPS認定試験における主任試験員講評

2020年(令和2年)7月11日・12日(オンライン)における主任試験員講評

CPS認定試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。
今回は、メンタルレスキュー協会でも初めての「オンラインによる認定試験」となりました。
基礎講座初日の講義から始まり、2日目の実習に私たちは緊張とともにチームワークを持って受講される皆さんをお迎えしました。そして、始まってみると、なんと全国から集まった皆さんの熱い思いに触発される講座となり、その熱気のまま認定試験が行われたと感じます。 オンラインに慣れない方もいらしたと思います。ですが、試験の段階では全員の方が準備を重ねて臨まれたことがうかがえました。その努力と柔軟さが素晴らしく、今後に活かされると感じました。
以下主任試験員それぞれの講評を高楊が取りまとめました。今後の参考にしてください。
MRインストラクター 高楊美裕樹
 
1.メッセージコントロール
 実習の際もそうでしたが、「画面のどこを見たら良いのか」を悩まれた方は多かったと思います。zoomというツールを使ったカウンセリングで「MC」をどこまで意識されていたでしょうか。
 「5ステップ」には、聴き方のリズムがあります。皆さんが特に上手だったのは興味津々のうなづきです。表情と共にはっきりと出されていて、聴いてもらっている感じが伝わってきました。一方で残念だったのは「驚き」です。今回は目の前でバイクと乗用車が衝突する瞬間を目撃しています。バイクの男性が飛ばされた瞬間の話は思わず「えっ?!」と驚くところです。「やはり専門家も驚くんだな、びっくりしてしまうよな」と一緒に体験をしてこそ味方感がでます。試験の際に驚かれた方はとても少なく、一体感を持てるチャンスでもあったので勿体なかったと思いました。
 また、話に夢中になってしまうと相づちが単調になり、「何となく聴いている感」が出てしまいます。ここでポイントとなるのが「要約」です。特に自責を感じている場面では、

例CL:あの時私がクラクションを鳴らしていたら・・・
 CO:バイクはかなりスピードが出ていたようだとおっしゃっていましたから、あって思った時にはもうぶつかってしまっていたんですね。僅かな時間のこととはいえ、クラクションを鳴らしていたら、ぶつからなかったんじゃないか、あの時何かできたんじゃないか、と思うとそれは苦しいですね。

というように、苦しさを受け止めつつもバイクのスピード感や一瞬の時間のことを丁寧に伝えることができます。要約を難しいと捉えず、今話している状況をカウンセラーとクライアントがより同じように理解し感じるための方法と考えて、チャレンジしてください。
 また、講座の中で繰り返し強調されているのは、私たちが発信するメッセージが「どのように相手に伝わっているか」と言うことに敏感になり、やりとりをしていくことです。緊張を緩めてあげたいと思うと思わず笑顔になる方もいらっしゃったので、ご自身の表情を鏡を見たり、いいなと思う人の顔つきを真似たりするなど工夫をしてください。特にオンラインになると真剣な顔つきは「怖い」顔になり、僅かなうなづきは「反応がない」ように映ります。そこで分かりやすい「MC」が求められます。
 
2.体験を聴くということ
 さすが!皆さん、ビデオをしっかりと見て、実習で学んだことを活かし、どういった手順で何を聴いていくのかの準備をされてきたのだなという事が良く分かりました。シナリオを読んで、出来事のその日その時を聴かなければならないと理解されていらっしゃいましたし、zoomのホワイトボード、リアルなホワイトボードを上手に使い、クライエントと情報を共有されていました。
 では、なぜ事故の様子を聴くとよいのでしょうか。
 惨事は、気持ちより体験を共有する方が共感を深める、つまり味方になりやすいからですよね。クライエントは事前情報で、「あの事故を目撃してから、、、さらに眠りが浅くなった、疲れが取れない、、、」と訴えています。事故の前はどうだったのか、事故後、そして最近はどうなのか、と時系列でクライエントの様子を理解していくと、クライアントに起こった出来事(体験)の大きさ、つらさを共感することができます。
 ただ、「体験を聴く」ことは、あくまでも手段であり、目的は「クライエントの背景を理解して、味方になること」です。皆さんの中には、共有したホワイトボードに状況を描くことに一生懸命になり過ぎたり、また描き切れずに中途半端になって、無駄に時間が過ぎていった方もいらっしゃいます。 新しい技術が加わったとしても私たちが目の前にいるクライアントに対して提供する支援の本質は変わりません。それは相手を見ながらしっかりと5ステップと9メッセージを出し、CLが(CLの視点を通して)感じた情景・音・臭い・感触などの体験を教えてもらうことで、CLの苦しさの背景を理解する。そしてその体験の中にある無力感や自責感などの「痛いところ」を知り、配慮して触れることで過剰さが緩まるように支えながら聴いていくことです。 体験を聞いている途中で、クライアントがカウンセラーに何らかの説明やコメントを求めたときは、クライアントの意思を尊重し、説明や現実問題への対処に話題を進めのが自然です。
 ただし、まだ体験を聞き切れていないと感じている場合では、また話題を体験のほうに戻すべきです。惨事の出来事の共有や症状の把握ができていないと、対処方法に進んでも、結局、納得してもらえなかったり、がけ崩れが起こりやすいからです。 受験者のなかには、クライアントから説明を求められると、まだ体験を十分に聞き切れていないにもかかわらず、睡眠や疲労の説明、出来ること探しに、完全に移行してしまった方が多かったように思います。あと30分残っている事を考えると、いったん短い説明やコメントをしたら、また体験を聴き、症状を確認していくことに戻る方が、安定した関係が築けると思います。
 また話題が、症状の説明などに移っても、事故状況の図を共有したままで話を進める方が多かったように思います。共有画面を表示しているとクライエントとカウンセラーの顔は小さな画面として映っています。出来れば、一度共有を外し、もう一度お互いの様子が分かるようにして、カウンセリングを続けて頂きたいところです。準備してきたツールや手法をどのようにオンラインの画面で使っていくかは、「クライエントを理解する」「味方になる」という土台にたってこそ役に立つものと理解してください。
 
3.症状の説明
この部分はかなり勉強され、何を伝えれば良いかを頭に入れてこられた方が多かったと思いました。その為か、全体的に早口に、一方的な説明になっていた印象です。 こちらの知識をプレゼンすることが目的でなく、相手の思考が回って、新しい視点で考えることができるためのヒントを与えるのが、カウンセリングにおける「説明」です。
1つ目のポイントは、スピードをコントロールすることです。
早すぎるとクライアントは理解できません。うつの時は思考速度が遅いのです。また、ただ会話の速度を遅くするというだけでなく、クライアントが話を差し込めるような、間を作ることや、クライアント画理解できているかの、質問などを交えながら、進めることも重要です。
2つ目のポイントは、説明の前に「盛った要約」を入れることです。
説明はどうしても理屈っぽくなりやすく、冷たい印象になりやすいものです。説明の前に相手が受け入れやすいように、盛った要約で、相手の気持ちを受け止めていることを表現するとよいでしょう。クライエントが「私は壊れてしまったのでしょうか。この状況がずっと続くんでしょうか?」と不安を口にした際に、ほとんどの方がいきなり説明に入られていました。ここはやはり、質問をしたCLの気持ちに触れてから説明を始めたいところです。クライエントは、事故を目撃し、それに対する自責感、仕事でミスをして自信をなくしかけているのです。これまで語られた体験を丁寧に確認し、つらい思いを要約したうえで、次の説明に移るとよいでしょう。
3つ目のポイントは、事例と比喩、単純理論をさらに磨くことです。
惨事の反応や症状は、勉強するカウンセラー側の知識としては「普通、当たり前の反応」という言葉で記憶していると思います。それをそのままクライエントに伝えるのでなく、いかに分かりやすく、納得のいくように説明していくかが、カウンセラーの腕の見せ所です。比喩や事例を効果的に使いたいものです。例えば「同じような事故を見た友人が、眠れなくなり医者に行ったら、大丈夫ですよ、大体1か月くらいで落ち着いてきますからと言われました」と事例を出された方や疲労の説明で、「普通の時に押されても踏みとどまれるが、フルマラソン後に同じように押されると、転んでしまう。疲れているときはダメージが大きい」と紹介された方がいらっしゃいました。クライアントに伝わりやすい事例や比喩でした。
 そのほかにも、原始人の比喩、ボールの比喩、オリジナルの比喩などで説明を試みていらっしゃる方もいましたが、惜しい事に唐突感のある方が多く、CLが戸惑っている様子が見受けられました。比喩や事例は、すべてのクライアントに伝わるものではありません。事前にいくつかの比喩・事例を準備し、プレゼンの練習をしておくといいでしょう。また、準備した説明がうまくいかないと感じたら(がけ崩れをしたなと感じたら)、基本に戻り、もう一度体験を詳しく聞くようにしてみましょう。
 一方、「眠れないのは良くない」と説明した受験者も多かったのですが、睡眠はどうして大事なのか、眠れなくなるとどういうことが起こるのかをカウンセラー自身がしっかり理解していないような印象がありました。どうして睡眠が必要なのか、自分の中で単純な理論を組み立てておくといいでしょう。もちろん伝えるときは、事例と比喩で補うともっと強力になります。
 
4.最後に
 皆さん緊張の中、それでも口頭試問の最後まであきらめずに試験に臨んで頂き有難うございました。今後もぜひ、仲間として一緒に学んで行きましょう。

2020年(令和2年)11月29日(オンライン)における主任試験員講評

CPS認定試験を受験された皆さま、当日はお疲れ様でした。
前回に引き続いてオンラインで実施した認定試験でした。
考え方を学び実習で体験する基礎講座1~3の内容、そして試験前に総浚えの実習を繰り返す基礎講座4で受けたアドバイスについて、認定試験までの短期間の間に何度も復習されたであろうことが、認定試験当日の受験者の皆さまの様子から伝わってきました。
当日主任試験員として感じ、考えたことを、皆さまにご紹介したいと思います。
これからCPS認定試験を受験される方、そして今回の認定試験を含めてこれまでに受験された方の今後の研鑽の一助となれば幸いです。
MRインストラクター 山際洋一

1.メッセージコントロールについて
協会のカウンセラーとして活躍していくための考え方や技法については、資格に応じて様々なことが要求されるものの、それらを貫いて常に大切なのが「味方になること」、そのために「メッセージコントロールを重視すること」であるということは、受験者の皆さま全員が理解され、実践しようとされていました。 5ステップのうち「興味津々」と「了解」については、ほとんどの受験者の方が適切な大きさ、リズム、タイミングをもって反応されていましたが、「驚き」については更に大きなアクションを取られたほうがよいのではと思う場面が少なくありませんでした。 というのも、今回の認定試験のように大きな惨事を経験したクライアントの場合、「話したくない」「話してもわかってもらえないかも」と考える反面、ショックな経験をしたことやその時の辛い気持ちを「誰かに聞いてほしい」、「わかってほしい」とも思っているので、「驚く」というステップは味方になるために非常に効果のあるものだからです。 もしかしたらカウンセラー(受験者)は、できごとをしっかり把握しようとクライアントの「話す内容」を聴き漏らすまいと集中するあまり、うなずきやあいづちが疎かになってしまったのかもしれませんが、味方感を維持するためには聴くことと伝えること(カウンセラーのメッセージを発信すること)のバランスを常に留意することが、とても大切ではないかと思いました。 また、オンライン特有の課題として、視線の置き方やうなずき・あいづちを発するタイミングの難しさが受験者の皆さまの様子から伝わってきました。 視線の置き方(カメラ目線や、受験者のパソコン等でのクライアント画像の置き場所)については、基礎講座でも何度かお伝えしてきましたが、実際のロールプレイでは緊張もあったでしょうし、さらに説明用の図表などを書きながらではついつい視線が外れてしまうことも致し方ない部分もあるのかもしれません。 熟練者は、視線は常にカメラを向けつつもクライアントが映っている画面で表情を同時に確認していますが、これができるようになるには実践の場をできるだけ多く踏むことが必要です。 ですから勉強中の皆さまは、自分の視線がどのようにクライアントに受け取られているかを、相手に確認するなり録画で見直すなりすることによって、徐々に慣れていっていただければと思います。 なお、これは5ステップをどのタイミングで発するかということにも共通に言えることです。 受験者それぞれのwifi環境によっても異なるとは思いますが、カウンセラー(受験者)がタイミングを見計らって出したはずの5ステップが、クライアント役や試験員には少し早すぎたり遅かったり感じることもありました。 オンラインでのカウンセリングは認定試験の場のみならず、今後実際の現場でも多用されるようになるのは確実でしょうから、そのためにもカウンセラー(役)のメッセージ発信のタイミングが適切なものかどうか、今一度確認しておかれるとよいでしょう。

2.体験を聴くことについて
今回のクライアント役は、自然災害が発端となって多くの方の死に直面するといった、かなりショックな出来事を経験されていました。 試験範囲の前の「最初の10分」で語られた出来事の概要によって、そのショック度合いの大きさをカウンセラー(受験者)が予測しやすかったためなのか、または試験開始後のクライアント役の第1声が「どうしたらいいのでしょうか?」という問いかけに影響されたからなのか、「出来事をさらに詳しく聴く」ことよりも、構造化されたカウンセリングを前に進める(具体的には、症状説明をする)ことを優先された受験者も少なくありませんでした。 このように症状説明を優先されたカウンセラー(受験者)の皆さまも、出来事をさらにしっかり聴くことの大切さに途中で気づかれて、改めて事実確認のステージに戻っておられましたが、出来事を(さらに)しっかり聴くというのは、メンタルレスキュー協会のクライシスカウンセリングの肝でもありますので、改めてその意義を確認されて、実践を積まれるとよいと思います。 教科書(P.127)にもあるとおり、体験を聴く最も重要な目的は「しっかりと共感を深めることで、さらにクライアントの味方になる」ということです。 今回の認定試験でクライアントが経験したショックな出来事は、迫りくる自然災害、予め実施した対処が功を奏さず多くの方々が犠牲になりかねない緊迫した現場に居合わせたこと、そして結果的に被災者の死に直面したことなど、連続したいくつかの場面で構成されていましたが、試験前の10分間の概要説明だけでは、クライアントの受けたショックは十分には受けとめきれないものでしょう。 「体験をしっかり聴く」ことを「映画の同じ場面を一緒に観るように」と喩えられることがありますのが、私自身は個人的には、「クライアントが出演している『惨事』というお芝居で、カウンセラーも舞台に上がってクライアントの横に立って、体験の再現に同席する」というイメージを持って臨んでいます。 いずれにせよ、体験した苦しさをわかってくれるカウンセラーが、クライアントの力強い味方になるということです。 さて、体験をしっかり聴くということのもう一つの目的に、クライアントの体験を一緒に詳細に振り返っていく過程を踏む中で、行き過ぎた自責や不安などクライアントの思い込みに気づく「きっかけ」を探すということがありました。 今回の認定試験のクライアントが「自分の失策が多くの方の死を招いてしまった」という強い自責を抱えていることは、ほとんどの受験者の方も把握されていたようですが、その中には「自責を緩めることでクライアントに楽になってほしい」という思いが強かったためか、クライアント一人だけの責任でないことを示唆したり、他の事例を使ってやむをえないことだと説明したりするカウンセラー(受験者)もいらっしゃいました。 クライアントの自責感をカウンセラーが意図的に弱めようとすることは、「変われ」メッセージの発信、つまり「がけ崩れ」を起こすきっかけとなりますし、自責は無理にはがそうとしなくても、誰かに話すことだけでもクライアントのためになるものです。(ざんげ効果) また、今回のクライアントの背負う責任は、場合によっては法的措置も伴いかねない性質のものでしたが、その際により軽微な出来事を事例としてカウンセラーが説明しようとしても、クライアントの納得感は得られにくいのではとも思いました。

3.症状説明について
ショックな出来事から1か月経過後に相談に来られたクライアントの症状について、カウンセラー(受験者)は、惨事(ファーストショック)の反応として説明しようとされた方、疲労の蓄積(うつ状態)の反応としての説明を試みた方がほとんどでした。 ところが、実際にはこのクライアントは惨事反応(ファーストショック)が残る期間中に、災害の事後処理などに忙殺された結果、疲労の反応が出ている(いわゆる遅発疲労、教科書P.120およびP.78参照)というものでした。 カウンセラー(受験者)の皆さまの多くは、惨事や疲労の経緯を図表で表して説明されようとするなど、工夫や努力のあとは十分にみらたれたものの、惨事とうつの具体的な症状とそのメカニズム、さらに対処に関して、現場での実践にすぐに役立てることができるよう、今回の事例とご自身の対応ぶりについて、早い機会に振り返っておいていただきたいと思います。 ところで、カウンセラー(受験者)の説明の途中でクライアントが質問を挟む場面がありましたが、ほとんどのカウンセラー(受験者)の方はクライアントの質問にすぐに答えようとしていました。 カウンセラーは説明する内容に自信をもっている上に、クライアントに早く楽になってもらいたいという思いが強いあまり、場合によってはクライアントからの質問に答えることなく説明を続行しようとしがちになりますが、今回の受験者の方はそうはせず、いったん説明を中断してクライアントに質問に答えようとされている姿勢を見て、私は「さすがだな」と思いました。 ただ、もう1歩進んで、クライアントからの質問に答える前に、カウンセラー(受験者)から「疑問がわくのは当然だよね」、「私の説明が性急すぎたよね」などの一言を入れることで、クライアントの感じる味方感がさらに強固なものになるのではないかとも感じました。

4.終わりに
冒頭にも申し上げましたが、今回の受験者の皆さまは、直前の講座あるいは前回の受験以降、復習と実践練習にかなりの時間と労力を割いて当日に臨まれたのだと思います。 協会の会是が「現場で活躍できるカウンセラーを育てること」、そのために「実践を主にした研修・認定試験を行うこと」ですから、ふだんから「場数を踏む」ことがもっとも有効な修練の機会となるのは明らかです。 今回みごと合格された方も、これから認定試験に挑まれる方も、練習を通じてご自分なりのメッセージコントロールを構築していただければと思います。