2020年度(令和2年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

2020年度(令和2年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

令和2年8月1日・2日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。今回はUCPC初のオンライン試験でした。そこも踏まえて主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。  令和2年8月 認定部
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今回のUCPCは、ただでさえ難しいUCPC試験。しかも昨年は、UCPCの強化ポイントをリハビリ期に置いておいたので、勉強しやすかった部分もありますが、今年は、自殺企図対処、うつのリハビリ、惨事対応という本来の幅広いジャンルで実力向上を図らなければなりませんでした。 さらに、今回は初めてのオンライン試験になりました。カウンセリングそのものにプラスして、機材・ソフトの操作、画像越しのコミュニケーションなど、受験者の負担は、一層大きかったものと思います。その中で皆さん本当に、真摯に取り組んでいただきました。 今回、残念ながらUCPCの合格ラインに届かなかった方々も、間違いなく実力がついています。それは、試験員の共通の意見です。 毎回思うことですが、どんな困難な課題があっても、練習は裏切りません。練習のたびに、うまくなっていらっしゃいますし、複数回の受験の方も、毎回実力が向上しています。 今のトレーニングの方向性で間違いありません。あとは回数、数をこなしていっていただきたいと思います。
主任試験員 MRSI 下園壮太

 
1.惨事反応とうつの反応の区別が十分についていない
今回の事例は、2年間にわたる「うつからのリハビリ」をほぼ終わりかけていた方が、1週間前に同僚の自殺に遭遇した後、ファーストショックに苦しんでいるというクライアントさんでした。 自殺という惨事から1週間という状態なので、自責、無力感、不安、不眠、食欲不振などのファーストショックが強く出ている時期です。これらの症状はうつ状態の症状としても理解できるものですが、時期を考慮すれば、まずは「ファーストショックとして解釈・説明し、クライアントが余計な不安を持たないようにしてあげること」が今回の1時間のカウンセリングのカウンセリング目標となるべきです。 バリア病の時点では、そのことを理解していても、なぜか実際に説明する段階になったらファーストショックの説明ではなく、うつの三段階やリハビリの経緯表などを使って説明する方が多かったのです。 最短の説明は、「あなたはリハビリでだいぶ良くなってきていた。ただ万全ではなかったかもしれない。そういう時期に同僚の自殺でショックを受けると、他の人より大きなショックになる。この落ち込みを契機に、またあの辛いうつ状態に戻るのではないかという不安を持つかもしれないが、このようなリハビリ途中のショックな出来事に対する反応は、一般的にはそれほど長引くものではなく、比較的すぐに回復する。その間は辛いかもしれないが、症状が軽快していくのを観察しておいていただくだけでいい、もし一~二週間経っても症状が変わらない、もしくは悪化する場合は、その時にはその時なりの対応が取れる。例えば僕がサポートした事例では…」 つまり、惨事で勉強した「ファーストショックへの無力感対策 7つの手順」の説明が有効なのです。 もう一度基礎講座及び上級(個人)1で勉強したうつ惨事・リハビリの特性をきちんと理解し直していただくと良いと思います。
 また、UCPC試験は、どれだけ覚えているかを確認する試験ではありません。説明となると、どうしても学校の試験のように、「よし、この課題には、教科書のこの部分をきちんと説明しなきゃ」と対応してしまいがちです。そうなるとカウンセラーのプレゼン大会になってしまい、クライアントは置いて行かれてしまいます。常に、何のために説明しているかという目標(カウンセリング目標)を意識しながら説明する練習をしてください。
 
2.オンラインに適合したメッセージコントロール
 UCPCには本当の実力が求められます。本当の実力とは、現在自分が持っている力(戦闘力)をきちんと把握することも含まれています。実際オンラインのカウンセリングであれば、パソコン機器の自分の精通度を把握しておくことも重要な要素になるのです。 使えないツールを使うと、パフォーマンスが下がります。
 また、今回は、ズームのホワイトボードの使用、あるいはパワーポイントの使用を諦めて、リアルホワイトボードや紙に書いて伝えようとする方が多かったようです。自分の実力に応じた方法を選定していたのは良いことなのですが、実際にそれが「相手にどう映っているか、どう見えているか」まで十分に予想してパフォーマンスをしている人は、少なかったように思います。見せ方としてはリハーサルも必要になってくると思います。
 メッセージコントロールというのは、メッセージをコントロールすることです。相手に今どういう画像が写っているのか、どういう画面になっているのかというところまで想像し、あるいは直接聞いて、それをコントロールしていく必要がある時代になってきました。
 そして、これまで講座では基本的な表情を訓練としてファイブステップを練習してきましたが、これも新しいリモートカウンセリングの時代ではさらに、もう一段階、磨く必要が出てきたと感じています。 というのも相手には、大きな画面でカウンセラーの顔がずっと映っているからです。頷くだけでなく表情がきちんと動いていないと、相手はマイナスのメッセージを捉えます。特に眉と目の動きが少ない方が多かったように思います。共有画面などにした場合は自分の顔が極端に小さくなってしまいます。
 そうするとその小さい画面でも、相手に頷いてることがわかるような、これまでより「より大きな頷き」が必要になります。電波状態によっては相づちの声がかぶると、相手の声が聞こえにくくなることもあります。その場合は声を、相づちを出さないで頷くだけにする、などという工夫も必要になります。
 試験のための練習をする際は、実際のオンラインを通じて練習もしておくと良いと思います。
 
3.目標の修正について
UCPCではバリア病の変化の必要に応じて、目標を変えていくことが求められます。 これがまだ十分にできていない方が多かったように思います。
• 話の流れに上手に対応しているうち、結局自分がどの方向に進んでいるのかを見失う方
• 違う話題に進んでいる時、本来進むべき方向性の方に話題を戻そうとするのは良いことですが、その時ちゃんと話題変更の理由説明をしない方(クライアントはこれまで話したことの意義や、何のために次の話題が聞かれているのかがわかりません)
• 方向性を立ててしまうとバリア病に変化が出ていても、クライアントが難色を示しても、ひたすらその方向に進んでしまう方
などがいらっしゃいました。
 目標の変更については、本人の無意識目標や価値観が大きくかかわる部分もあります。是非ご自分のカウンセリングを、上級者と一緒に振り返り、ディスカッションしていきながら、ご自分のくせに気がついていただくと良いと思います。

令和2年12月12日・13日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評

 毎回思うことですが、上級講座の時から比べて試験の時は格段に実力が向上している皆さんの姿に接し、その才能と真摯な努力に本当に敬服します。特に、今回はSNSや電話カウンセリングなどで現場を積みつつある方々の成長には目を見張るものがありました。やはり現場で鍛えられるのは何よりもの宝です。一方で、個人的にロールプレイなどを繰り返してきた方もいらっしゃいます。筋肉は裏切らない、訓練も裏切らない。
 惜しくも合格に至らない方の中にも、もし、他団体なら十分、看板となるような実力を持っていらっしゃる方も数名いました。ですから、必ずしも本試験に合格しなくても、ご自身の活躍されているフィールドでは、十分なパフォーマンスを上げていらっしゃる方も多いと思います。
 ただ、メンタルレスキュー協会のUCPCは、あらゆる現場で本当に頼りになる実力を厳しく評価する試験で、個人カウンセリングのレベルだけでいうとMRIレベル、日本一難しいカウンセリング実技試験です。その分、チャレンジしていただく価値はあると理事長としても自負しています。
 残念ながら不合格になった方も、次のような点を意識して、再チャレンジしていただけいれば幸いです。
主任試験員 MRSI 下園壮太

 
1. 戦略的捉え方について
(1)「バリア病…」を磨く
 戦略的思考をするためには、まず大きな視野でクライアントを捉えることが必要です。試験の際に、バリア病を質問しましたが、試験ペーパーに書いてあるクライアント状況を、単に羅列する方が多いように思います。
 バリア病で捉えるのは、「これこれこういう要素があるんだから、こういうことに気をつけてカウンセリングしなければならない」というカウンセリングにおける対応の方向性が見いだせる要素であるべきです。
 例えば今回のクライアントさんであれば「43歳女性」という情報から、「今年は女性がゆえにコロナによって影響を受けている、だからコロナのことについても聞かなければならない」とか、「35歳クライシスにあるので、キャリアや恋愛の悩みがあるかもしれない」などとカウンセリングの際に方向性を持って聞いていくのです。
 例えば「心理学好きのお友達に紹介されてきた」ということを、場面であげていた人もいますが、これが「医者から紹介されてきた」などであれば医療との連携という具体的な対応の方向性を考えなければなりませんが、心理学好きのお友達の紹介だけでは特にそれほど重要な要素とは言えない訳です。

(2)大きな視点で「何が重要か」を捉えていく
 メンタルレスキュー協会の講座はうつと惨事の内容が主体です。そして一般的な方向性として、うつについては症状を、惨事については出来事の細部を聞くことで、共感して味方になるという手順を練習してきました。
 今回、協会の試験だということで、そのパターンでのパフォーマンスを発揮しようと思われたかもしれませんが、メンタルレスキュー協会は「習ったことをそのままパフォーマンスする試験」をしているわけではありません。UCPC試験では実際のクライアントに応じた「柔軟な対応性」を見ています。
 今回のクライアントさんで言えば、もちろん、うつも惨事もありますが、白紙的に見て一番大きいダメージは「43歳の彼女が結婚まで考えていた彼とお別れしなければならなかった」ということです。そしてそのことは試験後に聞いてみると皆さん気が付いていらっしゃいました。味方になるためには、その「痛み」にしっかり共感しなければなりません。
 にもかかわらずどうしてもそのことが抜けてしまったのは、いわゆる「学びの弊害」によるものです。メンタルレスキュー協会で学んだことで、逆に視野が狭くなるようではいけません。今回の試験によって、常に「学んだことは学んだこと。クライアントに接する時には出来るだけ白紙的な偏らない視野でクライアントの全体像を捉えることが大切だ」ということを学んでいただければ幸いです。

(3) 光(希望)の見える終わり方
 今回のクライアントさんはコロナ、失恋、過重労働、キャリアの問題、就活での挫折体験、実家での居づらさ、将来不安、そしてコンビニにおけるプチ惨事など様々な要素が絡まって、今の苦しみがあります。
 先にも触れましたが、その全体像をきちんと把握しなければ、クライアントに共感することにはなりません。全体を理解した上で、どの問題には、どういう支援が有効かを考え、さらに今回のカウンセリングで、どのテーマをどれほど進めていくかを決めていく、これが戦略的なアプローチです。
 多くの方が惨事のファーストショックの説明、そしてその後のうつ対策としての疲労コントロールという流れだけで考察していたようですが、このクライエントの場合、結婚を前提にしていた相手との失恋や大切にしていた仕事を失い、家族からも孤立するという、「自信の喪失」という大きなテーマが存在します。カウンセラーとしては、当面のファーストショック対策、そして疲労対策をしつつも、今後は、大きなテーマとなっている失恋の痛みを一緒に和らげていったり、失いかけている自信をもう一度取り戻していく作業を支援していきたいものです。
 最初から今後の大きなテーマまで取り扱う約束などできませんが、少なくともカウンセラーは、「そのクライアントが持っている悩みの全体像をきちんと理解しています、そのうえで、今回はこれをやってみてください」という流れでクライアント目標を伝えなければなりません。「ファーストショックが緩むまで少し様子を見ましょう、そして睡眠を取りましょう」で良いのですが、「今後、二回目以降はあなたが支えてるたくさんの問題をこういう風に一緒に解決していこう」というような要約があって、初めて光の見える次回予約となるのです。
 
2.説明の力をさらに向上させる
 うつ・クライシス専門カウンセリングには、「説明で相手の癒す」という重要なスキルがあります。
 通常のカウンセリングでは「聞く」ことを主体としてトレーニングしますが、カウンセラーが考える「現状に対する見立て」や「今後の展望」などを上手に説明することによって、味方感をさらに強くし、クライアントに希望を持ってもらえるようなクライアント目標を提示することができます。
 今回は、その説明力が弱い方が多く見られました。
 次のようなことに注意して説明スキルを伸ばしてほしいと思います。
(1)自分が理解しているだけでなく、相手にきちんと伝わるような説明の方法・要領を練習する。
 例えばうつの3段階の説明をする時、初めてのクライアントには、縦軸、横軸が何を示すかなどがわからないことが多いのです。同じ刺激でも、受けるショックや疲労度が変わることや、2段階では表面飾りが多いことなど、そのクライアントにとって重要な要素をわかりやすく説明できるように練習しましょう。
(2)経緯表の波の変化にきちんと意味を持たせる。
 経緯表の波を、漠然と書いていらっしゃる方がいらっしゃいました。経緯表は相手が「本当にそうだなー」と感じるようなものでなければなりません。例えば失恋をした時のショックなどは、きちんとそれが表現されるように波を描く必要があります。
 この波を上手に書けることが、クライアントの心情、つまり辛さの「程度と質」をカウンセラーがきちんと理解をしたということの表現にもなります。
(3)適切な説明内容・要領の選定(このCLに何をどう説明するか)
 今回のクライアントさんの素朴な疑問は、「疲労してると説明されても、自分自身があまりそういう実感がないこと」、また「現在は仕事をしていないので疲労が深まってるという理解がしにくいこと」です。
 これに対しては疲労の二段階が表面飾りをしてしまう状況であることや、遅発疲労の説明をすると良いでしょう。
 「疲労していることを自覚させよう」と努力した方が数名いましたが、それは難しいことで、変われMになります。そうではなく、「今あなたには、これこれこんな症状がある、それは気づかない疲労によるもの、というのも、これこれはかなりエネルギーを使う出来事だったから」という説明の流れが必要です。単純理論の説明だけでなく、事例や比喩を用いて説明できるとよいでしょう。
 また、惨事の反応について「店長の時には、それほど動揺しなかったのに、なぜ今回は強く反応してしまうのか」という疑問についても、役職にある時のファーストショックは麻痺の方に流れやすいことや、現在が疲労の2段階にあるので、2倍のショックを受けたことなどで説明すると良いでしょう。この時も事例が効果的です。
このように今回のクライアントさんの疑問に応じる適切な説明内容・要領を選ぶことが重要です。
(4)事例を使って説明する。
 毎回強調することではありますが、単純な理論説明がクライアントに理解されにくい場合でも、事例を提示するとクライエントさんの納得が進むことが非常に多いのです。上で説明した例も事例で説明した人は、クライエントさんに納得してもらっていました。
 
3.味方の関係を維持、強化する
 メンタルレスキュー協会で最も重視しているのが「味方になる」ことによる支援です、説明は味方になった上でプラスαのケアだと思ってください。説明をしようとするあまり、味方の関係が崩れることは本末転倒です。
 UCPC試験はカウンセリング後半のロールプレーですが、 後半戦における味方の維持・拡大の仕方にはコツがあります。次のポイントを意識してみてください。
(1)入りが大切
 今回のクライアントさんにとっては、突然カウンセラーが交代するのです。新しいカウンセラーもずっと聞いていたという前提であっても、じっさいどんな人なのか、とても不安です。ですから、短時間で出来るだけ早く味方になる必要があります。そのためには、カウンセラーが交代して動揺させていることを、謝罪しねぎらった上で、これまでのカウンセリングをきちんと大要約してみせることが重要です。
 この時に、クライアントが語ったさまざまな要素を、ただ言葉として返すだけでは不十分です。クライアントの心理的な痛みや身体的な苦痛などの、「質と程度」をきちんと把握して、それに対して適切な形容詞をつけた、盛った要約をする必要があります。逆に言うと、この盛った大要約次第で後半戦の味方度がほぼ決定してしまう部分があるのです。
(2)カウンセラーのクライアントの現状分析、今後の見立てクライエント目標(やれる事)の提示を適切にする
 前半の、聞くことが主体で進むカウンセリングでは、頷きや要約などのMCのスキルが味方になるために非常に重要でしたが、後半になると、カウンセラーがクライアントをどう理解したか、どのようなアドバイスをするかが非常に大きな意味合いを持ちます。ですから、説明が始まる後半戦になって急に味方度が崩れることがあるのです。
 つまり、入りの「盛った大要約」だけではなく、それに続く「現状説明」やその後のクライアントの「できることさがし(クライアント目標の提示)」などの際に、よくクライアントの表情を観察し、納得具合を確認しながら、丁寧に進めていくことが必要になります。
 説明の途中で、クライアントから質問があった場合は、そこに何らかの意図(疑問、疑念)が隠れていると判断し、クラアイントの質問の背景を聞かなければなりません。そのような時ただ単に大きく頷いただけで、説明を続けるというような乱暴な進め方をする方もいましたので、注意してください。
(3)さらにMCを強化する
 MCについては皆さんかなりトレーニングをしてファイブステップや要約・質問などが上手くできるようになっています。ただリモート場面でのMCについては、さらに工夫やトレーニングが必要になります。特に影響が大きいのは目線です。基本的にカメラの方を向こうとする努力はあるのですが、 目線が下に度々落ちる方がいらっしゃいます。あとで図表を用いた説明をした時に、手元に置いてあったその図表のほうを見ていたということはわかるのですが、それまでは、クライアントの方に意識が向いてないような印象や、落ち着きのない印象として受け取られてしまいます。その様な場合はできるだけ早く「自分の手元には〇〇がある」ということを伝えたり、「メモをしています」などと表現をしておくと良いでしょう。
 また、ほとんどの皆さんがリアルホワイトボードを使って説明していらっしゃいましたが、色々な工夫をしているものの、相手にはやはりコンピューターソフトを使った説明のほうがわかりやすい部分があります。できれば自分の得意なソフトを使って画面上で説明ができるような練習をしておくと、実際のカウンセリングでもクライアントに「見えない、見にくい」という負担をかけなくて済むようになります。
 
4.希死念慮への対応
 多くの方が、死にたい気持ちの存在を察知し、それを聞くということはできていましたが、ただ聞いただけで、すぐにうつなどの説明に移る方が多かったのは残念です。「希死念慮を持っていても大丈夫、その方向にいかないようにカウンセラーとしてもサポートする」という安心情報まで、セットで伝えられるように練習しましょう。