平成20年度以前のCPS(I)(C)認定試験、認定者アドバイス

平成20年度以前のCPS(I)(C)認定試験、認定者アドバイス

平成20年CPS(I)(C)認定試験、認定者アドバイス

※以下のアドバイスは、CPS試験が「自殺企図対処」「惨事対処」と2つに分かれていた頃のものです。参考にされる際はご注意ください。
 
<「苦しかったね」「がんばっているね」「よくやっているよ」メッセージについて>
講座でも強調したとおり、味方になるためには苦しかったね(1メッセージ)、がんばっているね(第2メッセージ)を、与えることが必要でした。ところがどうしても、このメッセージが“口だけ”である場合が多いようです。
例えばまだ、十分に惨事の内容を聞いていない時に(事実認識を聞く段階が不十分なまま)、それはつらいですね、それは苦しかったですね、頑張ってますね、などと言われると、逆に「本当に分かってないくせに…」という反感を持たれます。
十分に事実内容を聞くという“行為”、そしてその聞いている“表情”によって、苦しかったねメッセージを出せるように練習してください。一般的には、クライシスのクライアントに対して、0、1、2の順番でメッセージを重ねていことで、味方の関係をつくることができます。
ところが、惨事後の一つの特徴的な症状である“麻痺”が強い人は、つらさを実感していないことがあります。そんな人が、カウンセラーから何度も「辛いですね」と繰り返されると、「つらいと感じていない自分は、冷たい人間なのではないか」という裏メッセージを感じることがあります。
これは、表面飾りが強いうつ状態のクライアントでも同じです。つらさを一生懸命に否定して、ようやく生きているのです。そのようなクライアントに対して、「つらいですね、がんばっていますね」と繰り返しても、味方になれず、逆に相手を苦しめます。というのは、このメッセージは0メッセージの「変わらなくていいよ」を否定してしまうからです。「あなたはつらくない、頑張っていないと思っているが、それはあなたの感じ方が間違えている。それを修正しなければならない」と言っているのと同じことになるからです。
苦しかったね、頑張っているね、という第1第2メッセージはとても重要ではありますが、このメッセージでさえ裏にとられ、もっと根本の0メッセージを崩すことがあるということを覚えておいてください。
ちなみに復習です。0メッセージには四つあります。「聞いていますよ」、「それは大きな問題ですね」「変わらなくていいですよ」「私はあなたを責(攻)めませんよ」この0メッセージの中でさえ、裏メッセージが生じます。惨事の後には、クライアントの自責の念を少しでも緩めようと、「あなたの責任ではないですよ」というメッセージを言葉で何度も繰り返すカウンセラーがいました。
これも同じように、「自分の責任だと感じるのは間違えている、そんなあなたは変わらなければいけない」というメッセージとなり、相手を苦しめることがあるのです。そんなクライアントに対しては、「そうかぁ、私から見たらあなたの責任なんかじゃないと思うのだけど、あなた自身はどうしても自分のせいだと感じてしまって、それが苦しいんだよね。」などとバランスのとれた対応ができるように練習して下さい。基本メッセージだからといって、気を抜いてはいけません。相手の反応によって、自分のメッセージが逆に相手を苦しめていることがないかを常にチェックする感性が必要になります。
 
<ワンパターンの繰り返し>
「上司が私の立場を理解せずに、仕事をおしつけてくるんです」というクライアントの発言に対し、「あなたは、あなたの上司があなたの立場を理解せずに仕事をおしつけてくると思っているんですね」と、ワンパターン的に小要約する方が多いようです。
この「あなたは、~~~~~~と思っているんですね」という形は、「あなたの言い分は聞いた。でもあなたが思っていることと現実とは違うかもしれないよ」というメッセージを含んでいます。
クライアント力が高い普通のカウンセリングでは、自分の発言を客観的に見る良い機会になるかもしれません。ところがクライアント力の低いクライシスのクライアントにとっては、このワンパターンの小要約が繰り返されると、「私はあなたの発言を信じてはいない。あなたの感じ方が悪いのではないか」という裏メッセージにとられてしまう確率が非常に高くなります。
要約や質問の返し方などは、常にクライアントや話題のやりとりの中で、柔軟に選択していくものなのです。ワンパターンの癖を持っている人は、注意してください。
 
<症状確認について>
うつ状態の症状を、大変詳しく聞きすぎるカウンセラーが多いようです。
何時頃眠りますか。ベッドに入ってからはどれぐらい起きていますか。夜中に何回ぐらい起きますか。朝方早く目が覚めますか。二度寝ができますか。眠りは浅いですか。十分に眠った感じはありますか。昼間は眠くないですか。眠るためには酒などを飲んでいますか…。などと、睡眠にひとつについても聞こうと思えばいくらでも聞くことができます。ところが、私たちはお医者さんではありません。医師は睡眠パターンや質になどによって薬を選択するために深く問診する必要があります。
ところが、私たちは薬を出す訳ではありません。だからまず、私たちがそんなに深く聞く必要性がないのです。症状確認が詳しすぎるとむしろ、どうしても尋問調のリズムに陥りがちだという欠点の方が表れてきます。ここでもう一度、どうして私たちはカウンセラーとして症状を確認するのかを考えて見ましょう。最大の目的は、相手の苦しさに共感して、「苦しかったね」メッセージを出すためです。うつ状態の悩みを聞いていても、どうしても相手の苦境を理解しにくい場合が多い。
ところが、「眠れない状態が、もう二週間も続いています。毎日夜が怖いのです」と聞けば、その苦しさが誰だって理解できるはずです。
悩みにターゲットを合わすのではなく、不眠や自責感・無力感・不安感などの「うつの苦しいところ」を聞くことで、共感でき、味方の立場を築くことができるのです。だから、「眠れているの、どれぐらいそんな苦しさが続いているの」という漠然とした質問で十分なのです。問題は、そのときの“表情”です。2週間眠れませんと聞いて、何のコメントも表情も無く、「食欲はどうですか」と質問を続けられると、どうしても冷たい感じが否めません。「そうですか~。二週間も眠れない状態が続いているのですか。それは苦しいですよね」と言いながら、相手の苦しさを反映した表情をする。これが、メッセージを与えることになるのです。その機会を作るために「症状確認」があると思ってください。 もちろん症状確認にはそのほかの目的もあります。表面飾りをするクライアントには、身体症状や疲れなどを聞くことにより、その人のうつ状態の深さを知るきっかけとなることがあります。
また、希死念慮などはなかなか自発的に表現できるものではなく、質問によって表現しやすい場を与えることが大切です。 さらに希死念慮を確認することは、カウンセラーは自身の覚悟を決めることができるし、周囲の人に対処をお願いするときの重要な情報にもなります。
 
<惨事後の症状とうつ状態の関係>
惨事後の症状(ASD)とうつ状態との関係やその対応が明確に理解できていない方が多いようです。
ASDは、回避、侵入、過覚醒、麻痺などの症状が主体です。これは程度の差こそあれ、一般的な自然な反応なので、基本的には経過を観察するという対処で十分です。ただしもちろん不眠や自責、不安などの症状が苦しければ、自ら精神科を受診することを妨げる必要はりません。
例えば、君はまだC2になってないから歯医者に行ってはいけない、などということはありませんよね。同じように精神的な症状についても、自分が気になり、精神科受診に抵抗がなければ、どの時点でも精神科を利用することに問題はありません。
ただ、本人に精神科受診に対する若干の抵抗感があるとき(ほとんどの人がそうだと思いますが)、メンタルヘルスの専門家から精神科受診を勧められること、は別の意味を持ちます。それほど悪いのかという印象を与え、不安を掻き立てるからです。
惨事後に必要なのは「この反応は普通の反応」というメッセージです。不用意に精神科の受診を進めるということは、このメッセージを否定してしまいます。決してクライアントの不安を不必要に増大させてはいけないのです。
ではどうしたらいいのでしょう。
まず今の症状が、ここ数日間で良くなっているのか悪くなっているのかを確認してみてください。多くの場合は、だんだん良くなっていることを実感できているはずです。その時には、症状の主体がASDであると理解し、普通だよメッセージを与え、症状が改善するまでの時間の見通しを与え、しばらくは自分の症状を観察するという方法を与えます。
もし、仮に1週間後の介入であるとして、1週間たっても事件直後と何ら変わらない、もしくは症状が悪化しているという場合は次のようなことが想定されます。一番目は、事件後直後の麻痺が強い場合です。感じられないモードが強くて、それが改善したために、逆にさまざまな苦しさを感じている場合です。喧嘩した後、その時には感じなかった痛さが、うちに帰ってきてからひどくなるなどというパターンと同じだと説明してください。感じられないモードが終了しているということを意識させてあげると、自分の体がこの危機に対してうまく反応しているということを少しは実感できるはずです。
二番目のパターンは、今回の出来事が、クライアント個人にとって特別に大きなインパクト(意味)を持つ出来事であった場合です。例えば、過去に身内の自殺を経験した人は、同僚の自殺に対して大きく反応してしまうことがあります。「みんなは元気にしているのに、どうして自分だけこんな反応が続くのだろう」という不安(第2の無力感)に対して、その人の過去の経験などを聞くことにより「それなら無理もないよね」と自分で納得できるようなストーリー(解釈)を探してあげることが必要です。
三つ目のパターンは、すでにうつ状態にある場合です。
惨事をきっかけにうつ状態になる場合がありますが、惨事後のASDなどの症状を出しづけることで蓄積疲労によりうつ状態になります。これにはおそらく、一ヶ月ぐらいが必要でしょう。つまり、出来事の後1ヶ月ぐらいにうつ状態になっていくと思ってください。(ASDの症状とうつ状態が重なると、ASDの症状が固定的になってしまいます。これがPTSDだと思ってください。)これに対し、介入後1週間で表の症状が悪化しているということは、できごと以前にすでにうつ状態であった可能性があります。うつ状態を自覚していようがいまいが、衝撃は27倍モードで襲ってきます。普通の人なら耐えられるような出来事でも、大きな反応をしてしまいます。この場合は、事件前のことをよく聞く必要があります。事件前からのうつ状態の可能性を察知できたら、惨事後の対応から、自殺企図対応に、切り替えなければなりません。
現在の症状についての説明は、うつ状態と惨事後の反応のメカニズムを説明し、改善の見込みについても、惨事後の極端な反応はある程度早く消滅するとしても、それによって刺激されたうつ状態の改善については月単位、年単位がかかることを告げましょう。(もちろんそこから、クライアントの「できること」を探していきます。)

平成19年CPS(I)認定試験認定者アドバイス

<症状確認が不十分>
自殺念慮を聞くことへのCRのためらいがあり、CL逆に表現できなくなる。
死にたい気持ちの変形、例えば「いなくなりたい」「居場所が無い」「仕事を辞めたい」「どうでも良くなった」「消えてしまいたい」「誰もいないところに行きたい」などに、気が付かない人がいた。
「他にありますか」という聞き方では、CLは何を答えていいかわからない。具体的に症状をあげ、一つ一つ確認すべき。
うつの症状を数点しか確認しないうちに、対処の説得に入る人がいる。本人にも周囲にも納得してもらうには、充分な情報収集に基づいた「うつかもしれない」という判断が必要。
 
<うつ状態の確認、対処の説明でCRの気持ちが優先されてしまう>
「CLのうつを確認したい」という思いが強く、CLにうつであることを認識させようと迫ってしまう。結果として「苦しいでしょう。」「つらいでしょう」の押し売りになっている。
嫌な上司にうつだと言われてカウンセリングに来ているという設定の場合、無理やり「うつだ」という方向で納得させようとするカウンセラーは、CLにとって上司と同じ側に立つ「敵」になる。
 
<うつの説明が不十分>
うつ状態とうつ病を区別して説得しようとする場合、自分なりの区別が充分できていないので、相手に説明できない。
うつを疲労と説明した人が多いが、CLが「疲れている」と感じていない場合に、ただ「疲れているでしょう」の連発では、CLは納得しない。CLが納得できるような説明を準備する必要がある。例えば、ライフイベントからの説明。
 
<対処の説明でCRの気持ちが優先されてしまう>
正しい方向に導きたいと言う思いが強く、「休みましょう」と持ちかけるが、CLは、休めないと訴えることが多く、結果的にCLを苦しめる。「休む」とは、どのようなことかを具体的に説明しイメージアップさせる。それを一応の「目標方向」とした上で、CLができることを一緒に探していくと言う態度を持つ。
 
<裏メッセージ>
言葉遣い、表情の癖(笑い)、くりかえしなどで、裏メッセージをとられている人が多い。トレーニングによって、フィードバックしてもらい自分が出しているメッセージに気づく必要がある。VTRで、自分のカウンセリングを撮影することはいい訓練になる。
 
<うつ状態のCLにあったカウンセリング>
うつ状態のCLは、うつ的思考が強い。通常のカウンセリングでは、感情を聞いたり、考えさせたりすることでCL自身が良い方向の気づきに至る場合が多いが、うつの場合、気持ちを深く聞きすぎても、あまり上手く説明できないし、無力感や自責感を高めることが多い。また、依存的になってしまい。なかなか前向きな発想にならない。
一つ一つの問題や感情にとらわれるより、症状を確認し、受診や休養の対処をすることによって、うつてき思考を緩める方向で進めるべきである。そのためには、あまりCLに考えさせず、こちらが方向性を示し、リードしてあげる方が良い。
もちろん、その方向性にCLが抵抗を示したら、がけ崩れ対処でまた「味方」にもどる。