平成24年度CPS認定会におけるアドバイザー講評

平成24年度CPS認定会におけるアドバイザー講評

平成24年8月4・5日 CPS認定会におけるアドバイザー講評

24年8月4・5日にCPSの試験がありました。1ヶ月前に娘さんが交通事故に遭い、その後、なぜか家庭でも職場でもうまく行かないというクライアントへの対応です。皆さんの今後の参考になさってください。   下園壮太MRI
 
<自責感の聞き方>
メッセージコントロールで、基礎メッセージとして「責めないよ」があります。そのことを意識するあまり、クライアントが自責の念を話したときに、カウンセラーがすぐにこの責めないよメッセージ(以下M)を、「そのまま」出している人が多いようです。
たとえば、「娘さんが亡くなったのは、運転手のせいで、お母さんのせいではないですよ。」とか、「例え、お父さんが新幹線で行くように話したとしても、新幹線でも事故は起こるじゃないですか。だから、事前に注意しなかったお父さんのせいではないと思いますよ」などと、自責でない新たな考え方(新解釈)を提示してしまうのです。
これは、確かに責めないよではありますが、同時に「あなたは自責感情を持つ必要はない、だから、変わりなさい」という、変われMになってしまう恐れがあります。
自責への対処は、共感、事実認識(体験)を聞きなおす、新解釈の3つの手順で考えるといいでしょう。新解釈をするのは、かなり味方になり、かなり事柄を詳しく聞いてしっかり共有した後で、しかも、ほんの少しだけ新しい視点をにおわすだけ、というバランス感覚の中で初めて効果的になります。
 
<ステップ1:まず共感>
まず、共感です。苦しい思い、つまりここでは自分を責める気持ちを、しっかり受け取ることです。
「事前に注意しなかった自分を責めていらっしゃるんですね」という、平板な返しでは、共感を伝えられません。「関越の事故のこともあったし、この時期高速が込んでいることは、お父さんはよく知っていた。だから、前日にバスで行くことを知ったとき、危険を感じていた。でも、わざわざ注意して娘の楽しい気持ちを壊してしまうのも気が引けて、結局注意できなかった。それを思い返すと、自分が腹立たしいやら、情けないやらたまらない思いがこみ上げてくるんですね。」という、メッセージのこもった中要約(メッセージコントロール講座で勉強しましたね)をするのです。
このとき、もうひとつコツがあります。先に触れた、責めないよと、変わらなくていいよの2つの基礎メッセージのバランスです。
「お父さんの自分を責める気持ちは、分かります(苦しいねM)。ただ、娘さんを楽しく旅行に行かせてあげたい、今からでは変更は難しい、と冷静に考えて、そのことを伝えなかったんですよね。だから、私から見れば、お父さんはそのことでここまでご自分を責める必要はないとは感じるんですが…(責めないよM)、でも、やっぱり、娘さんのことを考えると、どうしてもあのときの後悔が湧き上がって、ご自分を責めてしまうんですよね(苦しいねM)」
このように、苦しかったねMと責めないよMを同時に表現するといいでしょう。ただ、責めないよMを表現するのは、1回だけです。これを続けると、2回目以降は、「変われM」になってしまいます。
 
<ステップ2:自責を感じる背景認識(体験)を聞く>
自責は、他人に言われるより、自分で気づいて緩めるものです。
そのために、どうしてそんなに自分を責めてしまうのかという背景事実認識、つまり体験を聞く必要があります。(このことは、同時に前項のカウンセラーの共感を深める作業にもなります。)
たとえば、先ほどの例では、次のように続きます。
 
「お父さんが、そこまで自分を責めていらっしゃるのは、やはり、一番大きいのは、前日に、バス旅行を止めなかった、ことですか?」
「そうです。」
「そのことを、もう少し詳しく聞いてもいいでしょうか」
 
と、細部を、(再度)聞いていきます。
すると、関越の事故のあと、旅行好きの娘さんに、バスは危ないからやめておけとよく話していたこと、お父さんの友人にバス会社で勤めていた若者がいて、そのずさんな経営について話を聞いていたこと、だから、それを伝えたかったが、1週間前に娘さんとはけんかをしており、言いにくかったこと。奥さんから、夜間バスではないから大丈夫ではないかといわれて、そう思ったことなど、体験が語られます。
この体験をしっかり共有して、初めて、お父さんの苦しさが理解でき、味方になれるのです。
 
<ステップ3:味方になってはじめて、感想(新解釈)>
ここまでしっかり聞いて、体験を共有し、共感し味方になれたら、味方からのアドバイス、つまり自責でない新解釈を提示してもいいのです。
「(しっかり中要約して)、お父さんとしては、娘さんを大人として尊重して、自己責任でやらせてあげたところがあるんですね。」
「そうですか。実は、私にも同じぐらいの年の娘がいて、これが鉄砲玉で、何を言っても聞きません。ふらっと一人でカンボジアに行って数ヶ月も連絡も取れないとか、どこそのこの山登りに出かけるとか、親に心配かけてばかりです。今では、それが大人になっていくということではないかと、あきらめているんです。(間)今、お父さんの話しを聞いていると、私がお父さんの立場でも、前日に旅行をキャンセルさせるのは難しかったと思いますよ」
新解釈や体験談は、「こうすれば(こう考えれば)いいよM」です。がけ崩れの可能性を秘めていますので、クライアントの反応をよく見て、その後の対応をしてください。例えば、上の例でも、新解釈を提示するのは、一階だけ、しかも長くてもこれぐらいの会話量です。もし、クライアントがそのことに関心をもち質問してきたら、話を続けてもいいでしょう。しかしそれ以外は、もうこれ以上、変われMを出してはいけません。
 
<事故後1か月の話の聞き進め方>
1か月経つと、多くの人のASRはかなり減っていることがあります。ところがこの時期に苦しさが逆に募ってくる人もいるのです。基礎講座でもお伝えしているように、2つのケースを想定してください。
ひとつは、以前にも類似の出来事により傷ついた体験を持っており、普通の人より大きな衝撃を受けてしまい、そのことが頭からはなれないために、消耗し、うつ状態になりつつあるケース。
もうひとつは、出来事の前、あるいは出来事の後に、業務や私的な心労・多忙が続き、エネルギーを使いすぎて、うつ状態になっているケース。
このときには、カウンセラーは、ASRとうつの両方を頭に入れながら、表面的な話題としては、クライアントの頭の中で、「私は、今このことで悩んでいる」と意識されているテーマから聞いていきます。
たとえば、事故のことが頭に残っている人には、事故の体験を詳しく聞きます。
一通り、惨事対応の聞き方をした後に、途中で確認したうつ状態の苦しさを再度テーマにして、うつ対処を重ねればいいでしょう。
家庭のトラブルで悩んでいる、と考えている人には、家庭のことを詳しく聞いて、体の症状を確認するのが自然です。その中で、たとえば、「娘が事故に合ったという電話を受ける悪夢を毎日見て目が覚める」というエピソードが出たなら、思いのほか惨事の影響が大きいのだと判断し、症状確認が終わった時点で「先ほど悪夢の話をされたのですが、やはり、事故のことはかなり大きかったんじゃないかと思うんですが、その事故のことをもっと詳しく聞いてもいいでしょうか」と、惨事対応に移るのが自然な流れです。
以前CPSの試験は、惨事対応と自殺企図対処に分かれていましたが、現在は、このように両方の可能性のあるクライアントへの対応で試験されています。わずか20分の面接なので、惨事と自殺企図対処をすべて見せようとする必要はありません。頭の中で、上に紹介した内容が理解できており、「今、何を目的に話を聞いており、次はどう展開しようとしているか」という整理ができていればいいのです。
 
<メッセージコントロールについて>
24年度から、MC講座が基礎講座に加わったためか、メッセージコントロールは、大変上手になっている印象を受けました。ただ、
・女性の「笑顔ベース」(悲惨な話も、笑顔で聞いてしまう癖)
・大きなうなずきを意識するあまり、納得のMが出すぎて、「分かりすぎ」の印象を与えてしまう。
・緊張のためか、興味津々のうなずきのリズムが早すぎ、「あせらせる」感じのカウンセリングになっている。
などが見受けられました。引き続き、VTRなどでご自分のカウンセリングを確認して、修正するといいでしょう。
 
<事実認識(体験)の確認について>
自責の聞き方の項目でも触れましたが、惨事対応における体験(事実認識)を聞くことの重要性は、講座でも繰り返し強調しているところです。しかし、受験者の応答を見ると、まだまだ十分とはいえません。傾聴訓練で、感情に焦点を当てる練習をしてきているので、なかなか事柄を詳しく聞けないようです。小野田MRLは、体験(事実認識)の聞き方のコツとして、「具体的な映像が見えるように」細かく聞くことを強調しています。
たとえば、「お父さんに怒られた。怖くて家を出た。」というクライアントの言葉があったとしましょう。それで、カウンセラーが、納得してしまったら、それ以上聞けません。いつ、どこで、怒られた経緯、具体的な言葉、行為、他の登場人物、その後の行動など、映画を作るつもりで、しっかり聞いてください。するとたとえば、
 
仕事を終わって11時に疲れてうちに帰ってくると、家から母が叫ぶ声がする。また父が暴力を振るっていると気づき、家に入ると、父が酒を飲んでいて、母は2階にいた。父に酒を飲んでいることを非難すると、掃除機を投げつけられた。殺されると思い、裸足で外に飛び出した。友人のうちに避難したが、母のことが心配で眠れなかった。
 
という体験が語られます。
このレベルで事実の共有が図られると、クライアントは、初めて「仲間を得た」感覚になれるのです。
事柄、特に惨事の内容を聞くには、勇気が要ります。関心も必要です。「もの分かりの良いカウンセラー」にならず、本当の友人が心配して根掘り葉掘り知りたがるように、詳しく聞く練習をしてください。