平成27年度UCPC認定試験における主任試験員講評

平成27年度UCPC認定試験における主任試験員講評

平成27年7月25・26日UCPC認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   2015.8.3 認定委員会
 
<全 般>
今回はうつ・クライシス専門カウンセラー(UCPC)の初の認定試験を実施しました。
UCPCは、うつ・クライシスの個人支援において最もレベルの高い認定です。合格のイメージとしては、基礎講座の主任講師ができるメンタルレスキューインストラクター(MRI)の個人カウンセリングレベルを想定しています。
具体的には、CPSで求められる
・短時間に信頼関係を結べる力(味方になる技術)
・惨事やうつのクライアントの苦しさを理解し、配慮しながら共感する手順
・惨事の細部やうつ状態の「死にたい気持ち」を聞く勇気とスキル
・無理強いをしないでクライアントの助けになるアドバイス
の他に、
最適の支援をするための、
・カウンセリングの中で刻々と変わる状況の把握(バリア病Eミカタ)
・その中で方向性や目標をイメージしながらカウンセリングを進める能力
・クライアントの気持ちを楽にし、対処行動に移りやすくするような状況(症状)説明
などが試験されます。
まず、主任試験員の率直な感想として、受験者みなさんの(上級個人講座受講から今回の受験までの経験を通じた)スキルアップの大きさに驚きました。合否に関わらず、受験者全員が、受験前よりカウンセリングの実力を数段向上させて来られたと思います。
また、そのことから、新講座、新認定試験が皆さんのお役に役立っていることを実感し、協会としても今回の資格新設が正しかったのだと胸をなでおろしております。
とはいえ、合格レベルはMRIの個人カウンセリングレベルですので、かなりの難関である事には変わりありません。今回たまたま不合格であった方々も、努力の方向性は間違えていないので、今後ともトレーニングを続けていただくことを希望します。
主任試験員として、今後のトレーニングのヒントになるかと思われることを、2点ご紹介しますので参考にしてください。
 
1.バリア病Eミカタの状況把握を磨く
今回の試験では、介入場面での重要人物に対する2名カウンセラーでのカウンセリングにおいて、30分ほどCPSがカウンセリングしたところで「がけ崩れ」が生じ、その状態で受験者がカウンセリングを引き継ぎ、後20分で終結させるという場面が提示されました。
これがバ、「場面」ですね。さて、この状態の中で、カウンセラーは、何をどう考えるべきでしょう。
 
・リスクはどうでしょう? 惨事後の後追いや、自殺、事故、退職、解雇などのリスクを考えます。
・安全・安心はどうでしょう。クライアントが安心できる状態、環境でなければ、カウンセリング自体が成立しません。
・エネルギーは、1から3段階のどのレベルか。病気は想定できるのか?
・味方感は、どれほど持ってもらえているのか?
・クライアントが苦しんでいるのはどんな感情や思考なのか。「4つの痛いところ」や惨事後のファーストショック、セカンドショックをチェックします。
 
これまでの30分のカウンセリングで、これらをどこまで把握し、味方感をどれほど積み上げてきたのか(あるいは崩れてきたのか)を踏まえて、次の20分に「何をどうするのが」もっともクライアントを効果的に支えられる支援なのかを考えます。
例えば、クライアントのセカンドショックが大きくなっており、自殺念慮もあるとしましょう。カウンセラーの頭の中には、受診と休息の対処に進みたい。そのことを提示して、説得するという方向で20分を使おうとするかもしれません。
もし、味方関係が十分なら、良い方向性だと思います。この場合、
 
・カウンセリング目標:受診・休養をしてもらう
・カウンセラーの目標:受診・休養を上手に説明、アドバイスする
・クライアントに提示する目標:受診・休養を組織に訴える
 
という目標設定になります。
ところが、味方が不十分な状態で、この目標に進むと、単に抵抗に遭うだけで、結局味方の関係をもっと崩して終結するという可能性が高くなります。
もし、味方を崩している状態なら、20分をかけて、
 
・カウンセリング目標:味方の関係を補強し、次のカウンセリングにつなぐ
・カウンセラーの目標:アドバイスを止め、味方メッセージが出るような話を聞き、その後、継続のための調整を行う
・クライアントに提示する目標:もう一度カウンセリングに来てもらう
 
という方向に進むことが必要でしょう。
このように、UCPCはどんな状況においても、ワンパターンの対応に陥らず、「何が今の状態で最大の支援になるか」を考えながらカウンセリングを進めなければなりません。
ある方向で進めようと思っていたら、クライアントが想定外の話をしてきた、あるいは想定外のリスクを感じたとしましょう。このように新しい情報が入ったら、またその時点で方向性や目標を修正していきながら、その時点その時点でのベストの支援を探りながらカウンセリングしていくのです。しなければならないことは、沢山あるでしょう。しかし、それを手順や優先順位を考えずにゴリ押しするのは、クライアントにとってむしろ「負担」となります。
CPSレベルでは、必要なことを覚えることが重要だったかもしれませんが、実際の支援場面(UCPCレベル)では、必要なことは分かったうえで、今、何を言わないか、何を提示しないか、何に反応しないかという、引き算が必要になるのです。不合格の方々は、まだ何を引けばいいのかが十分に分かっていなかったり、引き算をする勇気がなかったように感じました。
 
2.クライアントの状況に応じた説明
CPS試験では、クライアントに対する説明はワンパターンでよかったのですが、UCPCでは、クライアントの苦しみに焦点が合った、つまりその説明でクライアントが納得するような説明をする力が求められます。
例えば、2週間たっても現場の近くに行けないという回避の症状は、惨事後に良くある訴えです。「それは回避という症状で、しばらくすれば良くなります」という説明は、多くのクライアントに効果的です。しかし、それだけではだめなクライアントもいるのです。
例えば、「他の人は、症状が消えているのに、自分だけ続いている。自分だけ甘えていると思われている」ということで悩んでいる妊婦の方がいるとしましょう。この場合、その人用の説明が必要です。例えば「あなたは今妊娠されているので、母親が赤ちゃんを守ろうとする原始人的な母性本能が非常に強く働いているのです。だから、あなたは他の人より警戒心が強くなっていると思ってください。それはあなたが、自分だけを守ろうとしているのではなく、あなたの赤ちゃんを守らなければならないという思いの表れです。この反応は長くは続きません。しばらくの間なので、その間は周囲の目がつらいかもしれませんが、ちゃんと赤ちゃんを守ってあげてください」と説明します。これなら、自分だけダメ、自分だけ逃げていると悩んでいるクライアントにも受け入れられ、その苦しみに立ち向かう力になる可能性が高くなります。このクライアントに対し、ただ「しばらくすれば良くなります」と言うだけでは、周囲の非難の目にさらされている本人の辛さを理解していない「他人事メッセージ」を出す説明になってしまうのです。
このような様々なクライアントに受け入れられる説明は、まったくの即興で出てくるものではありません。もちろん協会でお伝えしている原始人理論も有効ですが、日ごろから、宗教、映画や小説、先輩などの事例などを通じて、人間そのものについて関心を持っておいてください。これは、UCPCに求められる「カウンセラーに相応しい偏りのない価値観」の鍛錬にもなります。