平成28年度CPS認定試験における主任試験員講評

平成28年度CPS認定試験における主任試験員講評

平成28年7月16・17日CPS認定試験における主任試験員講評

CPS試験を受験された皆さん、暑い中の受験、お疲れさまでした。
今回は6名が受験され、4名の方が合格されました。
受験者の皆さんが、試験日にむけて、ご自身の苦手な部分の修正に努めてこられたのがとても良く伝わってきました。残念ながら今回は不合格となった方もいらっしゃいますが、その差はあと1歩、半歩の僅かな差です。更に研鑽を積んで勘所がわかってくれば、必ず合格できるレベルでしたので、ここで諦めずに是非次回もチャレンジしてください。
また今回は、再受験の方が何名かおられましたが、前回とは見違えるほどに力をつけており、文句なしの合格でした。「継続は力なり」をまさに体現した形です。是非、この合格をさらなるステップとして、トレーニングを重ねて欲しいと思います。
以下に主任試験員として気づいたことをコメントします。   MRインストラクター 戸上尚子
 
<メッセージコントロール>
メッセージコントロールについては、どの受験者もその重要性をよく理解して、練習してこられた様子が伝わってきました。特にその場に合った表情を作る工夫はどの方もしっかりトレーニングされていたと感じます。
しかしながら、今回の試験においては、相手が感情などの重要なテーマなどを話した時の、共感的なメッセージが全体的に薄かったように感じます。惨事を経験したクライエントの話を聞く場合、その方の事実認識を丁寧に聴いていくことになりますが、図を書いたり、聞き取った内容をメモしたり、やることが増えてくると、聴いた話に対して「そんなに大変な経験をしたのですね」「あぁ、そんなことが(あなたの身に)起こったのですか」「なるほど、この事実がこのようにつながっているのですね」的な、共感的な「納得・了解」や要約がどうしても薄くなりがちです。
興味津々のうなずきや、驚きのみで「それで、その後は?」と聴き進めていくと、「カウンセラーの情報収集のために聴いている」という風に相手には映ってしまいます。
相手の話をしっかり受け取ったよ、というメッセージを伝えるためには、体験の話の節目節目で、「(大きな深いうなずきと共に)あぁ、そうでしたか〜(余韻を持たせた語尾)」と返してみたり、その人の体験の大変さをメッセージを込めた中要約を使って返したりするといいでしょう。
また、声のスピード・抑揚、メモを取る頻度・分量、身振り、これらもすべて、何らかのメッセージをクライエントに与えています。自分の発信するメッセージが相手にどのように受け取られているか、自分の意図と違ったメッセージになっていないかを常に意識するようにしてください。
 
<体験を聴くということ>
「体験を聴く」という点については、今一度その目的を整理しておいて欲しいと思います。
うつのカウンセリングでは、症状にまつわる事柄を、惨事のカウンセリングでは、惨事にまつわるその方の体験を丁寧に聴きましょう、と講座ではお伝えしています。なぜ、事柄や体験を聴くのでしょう?
我々カウンセラーは日々、悩んでいる人の話を聴きますから、「身近な人が突然亡くなった」「職場の上司にいじめられている」「家族の中で不和が生じている」などのテーマを聴いただけで、なんとなく、その人の苦しさや大変さが想像できてしまいます。そのイメージだけで話を聴いてしまうと、かなり早い段階で「お辛いですね」「苦しいでしょうね」と言ってしまいがちです。そうやって使われた言葉は、「世界でたった1つのその人の体験」に向けられた言葉ではなく「カウンセラーの常套句」というメッセージとなって伝わってしまう可能性があります。
苦しんでいるクライエントに真摯に寄り添うのであれば、その人の「たった1つのストーリー(体験)」をしっかり聴く必要があります。
体験をしっかり聴くことで、目の前の人の「苦しみの背景」を教えてもらうのです。その背景を「納得・了解」して「共感」から出る言葉は、間違いなくクライエントに寄り添う言葉になるはずです。例えば今回のクライアントなら、うつの症状があるからと言って、症状だけを聞いていてもなかなか味方になれていきません。やはり3週間前の部下を失った体験をある程度しっかり聞かなければ、その方の全体の苦しみを理解できないのです。当然アドバイスも受け入れてもらえないでしょう。
目的を意識しながら、体験や事柄を聴くことを覚えておきましょう。
 
<自責の扱い方>
今回のシナリオでは、クライエントの自責感が非常に強く出ていることにカウンセラーは気づいたはずです。自責を上手に緩めるアプローチは必要な関わりですが、カウンセラーが「あなたは悪くない」「あの状況では仕方がなかった」と言い過ぎるのは「変われメッセージ」になってしまう可能性があります。自責0を目標にする必要はありません。
消えない自責にただ静かに寄り添うことも、大事な支援であるはずです。
 
<症状説明やできること探し>
症状説明については、説明用の図を用意してきた方、比喩を使った方など、色々工夫されていたと思います。
症状説明は、慣れていないと曖昧な表現になったり、説得力が弱く伝わりがちです。カウンセラーの「うまく言えるかな?」の不安な気持ちが、そのまま声のトーンや、説明の語尾に出てしまうからです。しかし、症状説明こそ、「これこれこういう理由だから、あなたは壊れている訳じゃないんだよ。ちゃんと対処があるからね」と自信をもって伝えなくてはいけない重要なパートです。しっかり練習しましょう。また事例を使った説明も有効です。自分の事例がなくても、講座や勉強会で耳にする事例を覚えておいて、上手に活用しましょう。
出来ること探しについては、無理強いをする人はいませんでしたが、カウンセラーの提案を受け入れられないクライエントである場合、何なら出来そうかを一緒に探していかないといけません。うつっぽくなっているクライエントである場合、本人が周囲へ働きかけるエネルギーが残っていないことも多くあります。カウンセラーがクライエントの代わりに周囲に働きかけることも視野にいれ、クライエントに提案してもいいでしょう。これに限ったことではなく、様々な出来ることのパターンはあると思います。また「一緒に考えてくれる人がいる」だけでも、クライエントの助けになっていることも多いのです。できることを探すだけが、支援ではないということも意識しておきましょう。

平成28年12月03・04日CPS認定試験における主任試験員講評

CPS試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。
今回は21名が受験され、16名の方が合格されました。
ここ数年のCPS試験に継続して関わっていますが、年々受験者のレベルが上がっていることを実感しています。過去には合格ラインまでかなり努力を要すると思われる方もおられましたが、近年の合格を逃した方は、皆、「あと1歩」の方ばかりです。言い換えれば、あと少しトレーニングを重ねれば、必ず合格するレベルですので、諦めずにトレーニングを続け、再チャレンジして欲しいと思います。また、合格した方においては、今後も協会の勉強会等を活用し、スキルの定着につとめて欲しいと思います。
以下に主任試験員として気づいたことをコメントします。    MRインストラクター 戸上尚子
 
<メッセージコントロール>
メッセージコントロールについては、どの受験者も重点的に練習を重ねてきた様子がうかがえました。特に深いうなずき、驚き、相手の苦しい心情へ共感する表情などは、上手にできていた方が多かったように思います。
一方、相槌については、リズムはいいものの、単調な同じ相槌ばかりになってしまう方がおられました。この単調さがずっと続くと、「聞いているよ」のメッセージにはなるものの「興味をもって聞いているよ」にはならずに、「流して聞いているよ」の印象を与えることがあります。
「うん、うん」や「はい、はい」以外にも「(息を吐きながら)あーー(そういうことなんですね)」「(ゆっくりしたリズムで)うーーーん(それはひどいなぁ)」「はーーーぁーーー(そんなに大変だったんだ)」このように、声の抑揚やスピードを変えたり、吐息とともに言葉を発すると、( )内に示したカウンセラー側の受け止め(理解)を、言葉を使わずに伝えることができますし、クライエントには「自分の話を大切に扱って聴いてくれている」と感じてもらえます。是非、工夫してみてください。
また、受験者全員に共通していたのは、「要約が少ない」という点です。
今回の試験のように、ショックな出来事にあったクライエントの体験を聴いていく際には、5ステップを使ってリズムよく聴きながら、今聞いている話題の先を促して聴き進める必要があります。多くのクライエントはカウンセラーを前にして「これから○○さんの体験をお聞きしますね」と言われても、何をどう話していいか分からないのです。その際に効果的なのが「ポイント要約+促し質問」です。例えば「頭が真っ白になって・・・。それから、○○さんはどうなさったのですか?」「事務棟の外にでて、それで?」などと促しを入れていけば、クライエントは何を話せばいいのかがわかるので、スムーズに会話が進むはずです。
また、ある程度話を聴いたタイミングで、メッセージを込めた中要約を入れていくことも、とても重要です。今回、「○○さん(クライエント)は大変な中でも、部下への指示や現場へ駆けつける等、やれることをやっていた」という返答をしていた方が複数おられました。この返し自体は悪くないのですが、要約のない中で語ると、とってつけた印象にとられる可能性があります。 クライエントへのねぎらいの言葉のみだけを返すよりも、これまで聴いた話の中で、クライエントにとって大事な感情、出来事を取り上げつつ、「言いたいこと、分かって欲しいこと、聴いて欲しいこと」を含めながら要約していくと、もっと味方感が出るはずです。「メッセージを込めた要約」を効果的に使って欲しいと思います。
 
<体験を聴くということ>
受験者の皆さん全員が、「クライエントの体験を丁寧に聴く」という点はしっかり理解されていると感じました。ではなぜ「丁寧に聴く」のでしょうか?また「どのように丁寧に聴けばいい」のでしょうか?
ショックな出来事に遭ったクライエントは、思考や感情に偏りがでて、自責感・無力感が「過剰に」なっていることがあります。本人が出来事のどのような場面で自責や無力感を感じたのか、本人が1つ1つのエピソードをどのように捉えているのかは、詳しく聴いてみないとわかりません。クライエントが何に苦しんでいるのか、その「苦しみの背景」を知るために、今回の出来事がその人の目にどのように映っているのかを教えてもらうのです。
上記の点をふまえて、体験を聴く時には「時系列で細かく」という風にお教えしていると思います。しかし、聴き進める際には、クライエントに与えるメッセージには十分に配慮する必要があります。特に悲惨な現場の様子を聴く時には、「倒れていた人の体(頭)の向きは?」の様に聴くと、やや事情聴取的になりますし、「苦しみの背景を知る」という意図からは逸れた聴き方になってしまいます。例えば「○○さんが駆けつけた時、○○(研修生)さんはどのような様子で倒れられていたのですか?」「○○さんの目にはどのように見えましたか?」といった聴き方の方が、クライエントの抵抗や戸惑いがなくお話いただけるように思います。
また、お互いが共通認識を持つために図を書いてみる、ということも皆さんとても上手に出来ていたと思います。しかしながら、最初からクライエントに真っ白な紙とペンを渡して「書いて下さい」としてしまうと、やや唐突な感じがして警戒心をもってしまいます。
図示してもらう時は、まずカウンセラーが聞き取ったことを少し書いてみて、その後に、「えーっと、すみません。2つの建物の位置関係がどんな感じか教えてもらえますか?」のように自然にクライエントに協力を促す感じにすると良いように思います。
 
<自責の扱い方>
今回のシナリオでは、クライエントがカウンセラーとのやりとりの中で「自分が情けない」という自責感を強く出していました。試験では、自責を軽くしてあげたいがあまり、本人の健闘を称え過ぎて「変われメッセージ」になってしまうパターンや、自責に対し「そうですか…」と軽く触れるだけで引いてしまい、「配慮しながら触る」方は少なかったように思います。自責が語られると「あ、ここは辛いんだろうな。聴いたら傷つけてしまうかも」と変に察しが良くなってしまいがちですが、講座でお伝えしたように、自責は0にする必要はありません。
軽く出来そうな自責だけ触るのではなく、軽く出来ない可能性がある自責にも配慮して触れていくのです。クライエントが感じている自責にまつわる部分をしっかり詳しく聴くことで、その方がどんなに辛いかをしっかり受け止めることが出来るはずです。消えない自責にただ静かに寄り添うことも、大事な支援であることを心に留めておいて下さい。
 
<症状説明>
症状説明については、比喩(ボールや熱いお湯の例)を使った方が多かったようです。しかしながら、例えとのつながりが分かりにくく、クライエントが戸惑ってしまうシーンも見受けられました。
今回のクライエントの症状は「眠れない」「場所に近寄れない」「何度も同じシーンが思い浮かぶ」などでした。ボールの例なら「目を傷つけないように目をつむる」のが本能的な反応であり、体を守るために目が無意識に反応している、ということですが、これを今回の例に使った場合、「この症状もボールと同じ自分を守る本能的な反応なのです」だけでは、なぜ苦しい反応が身を守っているのかの説明がないので、クライエントは腑に落ちないのです。
「ショックな出来事に遭うと、自分を再びの危険から守るために、危険なことが起こったその場所に近寄らせないような反応を起こしている、」などと「理由があるよ」の点をもう少し付け加えると良いでしょう。