平成28年度MRI認定試験における主任試験員講評

平成28年度MRI認定試験における主任試験員講評

平成28年06月19日MRI認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園MRシニアインストラクターより講評をいただきました。
皆さんの今後の参考になさってください。    2016.06.21 認定委員会
———-
平成28年6月19日に実施したMRI試験には、3名の方に挑戦していただきました。
いずれの方も、十分に準備して実力を上げてくださっており、大変高いレベルの試験になりました。
とくに基礎講座の課目講師については、3名ともご自分の経験や個性を生かした講義を実施していただき、すぐに協会の基礎講座の課目講師ができるレベルであることが確認されました。
その一方で、介入目的調整面接では、いくつかの改善すべき点が見られましたので、お伝えしたいと思います。
 
(1)クライアントの一番のニーズに応じた面接の進め方をするべき
介入目的調整面接の目的は、支援を効果的にするために、
・専門家として、支援先の主要な方の信頼を得て、安心感を持ってもらう
・支援先のニーズを把握し、介入目的を合意し、最適な支援メニューを決定する
ことです。
今回は、テレビ局内の死亡事故に際し、ショックを受けて職場に出てこられない女性アシスタントの復活を最も重視しているプロデューサーと、自分のデザイン・指示のせいで事故が起こったと思っている技術デザイナーが、面接対象でした。
受験者の中には、一般的にはこのような事故後には有効なケアとなる惨事後ミーティングや、全体の活力低下を測るアセスメントを勧めた方がいらっしゃいましたが、今回のクライアントの場合、まずは、女性アシスタントの復活のための方法論を提示し、アドバイスすることの中で、共通の目的意識を確立し、信頼を得ていくべきでした。
今回の試験では、どうしても、受検者自身のこれまでの価値観(例えば人事の経験、医療現場での経験、これまでの介入や訓練の経験)で、無意識のうちに「こうあるべき」と感じている方法論を提示してしまったようです。受験者は、無意識のうちにのこのようなバイアスが自分の中に発生することにも気が付いておくべきです。
 
(2)クライアントの心理状態をもっと想像、察知する必要がある
MRIには、自分が正しいと思うことを、上手に説得力を持って説明する力が求められます。そのようなパワーのある説明は、事例、比喩、単純理論を使うことがポイントとなりますが、その点は、まだどの受験者も改善の余地がありました。
また、提案した支援メニューにクライアントが難色を示した時、
さらに説得力のある説明をすることによってクライアントの考えを変え、専門家としてのクライアントの信頼を得るか もしくは、
クライアントの意見を尊重して(変わらなくていいよM)メニューを変えるか
のどちらに進むかは、重要な選択となります。
(1)で説明したMRIの「こうあるべき」という価値観が強い場合、どうしても1の方向で説明を続けてしまい、MRIの思惑とは逆に、信頼を失ってしまうことになりかねません。そうならないためにも、自分の説明だけに意識を集中せずに、クライアントの心理状態を全力で想像しつつ、相手の発言や表情を正しく読み取る練習をもっと積むべきです。
メッセージコントロールは、5ステップ、要約質問のスキルから学びます。CPS,MRCレベルでは、このような表面的なメッセージコントロールのスキルに意識が向くでしょう。しかし、MRI以上は、今相手との交流の流れの中で、相手のメッセージを読み(理解し)、どのようなメッセージの交流をすればいいのかを考えながら、自分の反応すべてをコントロールしていかなければなりません。しかも、今回のように相手が二人以上の場合、複数の方の心理状態に配慮しなければならないのです。
メッセージコントロールは、このように奥が深いスキルです。日常のコミュニケーションの中で、このことを意識し、常にスキルアップを図っていただきたいと思います。
 
(3)資料を効果的に使う
介入目的調整面接では、クライアントに様々なことを説明し、理解してもらわなければなりません。それは、ある意味クライアントに負担を強いることでもあります。そのプレッシャーを少しでも軽くするためには、相手が簡単に理解できるような説明をすることを心がけるべきです。
今回は、とてもよい資料を準備した受験者がいましたが、この点はほかの今後の受験者も参考にするといいでしょう。
ただ、その資料の情報量が多い場合、口頭での説明を聞くことと、資料を読むことの2つの作業を同時にクライアントに強いることになるため、それもまた違う負担を強いることになります。口頭説明と資料をどう組み合わせれば、より効果的な支援になるかを考え、さらに研鑽練習していただきたいと思います。
 
(4)カウンセリング能力を磨く
基礎講座の課目講師については、協会が提供する様々な機会、例えば実技指導者、クライアント役、基礎講座体験会などで研鑽を積むことができます。今回の受験者も、これらの機会に積極的に参加してくださっており、その成果は十分に発揮されていると感じました。
その一方で、介入目的調整面接は、なかなかトレーニングの場を見つけることが難しいのです。
MRIは、難易度の高い状況での単独でのカウンセリングや、介入ディレクターとして介入目的調整面接の実施役を任されることになりますます。受験者の皆さんには、ぜひそのことを自覚していただき、介入目的調整面接のトレーニングや、カウンセリング自体の能力の研鑽を積極的に積んでいってほしいと思います。(例えば上級講座(個人Ⅲ)を活用したり、勉強会を自ら主宰することも有効だと考えます。)

平成28年12月17-18日MRI認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。
皆さんの今後の参考になさってください。   2016.12.25 認定委員会
———-
今回は、4名の方が挑戦していただきました。皆さんよく準備し、実力を上げて試験に臨んでくださいました。「試験で実力アップ」という協会の目的を十分に達成していただいていると思いました。
今後さらなる成長のために、主任試験員として気が付いたことをお伝えします。   MRSI 下園壮太
 
1.介入目的調整面接
(ア)状況の特性をしっかり把握しよう
全員、基本となるMC、自分の意図や考えをできるだけ表現しながら話を進めること、目標を設定し、ツールを説明することなどは、押さえていました。
ただ、そのような項目を理解し、それを「たどる」ことは、MRCレベルでもできることです。MRIに求められるのは、現場に応じて、パターンをアレンジしていく力です。そのためには、介入に影響しそうな要素をもれなく考察し、しっかり意識しておかなければなりません(個人上級で伝えている「バリア病E預金ミカタ」の項目が役に立ちます)。
今回のケースでは、開店というイベントが、介入日の翌日に設定されていること、という大きな特性があります。これを理解すると「開店のために離職を予防しなきゃ」「店員は事故のことが気になっているだろうな」という介入目標につながる方向性も浮き出てきますし、「店長をはじめ、みんな忙しいだろうな」「直前に心を乱すことは避けたいな」と考えると「今回はできるだけコンパクトな支援をしよう」と、どう介入するかの方向性も想像できてきます。
 
(イ)白紙の調整案を準備しよう
このように、特徴のある事故の場合、介入目的調整面接で、「何を」調整するべきかを、ある程度、心の中でリストアップしておく必要があります。
例えば、事故の原因は?その後の安全対策は?けがをした人の様子は?その人に対する会社の支援態度は?などを知らなければなりません。
また、そのような店員が今一番知りたいことを、店長に話してほしい、ということを依頼するチャンスでもあります。
さらに、そのような支援をどのタイミングで、いつ、だれに対して、どこで行うかの実務的な調整もしなければなりません。
1時間という貴重な時間を、有効に使うための準備を、もう少し丁寧にする必要があると感じました。
 
(ウ)ぜひ実際の介入に参加を
受験者の中でも、比較的しっかり介入目的調整面接ができた方は、実際に協会の介入に何度か参加している方でした。勉強することも必要ですが、やはり、現場の空気を吸い、勘を磨くということは重要です。
協会の介入がある場合、ぜひ都合をつけて、参加して実力を上げてほしいと思います。
 
2.基礎講座講師
(ア)内容をもう少し深く理解しよう<?div>
皆さん、練習の成果が伝わる良い講義でした。ただ、どの受験者も、苦手なスライドがあるようです。ご自分の苦手感は、すぐに受講者に伝わります。そして、そこを質問され、慌ててしまうという場面が何度か見られました。ぜひ、先輩方を活用し、徹底的にスライドを自分のものにしましょう。
また、実技指導者、クライアント役などの場を活用して、基礎講座の内容をさらに復習しましょう。その時は、必ず受け身でなく「自分が教えなければならない」「こんな質問を受けたら、どう答える?」という意識をもって、聴講してください。
 
(イ)事例と比喩
事例が上手な方もいましたが、なかなか説得力のある事例や比喩で説明できない方もいらっしゃいました。<?div>
2つのポイントがあります。
パターンの事例を使う場合(例えばクマに合う原始人や、川を渡る家族の事例)でも、受講者の興味をひくような、「語り方」を練習することです。間合い、強弱、声質の変化。例えば、ラジオ劇や、絵本の読み聞かせなどが、参考になると思います。
もう一つは、事例の選定方法です。
何も自分の事例でなくても、小説や映画の話、新聞で見た記事の話、他の人から聞いた話などを、伝えたい内容の方向でアレンジして伝えればいいのです。
事例には、事例の持つ力があるので、あまりにもインパクトが強い事例だと、「伝えたいこと」が逆にぼけてしまうこともあります。
事例も比喩も、伝えたい思いではなく、「どう伝わるか、伝わったのか」の方が重要です。MCと同じですね。どう伝わるのかを確認するには、先輩や同僚に話して、フィードバックをもらう必要があります。ここでも、ぜひ先輩方を活用してください。先輩方も、同様に支援してもらって合格しているのですから。