2021年度(令和3年度)MRI認定試験における主任試験員講評

2021年度(令和3年度)MRI認定試験における主任試験員講評

2021年10月16日・17日MRI認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   2021.10.20 認定部
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今回も皆さんが熱心にトレーニングをして、とても高いパフォーマンスを見せてくれたことに主任試験員として満足しています。以下、今後の参考となるようなことをまとめます。

MRSI 下園壮太

     
1.支援目的調整面接
今回のシナリオは、事故があった会社に対して1ヶ月半後に介入するというものでした。
支援目的調整面接の相手の1人である総務部長は事故のことについてあまりダメージも受けておらず、社員の中に退職希望者がいるという実態もそれほど深く認識していないという方です。
もう1人の人事の女性はコロナ禍で自分に大きな負担がかかり、自分自身も会社を辞めようかどうかと迷う状態の中でこの事故に遭遇した結果、過覚醒状態で、現実よりも多くの被害を認識しているという人物です。
惨事に対する距離感の違う2人の対象に対して、どのように味方を作り、支援目的を調整していくかが問われるシナリオでした。
合格した方は、1ヶ月半という時間の特性に着目し、組織の中で温度差が大きくなる状態を説明し、その状態を認識してもらうことが組織の人間関係のストレスを減らし、ひいては退職予防になるという切り口で対応しました。事例や比喩も上手に使い、2人に対して、どちらも攻撃することなく、またどちらの意見も上手に聞きながらコミュニケーションを深めていきました。
一方残念ながら不合格だった方は、まだまだ状況の特質(バリヤ病)の捉え方が甘く、自分が思い描いていた説明をそのまま押し通そうとしてしまう場面が見られました。
カウンセリングと同じく、PDCAサイクルではなくOODAループで対応しなければなりません。事前の腹案はあってもいいが、現場に出たら相手をよく観察し、必要なことは単刀直入に聞き、そしてその場で一緒にプランを構築していけばいいのです。専門家然としてこちらが全てに主導権も持とうとする必要はありません。
また、これはおそらくカウンセリングにも通じる部分だと思いますが、相手に対して、「こういうことを聞いてはいけない」という価値観のブロックがかかっている方が多いようでした。このような心理的なブロックがあると、相手もうっすらと距離を感じてしまいます。こちらが人間としてもっと素直になり、フランクな交流をした時に、相手も心の鎧を解いて味方の関係が出来上がります。
基本的なカウンセリングのスキルは、みなさん十分にお持ちです。あとはご自分の価値観ときちんと向き合う機会・練習を持ちましょう。
   

2.基礎講座講師
ビデオや教科書によって基本的な内容は十分に「理解」していると思います。つまり受験者全員、自分理論にはなっているのです。あとは相手理論もしくは一般理論としてきちんと受講者にわかりやすい説明ができるかどうかが、合否の分かれ目になってきます。
 どの講評でも繰り返し強調していますが、事例比喩、そして単純理論が大切です。課目講師の場合、単純理論とは、スライドのつながりをわかりやすく説明することでもあります。スライドの流れをきちんと自分の中で整理しなおし、受講者が、「このスライドは何を説明しているのか」を理解できるような話し方をする必要があります。
 もう一つ注意してほしいのが、お話しです。話し方に抑揚がないとどうしても聞く方の集中力が途切れてしまいます。原稿を読むようなアナウンサー的な話し方は、一見(一聞?)耳には心地よいのですが、少し長くなると飽きてしまい、集中力が低下してきます。もっと人間臭い「語り」の要素が必要になるのです。
プレゼンを練習するのは必要です。回数も大切。ただ、準備しすぎて、原稿として文章に落とすと、この語りの要素がそがれてしまいます。重要な文脈(要素)だけを意識し、後は何回か反復練習すると、口がその内容を上手に言葉にできるようになってきます。その回数を多くすればいいのです。
 筆記試験の準備とは違うタイプの準備なので、気を付けて練習してください。
   

2022年2月19日・20日MRI認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   2022.2.24 認定部
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今回は、4名が受験していただきました。MRIは大変難しい試験ですが、チャレンジするたびに、皆さんが確実に成長している姿を感じられます。 以下、試験科目ごとに気づいた点をご紹介しておきます。

MRSI 下園壮太

     
1.支援目的調整面接
戦略的に情報収集する
支援目的調整面接では、支援目的を合意し、手段を選定し、細部の調整をしていきますがそのためには、相手の味方になり(自分を売り)つつ、必要な情報収集をします。 時間のない中で適切な情報収集をするには、上級テキストの71ページに書いてあるように、アクティブに情報収集していかなければなりません。この時に、どこに当たりをつけるかですが、メンタルレスキュー協会の講座や演習では、「自殺」「惨事」「うつのリハビリ」などのケースを主体に練習しているので、どうしてもその視点から情報収集してしまいがちです。 実際は、クライアントに「何を期待するのか」を聞く必要があります。 明らかに、大きな惨事があったり、すでに○○が問題だと明確にわかっている場合でも、クライアントが当協会に期待するものを早期に確認しておく必要があります。 今回は、「自殺未遂」というワードに誘導されすぎて、クライアントの求めるものについての情報収集が遅れてしまう人が多かったように思います。
 また、それをクライアントが伝えても、自分の思い込みから、未遂対応を重点にすすめてしまう人もいました。

味方になると支援目的調整のバランス
味方になるには、きちんと聞いて5ステップや要約などで対応しなければいけません。一方で、支援内容を決めていく部分では、ビジネスライクに進める必要もあります。 この2つで、カウンセラーの対応が変わってしまう部分があるのですが、バランスよく進めたいものです。 受験者の中には、カウンセラーのように聞きすぎて調整が進まない方や、逆に調整重視で、クライアント側の大切な心情や事情をスルー(反応がない、もしくは、聞いているようで聞いていない)してしまう方がいました。 双方の目的を果たせるように、バランスの良い話題選択やMCができるとよいと思います。 この時、今回の受講者では、やはりMCが少し足りない方が多かったように思います。もっと表情をきちんと表出し、相手の話をきちんと要約するというMCの基本を引き続き磨いてほしいと思います。
 また、支援目的調整面接では、メンタルにはあまり知識のない方に、必要な情報提供をすることで、目的を調整していきやすくしたり、リスクを適切に評価して、安心してもらうという側面もあります。
 今回の職員の自殺未遂についても、(もっと集中的に情報収集してからですが)、リハビリ期は波が大きいこと、未遂と言ってもそれほど深刻になるようなイベントではないこと、環境から大きく考えると事態は悪化する方向ではないこと、サポートする対応の方法があることなどを伝えると、クライアントの複数ある懸念事項の一つを、その場で楽にしてあげることもできるのです。
   

2.基礎講座講師
話し方
一般的に「講師」とは内容を伝える仕事です。ところが、メンタルレスキュー協会でプレゼンテーションを試験科目としているのは、単に内容を伝えるスキルを鍛えるためではありません。クライシス現場では組織や個人に情報提供することが多いのですが、MC³では、味方になることを強調しています。味方になりながら情報提供をするのです。この人に、カウンセリングしてほしい、この人の言うことなら聞いてみよう、と思えるようなプレゼンテーション技術が、求められるのです。 少し極端な言い方ですが、プレゼンテーションしている「自分を売る」必要があるのです。
ところが、受験者には、講師調の話し方をする人が多かったのです。
講師調というのは、アナウンサーや、商品の説明をする口調。情報を正しく伝えるためには有効な口調です。 正しく、大人っぽく、上品に伝えようとする意識が強いので、「はっきり、ゆっくり、正確に」話すことはできています。ところが、その意識だけだと個性が消えてしまい、「その人」らしさは出にくいのです。MC的には、事務的で少し距離があり、少し冷たい感じ、が出てしまいます。嫌な感じとまでは行きませんが、積極的に味方を感じる系のメッセージではありません。 その人らしさが出ると、受講者もコミュニケーションがとりやすくなります。
つまり、味方になりやすくなるのです。
「その人らしさ」を出すためには、自己紹介をする、MC³特に5ステップなどを使い表情豊かに話す、ボディランゲージを使う、出来るだけ具体的なエピソードで話す、会話や擬音を使う、ユーモアを交える、自分や登場人物の内面(感情)の動きを伝える、自分の失敗談を話す、などを意識するといいと思います。 また、同じイントネーションや、同じリズム、スピードが続くと、どうしても飽きてきます。子供に絵本を読むように、感情移入したり、間合いを取ったりしながら話す練習をしてみて下さい。5ステップのうなずきのバリエーションを増やすのと同じです。 これまで、正しく話すことを意識してきた人は、人前で講義しようとすると、どうしても講師調の癖が出てしまうと思います。お友達に話すつもりで、もっと自然体で話す口調を意識して練習してみてください。言い間違えてもOK。噛んでもOK。忘れても、笑ってごまかす…ぐらいの気楽な気持ちの方が、現場では有効なのです。
また、「正しく話したい」という意識が強いと、どうしてもドラフト(口述原稿)を書いてしまいます。ドラフトがあると、それを読むことに意識が向き、語りが平たんになりがちです。ドラフトではなく、練習して大筋を頭に入れておき、後はキーワードだけを目盛るようにしてください。

話の構成
一枚のスライドを正しく説明することはだいたいできています。ただ、それぞれのスライドの位置づけをきちんと理解し、きちんと説明している場面が少ない方がいらっしゃいました。それでは、聞いている方には、正しいけど、雑多な情報を与えられ、(重要そうであればあるほど)丸暗記しなければならないという負担感を与えてしまいます。 事例などで説明するとわかりやすいのは、覚えやすいからです。
事例がない場合でも、単純理論の筋立てにしたいものです。もっとも簡単な筋は、「今これを話しました。こういう疑問がわきますよね。その答えはこうです」という流れです。それぞれのスライドの前には、そのスライドがどういう疑問からきているかを言葉で評点するといいと思います。
例えば、MCのこのスライドを説明した後、次のスライドに移る前に、









「悩みの3つの層を説明しました。それでは、このうつ・惨事の反応が関わっているケースとは、具体的にはどんな場合なのでしょう」と疑問を紹介し、その答えを説明します。