2021年度(令和3年度)MRC認定試験におけるアドバイザー講評

2021年度(令和3年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2021年4月3日・4日MRC認定試験におけるアドバイザー講評

今回の試験について下園MRSI(アドバイザー)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。2021年4月認定部
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今回のMRC試験は、支援目的調整面接とプレゼンテーション(情報提供)を、いずれもオンラインで実施するという形式での試験でした。 以下、アドバイザーとして気づいた点をご紹介します。
 
1.練習不足
メンタルレスキュー協会の試験は、習ったことを再現するというものではなく、現場の状況に合わせて如何に応用できるかということを検しています。ですから、ただ復習するだけで準備ができるものではなく、いわゆるシナリオに沿って考察をするという「場数」がとても重要になります。 合格された方々は場に合った対応をされていました。一方、不合格の方々は、講座で学習してきたことをそのまま表現しようとされていた方が多いようです。また、講座の内容もまだ十分に自分理論として理解されていない方もいらっしゃいました。とにかく、不合格の方々は能力やセンスがないということではなく、練習の場数が足らないという理解をしていただきたいと思います。
 
2.どの要素を説明するか
支援目的調整面接、情報提供を通じて、受験者の皆さんは何を情報提供し、何を情報提供しないかという選択をしていました。ただ、闇雲に全てを情報提供するということでなくコンパクトに伝えるという着意があったのは素晴らしいことです。 問題はこの状況で何を説明するかだと思います。例えばファーストショックの症状には九つありますが、回避、侵入、過剰覚醒だけを説明した方が数名いらっしゃいました。今回まだセカンドショックについては触れる必要はないと思いますが、パニック、まひ、茫然自失と自責と不安、無力感、疲労感は説明した方が良いと思います。 麻痺は、今回の状況であれば奥様の対応はまさに麻痺の状態です。このことを知らないでいると、ご家族に対し会社側が無礼な対応をする可能性もあるので、家族との関係が悪化するリスクがあるからです。もちろん麻痺を誰に、どの場で説明するかも、状況に応じて変えなければなりません。
 
3.4つの痛いところについて
今回、支援目的挑戦面接で初めて「奥様が自殺であったことを言わないでくれ、という希望を持っている」ことが明らかになります。自殺と言えない状況になったので、情報提供の中で、四つの痛いところを省いた、という方がいらっしゃいました。 ところが自殺と言えないだけで「不可解な死」であることには変わりません。 不可解な死は自殺とわかっている場合と同じように、時には、それ以上に私たちの感情を揺さぶります。自殺であったかもしれない…という前提で様々なことを考えるからです。 ですからやはり自責、無力、不安感、疲労感などが皆さんの心の中に大きくなりがちで、そのことを伝えることは、有効になるのです。
 
4.体験を聴く意味
本来、支援目的調整面接は、支援の目的やメニューを調整するためのものですが、メンタルレスキュー協会では、この支援目的調整面接をうまく進めるための一つのコツとして、始めに「調整相手の体験を聴く」ことを提案しています。通常調整相手は事件に関わってることが多く、その調整相手に心理的にも適切に対応することで、「この人に自分を含めた構成員のメンタルケアを依頼したい」と思っていただくためのコツです。いわゆる「味方になる」というステップです。 受験者の方の中には、この目的をあまり理解せず、ただ機械的に体験を聞いている方やあるいはご本人の感情に全く寄り添わず、事務的に調整だけを進める方がいらっしゃいました。調整相手の体験を聞く本当の意味を理解して、上手にこのコツを生かしていってほしいと思います。
 
5.アンケートの使い方
今回心理テストは、MRIが調整した段階ではIES-Rだけを行うことになっていましたが、支援目的調整面接で新たな状況が明らかになった場合は、その都度そのニーズ、目的に応じたアンケートや心理テストを、具体的に提案するべきです。 例えば、製造部(500名)の人達が心配であり、その方々の状況を把握したいということであれば、整備部の人を対象にしたウェブによるアンケート。 例えば資材部の人達の疲労度を心配するのであれば、資材部の人達に対するK10点を。 社長や総務部が皆さんの意見を把握していないということが問題であれば自由記述を。 また、個人カウンセリングをする人を選別するためのアンケートを実施する場合は、回収方法やこちらからの連絡手段まで、具体的に考察調整する必要があります。 アンケート自体についてはおおまかに理解していても、実際にそれを使って、現場のどういうニーズに応えるのか、そのためにはどういう具体的な実施要領にするのか、という具体的部分までの考察が足りないように思いました。
 
6.自責の念への対応
人事課長が、子供を第一発見者にしてしまった、ということについて強い自責を持っていましたが、このような自責の念への対応がまだ、不十分な方が多かったようです。 自責の念は、きちんと受け止めます。具体的には、何がどう苦しいのかをしっかり要約します。その時、あなたの行為は無理もないよ、あなたのせい(だけでは)ないよ、だけど、自分を責めてしまうのも無理もないね、それはとても苦しいね。というメッセージで盛った要約をします。キチンと盛った要約をした後は、その雰囲気に浸りこむことなく、話題を変えてあげます。 うまくできない方には2つのパターンがあります。 相手の自責の念に対し、触れたくない、触れてはならない…と恐れすぎ、スルーしてしまうか、自責を直接、評価したくなくて「そう感じる(考える)のですね」と、ただ繰り返す方パターン。 もう一つは、自責をゼロにしてあげたい…と説得したくなるかパターンです。 今回は、後者がいなかったのは、皆さんのレベルの高さを感じました。さらに、動揺せずに自責に対応できるように、ロールプレイの回数を増やしてほしいと思います。

2021年9月25日・26日MRC認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園MRSI(主任試験員)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。2021年9月認定部
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今回のMRC試験は、支援目的調整面接とプレゼンテーション(情報提供)を、いずれもオンラインで実施するという形式での試験でした。 以下、主任試験員として気づいた点をご紹介します。
 
1.何のために何をやるか、目的をきちんと意識する
上級では組織個人を問わずに目的を意識しながら作業を進めることを重視している。今回の目的支援調整面接を進める際にも、今自分は何のためにこの話をしているのか、今のこの時間が何のためになっているのか…をきちんと俯瞰できていなければならない。 ただ相手に合わせて相手のペースで話が進んだり、雑談だけで時間が経っていると相手は私たちをプロフェッショナルと認識してくれない。つまり信頼関係を築けないのだ。 例えば、今回の支援目的調整面接であれば頭の中に
1.事務局長(クライアント役)の体験を聞き、必要な説明をすることによって味方になる(信頼関係を築く)。
2.ストーリー説明に必要になる亡くなった方の情報を得る。
3.ケアを向けるべき人々の情報を出来るだけ取る。
4.ケアのために必要な最低限度の調整(時間、場所対象者等)をする。
また、惨事後ミーティング(上級組織2)の講座でもお伝えしたが、物事には表の目標と裏の目標がある。 例えば、クライアントさんの惨事体験を聞いて味方になろうとする(裏の目標、カウンセラー目標)時も、「事故の概要をもう一度聞かせてもらって、それに応じたケアの中身を考えるために事故をもう一度お話しして頂けますか」という表の目標(カウンセリング目標)を提示してあげた方が会話がスムーズに進みやすい。
 
2.情報提供(プレゼン)も常に目的を意識する
説明する際も目的を意識していないと、単なる情報の押し付けになってしまうことがある。 例えば、惨事反応やその後の休息の重要性などを伝えようと分析するところまではできている受講生が多かったが、相手の状態にあまり配慮せずに、そのことをとにかくアウトプットすることに意識が向いてしまう。この場合、「アウトプットすること」が無意識目標になっている。 冷静に考えると、私達の情報提供は私達がその情報を伝えたことで完結するのではなく、受講者やクライアントがその情報を受け取って、心が落ち着く状態になった時に初めて目的を達成する。 情報量が多すぎるとクライアントには入っていかない。わからないことを伝えられ続けると、クライアントの不安は余計に大きくなる。また、アドバイス部分がクライアントに「できない…」と感じさせるようなものであれば、それは逆にクライアントに負担を与えることになる。
 
3.時間に応じた説明ツールの選択
受講者の中には、惨事反応を解説した後、残りの数分で疲労の重要性を訴えるという人が数名いた。 惨事反応を抑えるために疲労を重視するのは基本戦略ではあるが、それを理屈で説明し理解してもらうのはかなり難しい。しかも時間がない場合は先に触れた、わからない系の不安を感じさせるし、その上で「できない」休みを取るということを押し付けられた感じがして、総合的にマイナスの印象を与えがちだ。 このような場合、最も有効なのが何度も紹介してるが「事例」である。 「惨事反応の方が起こった時にその前後に疲労状態があると反応がおさまりにくい」ということを疲労の3段階の理屈などで説明するより、事例で紹介し、その方も少しお休みを取ったら惨事反応が緩んで行った…という顛末にすれば、受講者に「それだったら私もやってみようかな」と思ってもらいやすい。ここでも目的は相手に理屈を理解させることではなく、なんとなくやってみようかなという意欲を持たせることである。 事例は大変有効であるということは、受講者として何度も痛感しているにもかかわらず、実際のパフォーマンスの場では、事例を用いての説明ができない人が多い。事例は、学会発表ではないので、実事例(自分が経験したもの)でなくていいのだ。ただ、突っ込まれたらどうしよう、うそをついているのではないか…などと心配するあまり、事例という物語による説明スキルを使えない人が多いようだ。 協会の講義や先輩から教わった事例、映画の事例などを活用すると、「うそ」感が少なくなる。今回の試験でも、今年の総合実習のシナリオを上手に事例として使用していた受験者がいた。その視点で見ると協会の講座や勉強会は、事例の宝庫。ただ自分が理解して終わるのではなく、「説明」でも使えるように、きちんと整理しておくといいだろう。
 
4.15分で1テーマで練習しておく
相手が理解できる分量ということを考えると、15分ならワンテーマで簡単に理屈(単純理論)を説明し、それを事例とか比喩で補足し、質問を受けるという流れが最も効果的である。また、この15分パッケージを覚えておくと、それを三つ繋げれば1時間の講演を依頼された時も応用できる。