2020年度(令和2年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2020年度(令和2年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2020年9月26MRC認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園MRSI(主任試験員)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。 2020年10月認定部
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今回のMRC試験は、支援目的調整面接とプレゼンテーション(情報提供)を、いずれもオンラインで実施するという従来にない形式での試験でした。 ただでさえトレーニングする内容が多い試験ですが、加えてオンラインでの注意事項、あるいはオンラインソフトの使用などにも気を配らなければならなかったため、受験生にとって大変な負担になったことと思います。 それらの条件を乗り越えて、きちんと実力を上げ、合格された方が多かったのには敬意を表します。 以下、主任試験員として気づいた点をご紹介します。
 
1.相手をケアするという視点を忘れない
これまでの試験でも何度か指摘したことですが、悲惨な出来事の支援目的調整面接の場合、面接の相手が惨事のクライアントであることが結構あります。何を伝えよう、どう説明しようということばかりが先立つと相手への配慮が少なくなります。 もちろん状況によって変化するものではありますが、最も多く使われる有効なアプローチとしては、その方が経験した惨事を詳しく聞き、ファーストショックの症状を聞くことです。 相手が一見元気そうに見えても、それは表面飾りや麻痺の症状であることを想定しなければなりません。相手の苦しい状態への配慮が全体的に薄いように感じました。
 
2.基礎スキルを磨き続ける
支援目的調整面接で、相手への配慮が足りないと感じたもう一つの原因は、基礎的なカウンセリングスキルの不十分さです。 メッセージコントロールによる表情が伝わりにくい方、笑顔ベースのコントロールが十分にできていない方、メッセージを込めた要約・質問が少ない方が、いらっしゃいました。 特に、要約・質問はさらに磨いてほしいと思います。相手の方が辛い部分を表現した時には、必ずそれを受け止めた要約が必要になります。ところが、きちんと感情を載せた要約をせず、そのまま単なる感想や対処法の説明の方に入る方が多かったように思います。 オンラインカウンセリングでは、メッセージコントロールや要約・質問がさらに重要なスキルになってきます。これらはMRC以降もずっと磨いて、その質を上げていってほしいと思います。
 
3.聞かなければならないことはズバッと聞く
相手を大切にする、気遣うという配慮は重要です。しかしただカウンセラーが心で配慮しているだけではだめなのです。しっかりと相手の状況を理解し、共感のレベルを合わせてこそ、本当の配慮ができるのです。 そのためには、メッセージコントロールをしたうえで、相手の置かれている状況(事柄や感情)をきちんと聞かなければなりません。例えば、相手がどのようなつらい状況を見聞きしたのかとか、会社の自殺に対する態度や家族の態度など、必ず聞かなければならない内容があるにも関わらず、それを聞かないか、あるいは遠回しにしか聞かない方が多かったように思います。 個人のカウンセリングの時もそうですが、聞きにくい事ほどズバッと聞く必要があります。もちろんそこにはなぜ聞くかという質問の背景説明が必ず必要になります。
 
4.オーディエンスの状態を想像する
プレゼンテーションの時も、プレゼンテーションをする内容のほうに注意が向きすぎており、参加しているオーディエンスがどのような状態かの想像が薄いように感じました。 例えば参加者の中には、最近親族を自殺で失った方や亡くなった方と個人的に深い繋がりがあった方、直前のやり取りが自殺の原因になったと信じ込んでいる方、うつ状態のリハビリ期の方などがいらっしゃる可能性があります。その様な方に、自分がしているプレゼンテーションがどのようなメッセージとして受け取られるのかまで考えて、内容や、言葉使い、表現方法を考察する必要があります。 オンラインで全体の顔が見えない分、相手への配慮が薄いプレゼンテーションになっていたような気がします。
 
5.パワーポイントなどの資料を最大限活用する
オンラインのプレゼンテーションは難しい部分もありますが、オンラインならではのメリットもあります。それはパワーポイント等を軽易に活用できることです。視覚情報がある方が説明は容易になります。 ただ、そのためには、事前にいくつかのパワーポイント等を準備しておくこと、そしてそれを短時間にアレンジする能力、もしくは表示されたパワーポイントを活用しつつ、現場の方々が理解できるような表現を口頭で加える技術が必要になります。いずれにしても、練習が必要なスキルです。これからの時代は至る所でリモートのコミュニケーションが必要になることを考えると、ぜひ今後の受験者にも、そのような課題に積極的にチャレンジしてもらいたいと思います。