2024年度(令和6年度)CPS認定試験における主任試験員講評
2024年(令和6年)7月6・7日(オンライン)における主任試験員講評
CPS認定試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。気温が急に変化している中、体調を整えるだけでも気を使ったのではないかと思います。
また、試験に向けて、まだ見ぬクライアントを思い、必死に準備されてきたことと思います。
クライアントに真摯に向き合う姿勢は、私も見習いたいものがたくさんありました。
今後の皆様の更なる発展を考えて、以下に主任試験員としてコメントいたしますので参考にしてください。
主任試験員 MRインストラクター 香川武久
1.メッセージコントロール
クライアントのお話を聞くときの、基本的なメッセージコントロールは概ねできていました。特に図を描いていない時の興味津々や了解は良かったように思います。
火事を見ていたことを「興味関心というより、心配で見ていたのだと思います」と、命に関わることへの反応として伝えていた方がいらっしゃいました。クライアントの自責感を緩める良い伝え方でした。
しかし、図を描きだしてからの5ステップは小さくなりがちでした。特に驚き、保留及び共感については、改善の余地がありました。
図を描くという事は、クライアントとの情報共有をするという事ですから、大きな了解や、驚きを伝える機会が多くめぐってくるという事です。すなわち、MCを発揮するチャンスでもあるわけです。しかし、図にとらわれて、描くことに意識が向いてしまって、その瞬間の驚きが疎かになってしまっていたように感じました。クライアントは、大きなショックを受けているとなると、その瞬間はカウンセラーとして、「大ごとだね」というメッセージを出す必要があります。そのメッセージが薄くなっていたように思います。また、出来事に対して、クライアントの反応が大きすぎるなどの違和感(カウンセラーが想定する反応との違い)を感じた時には、保留を効果的に使って、更に詳しくクライアントのお話を聞くことが出来ると思うのですが、詳しく聞かずに解った気になってしまい、話を前へ進める方が多くチャンスを生かせてないと感じ、残念でした。
具体的に「驚き」については、カーテンを開けた時に広がっている光景…道路を挟んでいるとはいえ、火柱や煙をあげている向かいのマンションの部屋、下には10台以上もの消防車や救急車やパトカーが赤々と赤色灯を点し、多く人達がパジャマのままその光景を眺め騒然としている…そんな場面に遭遇したクライアントの驚きを、ほとんどの方が淡々と冷静に聴いていました。惨事の体験は、驚きを交えながらリズムよく話を促すことで、臨場感が生まれ、その時のクライアントの心情に寄り添い、痛いところを確認していくことができますが、多くの方が一問一答の「ヒアリング」になっていました。
2.臨場感
体験を聞くという事は、クライアントの味方になる大きな柱です。一部の方は、臭いや音、人が見えたのか、衝撃を受けたことなどを確認していましたが、これはクライアントの辛さ・苦しさがどこにあるのか、そしてその「程度」を確認することができる良い質問だったと思います。
もし、惨事に遭遇したのではないかと感じ体験を聞く場合、クライアントの一番苦しいところがあるはずです。クライアントの隣で同じ景色を見る(映像が浮かぶように)という事が大切なのですが、上から俯瞰してはいませんでしたか? クライアントは空を飛んでいません。何メートル離れたところにいたとしても、100m離れていたら何が見えるか、50m離れていたら何が見えるか、見えた景色の、窓の大きさや、ベランダには何があったのか、そこがどのようになっていたのかが大切なはずです。下を見る時に、体がのぞき込む態勢になるかと思うのですが、普段でも高層階から下を見ると、吸い込まれるような感覚になりませんか?その時はどうだったでしょう。何を見るために、危ない無理な態勢を取ったのでしょうか。
クライアントの隣で同じ景色を見るという事は、クライアントの目線に立つとカウンセラーも同じ感覚を味わうことが出来て、そこで初めてクライアントの大変さが理解できるのではないかと思います。
3.クライアントの知りたいことを無視しない
クライアントは「今が苦しい」のです。この苦しみを早く何とかしたいと言われた時に、後で説明しますというのは、カウンセラーの都合です。「まだ体験も聞けてないのに、味方になれた感じもしないのに、惨事反応が落ち着くとか言えない、それよりも体験を聞かなければ、落ち着くことはあとで説明できる。」と考えてはいませんでしたか?「これだけ大きな出来事を体験した場合、一般的には1か月から1か月半程度で落ち着く方が多いです。ただAさんの場合はどうか、お話を伺ったうえで、より適切なサポートをさせていただきたいと思いますので、(専門家の私に)もう少し詳しくお話を聞かせていただけませんか。」とお伝えすれば、自然に体験をお話しいただくことが出来ると思います。クライアントの疑問に答えずに話を進めていくと、クライアントはそこに留まり、具体的に体験をお話しいただけないかもしれません。一度、しっかり受け止め、クライアントの不安に寄り添った後、先に進めることが大切です。
クライアントからは大きく分けて二つの質問「いつまでつづく?」「壊れてしまったのでしょうか?」がありました。
「いつまでつづく?」というクライアントの不安に対しては、「時間とともに落ちついていく」ということは伝えるものの、目安を示さなかったり、理由を説明しない方が見受けられました。「今が苦しい」クライアントには、理由を伝えることや、ある程度の目安を伝えること、そしてそのために有効な対処をセットでお伝えするように練習をしていただければと思います。
「壊れてしまったのでしょうか?」という質問には、「大きなショックを受けるとみんなそうなる」「人として自然なこと」と多数の方が答えていました。しかし、何故そのような変化が出てくるのか、仕組みや今後の経過を説明しないと不安は消えません。「いつまでつづく?」の質問と併せて、説明の仕方を磨いていきましょう。
試験ですから、「教わった構造化面接通りに進めなければならない。」という気持ちも理解できますが、あくまでも、クライアントさんの気持ちが第一という基本は変わりありません。
4.クライアントに対する配慮
赤色は何を想像しますか?燃え盛る炎や血を連想しませんか?ショックな出来事にあったクライアントはどんな気持ちになるでしょう。人が倒れていたとして、それを図にした場合、人型がリアルだったらどうでしょう。倒れていた人の事を思い出して、心や体の変化が大きくなるかもしれません。リアルにすることの影響にも配慮しましょう。今回の試験のような状況ですと、初めに知りえた情報から、クライアントの惨事反応としての侵入が起こりそうな状況を予測し、配慮した対応が求められます。この方が解りやすいだろうというカウンセラーの価値観は、惨事のカウンセリングにおいてはクライアントを苦しめる結果になるかもしれないのです。クライアントに十分な配慮が出来るように、たくさんの事例を学んでいただければと思います。
5.全体を通して
全体を通して、講座の動画やモデリング動画などで、構造化面接のやり方は理解できており、無力感対策の7つの手順もしっかり頭に入っている方が多かったように感じました。一方、メッセージコントロールはまだまだ薄く、メリハリが弱かったように思います。
2024年(令和6年)11月23日・24日(オンライン)における主任試験員講評
CPS認定試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。今後の皆様の更なるスキルの向上の一助となるように、以下に主任試験員としてコメントいたします。
主任試験員 MRシニアインストラクター 下園壮太
1.メンタルレスキュー協会の「試験」についての考え方を整理しておこう
Cps試験は、メンタルレスキュー協会の基礎講座で学んだことを確認する場ではありますが、そもそもメンタルレスキュー協会は、現場での実力を大切に考えています。
これまで皆さんの人生で経験してきた試験は、学習したことを覚えているかをパフォーマンスする場だったので、受験者の中には、「基礎講座で学んだことを表現しなければならない」と思ってしまう方が多いのですが、それだと実際のカウンセリングの場では、不自然なカウンセリングになってしまい、思うような評価につながらないのです。メンタルレスキュー協会の試験では、与えられた時間が実際の現場としてクライアントの為になる時間になってるかどうかを見られます。
例えば、「受験の20分の間に、事実認識を細かく聞くことはできないから図を使って細かく聞く作業は諦めた」と考えた方もいらっしゃいましたが、実際は50分のカウンセリングの設定だったので、図を書いて細かく事実を聞くことができる状況だったのです。
また、練習で何度か指導を受けた「ソフトを使った説明をする(そのパフォーマンスをしなければならない)」、とか、「内容をきちんと理解していることを表現しなければならない」などと考え、タイミングや方法が不適当な説明をする方もいらっしゃいます。
これらは、実際の状況でのパフォーマンスという観点からは、マイナス評価になってしまいます。もちろん学んだことを適切な状況で使うのは、とても重要な要素なので、ぜひ講座の内容の理解は進め、それが自然体で使えるような訓練は積んでほしいのですが、それを受験者が「見せよう」とすると、不自然なカウンセリングになってしまいます。
ぜひ、「実際のカウンセリングだ」と強く意識して、試験を受けてみてください。
2.事実認識を聞く意味を十分に理解していない
惨事対応では体験(事実認識)を細かく聞くことをメンタルレスキュー協会では、強調しています。 惨事対応カウンセリングの一番重要なところなので、例えば60分のカウンセリングであったら少なくとも40分は体験(事実認識)を聞くというぐらいのつもりいてほしいのです。
体験(事実認識)を聞くことで、そのクライアントが持っている辛さがようやく理解でき味方になれます。一方で、この効果をきちんと認識できていないと、「辛いことを思い出させてはいけない」という一般的な常識に囚われた判断をして、体験(事実認識)を聞くことを避けてしまう人がいます。すると、「なんとなく良い人が話を聞いてくれたけど、本当の辛さをわかってくれなかった」ということになりますし、その状態で、ファーストショックに対する症状説明などをしても、「ただ難しいことを言われた、 “大したことがない(メッセージ)”ということを説明され、それを押し付けられた」としか感じない場合が多いのです。
クライアントは、プロに話を聞いてもらいに来ているのです。辛い話をする準備ができていることが多いのです。カウンセラーは躊躇せず、しっかりと体験(事実認識)事実認識を聞いて、クライアントの苦しさを理解し、味方になっていきましょう。
3.「気持ちを聞く」のはいいが、受け身ではいけない
産業カウンセラー協会などで、「事柄より感情を聞く(事柄を、MRでは体験(事実認識)と同じ意味で使っています)」というトレーニングを受けてきた人は、感情の方に焦点を合わせることはできています。ただメンタルレスキュー協会では、更にもう一歩深い共感を目指しているのです。
惨事対処でもうつ対処の場合でも、体験(事実認識)を聞いていくのは、感情をより良く理解するためです。つまり、共感を深めて、味方になるためです。
ただ、カウンセリング初級者の場合は、感情の方に意識は向くものの、どういう感情を深めていくのかはクライアントの話次第、という受け身的な聞き方をする方が多いようです。
特に惨事の場合など、協会がお伝えしてる「四つの痛い」ところがほとんどの場合苦しさの原点になっていることが多いので、たとえクライアントが話さなくても、その四つの痛いところや、9メッセージに関連する部分を主体的に聞いていく必要があります。これを「当たりをつけて聞く」(クライシスカウンセリング上級、ページ16)という表現をしています。
例えば、同じ体験(事実認識)を詳しく聞こうとする場合でも、自責感や無力感などに関わる出来事を、詳しく聞かなければなりません。 今回は、踏切での経緯な事故を目撃したという事例だったのですが、そのような事例の場合、事故はいつあったのか、視界はどうだったのか、自分とその事故者の距離、どんな映像が見えたのか、その間にいた人々、誰かに何かを言われたのか、警報機と自分の距離、どのタイミングでどんな音がしていたのか、遮断機はいつ降りたのか、電車がどこで止まったのか、電車の影で自分の位置から、どんなものが見えたのか、見えなかったのか、その後、自分はどういう対応を取ったのか…などの事実を詳しく聞いていくのです。
このように当たりをつけて話を聞かないと、味方にはなれても、次の光が見えにくいカウンセリングになりますし、当たりをつけた質問や要約をすることが、クライアントにとってはカウンセラーの専門性を信頼することになっていくのです。
4.説明について
クライアントから、「どうしてこうなるのでしょう」とか「どうしたらいいのでしょう」という質問の形で聞かれると、どうしても、その質問に答えたくなるのが人情です。さらに、プロの答えを出してあげたい、正確な答えを出してあげなければならないと考えてしまいがちです。
ここもメッセージで考えましょう。クライアントが質問をする時、そのメッセージは「不安だ」ということを伝えたいのが主体である場合が多いのです。その気持ちをきっちりと受け止めず、表面的な質問にロジカルに答えてもなかなか味方にはなれません。
ですから、その質問を要約した後は、「それにお応えするためにも、もう少し聞かせてください」その背景を詳しく聞いていけばいいのです。 またある程度味方になった後は、症状に対して説明していく場面がありますが、 これもロジカルな説明を求めているわけではなく、例えば惨事の場合など、「安心できて、自分(クライアント)はこれ以上動かなくても(特別な対処や成長をしなくても)良い」というメッセージが伝われば良いのです。
そのために一番効果的なのは、ロジカルな説明ではなく、「みんなそうだよ」という事例の紹介であることが再三強調しています。残念ながら、原始人の比や3ヶ月で症状が治まるグラフなどの紹介はあったものの、事例で説明してくれる受験者は、非常に少なかったです。とにかく現場での事例の効果を強く認識して、事例を準備できるようにしておきましょう。