2024年度(令和6年度)MRC認定試験における主任試験員兼アドバイザー講評

2024年度(令和6年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2024年4月6日・7日MRC認定試験における主任試験員兼アドバイザー講評

今回の試験について前田理香MRI(主任試験員)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。
2024年4月認定部

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MRC認定試験は、惨事を体験した組織に対して、支援目的調整面接とプレゼンテーション(情報提供)を行う試験のため、受験者も強い緊張にさらされます。そんな中、多くの受験者が熱心にトレーニングを積み重ね、努力してきた姿が見受けられ、試験員としてとても嬉しくなりました。 今後更にスキルアップして頂くために気が付いたことをお伝えします。
 MRI 前田理香

 

支援目的調整面接

1.「鳥の目」「虫の目」「魚の目」
クライシスな状況の組織を支援する場合、戦略的思考と同時にケアも意識する必要があります。事前に得られた情報の中で、どんな出来事が起きて、職場はどんな特性があって、ダメージの大きい人はどんな人がいそうか、どんなリスクが考えられるか、など全体を把握すると同時に、目の前の人はどの程度出来事に関わっているのか、どんな心理状態でどれほど疲労が蓄積しているのかなど、面接の中でケアが必要かどうかも考えていかなければなりません。またそのさじ加減を、戦略的思考で情報収集をしながら、流れを見て常に柔軟に変えていかなければなりません。 この「鳥の目(全体の把握)」「虫の目(目の前のものへの配慮)」「魚の目(流れを読む)」のうち、全体の把握はできていても、細部への配慮や流れを読んで柔軟に対応することに苦労しているように感じられました。
 
2.調整面接相手の「味方」になれているか
・面接当初、店長は「本当に参っている。電話で説明していただいたけれど、上手く理解できていない」と言いました。それに対して、多くの方が考えてきた支援内容について全体像を説明し、その上で「もう少し詳しく伺って、より最適なご提案をしたい」と出来事の確認に入っていきました。その流れ自体は間違ってはいませんが、その前に店長がどんな思いでこの2週間を過ごし、どんなに大変だったのかに対して、労う配慮が欲しかったです。
・出来事の状況をお聴きする際、皆さん具体的に細部まで聴こうという意識や、店長の「痛いところ」への配慮を心がけている様子が随所で見受けられました。一方、図を書いた方は、図にすることで店長が2階から下りてきてすぐに現場が見えたのかそうでないのか、最初に目に飛び込んできたもの、近づいて見えたもの、Aさんの倒れていた場所や様子、お客様の店内での位置や他の従業員のいた場所など、より臨場感を持って現場の様子が把握できていました。このように視覚化して状況を把握できると、より店長の心情を共感的に理解できると同時に、従業員のうちどの程度現場を目撃しているのか、お客様への影響など、今後の支援内容に繋がる情報を得ることができますので、どんな時でも「図を書ける」準備はしておきましょう。
・店長は、「お客様や従業員を守れなかった」「ケガをさせて申し訳ない」とおっしゃっていましたが、当日の状況を把握することに意識が向くあまり、しっかり受けとめずに先に進んでしまうかたもいらっしゃいました。自責はクライアントにとってとても辛いものです。その思いを詳しく聴き、「無理もないよ」メッセージを込めた要約でしっかり受けとめ、味方になることを意識して対応しましょう。
 
3.ツールの説明と事例の使い方
それぞれのツールについては、多くの方が基本的な目的や使い方を理解していらっしゃいました。ただ、説明するとなった時に、今回の支援の中で「どういう効果があるからこれを使う」といった、現場にあった説明ができていなかったように感じました。そういう時に効果を発揮するのが「事例」です。「同じような出来事があった職場で、〇〇な状況を(アンケートを採ることで/ミーティングをすることで/心理教育をすることで)こんな風に変化し、△△になることができました」という事例を伝えることで、店長は希望が持て、今の不安を減らすことができます。一方、今回の出来事とズレた事例だと、効果が半減するだけでなく店長を不安にさせてしまいます。事例はあくまでも「クライアントに安心して貰うためのストーリー」です。出来事の状況に合わせて内容をアレンジし、惨事の内容や程度、職場環境などから大きくズレないように気をつけましょう。
  

情報提供

1.自分を売る(信頼して貰う)
情報提供は、内容をお伝えすると共に、多くの方にMR協会のカウンセラーとしてのあなたを見て貰う場でもあります。特に今回は、このあとに個人カウンセリングも控えていますので、情報提供の場であなたを知ってもらうことは、今後に繋がる重要な要素になります。例えば、初めて会うカウンセラーが、早口だったり言い間違いが多いと軽率な印象をあたえ、難しい言葉を一方的に話したり時間を守らなかったりすると自分勝手な印象を与えてしまいます。しかしながら、今回受験をされた皆さんは、非常に落ちついた柔らかい口調と表情で、とても信頼できる印象を受けました。一方、もう少し工夫できるのは「MR協会の紹介」と「自己紹介」です。これも、その時の現場にあった紹介が求められますので、1~2分程度のいろんなパターンの自己紹介を作成し、普段から練習しておきましょう。 そんな中、最初に出来事に対してのお見舞いと、入院中の従業員に対して回復をお祈りしているとお伝えした方がいらっしゃいました。心のこもったお見舞いは受講者に伝わりますので、是非こういった配慮も意識してください。
 
2.内容の選定
15分という限られた短い時間の中で、必要なことを伝えるというのは、とても難しいことです。その上、支援目的調整面接で得られた内容も加味しなければなりませんが、情報が増えすぎると受講者に混乱と不安を与えてしまいます。目標を意識し「これだけは伝えたい」というポイントを絞り、それをどう(心理的な知識を持たない方に)伝えるか、わかりやすさを意識しましょう。情報提供は練習ができる課題です。普段から「どんな惨事」「どの程度の規模の組織」「どんな目的の情報提供」かを想定して練習してみることで必ず成長に繋がります。