2026年度(令和8年度)UCPC認定試験における主任試験員講評
令和8年8月1日・2日(ハイブリッド)UCPC認定試験における主任試験員講評
今回のUCPC試験は、オンライン、もしくは対面でご受験いただきました。皆さんの真剣な取り組みにはいつも頭が下がります。また、「こころのSOSピアサポートレッスン」を会員の皆さんに公開して最初の試験になりました。
それぞれの皆さんが、練習の時より、確実に実力を上げていることを確認できて、うれしく思います。特に、MC、盛った要約などは上手くなってきています。 一方、「UCPC合格」までにはあと一歩という方が多く見受けられました。 今後の研鑽に向け、意識していただきたいポイントをいくつか紹介します。
1. 惨事(ショック)の軽視と「うつ状態への傾倒」の罠
今回のケースでは、表面的には自覚の薄い「うつ状態(子育てやリーダーの仕事)」が背景にありつつも、クライアントが今一番解消したいと願っているのは「惨事の後に会社に行けなくなったこと(ファーストショックの無力感と不安)」でした。
本来は、惨事対応を優先してもいいクライアントに対し、惨事にあまり注目せず、うつ対処に終始した方が多かったのです。
惨事の辛さを過小評価しない
練習では、「うつの方が小さな惨事にあった」というケースを取り上げることが多いので、どうしても、そのイメージで対応してしまったようです。
惨事を評価する際は、客観的な悲惨さではなく、惨事の痛いところの大きさで測る必要があります。評価に際しては、クライアントの話や話し方によりきちんと意識を向ける必要があります。
クライアントが一番訴えていたのは、惨事後の自分の反応、それとそれが「自分だけ」という状況、その後出社できずに、皆に迷惑をかけているという思いです。これを考えると、本人にとってはかなり大きな惨事であったことが想像されます。
つまり、惨事後のファーストショックのつらさなので、「みんなそうだよ」という事例の提示や、「理由があるよ」「期間限定だよ」という「FSへの無力感対策7つの手順」が有効なクライアントだと理解するべきです。
惨事とうつがダブる場合、惨事の対処から始めてみるのが定石
今回は、惨事とうつの要素がありました。うつは根本原因、惨事は表面的反応と考えると、根本原因を触りたくなります。
ところが、対応のしやすさ(救済の速さ)を考えると、うつは、本人がおそらく抵抗のある長期の休養や、医療の活用など大ごとになる対処が必要になり、負担感を刺激してしまいます。
一方、惨事の対応の主体は説明なので、クライアントさんは理解するだけで、かなり気持ちが楽になります。ですから、何の条件もなければ、まずは惨事対処をするのが定石と認識するといいと思います。
下園のMCへの先入観と誤解
皆さんがうつ対処に傾きがちだったのは、前半VTRで下園が子育て等の苦しさに対してMC(「大変だったね」等のメッセージ)を多めに使って聴いていたことが関係するのかとも思っています。私の反応を見て、下園は、「うつ状態の方が重要ととらえている」と誤認したのではないでしょうか。
しかし、私(下園)の頭の中では、「うつ問題は(前半の段階では)それほど大きくない。息子の件は以前からの継続課題、リーダー職は終結しており、本人もそこをそれほど意識していない」と判断して後半に臨んでいました。
大きなMCは、クライアントの味方になることを重視した「コントロール」であると認識できるといいと思います。
2. カウンセリング目標の修正の際の注意事項
カウンセリング目標とは、「車で今どこに向かっているか」を示すナビゲーションのようなものです。どこに向かっているか分からないまま、いきなり、質問や3段階、原始人の話が出てくると、クライアントは「どこに進んでいるのか」不安になります。
曲がり角での要約と明示
展開を切り替えるポイント(曲がり角)では、必ずこれまでの話を要約し、「今私はこう考えている(ここがまだ理解できていない)。そこで次は〇〇のために、~の作業に進みます」と企図を明示してください。バスの運転手が「次は〇〇です」と案内するのと同じです。
クライアントの言葉や反応への対応(受け)が甘くなる
カウンセリングでは、鳥の目(全体の目標や説明の組み立て)を持ちつつも、クライアントが重要な出来事や感情を表現した瞬間は、絶対に逃さず、必ず要約して返してください。
自分の情報収集や説明に意識が向きすぎると、相手の重要な発言や反応をスルーしてしまい、一気に味方の関係を崩してしまいかねません。
時間が足りない時、次回面接の準備への切り替え
時間が押している時は、慌ててアドバイスを詰め込むのではなく、「今の辛さの確認」から「今後の考察への情報収集(クライアントにとって何が大切か・どのレベルを求めているか)」へ切り替える判断が求められます。
また、次回面接の設定に際しては、希死念慮の強さや、受診の予定などの情報により、どれぐらいの期間をおくのが効果的かを考察します。
今回は、かなり状態がつらく、睡眠時間も非常に短く、また次の出勤期限も迫っているので、きわめて迅速に次回面接を設定するべきケースでした。
3. 目的を意識した説明と事例・比喩の使い方
メンタルレスキュー協会では、説明力を重視し、現場で有効な説明のパッケージをいくつか紹介していますが、「説明そのものが目的になってしまっている」方が多かったように思います。
パッケージ説明の危険性
疲労の3段階や原始人、スマホの比喩などを、練習したからといってただパッケージとして説明しても、相手の疑問に答えていなければ説得の押しつけ(聞きたくもない授業)になり、不信感を招きます。
なぜメンタルレスキュー協会が「疲れ」を推すのか——最終的に「疲れは休めば良くなる(あなたは壊れていない)」というメッセージを伝えるためであるという目的を再認識してください。
例えば今回のクライアントは、自分の反応、職場に行けないことへの対処を求めていたのです。疲れの自覚もなく、休むことへはハードルが高い方です。その方に、「あなたは疲れている、疲労の3段階だから長期休まなければダメ」と強弁しても、負担感を与えるだけです。
「単純理論+事例・比喩」の原則
説明において、事例や比喩を使う方は、まだ少なく、理屈だけの説明になりがちです。一方で、事例・比喩が多すぎても、主題が何だったか忘れてしまいがちです。
事例も持つイメージが強力すぎる場合も、本来、伝えたいメッセージが霞んでしまうことがあります(例:原始人の説明で熊本地震の話を出すと、今ニュースで多く流れているので、疲れよりも、事態の悲惨さや活動している人の尊さが強くイメージされてしまう場合があります)。
基本パターンとして「まず単純理論で結論を伝える。それを事例・比喩で補強する」という練習を重ねてください。
なお、惨事の無力感対策7つの手順としては、「理由があるよ」と伝えるよりも「みんなそうだよ」と事例を紹介するほうが、上位の効果を持つことも忘れないでください。
4. 現場(対面・会場)における配慮とアプローチ
対面ではコミュニケーション自体は取りやすい反面、時計の位置、持ち物、メモの取り方、図の適切な見せ方など、細やかな配慮が必要です。
さらに、服装やアクセサリーなどもクライアントに余計な刺激や裏メッセージを与えないか意識してください。
5. AI学習ツールの効果と限界
今回の試験では、レッスンAIや質問AIを積極的に活用して臨まれた方もいらっしゃいました。回数を重ねて練習量をこなすことは、必ず皆さんの実力を向上させます。
AIの偏りと限界を理解する
一方で、AI独自の偏った評価に左右されすぎてはいけません。
例えば「メンタルレスキュー協会的には…」という枕言葉を付けた説明に対して、AIが「客観的で良い」と高評価を出したとしても、実際の現場で何度も繰り返すと「回数のメッセージ」効果で、「他の団体ではどうなの?」という裏メッセージになりかねません。
練習ツールとしての割り切り
上のような評価のずれに加え、レッスンAIには、20往復というやり取りの回数制限など、いくつかの制限があり、万能の訓練ツールではないかもしれません。
しかし、あくまで「練習量を増やして回数をこなす」ことが実力向上の王道です。デメリット部分は意識しつつ、ぜひ、賢く活用していきましょう。
おわりに
「知っていること」と「現場でできること」の間には大きな差があります。
今回の試験で見えた課題や自身の癖を整理し、ぜひ次なる成長への糧として研鑽に繋げていってください。皆さんの更なる飛躍を期待しております。
