2023年度(令和5年度)MRC認定試験における主任試験員兼アドバイザー講評

2023年度(令和5年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2023年4月1日・2日MRC認定試験における主任試験員兼アドバイザー講評

今回の試験について下園MRSI(主任試験員兼アドバイザー)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。
2023年4月認定部

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今回は、11名の方が挑戦していただきました。毎回思うのですが、メンタルレスキュー協会の試験は完全な実力試験なので、受験する皆さんにとってもかなり大きな心理的な負担になります。それでもこの課題に挑戦することで、実力がぐっと上がる方をこれまで何名も見てきました。今回も合格者の中には試験員がその成長に驚き、涙が出るほど感激したという方もいらっしゃいます。 以下、主任試験員として、多くの受験者に共通する改善事項についてコメントします。
 MRSI 下園壮太

 

支援目的調整面接

1.戦略的思考がまだ不十分
支援をする時には、これまで習ったツールをそのまま適用するというワンパターンの対応ではうまくいきません。 講座の中でお伝えしたように、まずはリスクを考え、全体的な対応策を考え、その中でメンタルレスキュー協会、私たちができることを考え、その上で組織の要望と、細部を調整していく…という思考手順を取らなければなりません。 この思考手順を取れば、今回の心理支援、あるいはそれぞれのツールにおいて、「何のためにこれをやるのか」という目的が明確にされ、さらにその目的を追求するための細部要領(いつ誰にどのような方法で実施するかなど)も決まってくるものです。 しかし、残念ながらまだ多くの受験者が習ったツールをそのまま適用しているだけの印象がありました。
 
2.支援する状況に適応する
戦略的な思考を進めていないために、今回の「状況」に適応しない対応をしてしまった方も多いようです。 例えば今回は、工場で火事があり従業員は2週間自宅待機をしているという状況でした。この状況の中で、講座で習ったセカンドショック予防のための「疲労」を重視した説明をする方が多かったのです。 講座では、震災や自殺があった職場などでは、肉体的な疲労が頻発することから、その後の「過労」に対しての注意を述べていたのですが、今回の状況では、そのようなリスクが少ないにも関わらず、ワンパターンの「疲労に注意」というアドバイスになっていたのです。
 
3.説明が一般論に終始している
講座で習ったことは一般論にしか過ぎません。例えばファーストショックの各種の症状を説明するにしても、講座で習ったままの言葉を使っていたのでは臨場感がありませんし、説得力も伴いません。例えば火事の場合、予想されるのが、火災警報知器や消防車のサイレンの音、油の匂い、停電をした時の恐怖感、煙の匂いや恐怖感などです。これらのテーマが回避、侵入、過覚醒の具体的な症状として現れるので、それを説明すべきなのです。借り物理論ではなく、自分で咀嚼した自分理論、さらに相手に伝わる相手理論にまで考え抜くのが現場に合わせるということなのです。もちろん、これは、考えただけではなく、具体的に現場の人から情報を得ればその情報を元にどんどん修正していく必要があります。その意味でも支援目的調整面接で惨事現場の状況を聞くのはとても重要な意味があります。
 

情報提供

リモートでのプレゼンの練習
リモートでの支援が多くなりつつあります。カウンセリングだけでなく、プレゼンもリモートでする場合が多くなるでしょう。 ズームの共有の仕方やプレゼンにおけるご自分の写り方、喋り方なども更に練習していただきたいと思います。せっかく良いプレゼン内容を持っていても、ズームでつまずいてしまっては相手になかなか伝わっていかず、大変もったいないと思います。
 

2023年10月8日MRC認定試験における主任試験員講評

今回の試験について伊藤朗MRI(主任試験員)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。
2023年10月認定部

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去る2023年10月8日にMRC試験が実施されました。メンタルレスキュー協会は常に現場で活かせるスキル取得を目指していますので、試験内容も知識を問うことだけでなく、ロールプレイングでのパフォーマンスを重視しています。試験結果にかかわらず、この試験に参加されたことで、皆さんの実力向上につながっているものと確信しています。
 MRI 伊藤朗

 

支援目的調整面接

1.組織介入における戦略的思考について
組織支援をする場合には、その組織からのニーズを把握することはもちろん、心理支援の専門家として、現状のリスク分析を行い適切な支援ツールを選択することが求められています。本来、ここはMRIが行うものですが、介入チームのメンバーはそのMRIが考えた支援メニューの意図を理解して介入に臨む必要があります。 その観点から見ていくと、まだ支援ツールの説明においては一般的な理解にとどまっていて、このケースにおけるそのツールを使う目的までしっかりと相手に伝えることができていない方が多かったように感じました。
 
2.支援目的調整面接の進め方について
支援目的調整面接では、上記の戦略的思考をもった上でキーマンと細部を調整していきます。キーマンから「具体的に何をしてくれるのでしょうか?」という問いかけに対して、いきなりツールの説明に入ることなく、「今回の出来事をもう少し詳しく状況をおきかせてください」といって出来事の細部を聞くアプローチは皆さんできていました。 しかし、まず初めに出来事を聞く目的をしっかりと認識しておく必要があります。今回のケースではこの調整面接をしているキーマンは、一番事故を近くで体験している人でした。自分の背後で起きた事故なので直接目撃していない、という理由で惨事反応が小さいと考えるのは間違いです。横断歩道はどれくらいの幅だったのか、自分の後ろ何メートル離れたところで起きた事故なのか(仮にすぐ後ろだったら自分も事故に巻き込まれたかもしれない)事故現場には他に誰がいたのか?(自分の事故後の対応を誰か見ている人がいたのか)などをしっかりと聞く必要があります。それには図を使って話しを聞くことを協会では推奨していますが、今回、図を使って話を聞いた人は一人もいらっしゃいませんでした。図を使って話しを聞くことは決してマストではありませんが、共同作業で事故を振り返ることで味方関係が強化されたり、客観的に振り返ることで自責を緩めることもできます。オンラインで図を使って話を聞くことに苦手意識を持っている方も多いと思いますが、これもトレーニングでかなりスキル向上できる分野なので、図を使うことの効用について、改めて意識していただければと思います。
 
3.自責への対処について
今回のケースでは、調整面接をするキーマンが大きな自責を抱えていることがわかりました。基礎講座では「自責が出た時は、無理やり引きはがすのではなく、一旦受け止めてから話題を変える」とお伝えしてきました。ただ、個人面談の場とこの調整面接の場では状況が違っていることに気がつかなければなりません。キーマンは惨事反応として自責が強く出ていますが、一方で組織の長としての役割りも全うしなければならない方です。自責を受け止めながらも、組織の長としてのプライドを保ちながら業務遂行できる心理支援を提案する必要があります。この場合、キーマンに対しての直接の支援ではなく、組織のメンバーに対する心理支援を行うことで、パフォーマンスの維持や退職の防止につながります、という文脈で間接的にキーマンを支えつつ、支援ツールを説明するのが効果的だと思います。
 

情報提供

現場の事例にあわせたプレゼン
支援目的調整面接でのツール説明と同様に、このプレゼンの時も一般論として解説をしている方が多いと感じました。 全員がファーストショック(FS)とセカンドショック(SS)の説明をしており、そのチョイスは間違いではないのですが、その中の説明にも強弱をつける必要があります。FSの説明で事故直後の初期反応(パニック、茫然自失、マヒ)から丁寧に説明していましたが、今回ここまで知りえた情報から、この事故の目撃者がほぼいない中で、この部分に時間をかけるのではなく、一番伝えたいところ(回避症状やSS)に時間をかけて説明する必要があります。 また、SSに移行する2つの要素(偏った情報、疲労)の説明についても、その言葉を単語で使うのではなく、「惨事反応の回避はその話題に触れないということにもつながるので、新しい情報が入らずに今回の事故原因についてネガティブな憶測が大きくなったり、会社に対して不信感が生まれることもよくあります」「コロナ後の家電需要の拡大でお仕事が忙しくなっているとお聞きしていますので疲労もこれまで以上にたまっているのではないでしょうか」といった、現場ケースに合わせたかたちに変えて伝えることで、聞いている方が受取りやすくなります。このプレゼンも回数をこなすことで格段にスキルアップを実感できる分野ですので、引き続きトレーニングを続けてください。