2021年度(令和3年度)CPS認定試験における主任試験員講評

2021年度(令和3年度)CPS認定試験における主任試験員講評

2021年(令和3年)7月10日・11日(オンライン)における主任試験員講評

CPS認定試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。
今回も多くの方が受験していただきました。
オンラインにもかかわらず、MCは多くの方が合格レベルにありました。
また、基礎講座の基本的な知識の理解も進んでいると感じました。
以下、合格不合格にかかわらず、今後さらにスキルアップしていただくため、注意していただきたいことを紹介します。
MRシニアインストラクター 下園壮太
 
1.カウンセラーの聞きたいことではなくクライアントの話したいことを聞く
今回は数ヶ月前から調子を崩しているところに、入居者の自殺未遂現場に遭遇したというクライアントでした。事件から3週間経っているという設定です。
事前の情報でも、うつの症状と惨事の症状のいずれもが確認できます。
基礎講座では惨事後の対応をする場合のやり方と、うつの対応をするやり方を端的にお伝えしていますが、今回のようなケースでは、どちらから始めても問題ありません。ただ、惨事の出来事を詳しく聞くのか、あるいはうつ状態に至った出来事およびうつの症状を聞くのか、を少し固定的に考えている受験者が多かったようです。
この二つは、結局クライアントさんに「辛いと思うことを話してもらう」ためのアプローチなのです。惨事の場合は惨事の細部、うつっぽい方の場合はそこに至る経緯とうつの症状を聞くのが、通常クライアントさんの「話したいこと・つらいこと」である場合が多いので、そのプロセスを練習しているだけのことなのです。
実際のカウンセリングでは、皆さんが当たりをつけて聞こうとしていた話題以外のことをクライアントさんが話したい、あるいは理解してほしいと感じている場合も少なくありません。
自分が進めようとしているカウンセリングの中でも、常に「これはクライアントの関心があるテーマか」というチェックを忘れず、もし、違うと感じたら、柔軟に話題を変更し、より味方になれるように意識するとよいでしょう。
例えば、今回のケースでも、もしクライアントが「今職場を辞めたい」とか「死にたい気持ちについてどう対応すればいいかがわからない」と悩んでいる時に、カウンセラーが3週間前の事故の見取り図にかなりの時間を割いて話を聞いているとしたら、クライアントは「そのことよりももっと話したいことがあるのですが…」、とカウンセラーを遮って質問をすることなどもあるでしょう。そういう場合は、クライアントさんの話したいニーズをきちんと察知して話題転換を図らなければなりません。
 
2.説明で落とそうという気持ちが強すぎる
基礎講座では、ただ単にクライアントさんの気持ちを聞くだけではなく、現在の症状を説明し、対処法まで提案するというプロセスが有効であるということを強調してきましたが、講座でもお話したように、それはあくまでも味方の関係ができてからの「おまけ」のようなものなのです。
ところが特に男性のカウンセラーはどうしても説明をしてクライアントを楽にしたいという思いが強すぎて、自分の説明のための材料収集に走ってしまう傾向があります。すると先程も示したようにクライアントが話したいというテーマではなく、カウンセラーが聞きたいテーマでカウンセリングが進んでしまうことが多くなります。
   
3.説明力を更に磨く
今回は疲労が蓄積し2段階になっていたところでショックな出来事に遭遇し、ファーストショックが長引いているというクライアントさんです。このクライエントさんはどうして自分だけがこんな辛い思いを引きずっているのかという無力感を抱えています、この部分には症状の説明が大変有効です。
ファーストショックに対する無力感の7つの手順や疲労の3段階の説明が有効なのですが、その理論の解説だけで終わるのではなく、事例を使って説明を補強することが現場では大変説得力を持つことになります。ところが残念ながら事例を有効に使っている受験者が大変少なかったように思います。何度も強調していますが、事例というのは実際にあったケースを報告する学会の事例とは違い、クライアントがイメージしやすいような物語形式での説明です。自分が経験した事例があればもちろんそこをベースにしてもいいのですが、そのような経験がなければ、映画や小説などをアレンジしたり、あるいは自分が創作した事例を提示すればいいのです。事例を上手に使ってクライアントさんの心の整理に役立ててもらいましょう。
 
4.図を書く意味
基礎講座では惨事の場合、図を描きながらクライアントと体験を共有することの有効性をお伝えしてきました。
ただ、これは有効であるというだけで、どんな場合でも図を書かなければならないというものではありません。
また、図を書く場合も、そこに自責感や無力感などの四つの痛いところが関わっているだろうな…という想定の元で図を描いて行きます。
例えば今回の場合、部屋に入っていったら首を吊る直前であったというクライエントの話で、部屋の配置を図にした人が多かったのですが、特に位置関係が想像しにくいような状況でなければ、あえて図にする必要もなく、むしろ言葉で詳細にその行為を遡る方が体験を共有しやすくなります。
入居者の部屋だけを書かずに、フロア全体を図にする方もいらっしゃいました。こういう場合は、Bさんがよくフロアに出ていたことから、フロアでどんな活動があるのかとか、ナースステーション(職員の待機所)なども描くと、事件対応時の様子を詳細に聞くこともできます。
いずれにしても、何のために使うのかという目的を持って、図を使用するように意識しましょう。
 
5.ファーストショックが収まっていくという説明
多くの方が右下がりの曲線の図を使って「ファーストショックはこのように収まっていきます」という説明をしていきましたが、実際このクライアントは3週間経ってもなかなか落ちていません。もちろんこれに対しては疲労の2段階で受けたショックであるので、通常の2倍の衝撃、2倍長引いている…という説明が前提にはなりますが、実はファーストショック自体落ちていかないことは結構よくあることなのです。
ファーストショックというのは出来事に対する警戒心です。今回の場合原因となっているBさんがまだ入居していらっしゃいます。そのBさんをずっと監視・観察しておかなければならない、自殺させてはならないと感じているクライアントは、緊張が残っている方が、むしろ自然なのです。
Bさんはあと数日で他の病院に移ることになっています。もちろん自分のせいでBさんをうつにしてしまった、退去させてしまったという自責の念は残るかもしれませんが、実際に大きな負担となっている「Bさんの安全に見守らなければならない」という大きな負担感からは解放されます。そのような見通しを伝えるだけでも、この方の気持ちはだいぶ明るくなっていくでしょう。
 

2021年(令和3年)11月27日・28日(オンライン)における主任試験員講評

CPS試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。
基礎講座では何度も動画を見て、わからないところは質問し、理解をした上で実習に臨まれる方が多く、講座が進む中でも皆さんの成長を感じていましたが、復習を重ねて受験されたことを実感させられる試験でした。
今回残念ながら合格されなかった方も、ほんの僅かな差です。諦めずに挑戦することで更に成長できると思います。
以下、主任試験員の講評をとりまとめましたので、今後の参考にしてください。
MRインストラクター 伊藤文
 
1.メッセージコントロール
<5ステップ>
受験者全員が、かなりの練習をされて試験に臨まれていることがよくわかりました。表情の変化、特に眉の動きがよくわかるように髪をピンでとめている方もいて、講座で学んだことを取り入れていらっしゃることが伝わってきました。
特に、あいづちでは「えぇ」「はい」「う~ん」「うんうん」「そうなんですね」と様々な種類を使い、うなずきでも大きなうなずき、深いうなずき、小さいうなずき、回数を変えるなどバリエーションをつけて、話のリズムをうまくコントロールしている方がいらっしゃいました。
一方でせっかく表情も豊かに頷いているのにあいづちが無い方、「はーい、はーい」と単調なあいづちを繰り返していた方、表情の変化が乏しい方がいらっしゃいました。弱っているクライアントは、カウンセラーの反応が薄いと「この話はしない方がいいのかな?」「聴いてもらえてないかも・・」と感じてしまい、基礎メッセージである「聴いてるよ」が伝わらなくなってしまいます。
また驚きも工夫が必要です。「寝てるのかな?と思い顔を覗いたら血の気が無く、意識もなかった」という場面では、カウンセラーが驚くことで「突然の出来事で頭が真っ白になった」クライアントのショックを受け止め、「おおごとだね」メッセージを伝える大切な場面です。驚きが薄いためにクライエントが2回同じことを言ったり、驚いてはいるもののタイミングがずれてしまいリズムを崩してしまったため「おおごとだね」メッセージが伝わらなかったのは、もったいなく思いました。ただこの場面では、大きく驚くよりも「息をのむ」驚きや短く鋭く「えっ!」と声を出すなどの方があっていたと思いますので、驚きについてもバリエーションを増やしておきましょう。
オンラインでのカウンセリングは、視線や表情は対面よりも目立ってしまうという難しさがあります。実際に画面上のクライアントを見ると、どうしても「目が合っていない」印象になりますし、カウンセラーの視線があちこちに動くと自分で思っている以上にクライアントを不安にさせてしまいます。カウンセリングを始める前に視線が合っている(ように見える)かどうか、自分がどんな風に画面に映っているかを調整し、カウンセリング中も気を配りましょう。

<要約・質問>
ポイント要約は、ほとんどの受験者の方々がよく練習されているのがわかりましたし、「まさか倒れているなんて思わないし、すぐに動けなくてもしかたがないですよね」「(いつもしないのにお昼寝したのは)よほど疲れていたんですね」というような、クライアントを傷つけない要約ができていました。
しかしながら、中要約、いわゆる盛った要約ができている方は少なかったように思います。中要約は入れるタイミングも大切です。早く味方になろう、相手を傷つけたくないという気持ちが強いあまり、まだ話をあまり聴いていないのに、盛った要約をしてしまうと「私の何がわかるの?」「まだ聴いてもいないのに」とがけ崩れが起こってしまいます。
例えば、意識のないお義母さんを発見した時の状況をしっかり聴いて、カウンセラー自身が状況が見えた、理解できたと感じた時に「寝てるのかな?って思って顔を覗き込んだら血の気が無くて、それは咄嗟に動けなくても無理もないと思いますよ。でもそんな頭が真っ白な中でも、ご主人に電話して救急車を呼んだ上に、一人でお母さんを寝かせてやったこともない心臓マッサージを、たった一人で救急車が到着するまで必死に続けられたんですよね。」というようにクライアントの大変さ、頑張りを盛り込んでいくことで味方感が強まっていくのです。
 
2.体験を聴くことについて
受験者全員が、クライアントの体験を時系列に沿って聴くことができていました。
聴き方も唐突ではなく、「以前から疲れてはいたけれど、お義母さまが倒れられてから更に体調が悪化されたという事で、そこはとても大事なところだと思うので、倒れられた時のことをお聴きしてもよろしいですか?」と辛い体験を訊くことの必要性を説明してから、体験を聴いている方が複数いらっしゃいました。
体験を細かく聴いていくと、「寝汗があるって言ってた時に、ちゃんと病院に連れて行っていれば」「私がうっかり寝てしまったから」「ちゃんと心臓マッサージが出来ていたのかもわからない」など、出来事の中にクライアントの自責が出てくること多いのです。体験とは別に気持ちを訊いている方がいましたが、体験と絡めて聴いていくことで「寝汗って言われても、一般的には『すぐに病院に』とはあまり考えないと思うのですが・・・でも大切なお義母だからこそ早く受診させていれば、と考えてしまいますよね。」と自責を手当できるのです。
 
3.図を描く意味について
お義母が意識を失っていた場面を図に書いた方、口頭だけで聴いていかれた方、両方いらっしゃいました。図を描く場合「この出来事は図にした方がいいのか」判断して相談を進める事が大切です。話を聴きながら、クライアントの苦しさ、辛さ、大変さは何だろう?と想像し、「声や物音を聞き逃したのかもしれない」という自責があるのではないかと考え場合、リビングと義母の部屋の距離は確認したいところですが、1階なのか2階なのか訊けばわかることもあります。距離は近いけど、見通しが悪いという場合には家具やドアの配置を知る必要があるでしょう。また、怖くてお義母さんの部屋に入れない回避がある場合には、どこで何を見たのか、どんなことをしたのか共感的理解をするために、部屋の配置図や倒れている状態は図に描いた方がわかりやすいでしょう。
図を描くことでその空間、距離や人の配置、視野などが理解しやすくなるメリットがあります。一方で図を描くことで時間を使ってしまう、図を描くやり取りによってクライアントが疲れてしまうデメリットもあるのです。図を使わない選択をしたのであれば、要約や手振りでクライアントの大変さ、苦しさ、頑張りをしっかり共有していきましょう。
また、オンラインでは図を画面共有するとカウンセラーとクライアントの画面が小さくなり、メッセージコントロールが伝わりにくくなります。図を共有している間は特にメッセージコントロールを意識し、必要が無くなればすぐに画面共有をはずすことも大切です。
 
4.症状説明について
今回のクライエントは、出来事から3週間経っているのに体調が悪く、私は壊れてしまったのか?この苦しさがずっと続くのか?という不安を訴えていました。試験後の口頭試問では、もともと疲れていたのでその疲労が影響している、と理解しているにもかかわらず、図で示すのはいつもの1ヶ月から1ヶ月半で反応が下がっていく曲線を描き「多くの人は下がっていくのに私は下がっていない」と逆に不安を与えてしまう説明をしている方が何人かいらっしゃいました。講座で覚えたことをそのまま使うのではなく、クライアントの状態に合わせて、クライアントが安心できる説明を心がけましょう。
まだ、体験も症状もしっかり聴けていない段階だったとしても、クライアントは不安なので「私はどうなってるの?どうなっていくの?」という質問をするのは無理もないことです。その場合は、「そうですよね。今、Aさんが辛いと思っている(具体的な症状)は、時間とともによくなっていきます。でも3週間も続いていると不安になるし辛いですよね。Aさんがいつも気にかけ、仲良くしていらしたお義母さまが亡くなられた、ということもとても大きかったと思います。その上以前から疲れていらっしゃったということも、もしかすると関係しているかもしれないので、もう少しお話を伺ってその上で今後のことを説明させて頂いてもいいですか?」と不安は一旦受け止めて、カウンセリングがどの方向に進んでいくのかを示し、更に足りない情報、睡眠や食事、悪夢が改善してきているのか、義母の部屋に入りたくない等の回避症状がどうなっているか確認した上で、説明をしていくとクライアントは自分の現在地を知り、先が見える感じがして安心感を得られるようになるのです。
また説明している間は、クライアントが理解しているのか把握して進める必要があります。クライアントが理解していないことに気が付いていても、そのまま進めてしまう方や、納得してもらおうと更に説明を重ねる方もいらっしゃいました。「ここまでで何かわからないところはありますか?」とクライアントに訊いて、「わかりにくい」と言われたら「そうですよね。では別の例でいうと・・」などクライアントとキャッチボールしながら進めていきましょう。
 
5.終わりに
合格された方は、ぜひ上級講座でさらに学びを深め、様々なケースに対応できる力をつけて頂きたいと思います。残念ながら合格されなかった方も、諦めずに今メッセージコントロールをしっかり身に着けることで、後々2倍3倍の実力を発揮される方もいらっしゃいます。一旦深くしゃがみ込む方が高く飛べるのと同じように。
期待しています!