2022年度(令和4年度)MRC認定試験における主任試験員兼アドバイザー講評

2022年度(令和4年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2022年4月2日・3日MRC認定試験における主任試験員兼アドバイザー講評

今回の試験について下園MRSI(主任試験員兼アドバイザー)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。
2022年4月認定部

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今回のMRC試験は、支援目的調整面接とプレゼンテーション(情報提供)を、いずれもオンラインで実施するという形式での試験でした。 以下、主任試験員兼アドバイザーとして気づいた点をご紹介します。
 MRSI 下園壮太

 

支援目的調整面接

1.目的をきちんと意識して調整(情報収集)する
今回の受験者の皆さんは、上級講座(組織支援)で学んだことをしっかりと理解しようとされ、そのアウトプットに注力されていることが大変よくわかりました。一方で前回の講評でも指摘しましたが、上級講座では組織・個人を問わずに目的を意識しながら作業を進めることを重視しています。今回のシナリオでも、確認、調整しなければ支援の内容を決められないという要素がたくさんありました。しかし、残念ながら不合格になった受験者の多くは、必要な内容を聞かずに(聞く意識も持てずに)、練習したパターンで支援目的調整面接を進めていました。 例えば、練習では、相手の体験を聞くことから始めることが多かったと思います。それは、支援目的調整面接の相手が惨事の体験者である場合が少なくなく、その場合は、その方の心情やファーストショックの状況を理解するうえで、体験をきちんと聞くことが、その方の「味方」になるために有効で、そしてそれが結局は、協会を信頼し今後の支援を容易にするために効果的だからです。ただ、これはあくまでも聞く力を育てるためのトレーニングとしての練習シナリオです。実際そして試験では、ケースごとに状況が異なります。その状況に応じて、対応を変えなければなりません。今回の場合は、確かに支援目的調整面接の相手は、惨事に深くかかわっている方です。その方の体験を詳しく聞いて、味方になるアプローチは、ここでも有効でしょう。一方で、まだ支援内容がきちんと決まっていない状況でもあります。自殺なのか事故なのか、どれぐらいの人が、どれぐらいのダメージを受けているのか、まだ、ほとんどと言っていいほどわかっていないのです。中には、確認しないまま自殺であることを前提として(無意識のうちに決め込んで)、支援目的調整面接を進め、情報提供をしている方が、複数名いらっしゃいました。 今回の状況なら、味方になるための話題は必要最小限にして、どんどん、聞きたいことを聞き、調整を進めていかなければなりません。パターンではなく、状況の特性を理解してパフォーマンスするようにしましょう。
 
2.リスク分析が不十分
戦略的に支援を進めるとき、まず考えなければならないのが、リスクです。パターンでの支援をしてしまうと、リスクにきちんと対応した支援ができないことがあります。さて、今回の一番のリスクは、度重なるトラブルやコロナのステルス疲労により、従業員の多くが疲弊していることです。その状態で「Aさんは、きっと上司のいじめ(もしくは支援なし)+疲労による自殺(事故)だ。このままなら私も…」という思い込み(ストーリー)で、従業員のうつ、退職、職場の人間関係悪化が増えてしまうこと、を現実的な(可能性が高く影響度も高い)リスクとして想定しなければなりません。そのリスクをきちんと理解したうえで、どんな対処が適切かを考察していきます。例えば、当初の情報提供(プレゼン)では、「Aさん、うつ、自殺でした。だから皆さんも、気を付けてくださいね」というストーリ―の提示も考えられます。ただ、この場合、予防できなかった自責に対するきちんとしたケアができる話をしなければなりません。また、全体に対する情報提供は支援の当初に組み込まれているので、その段階でストーリー説明的なことをするのは時期尚早でもあり、また、プライバシーの問題も整理できていません。そこで、例えば「Aさんが突然、お亡くなりになった。反応が大きい人とそれほどでもない人がいる。大きい人には個別ケアを準備している。そのほかの方も、疲労していると、反応が大きくなり、疲労が深まる可能性もある。疲労ケアをしてください。」というメッセージでの情報提供をすることが考えられます。というふうに思考を巡らせていきます。このように、今回は、ファーストショックもさることながら、今後の疲労の悪化(ショックを受けている人の場合セカンドショック)に注目するべき状況です。当然アセスメントも、IES-Rもさることながら、K-10 を重視し、そのデータをもとに、できることなら会社の上層部に、社員の疲労度を理解してもらうことにつなげたいものです。ところが、試験では、単純にファーストショックのほうだけに注目し、アセスメントでも、IES-Rのほうを重視している方が多かったようです。
 
3.どこまで何を知っているか、自分の情報を出す
今回の支援目的調整面接は、事前の調整をしている人とは違う人と調整するという状況でした。その場合、メンタルレスキュー側(自分)が、今何をどこまで知っているのかということを、きちんと面接の始めのほうに伝えておく必要があります。 これが同等のビジネスの立場なら、それまでのやり取りを組織内で共有するのはお互いの組織の責任です。 ところが、今回、先方はサービスを受ける側です。過去の情報共有を先方に任せるのではなく、こちらが配慮して、情報の欠落や誤解を少なくしなければなりませんし、わかっていること、わからないことを明らかにしてから進めないと、先方からの信頼感も得られにくいものです。 最初に全部、情報の確認をプレゼンのようにする必要はありません。何かのテーマが出てきたときに、できるだけ早いタイミングで「それについては、以前○○さんから、○○と伺っています(が…)」とコメントしていけばいいのです。
 
4.支援メニューの具体的イメージが十分ではない
アンケートでハイリスク群を選び、その方々をカウンセリングをするという説明をした方もいましたが、そのアンケートを、いつやり、いつ集計し、いつカウンセリングする人を選定し、どうやってその方々に通知し、いつ・誰がカウンセリングをするのか…などの具体的なところまで、きちんとイメージアップできていない方が多いようでした。 同じことは、惨事後ミーティングにも言えます。 ツールの目的を考察することまではできていますが、それだけでなく、細部まで検討し、実行可能なメニューとして大まかにイメージしておき、支援目的調整面接では、その実行部分の細部調整まで進めたいところです。
 

情報提供

1.情報提供(プレゼン)も常に目的を意識する
全体的に、情報提供もパターン化しているように感じました。 今回の特性は、①組織がかなり疲弊している、また、今後もそれが続く状況であること、②悲惨な現場を直接見た人はいない(間接的にかかわった人が数名)、つまりファーストショックはそれほどないだろう、という特性があります。(もちろん同僚の死という惨事へのファーストショックはあります。それは例えば、その方が影響力の大きい人なのか、過労や悩みに関わる人が多いのかどうかなどにより変化します。その程度は、支援目的調整面接で確認しなければなりません。) さらに、従業員は200人程度、zoomを使った講義なので、ビデオなどを含めれば、全員が視聴可能、という「情報提供(プレゼン)」というツールの特性もあります。 試験場面での情報提供は「ファーストショックを伝えればOK」というパターンで練習しましたが、本番シナリオでのこのような特性をきちんと考察せず、パターンのまま情報提供している方が多いように思います。 プレゼンに使えるパワーポイントの資料データを協会が配布し、講座では(演習の都合上)それをそのまま使いました。しかし、現実の支援ではその現場の状況に応じたパワーポイントを作るか、アレンジして使用しなければなりません。目的が違えば、見栄えも、言葉も違うのです。(中にはもしかしたら、配布したスライドをそのまま説明しなければならない、と勘違いしている方もいるかもしれません。)
今回の特性を考えれば、支援目的調整面接で、ファーストショック的なダメージを受けている人がそれほど多くない、個人の喪に関しては惨事後ミーティングを開ける、などという状況が確認できた場合、全体に対しての心理教育(情報提供)では、先に述べた「Aさんが突然、お亡くなりになった。反応が大きい人とそれほどでもない人がいる。大きい人には個別ケアを準備している。そのほかの方も、疲労していると、反応が大きくなり、疲労が深まる可能性もある。疲労ケアをしてください。」というメッセージでの情報提供の一例として、
① 身近な人を失ったときの反応と個人差、時間経緯(今回のケースの反応を中心)
② 個人差が大きくなる要因の一つとして疲労があること(皆さんの長期にわたる蓄積疲労、コロナ、トラブル、さらに会社以外の個人的なストレス)
③ 疲労しているときは個人的なつながりの薄いショックでも、大きく感じる(2倍、3倍)という説明
④ そして仕事が忙しいときにでもできる疲労コントロールの説明
という流れもありうると考察します。
ところが、ほとんどの参加者が、講座で使った資料をほとんどそのまま使い、ファーストショックと、その時期を乗り越えるためのアドバイスを説明しました。 試験で「全体としては疲労が問題なのでは…」と主任試験員が質問すると、「まだ2週間だからセカンドショックは脅すことになるので、触れなかった。」という答えをする方も多かったようです。確かに練習ではそんなパターンが多かったかもしれませんが、これは、あまり今後の疲労が混まない状態の場合のパターンなのです。支援により「誤った情報の修正」ができさえすれば、セカンドショックはある程度予防できるという見込みにもとづいているので、セカンドショックを説明するメリットより、デメリットが大きくなるというケースでの「答え」です。 ところが、今回の試験のシナリオの場合、コロナでのステルス疲労にトラブルが重なり、過重労働状態。さらに今後も仕事が多くなる見込みという状況です。セカンドショックや蓄積疲労系が大きなリスクになります。そこに焦点を合わせた支援メニューと情報提供をするべきです。もちろん「私たちにリスクがある」と感じる不安要素もあるのですが、きちんと安心情報を合わせて提供することしなければなりません。
 
2.状況の特質に応じた説明
安心情報になるのが、「この時期に気をつけておいてほしいこと」のスライドでしょう。









試験でもこのスライドがよく使われていました。しかし、ただ文字を読み上げるだけの人が多かったように思います。 今回の状況であれば、ファーストショックを受けている人はそれほど多くありません。言い換えると、ショックを受けている人とそうでない人の温度差が大きいということ。これは、組織内の人間関係トラブルが増えやすい要素です。さらに、リモートワークが多くなっているので、個人の内面情報の交換も制限されています。 だからこそ、人間関係に気を付けるべき(仲間を信じられなくなる)ですし、組織に対する不満が大きくなりがち(会社を信じられなくなる)なのです。同じスライドの説明でも、シナリオの状況をきちんと反映した表現での説明をするべきです。また、惨事の反応の説明に際しても、回避の症状説明で、「今回であれば、電車に乗れない」という例を出す人が複数いましたが、今回のシナリオでは、そういう人はいても数名です。仲間が突然事故(自殺)に遭った時一番ポピュラーな回避の反応は、「その話題(記憶)を避ける」ということです。 また、言葉遣いに際しても、自分が習った言葉そのままや、発表者自身が「そうだ!」と印象深かった言葉をそのまま使う傾向がありました。つまり、相手理論ではなく、自分理論です。
例として、「介入」「惨事」という言葉。これは支援と言い換えた方がいいでしょう。 また、「情報提供」は、MRで学ぶ人が教育という上から目線にならないようにとの思いでメンタルレスキュー協会での学習の中で使う言葉です。一般人に話すときは、心理的情報提供、心理的アドバイス、心理教育のほうが、通じやすいと思います。 それ以外にも、惨事後ミーティングは、グループカウンセリング、グループでの振り返りなどと言い換えた方がいいでしょう。 また、講義ではないので、今回のことにあまり関係のない反応を丁寧に説明する必要もありません。皆さんは重要と思うかもしれませんが、相手にとっては関心のわかないことです。 以前にもアドバイスしましたが、メンタルレスキュー協会以外の人に、自分のプレゼンを聞いてもらい、素直なフィードバックをもらうことが大切です。

3.その他
これまでのことと少し視点が変わりますが、情報提供のところで、いきなり会社の運営にかかわるようなことへの発言をするのは、ひかえなければなりません。 たとえそれが正しいことでも、例えば「会社は社員を休ませなければなりません」とか「社員の十分なケアを総務部長にお願いします」「会社から情報提供があるはずです」などの発言は、事前に十分な調整がない限り、会社の運営を邪魔するだけでなく、従業員にも不必要な期待を持たせることにもなることから、メンタルヘルスケアとしてもよくないことを覚えておいてください。


 最後に、外見等について。まず服装ですが、リモートワークでラフな服装が主流になってきていますが、それでも支援(特に会社の代表になる方とお会いするとき)の場合、ジャケットを着る方がいいと思います。また、ご自分が画面にどう映っているかは、常に意識しておいてください。顔だけの方(肩の見えない方)、顔が極端に小さく映ってしまう方、洋服の柄があるにもかかわらず、画面に映ってないばかりに真っ黒な喪服を着ていらっしゃるような印象を与えた方もいます。  さらに、音声も重要です。これも自分では確認できないことなので、ぜひ誰かと通信し、自分の声がきちんと聞こえる状態になるように工夫してみて下さい。

2022年9月23日MRC認定試験における主任試験員講評

今回の試験について主任試験員でした伊藤文MRI・前田理香MRIより講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。
2022年10月認定部

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今回のMRC認定試験は、支援目的調整面接とプレゼンテーション(情報提供)を、いずれもオンラインで実施するという形式で行いました。受験された皆さんが熱心にトレーニングを積み重ねた努力が感じられた試験でした。合格不合格に関わらず、今後更にスキルアップして頂くために気が付いたことをお伝えします。
 MRI 伊藤文 MRI 前田理香

 

支援目的調整面接

1.支援メニューを具体的にイメージし、わかりやすく端的に説明できるようにしておく
多くの受験者の方が、大まかな支援メニューについて、調整相手である社長に視覚的に提示できるよう準備されていました。その方法自体は、この惨事でショックを受け疲労しているであろう社長に対して効果的な方法だと思います。しかしながら、そのメニューを「どんな目的で」「どのように実施するのか」「実施するとどんな効果があるのか」を説明されている方が少なく、社長が納得できないままに面接が進んでしまいました。例えば社長から「グループミーティングは何のためにやるの?」と質問されても、「みんなで集まって話し合う事で気持ちが落ち着く」という説明では、「それで本当に落ち着くの?」と社長は不安になってしまいます。なぜみんなで集まって話し合うと気持ちが落ち着くのかを、お通夜を例に挙げたり事例を用いて説明することで、社長に具体的なイメージを持ってもらうことができます。ただ、出来事が起きてから変化している可能性もあり、不足している情報もたくさんありますから、こちらが白紙的に考えている案と今の職場、メンバーの状況を社長に教えてもらいながら調整していきます。また、グループミーティングの中で「料理長がみんなに責められる」という社長の不安に対して、「サポートしますから安心してください」だけでは社長の不安は無くなりません。「疑心暗鬼を腹に溜めたままだと職場の雰囲気は余計に悪くなる、吐き出すことによって職場の人が互いにフォローし合ったりするので、場が落ち着いていく」ということを事例によって説明し、その上で「私たちがしっかり調整、サポートします」と社長に安心してもらい、支援を任せてもらうことが必要なのです。心理テストについても、それぞれのテストが何を把握するものなのかは理解できているようでしたが、何のために心理テストをするのか?目的のないまま説明しているように見受けられました。目的がないまま説明するので、記名式でやるのか、無記名でやるのか、どのように配って集めて、結果の報告はどうするのか等、具体的なイメージがつかなくなってしまいます。個人カウンセリングも全員やるのか、2号店の社員はどうするのか、全員は面接できないとすればどのように選んでいくのか、ベースとなるものは準備して臨み。細部を調整するのが支援目的調整面接です。ところが、ベースとなるものを理解していないと、カウンセラーの自信の無さが態度に出てしまい、余計質問されるため、「社長はどうしたいですか?」と専門家ではない社長に負担をかけしまう言葉も出てきてしまいます。メニューはあくまでも支援(ケア)のための「ツール(道具)」です。どの道具をどのように使うのか、どのような時に使えるのかをもう一度復習して理解しておきましょう。

2.目的、相手のニーズ、リスクを意識して調整、情報収集する
支援メニューの調整の他に、情報収集の場であることも忘れないようにしましょう。Aさんが亡くなったことが社員にどんな風に伝わっているのか、1週間休んだ後、仕事を再開して社員がどんな状況なのか、面接の中で社長から情報収集している人が少なかったように感じました。事前情報の中から職場や社員がどんな状況なのか、想像力を働かせてリスクを分析し、そこにフォーカスして社長から情報収集もしていくのです。そうすることで何のために何をするのか目的が決まり、メニューも決まってきます。今回社長は「辞める人が出てくるとお店が回らなくなるのが気がかり」と言っていました。そうすると社長のニーズと目標は「離職防止」で、辞めたい気持ちはファーストショックによる症状で、離職しないためにはどんなツールを使って支援していくのか、具体的に提案していく必要があります。

3.上級においても重要なのはMC
今回合格された方は、MCをかなり磨いて自分のものにされ、とても努力されたことがうかがわれるパフォーマンスを見せてくださいました。MCがしっかりできているので、短時間で社長の味方になり、社長の困りごとを聴きながら調整も進められていました。合格に届かなかった方々も、これまでのトレーニングのパフォーマンスと比較すると、表情やうなずきの大きさを意識し、かなり練習してこられたことが伝わるパフォーマンスでした。ただ、調整と情報収集、メモするなどやらなければいけないことに意識が向き過ぎて、表情が無くなったり、頷きも小さくなってしまったりしていました。支援目的調整面接でも、目の前の社長はこの惨事に傷つき、疲れ果てています。そんな方と面接をするにはMCをしっかり出し、味方になることが重要です。頷き、相槌の他に納得や驚き、共感も相手の話の中身に合わせて出す必要がありますが、中には話を具体的に聴いていないのに驚き、共感が出てしまったり、ご遺体の身元確認をした場面では驚かないのに、驚く話ではないところで驚いたりということがありました。そうすると相手は「分かってくれているのか?」と不安になり、味方にはなれません。パターンで5ステップを出していくのではなく、詳しく聴いて状況を想像し、カウンセラーが「そんな状況なら○○だろう」と本当にそう感じて、その感じたことを表現することで、相手はようやく聴いてもらった、この人は味方だ、もっと聴いてほしい、と感じるようになり、部下の話も聴いて欲しい、となるのです。

情報提供

1.目的を意識して、一番何を伝えたいのかを整理する
多くの方がパワーポイントを使い、ファーストショックの説明をしていました。画面を共有する前に自身の顔を出し、参加者の表情を見ながらMRの紹介、自己紹介をして今回の支援について説明をしていらっしゃいました。自己紹介は、どんな人たちが来ているのか、信用して話を聴いて良いのか、という参加者の不安を減らす重要な部分です。今回上手くできなかった方は、短く必要なことを伝えられるよう、練習を重ねましょう。 この情報提供で「一番伝えたいこと」は何だったでしょう。中にはその「一番伝えたいこと」を自分の中で整理できておらず、「眠れない、食欲が無い、悪夢を見る、という反応は1か月半くらいで下がっていきます」のパターンで説明している方が多くいらっしゃいました。「場(バリア病の場)」を考えると、支援目的調整面接の直後に社員に対して行う情報提供です。情報が殆ど無い状況の中で、Aさんが亡くなったストーリー的な説明をするのは、ただの憶測になってしまい、「何も知らないよそ者が適当なことを言っている」とか、「会社からそう言えと言われているのではないか」と不信感を与えてしまいます。実際には、アンケートや個人カウンセリング、グループミーティングの中で社長も知らなかった情報が出てくることもあり、そうなって始めてストーリー説明ができるのです。社員の自責を軽くしてあげたい、という目的であっても情報収集してからでないと逆効果であることを理解しておきましょう。また「7つの手順」を理解して説明できている方が少なかったようです。個人にではなく、みんなに向けて発信する場(ここでも「場」です)では、「みんなそうだよ」「理由があるよ」が効果的なのです。その上で「観察すればいいよ」で何をどう観察するのか、具体的に提示できている人が殆どいらっしゃいませんでした。逆に、医療、薬の説明をしている人が多くいらっしゃいました。そうすると、「自然に下がっていくものだよ」が否定されて不安が強くなってしまいます。情報提供は社員の皆さんに安心してもらうためのものです。手順とその理由を理解して情報提供していきましょう。 合格された方は、「一番伝えたいこと」「皆さんにやってほしい事」を整理して、コンパクトに伝えられていたのは素晴らしかったです。

2.聴いている人の状況を想像する
どんな風に説明すると聴いている人が理解しやすいのか。一般論ではなく、今実際自分の身に起こっていることを具体的に伝えてもらったら、より自分の事として聴けます。例えば「悪夢を見る」⇒「Aさんと仕事をしていた場面が夢に何回も出てくる」、「その場に近寄れない」⇒「(遺体があった)裏道の入り口を通るのが怖い」、「気分が落ち込む」⇒「お客様相手だから笑顔で元気でいないといけないのに、それが辛い」など聴いている人に起きているであろう反応を想像して伝えると、「そうそう」「自分にもある」と納得感が得られやすくなります。一方で「自分にはそんな反応は起きていない」「自分はおかしいの?」と感じている人もいるかもしれない、ということも考えて「麻痺」という反応、あるいは「うまく対処できている」「体調や関係性によって様々なのです」というような手当てをしていきます。事例も入れて説明するとさらに納得感が得られやすくなります。事例は何度も説明しているように、事実でなくても構いません。ただ、今回の出来事と違うもの(自殺に対して事故の事例、亡くなっているのに対して怪我をした事例)は、「うちとは違う」と思わせてしまいますので、その場に合わせてアレンジしていきましょう。 また社員からの質問も受けて頂きました。質問の内容を勘違いして捉え、質問に対しての答えがかみ合っていない方が数名いらっしゃいました。緊張もあるかと思いますが、それだからこそ、質問してくれたことに対しての感謝と、質問の内容を要約して「ありがとうございます。ご質問は~~ということですね」と確認してから応えるとよいでしょう。回答しながら質問した人の反応も見て、納得しているのかどうか確認しないと質問に答えている意味そのものが無くなってしまい、受講者に寄り添う事ができなくなってしまいます。質問を受けるのもコミュニケーションです。この後に続く個人カウンセリングに向けて、味方であることを伝える機会だと思ってください。

3.何度も練習をしましょう
仲間と協力して何度も練習したり、個人でトレーニングしたり、とても努力してこられたことが感じられました。一方で自分の言葉になっていないために、言葉が出にくかったり、単調になってしまって聴きにくかったり、内容が理解しづらいということがありました。お忙しい日常の中で練習を重ねるのはとても大変だったと思います。そんな中で効果的なのは、MRの事を知らない人に聴いてもらう事です。仲間内で練習するのはもちろん大事な事ですが、説明が不足していてもわかった気になってしまう、一般の人にはわかりにくい専門用語もスルーされて指摘が甘くなってしまいがちです。一度はMR協会員以外の方を相手にプレゼンしてみる事をお勧めします。


今回合格された方と不合格になった方の違いは何かというと、合格された方はMCがかなり磨かれていたということと、上級組織で習った内容を理解した上で、自分なりにアレンジしたパフォーマンスが発揮できていらっしゃいました。つまり学習したパターンで対応するのではなく、その場に合わせて目的を絞って対応できていた、というところです。上級のスキルは、覚えたパターンで対応するのでは無く、状況に合わせてアレンジできるスキルです。そのため、上級講座の中身はとても濃く、学ぶことが満載で、理解するのも実践するのも難しいのです。ただ、受講するごとに「そういう事だったのか!」と、自分自身の成長に合わせて気づくもの理解できることが変化をしていくのも上級講座の特徴です。しばらく講座から離れていたり、FBで基本的な知識の理解を指摘された方は、再受講で「情報提供12のコツ」や「支援戦略」について知識の理解・整理をし、それを実際にトレーニングすることで、実力アップを図っていきましょう。