2022年度(令和4年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

2022年度(令和4年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

令和4年8月6日・7日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。

令和4年8月 認定部
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全般

今回も、非常にレベルの高い試験となりましたが、カウンセラー交代に対してのクライエントのへの配慮や、ご自身の表情・身振り手振りなど、MCを意識した対応ができている方がほとんどでした。特にMCを土台とした(盛った)要約+質問、クライアントの思いを汲んだ盛った要約ができている方については、基礎講座の内容を丁寧にトレーニングしてこられたことが伝わってきました。また、ご自身の癖やこだわり(価値観)についても把握し、工夫をされている方が多く、実際のパフォーマンスでも、都度意識されている様子が見受けられました。 残念ながら不合格だった方々も、大きく成長してきているというのが、試験員共通の意見です。その「あと少し」は、練習の回数を増やすことで埋まっていきます。是非、様々な機会を取り入れていっていただきたいと思います。
主任試験員 MRI 高楊美裕樹・MRI 前田理香

 

1.クライアントの現状に対するフラットな理解

(1)クライエントの「不安」をどうとらえたか
主訴にもあるように、クライアントは「不安」の話をしています。 状況としては、仕事も出来ていて、プロジェクトも進んでいます。実際に本人も「完璧でない」と言いながらも、「目処は立っている」とも話しています。 ただ、クライアントとしては、プロジェクトに関わって、夏となり、食欲が落ち眠れなくなったことを、「あれ、これってどこかで経験したような・・・・・・そうだ4年前だ」と関連付けてしまい、「4年前のようになるのではないだろうか?」「ミスが起こるのではないだろうか?」「周りに迷惑をかけてしまうのではないだろうか?」「またプロジェクトを降りることになるのではないだろうか?」「また休職になるのではないか?」「主治医は良い人だけど、また前のようにすぐ休めと言われるのではないか?」と、実際には起きていないことを、過剰な不安(予期不安)として受け止めてしまっている状態なのです。 それなのに、クライアントが予期不安から会議で言ってしまった「万全ではない」という言葉だけを切り取り、「ひとりだけ順調じゃないんですね」と伝えている方が何人もいらっしゃいました。 実際には予期不安なので、立て続けに起こったショックな出来事(事実)をきちんと伝えて、ショック(惨事反応)で落ちたエネルギーが、過剰な不安を生み出していること、エネルギーが2段階くらいだと、いつもの倍傷つきやすく、他のことからも影響を受けやすいことを伝え、その上で、そんな中でも出来ていること(仕事の手配が実際には済んでいることやミスは起きていないことなど)を共有し、クライエントに自分の現在地を理解してもらうことで、不安を軽減できる状況でした。
(2)クライエントが話す内容・出来事を正確に聴きとり、分からない点を確認出来ているか
例えば、クライアントはどれくらい体調が悪いのでしょうか?今回、仕事は出来ているし、出勤もしています。通勤もできているし、休日にお母さんの施設探しもできています。確かに早朝覚醒があり、眠れないのは「連休明けから」と話していますが、それは今日までずっと続いているのか? 眠れる日もあるのか? 土日はどうか? などを確認せず、「休めていない」という思い込みや決めつけをしてはいなかったでしょうか。 現在の状態や今後の対応に関わる部分は訊かないのに、4年前の休職前の様子を詳しく訊く方もいらっしゃいました。 足りない情報を何でもかんでも訊くわけではありませんが、カウンセリング目標に関わる部分は、具体性をもって聴いていただきたいと思います。
(3)死にたい気持ち
今回、クライアントの「死にたい気持ち」が語られていましたが、後半で対処された方はほとんどいませんでした。口頭試問で「前半で聴いたから良いと思った」と答えた方もいらっしゃいましたが、実際に行動に移そうとしたことや、ご本人が「怖い」と思うようなことはなかったのでしょうか? リスク対応をするということは、「母親を看取りたいから死ねないと言っているので大丈夫」ということではありません。具体的な対応策までお伝えして、初めてリスク対応をしたということになるのです。 自殺は自分の意思で止められるものなのか? もう一度基礎講座・上級講座の内容を振り返ってみましょう。 また、死にたい気持ちは3段階だけで出てくるものではありません。上級レベルでは、どの段階でも希死念慮を持つ方がいることも理解しておきましょう。

 

2.戦略的なアプローチ

(1)戦略確認シートの目的
戦略確認シートは、ベテランカウンセラーが頭の中で行っていることを視覚化したものですが、その目的はカウンセリングの方向性(カウンセリング目標)を判断することです。
そのためには、各項目に得られた情報を当てはめるだけで無く、得られた情報の程度・・・・・・
例えば、仕事への意欲はどの程度なのか、希死念慮はどれくらい具体的なのか、などの程度を確認することで目標は変化し、それによってカウンセラーのアプローチの仕方や説明の中身が変わっていくのです。ところが、戦略確認シートの内容と各目標が連動していない方が何名かいらっしゃいました。(内容が変化しているのに、目標が変化しない など)、クライアントの話す内容からリスクを想像し、それにどう手当てをしていくのか? クライアントが一番相談したいことは何で、どう説明したらクライアントが少しでも楽になるのか? 他にどんな対処が考えられるのか? など、後半の「目の前のクライエント」にしっかりと向き合って確認しながら、柔軟に目標を変えていくことが重要なのです。
(2)経緯表の目的
ほとんどの方が経緯表を使用していましたが、何のために経緯表を使ったのでしょうか?
経緯表は、クライエントが相談に来るまでの日々の過ごし方や出来事、それに伴う心身の状態、今回相談に来た理由やきっかけなどの経緯が一目でわかるという特徴があります。そのため、カウンセラーが理解するだけでなく、どう理解したかをクライアントと共有し、そこから次の展開へ繋げることができるツールの1つなのですが、これを完成させることに必死になってしまうと、目の前のクライエントがおいてけぼりになってしまいます。 後半開始直後、前半の大要約を口頭で行った上に、経緯表を表示し再度4年前からを振り返った方も複数いましたが、認識を共有することが目的ならば、大要約をした時点で、目的は達成されていることになります。 目的のないツールの使用は、貴重な時間を失ってしまうだけでなく、クライアントにも負担を強いてしまっているということを意識しましょう。
(3)疲労の3段階を説明する目的
クライエントのエネルギー状態を表す「疲労の3段階」について、経緯表とセット若しくは単独で使用している方が多くいらっしゃいました。この図も、クライエントとの共通理解を進め、現状を認識するためのツールです。そのため、目の前のクライアントに合った説明が必要になりますが、講座で学んだままの説明をする方が多く見受けられました。 講座で私たちが学んでいるスライドや説明は、カウンセラーが理解するためのものであり、クライアントへの説明用ではありません。 上級では、この説明を自分の言葉で説明できるように練習することはもちろんですが、クライアントの状況に合わせて(クライエントの言葉を盛り込んで)、アレンジができるよう練習を積み重ねていきましょう。
(4)パターン化しない
今回、様々な場面で「パターン化」した対応が非常に多く見られました。
・開始直後は、大要約をしてから経緯表を提示して確認・説明する
・死にたい気持ちがあるから3段階という判断
・うつ病経験者だからリハビリ期/再発なので、疲労で押して受診と休養 など
戦略確認シートを活用しながらクライアントの状態を理解し、その理解を深めながら、カウンセリング・カウンセラー・クライエントの目標という、それぞれのゴールをどこにするのか、戦略を立てていくのですが、その中で経緯表をどのように使うのか、なんのために経緯表をつくるのか、疲労の3段階の説明をどのようにしたら目標に繋がるか、を考えていくのです。もちろん残り時間も情報のひとつです。 その中で、見立ても目標も変化することが多いのですから、用意したものに拘らない柔軟性も必要なスキルであると理解していただければと思います。

令和4年12月10日・11日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。主任試験員講評をHPに掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。

令和4年12月 認定部
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受験者の皆様、お疲れ様でした。今回も難しくはありましたが、とても良い試験(良いトレーニング)になったのではないでしょうか?
主任試験員として講評を記載します。
主任試験員 下園壮太MRSI

 

1.上級講座で練習したツールを使うことが「戦略的」なのではない

上級講座では様々なツールを紹介しています。代表的なものが疲労の3段階の概念を活用した経緯表です。ただ、このようなツールをやみくもに使うことが「戦略的」とは言えません。
戦略的とは、何らかの目的を達成するために、適切なツールを、適切な順番・タイミングで使うということなのです。
ノコギリには切る、カナヅチにはクギを打つというツールの特性があります。クギを打つ場面でノコギリを取り出してはいけません。今がどういう状況なのかを確認して(バリア病…)、そして、例えば木を切るという目標を立てた時に、初めてノコギリを取り出すのです。
多くの受講者が経緯表というツールを沢山練習し、使いこなせるようになったがために、どうしてもそのツールを、状況に関わらず使ってしまう傾向がありました。経緯表は確かに良いツールでいろんな場面で使えます。しかし、状況に合わなければカウンセリング全体としてマイナスになってしまうのです。
今回の試験のケースでは、あまり有効なツールだったとは言えません。

戦略的思考の1例
<協会行事>
場面
〇リハビリ期
  →良くなっている。4者会談でショックを受けた(惨事反応?)
  →市の相談に行って「わかってもらえない」→今回は味方を重視、まずはキチンと事柄を聞き、
   共感を重視すべき
  →リハビリ期特有の焦りや不安、自信の低下、自責はあるハズ、と同時に復帰したいと復帰が怖いという葛藤も
   予測できる→うつになった経緯を振り返るのが有効かも…
〇おそらくきちんとした復職をしてくれる会社だが、わざわざ市の相談所に行った上で、MRに相談
  →会社に言いにくい?
  →第3者の専門家に、違う意見を求めている?
  →復職時期だけでなく、若しかしたら復職先への恐怖?
リスク 〇リハビリ期
  →希死念慮
〇復職時期の不当な延長
  →復職意欲の低下→退職の恐れ
  →金銭問題→もしそうなら継続カウンセリングは負担になるか?
安心・安全 会社に対して不信?孤立?コミュニケーション取りにくい?
   →味方重視
病気 うつだが、良くなっている。主治医とも長い関係
   →以前のことは良しとして、今の状態を確認すべき
エネルギー 復職許可から、おそらく2段階上だが、惨事で落ちているか?現状が不明
抑圧・緊張 不明
味方 未定
面接開始時の白紙的なゴール(カウンセリング目標)としては、「まずは味方になる。同時にクライアントの本当のニーズを確認する」が、考えられます。

前半面接(30分)の探索的な情報収集のおかげで、このクライアントは、「これからの過ごし方」というよりも、「理不尽に会社都合で復職を延期された不満や不安」が一番大きなテーマ(相談したいポイント)であることがわかりました。
もしそうなら、過去のうつ病になった経緯とか回復の経緯は、あまり相談したいテーマではないのです。 それなのにほとんどの受験者が今日に至るまでの経緯表での説明に10分近く要していました。
木を切る場面が出ないのにノコギリを取り出し、結果的に大切な時間を不用意に使ってしまいました。

2.目標の選択(修正)

今の復職に焦点が絞られた後は、次の白紙的ゴールとしては、大きくは
①会社の提示の通り2ヶ月後に復職する
②自分の希望を伝えて、早く復職する
の二つが見えてきます。
このようなゴールが見えてきた場合、それぞれの方向に進むための手順(中間目標や確認すべき情報)を考えます。
まず、いずれにしても現在のクライアントの状態を再度確認しなければなりません(バリア病のエネルギー、病気)。
〇現在の体調が悪く、すぐの復職は不適当と判断される場合
そもそも復職ができる状態でなければ2ヶ月復職が伸びることは、むしろラッキーなことなので、そのことをきちんと説明できれば、Clの苦しみを大きく改善できるはずです。その際は「復職後に環境変化があり、復職が困難になった事例」などを紹介すると良いでしょう。
そのうえで、そうはいっても経済的な不安がある、どう過ごせばいいかわからない、という次のニーズに支援していきます。
〇現在の体調がそれほど悪くないと判断される場合
この場合、さらに、
A:早期の復職を主張する
B:主張しないで我慢する
という心理的な葛藤がある2つのゴールが予想できるでしょう。
というのも、単純に主張できるのであれば四者面談のあとすぐにでも主張していたはずです。主張できない、何らかの大きな葛藤が存在していることを察知するべきです。


3.葛藤への対処

このような葛藤がある場合は、もう一度、葛藤にまつわる事柄を細かく聞き、葛藤の細部を聞き、盛った要約で全ての感情に共感します。 現実問題に際してすぐ対策を考えた受験者が多かったのですが、対策に進む前に、必ず共感する(このテーマに置いてもう一度味方になる)ことが重要です。
このケースでは、まず事柄の確認として、A、Bどちらに進むかは、バリア病の例えば「場」として、4者面談での状況や産業医の人柄、職場復帰についての会社の決まりや通例などの情報を収集する必要があります。
そして、
A:主張する場合は、それに伴う不安(主張する罪悪感、産業医に嫌われる恐れ、主張したのに結局上手く仕事ができない不安など)
さらに、
B:我慢する場合は、その我慢に伴う苦痛(金銭面、徒労感、不安感)などの細部を聞く必要があります。
これらの内容をしっかり聞いたうえで、きちんと盛った要約で共感しないと、次の現実問題への提案に対しても抵抗感が残ります。

4.現実問題への支援

いよいよ現実問題への支援ですが、
例えば、主張するという方向性に対する現実的な方法論としては、
 自分で主張する
 誰かに主張してもらう
 カウンセラーが同席もしくは代行して主張する
などの方法論が考えられます。
受験者の多くが、「私が説明してあげましょう」という提案をしていましたが、上級講座1の会社上司への説明パターンを適用したものと思われます。
ただ、この「カウンセラーが同席して説明する」という方法も1ツールでしかありません。
いつでも使うというものではなく、それが有効な時に使うものです。
その有効性を確認するには、Aの場合の心理的な葛藤についてきちんと情報収集しておかなければなりません。
一般的に言うと、主治医と産業医と会社がしっかり支援している復職に、突然、第3者が意見を言うのは、当事者たちにとってあまり気持ちの良いものではないでしょう。
もしかしたらカウンセラーが入ったことで、会社のクライアントさんに対する態度が悪化する可能性さえあります。習ったからやるというパターンではなく、きちんと状況を把握してから提案しましょう。
また、産業医と会うという提案をした方に、「具体的にどういう話をしますか」と聞いたところ、クライアントの気持ちを代弁しますと答えた方が多かったようです。
しかし、このようなケースはでは、気持ちのケアをするカウンセラー的なスタンスではなく、実際の対応を協議するコーディネーター的なスタンスが必要になります。復職支援の具体的なメニューやクライアントの要望を、相手に上手に受け取れる表現で伝えていけるように準備しましょう。
カウンセラーが代行する(もしくは付き添う)場合も、本人自身に伝えてもらう場合も、クライアントにとっては大変難しい交渉になるので、「産業医にこのような手順で相談して、こういう提案をしてみる」というように、具体的な内容をプレゼンの言葉使いまできちんとシミュレーションし、相談場面で実際言葉にして準備をするところまで支援したいものです。

5.終わり方

また、この場面(現実問題対処)に進んだ人の多くが、時間切れになり、ある提案を投げて終わりという形で面接を終結していました。
デパートで限られた時間で買い物をし、もう、商品を袋詰めして、リボンをかけてもらっているときに、「まだ、これも大切だから」と、店員がどんどん商品をセールスして、詰め込むのは、どうでしょう。商品を持ち帰る客の立場を考えず、ただ「支援してあげたい」という店員の気持ちを押し通しているだけ、つまり、わがままな行為です。
本解説でお分かりのように、これらの手順で丁寧な支援をするのは、20分ではかなり難しい量です。経緯表で時間を無駄にはできないだけでなく、丁寧にやっても、次回面接に積み残さねばならない場合があることも、開始の時から想定しておかなければなりません。
次回に回すときこそ、終わりの5分は、きちんと今日の作業の進み具合と、次回何をどうするのかのカウンセリング目標、それまでの間クライアントは何をすればいいのかのクライアント目標などの説明のために、残しておかなければなりません。
そのような時間管理ができることも、戦略的カウンセリングの重要なポイントの一つです。