平成25年度MRL認定試験における主任試験員講評

平成25年度MRL認定試験における主任試験員講評

平成25年10月5日・6日MRL認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園MRインストラクターより講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。  2013.10.15 認定委員会
 
※今回からMRL試験は、介入目的調整面接と基礎講座(課目講師)の2課題になりました。
 
1. 介入目的調整面接
介入目的調整面接は、介入チームと要請した組織との共通の目標や、具体的な介入(支援)内容を決めるための面接です。
介入を要請した組織は、惨事の特性や介入についての基本的な知識を持ってない場合が多いので、MRLが主体的に情報提供しながら進めなければなりません。しかしながら一方で、この面接の相手は、通常自分自身も惨事で参っている人である場合が多いのです。つまり、イライラし、対人恐怖を持ち、不安が強く、焦っており、理解力も低下しています。そのような人に対し、カウンセリングのスキルを活用しながら上手に情報提供をすることが求められます。介入目的を調整する時の手順は、まず自分の中にある程度の目標値や具体的ツールのイメージを持ってことです。
例えば事前情報から、女性の多い職場であること、支店長も女性であること、現場が支店の目の前であり事故に関する情景や音を直接聞いた人が多いこと、Aさんが未だにICUに入ってることなどから、ファーストショックが大きいことが予想されます。またその後たまたま営業のピークを迎え、業務が逼迫していることから、セカンドショックに対しても注意が必要であることが想像できます。さらに支店長に対するイライラ感が募っていることから、情報提供の不足や、疲労のコントロールが不十分であることなども予想されます。
これらの状況の特質から、介入メニューを一応考察しておき、その白紙的なメニューが正しいかどうか、どう修正していくかを支店長との面接の中で1つずつ明らかにしていくのです。そして面接を通じて、介入に対する期待値(目標) についての共通認識が持てるようにしていきます。
ただこのような作業をするときの一番のコツは、 CPSの試験と同じように「味方になる」ことです。極論すれば、支店長に対するカウンセリングが成功すれば(味方になりさえすれば)、「この人に任せても大丈夫だろう」という印象を持ってもらい、提案するメニューも受け入れもらいやすくなります。当然その後の介入自体も容易になります。
しかしながら今回の試験では全般的に上手に味方になりきれていないように見受けられました。次のような点に気をつければいいでしょう。
 
(1)単なる説明の押し付けにならない
「どういうことをしてくれますか」と質問されると、自分が準備したメニューやその必要性を論理的に述べようとしてしまいます。しかしここでまず必要なのは相手のニーズを確認することです。そしてこちらのメニューを押し付けるのではなくメニューを「共同で作り上げる」と言う姿勢を強調します。相手に選択の負担感を与え過ぎてはいけませんが、かといって全てこちら側の思惑で進めるというのは、不安の強い相手には抵抗感を持たれてしまいます。「われわれはこういう経験値を持っています、だから概要を聞く限り今回のメンタル上の問題点はおそらくこういうことだと思います、あなたのお困りのポイントに対しては、こういうツールで支援することができます、さてどうしましょう」という流れで進めていくと良いと思います。
 
(2)説明より体験談(事例)を先に語る
論理的な説明は、頭の回らず、不安の強い相手にはなかなか受け入れてもらえないことが多いと思います。まず事例を語ることが重要です。
例えば今回の試験のようなケースでは、「このような事故の後のリーダーは、やはり皆さんとても自分のことを責めてしまう傾向があります(あなただけではないですよM)、過去にお手伝いした組織のリーダーもこんなことがありました…。」自責を「症状」として説明するよりも、他の人でもそうだという情報を与えたほうが、本人はより安心します。さらに「そのようにいろんなケースをサポートしてきた人たちなんだな」という、介入チームに対する信頼を感じてもらうこともできます。
 
(3)カウンセリングと説明のバランスを適切にする
カウンセリングは重要だからといって、 惨事対応のようにあまりにも体験を詳しく聞きすぎると、本当に個人のカウンセリングになってしまいます。時間があり、相手が1人の場合は個別のカウンセリングになっても構わないのですが、相手が複数いる場合や時間に制限がある場合などは、介入目的の調整や提案の方にも時間を取らなければなりません。
そこで、事件の概要だけを聞き、後は介入目的挑戦面接をする段階、例えば情報提供や惨事後ミーティングというツールを説明する流れで、「先ほど支店長が、部下のみなさんが自分のことを信頼していないのではないか、とおっしゃってましたが、例えば、あの時、支店長さんがどんな思いをして、どんな狙いを持って、どういう行動をされたか(これまで聞いた具体的な内容を要約する)を、例えばこのミーティングで具体的に説明してあげると、皆さんの不信感もだいぶ緩むのではないでしょうか」などとケア的な要素を含めて説明をしていくのです。
 
(4) メッセージコントロールをさらに磨く
説明もしなければならないという面接なので、どうしてもそのことに意識が向き過ぎ、これまで学習してきたメッセージコントロールが十分に表現できていない人が多かったようです。
頷きのタイミング、要約・質問など基礎的なことをもう一度確認して、しっかり味方になれるようなメッセージコントロールスキルを身に付けましょう。説明はどうしても裏メッセージに取られやすくなるので、がけ崩れ対策も、こまめに、早めに実施できるように気をつけましょう。
 
2. 基礎講座(課目講師)
かなりよく練習しており、内容についての理解もほぼ出来ているという印象を受けました。
ただ、講師が理解しているだけでは不十分で、いかに受講者に伝わるかが問題なのです。次のことに気をつけていただきたいと思います。
 
(1)リハーサルを実施すること
理解するための勉強(インプット練習)はかなり進んでるようですが、アウトプットの練習が不十分なようです。例えば実習を伴う基礎講座では、実際に実習を回してみると、時間管理を筆頭に様々なところに工夫が必要になりますが、そのような実際の練習(リハーサル)ができていなかったように思います。
また事例や比喩を使うことは、とても有効な説明のためのツールなのですが、自分では理解していても、相手にどのようにその事例や比喩が伝わるかは、実際に何度か、いろんな人に試してみる必要があります。思わぬ理解をされることがあるからです。
 
(2)ここでもメッセージコントロール
内容+印象が講師の実力だと思ってください。表情や態度、言葉づかいはとても重要です。
また、試験ではどうしても緊張してしまうでしょうが、実際の講座(本番)でも緊張するものです。自分で緊張を、ある程度コントロールできることも、講師としての重要なスキルです。