平成29年度MRC認定試験における主任試験員講評

平成29年度MRC認定試験における主任試験員講評

平成29年4月8・9日MRC認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   29.4.9 認定部
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29年4月9日、13名の方がMRC試験に挑戦していただきました。毎年受験者のレベルが向上しているのを感じます。頼もしい限りです。全般的に気付いた点をいくつかアドバイスしておきます。
 
1.支援目的調整面接
(1)メッセージコントロールについて
基本的には、皆さん非常に上手になっています。ただ、CPSと違い、必死に思考を働かせ、こちらの伝えたい事も考えながら、相手に対応しなければなりません。このとき、男性は、自分の思考の方に集中してしまうと、どうしても自分の表情への配慮が薄くなりがちです。すると相手(特に女性)にとっては、「冷たい」「わかってもらっていない」というメッセージとして受け止められてしまうのです。たとえ支援目的調整面接の戦略的な組み立てが論理的にしっかりできていても、結局、人が人に提案し、受け入れてもらう作業です。レベルが上がるごとに、常にMCに対する意識も新たにして欲しいと思います。
 
(2)自責の念の取り扱い方について
以前にも触れた(28年12月のUCPC試験講評)のですが、まだ自責についての対応が不十分な方が多いように感じました。自責の発言があったら、すぐに、自分を責める必要はないという視点でアドバイスしたり、自責は症状なので、じきに落ち着くという説明をしてしまうのです。クライアントのつらい思いを何とかしてあげたいという温かい配慮はわかるのですが、MC的には、「変われM」となってしまいます。まずは、「そうか、そうなると自分を責めてしまうんですね。それはつらいですよね」と、自責の苦しさにしっかり共感してください。まだ面接が開始されて20分も経っていません。まだ味方になる段階。いきなり「変われM」のところに飛んではいけません。この段階では、「つらいですね」という共感のみで、「止める」のです。アドバイスや説明などせず、しっかり要約して、つらいですね」というだけです。その雰囲気を共有できたら、関連のほかの話題を振って、自責の念から気持ちをそらしてあげましょう。
 
(3)感情を返すときの要約
自責の念に対して上のように「つらいですね」とコメントする際にも、必ずその前に、クライアントが発言した内容を要約することを忘れないでください。「つらいですね」と単独の言葉だけの方がいらっしゃいます。要約・質問(あるいはコメント)は、MC講座で非常に重視してお伝えしている重要スキルです。ぜひ、繰り返し練習し、自然に要約できるようにしてください。
 
(4)常識的な対応
専門家は案外常識がないと言われがちです。学んだことにより視野が狭くなってしまうからです。
支援に入るときには「常識的配慮」が重要になります。例えば今回であれば、まずは意識が戻らない重態であるAさんに対する配慮、お見舞いの意識が欠かせません。しかし、何名かの受験者には、そのような配慮が見受けられませんでした。
ぜひ、「自分が支援を受ける人の立場だったら…」と深刻に考えてみましょう。
 
2.情報提供
(1)言葉の選択
情報提供という言葉は、講座の中で使っている言葉です。現場ではそれが相手にどのように受け止められるかを考えなければなりません。例えば、今回のケースで情報提供をしますアナウンスされると、支援を受ける皆さんは、事故について新たな証言があったのか、会社の方針が出たのか、Aさんの容態についての新しい情報か…などと期待します。そこで今回の情報提供なら、「メンタルヘルスに関する簡単な講習」などと表現するといいでしょう。
また、MR(エムアール)という言葉も、一般の方には内容が想像つかない言葉です。メンタルレスキュー協会と紹介するほうが、よりわかりやすいと思われます。
 
(2)事例と比喩の使い方について
昨年度の上級組織講座では、説明に際し事例を使うことを何度も練習してきました。試験では、その成果を発揮していただき、ほとんどの方が事例を使って上手に説明することができました。素晴らしいことだと思います。
ただ、事例はMCと同じように、強力なツールだけに、使い方を間違えると逆効果にもなってしまいます。事例を使うことができるようになったら、次はより効果的な事例の使い方を練習していただきたいと思います。
例えば、今回は交通事故で瀕死の重傷というケースです。できれば、同じような深刻さ、構造の事例を選択したいものです。また、紹介した事例と実際の今回の事故との関連性(類似点、相違点)を丁寧に説明していくことも必要です。それがないと、違和感のみが強調されてしまいます。
 
(3)目的とテーマの選定(合格した方へのアドバイス)
全体的に、ASRの説明をテーマにした方が多かったように思います。MRCレベルではそれで十分だと思いますが、MRIを目指す場合には、もう少し目標との関連をしっかり考察することが必要です。
例えば、もし支店長の関心が離職の防止であるとすれば、社員が離職したいと思う理由を考察します。支店長の日ごろのリーダーシップかもしれません。事故の時に支店長が動けなかったからかもしれません、事故の原因の一つが支店長のAさんに調べ物を命じたからだといううわさを聞いたからかもしれません、あるいは、事故の後に支店長があまりにもクールに日常を送っているからかもしれません。このように様々ケースを考察し、退職希望者が特定できない今、そんな気持ちを持っている人に、だれが、いつどんな情報を提供すれば、離職を思いとどませることができるかを考えます。
例えば私なら、支援が1日しかない今回の状況の中で、まず支店長の今の状況を皆さんに代弁します。例えば、当日、Aさんに仕事を依頼した細部の状況、事故の現場での判断、動けなかったことに対する自責、その後のAさんへの思いなどを、伝え、同時にそれが惨事後の反応として仕方のないことであったことを、私たち専門家の視点として、他の事例を交えながら説明します。
また、その後この様な同僚の事故の場合、退職したいという思いや、仲間間のトラブルが発生しやすいことを、これまた事例を使い説明し、専門家のアドバイスとして、このように精神的に動揺している時期には、退職などの大きな判断は保留するべきということを伝えます。
その様な情報提供をしたのちに、個別の面談の中で、個人の悩みを聞いていく手順で、全体のサポートを構成します。
支援する際は、必ず目標を立てて、それに応じたメニューを作らなければなりません。前回これだったからとか、これがやりやすいから、慣れているからというスタンスでは、本当に有効な支援になりにくいのです。MRCに合格した方は、これからは、パターンを捨てて、状況をよく把握し、しっかり考察しながら、支援するスキルを身に着けていきましょう。
UCPC、惨事後ミーテングファシリテーター、MRI試験が、そのような戦略的な支援を身に着けるための次のチャレンジ目標になります。
また、今回めでたく合格した方には、ぜひ協会の基礎講座等のクライアント役や実技指導者役になっていただきたいと思います。というのも、クライアントが何を感じ、何を伝えたいのかを察知する感覚や、自分が伝えたいことを、言葉と表情を一致させ、かつ受け取り手としての相手(クライアント)の気持ちを想像しながら、MCコミュニケーションを進めるスキルは、トレーニングして磨くしかないのです。理屈で学ぶのにはどうしても限界がある。もちろんカウンセリングの場があれば、それが一番のトレーニングになるかもしれませんが、それでも指導してくれ、お手本を見せてくれる人がいるわけではありません。そう考えると、現実的には基礎講座等の実技指導者やクライアント役の場が、まさにこのMCコミュニケーションスキルをみがく絶好の場となるのです。
実技指導者やクライアント役になるためには、実技指導者勉強会に参加しなければなりません。次回の勉強会は、6月18日です。
またMRC以上は、MC普及講師としても活躍できます。そのためには、普及講師養成講座を修了しておく必要があります。これは、5月20日です。

平成29年8月11日MRC認定試験におけるアドバイザー講評

今回の試験について下園MRSI(アドバイザー)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   29.8.12 認定部
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29年8月11日、4名の方が挑戦していただきました。
それぞれの方が本当に努力して短所を克服し、いろいろな準備して臨んで頂いたことがわかる試験でした。中には、過去受験に失敗した経験をばねにして、非常に高いパフォーマンスを発揮してくださった方もおり、試験員も感激しておりました。
皆さん、確実に進歩しています。ただ、残念ながらまだ修正しきれていない部分もありました。以下、共通的に気を付けていただきたい部分をお伝えします。
 
1.共通
MRC試験は、基礎知識の筆記、支援目的調整面接、情報提供の3課目です。このうち基礎知識は、出来て当然なので、特にコメントはありません。あとの二つの課目に、共通することを記載します。
(1)事例が足りない
これまで何度もお伝えしていますが、事例での説明が不十分です。事例で説明しないと、理屈での説明になります。理屈(論理)での説明は、受け取り方にばらつきが大きく、また上手に説明すればするほど、講義調になり冷たい感じがしてきます。
現場で一番説得力のあるのは、事例です。しつこいようですが、そのことをすべての受験者はもう一度認識し直していただきたいと思います。
例えば、今回はファーストショックを説明した受験者が多かったのですが、「無力感対策7つのステップ」で解説しているように、まず伝えなければならないのは、「みんなそうだよ」ということです。その次に「理由があるよ」の順番です。
ですが、ASRの症状を紹介したのち、すぐ原始人の説明に入ると、心理学の講義になってしまうのです。症状を紹介したら、次は事例で「みんなそうだよ」Mを出すべきです。他の事故でもこんなことがありました、と具体的に話すと、「私と一緒だ」と思ってもらいやすくなります。そのうえで、時間があれば、原始人の比喩でフォローしてもいい(「理由があるよ」M)。あくまでも、原始人の比喩より、事例の方が優先されるものだということを再意識してください。
 
(2)過去の講評を十分理解する
受験者は、同じようなところで悩むものです。過去の講評を見れば、ヒントが書いてあります。ぜひ受験の際は、過去の講評を熟読し、理解して対策を考えてきてください。
要すれば、自分が受験する認定試験以外の講評にも目を通すといいでしょう。どのレベルでも、本質は同じだからです。
 
(3)MCをさらに鍛える
それぞれにMCを鍛えて試験に臨んで頂きました。うなづき、相槌、声の大きさ、はよくできていると思います。 ただ、個人ごとに苦手な分野があるようです。例えばある受験者は、お悔やみの言葉を伝えるときに、間合いなく伝えており、業務上の言葉のような印象がありました。ある受験者は、要約がほとんどなく、話をするときも口癖が修正しきれずにいるので、話が伝わりにくいという面がありました。ある受験者は、表情が硬く、盛った要約も少なく、質問が続いたので、冷たい印象を与えていました。いずれの受験者も、このようにMCが不十分な場面では、クライアントが話しにくそうにしています。
MCは、なかなか一人では修正できません。ぜひ複数で練習するか、VTRなどを効果的に活用して練習してください。
 
(4)ファーストショックとASRの関係を正しく理解する(テストについても)
惨事反応として、ASRだけが念頭にある方がいらっしゃいます。ファーストショックは、ASRプラスうつです。惨事にあった方は、当初から自責の念や自信の低下、不眠、食欲不振などがあるのです。そのことは、なんとなくは理解しているのですが、説明の時はASRだけになってしまうことが多いようです。
また、試験の中で、IES-Rの説明をするとき、「例えば、惨事後の反応として食欲不振があります」と発言したのに、IES-Rには食欲の項目はありません。IES-Rは、ASRだけのテストなのです。テストの内容や使い方についても、現場での素朴な質問に対応できるように、しっかり復習しておきましょう。
 
2.支援目的調整面接
(1)細部を聞くか調整を進めるか
出来事の細部を聞くか、必要な説明や調整に時間を取るか、ケースバイケースで難しいところです。もちろん相手の態度によって変えなければなりませんが、一応の目安を知っておくといいでしょう。
今回のように調整相手が、惨事現場にかかわっている場合は、まずその人に詳しい現場の状況を聞くのがセオリーです。その現場の悲惨さを知ることは、単にその人物のカウンセリングになるだけでなく、事故全体を知る一番の近道だからです。
さらに、そのカウンセラーとしての態度が、調整者の信頼を得ることになり、結局、いちいちツールなどを説明して理解してもらうより、支援全体がうまくいきやすくなります。
 
(2)情報→目的→ツールの選定→使い方の思考を理解する
上にも関連するのですが、結局調整相手の話を十分聞かないと、ニーズを掘り起こせません。支援目的調整面接の前に、白紙的な支援戦略は持っていても、それはあくまでたたき台にすぎません。現場に来ると、思っていた状況と違うことがあるのはよくありますし、調整相手の意向もあります。柔軟に対応しなければなりません。
調整相手から得た情報をもとに、目的(ニーズ)が変わると、当然、準備していたツールを変えることもありますし、同じツールでも違う使い方をすることがあります。例えば、支援時間がないので、記名のIES-Rアンケートでファーストショックのハイリスク群を選別して、個別カウンセリングをするという計画だったとしましょう。ところが、目的調整面接で調整者が、最近の過労状態を気にしており、全員を面接してくれという意向を持っていたとします。その場合、同じアンケートでも目的が「選別」ではなく、「全員面接をより効率的にする」ために変わります。そのためより書きやすくするため無記名にしてもらい、カウセリング時に持ってきてもらうように変更します。また、疲労の状態を確認するためK-10を加えます。このあたりの一貫した思考ができていない方がいらっしゃいました。
 
(3)対象を十分に認識する
講座や勉強会で練習した方法をアレンジしないと、支援対象に合わない支援、情報提供をすることになってしまいます。例えば、今回のケースであれば、事件現場にいたのは数名。その他の方は、それほど事件そのものには触れていないという状況です。現場を避けるとか、においに敏感、などの症状はそれほど多くないと思われます。また自殺でもないので、自責というより、不安の方が強いでしょう。
これに対して、パッケージの回避、侵入、過覚醒の説明をすると、「私たちには関係ない。私たちのことをよくわかっていない」という印象を与えてしまいます。しっかり、対象者の心情を想像することが大切です。
 
3.情報提供
原始人の説明をするとき、通常は「自分を守るために」という言い方をします。ところが今回合格した方は、「自分と仲間を守るために」という文脈で説明しました。
惨事の時は、自責が働きます。自分のために反応した、ということに抵抗を感じる方もいるのです。自分のためだけでなく、他人のために、イライラや現場を避ける反応があるのだという解釈は、自責が強い方にも受け入れられやすい、素晴らしい配慮だと思います。ぜひ、試験だけでなく、実際の支援の現場でも活用したい説明方法だと思いました。