2022年度(令和4年度)MRI認定試験における主任試験員講評

2022年度(令和4年度)MRI認定試験における主任試験員講評

2022年9月24日・25日MRI認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   2022.10.03 認定部
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今回も皆さんが熱心にトレーニングをして、とても高いパフォーマンスを見せてくれたことに主任試験員として満足しています。以下、今後の参考となるようなことをまとめます。

MRSI 下園壮太

     
1.基礎講座:課目講師
説明力
説明力には、「正しく」説明する力と、「より強く伝える」力があります。いずれももう少しずつ、鍛えていってほしいと思いました。
まず、「正しく」説明するですが、これには2つのレベルがあります。
講師として伝えるには、まずは正しく「理解」する必要があります。そして、このスライドではこれを伝えるという「要素を落とさない」ように説明していきます。これが第1段階でしょう。
VTR教材、テキストなどがあり、スライドの内容を一方的に説明できる理解のレベルには、ほとんどの方が達していると思います。また、講師の練習を自分で積むことで、発表の際の要素の落としは少なくなっています。
ただ、実際の講義では、受講者の様々な質問などに対し説明しなければならない場合もあり、それに対応する深い知識(これが第2段階です)がまだ不十分だと感じました。
 協会のスライドが、一般的な学術説明などと違う場合、どうしてそうなっているのかなどに素朴な疑問を持ち、ぜひ、上級者に聞いてディスカッションし、理解を深めてください。

深い理解の一例(質疑への対応の一例)
  • 「味方」と信頼関係・ラポールとの違い
  • メンタルレスキュー協会で味方を強調しているのは、通常のカウンセラー教育のラポールや信頼関係は、カウンセラーが客観的、論理的であることを重視しており、それでは強力な共感ができない。よりクライアント寄りの理解をする態度を強調するためにあえて「味方」と表現してある。
  • 5+5と、うつの診断基準の違い
  • 診断基準は、医師が自分たちの作業(治療)の「区分」をするための手がかりとするためのもの。カウンセリングでは、診断するより、まずは味方になる、つまり共感しなければならない。そのため、本人があまり苦しいと思わず、しかも共感しにくい「楽しみの喪失」などは大きな項目として入れていない。ただし、うつのリハビリの最後の時は、この「楽しみがない、意欲が出ない」という内容がとても苦しく、共感すべきポイントになる。
  • 無力感と自己肯定感の違い
  • 自己肯定感、自己受容、自己効力感などの言葉があるが、これは、自己理解、自己改革のための区分として議論されるもの。メンタルレスキュー協会では、自己改革ではなく他者支援を教えている。つまり「内面の問題解決ではなくカウンセラーが味方になるだけで、クライアントの孤独感が救われ、死にたい気持ちへの対応できる」ということと、その方法論を伝えている。方法論の中では、第3,第2の無力感のケアを重視し、そのためのカウンセリングの手順を理解しやすいように、「3つの無力感(自信低下)」と表現してある。
  • FS/SSとASR/PTSDの違い
  • これも、医学の診断基準では、介入のタイミングが重視されず、かなり時間が経った後の診断のための区分。メンタルレスキュー協会では、診断より、介入時の支援を重視している。そのため重篤化を避けるためのメカニズムを理解し、時々のつらさに共感したうえで、いつ何を注意すればいいかのアドバイスをするための区分。 なお、DSM4では、4つの痛いところがほとんど表現されておらず、ASRの区分だけだったので、その項目では共感が難しかった。DSM5でそこが補完されたが、FSからSSへの変化のダイナミクスは表現されていないので、協会としては引き続きFS/SSの区分での説明を継続している。
    (参考)惨事の基礎講座VTRには、このDSM5の改定に伴う追加説明VTRが追加されています。確認しておいてください。
伝達力を上げる
メンタルレスキュー協会の情報提供力(プレゼン力)は、惨事やうつのクライアント、つまり聞く力が低下した人にでも伝わるように、正しく理解はするものの、相手の特性に合わせて、より伝達力の高い説明ができる力を求めています。
伝達力を上げるには具体的には、
  • MCをきちんとすること、リズムを意識し、単調に陥らないこと。Zoomの場合、相手にどう映っているか、聞こえているかをきちんと確認、イメージすること。表情を豊かにするだけでなく、手振りを交えること。
  • スライドのアニメーションは、自分の説明しやすいように順番を変えても結構です。また、このスライドは、「前のスライドのここと関係します」のように、前後しながら進めた方が、受講者の理解が容易になります。
  • 伝えたいことを、きちんと絞ること(自分が要点をきちんとつかむこと、「このスライドで言いたいのは一言でいうと○○」のように。)
  • 相手理論にすること
  • 「素朴な疑問→回答」の流れ(単純理論)で進めていくこと(今回は特にこれが不明確だった印象)。講義の説明も、この流れで行う。これをきちんと意識すれば、スライドのつながりがよくなるはずです。
  • 竹でヒレ…(覚えていますか?情報提供12のコツ)で紹介したように、単純理論を事例、比喩で補強する。
  • 以前、協会が伝え方で強調していたこととの違い
  • コロナ前、現場での講義は、目線、立ち位置、受講者との交流などを重視して指導していましたが、オンラインになると、それらより「話し方」の比重が大きくなります。話し方のスピード、言葉の選択、単調さなどが、以前より重視されると意識して下さい。つまり、話し方が早すぎるというのは、以前より大きなデメリットになります。
  • 視覚情報で混乱させないための工夫
  • 装飾品、服装は端正にするとともに、Zoomの背景はできるだけシンプルにし、受講者の視線を惑わさないように工夫します。
質問に答え(応え)られない時の対応
課目講師の伝達力について解説してきましたが、上級組織1でも紹介しているように、メンタルレスキュー協会が、プレゼン力(情報提供力)を重視しているのは、単にカリスマ講師を育てるためではありません。
 惨事介入の際は、情報提供することがとても有効だからです。その際、内容を伝えるということ以上に大切なのが、情報提供する人の「人柄を売る」ということです。その場で「味方」になっておけば、のちの支援は大変容易、効果的になります。
 人柄が出るのは、情報提供の時より、質疑応答の場面です。
基礎講座や支援の現場では色んな質問が来ます。日頃から正しく深い理解を進めておくことは重要ですが、どんなに準備しても、全ての質問に相手が納得してくれる答えを提供できるとは限りません。
答え(応え)られないとき、この時が大切です。
質問を受けると、すぐ論破したり、説得したり、多くの言葉を乱発したくなりますが、その態度は、受講者に、カウンセリングでの対応を想像させます。
防御的にならず、相手の質問の背景(真意)を探る必要があります。時間の関係、他の受講生への配慮もありますが、できるだけきちんと要約・質問し、論理的正解で説得するというより、質問者の心が落ち着くような答えを模索してください。
 論理的にきちんと答えられない場合は、無理やり答え、説き伏せるより、「後でもっと上級のインストラクターに聞いて、お答えしますね」と誠意を見せる方が良い印象を残します。
 

2.支援目的調整面接
状況に応じた対応ができるか
状況を把握し、それに応じて対応を変えられること(戦略的対応)はとても重要なスキルです。MRI試験ではそこが重視されて見られます。一般的な試験では、習ったことを正しく再現する、事が求められるかもしれませんが、MRI試験では、ただ、習ったようにしたら、落ちてしまいます。

  例えば、今回のシナリオは、端的に言うと、メンタルレスキュー協会に求められているのは、次の二つです。
  • ショックを受けているAさん(隠しているがもしかしたら会長も)の惨事ケア。
  • 自殺した人の使い込みのうわさ対応
これに対して、上級でお伝えしたパッケージで対応するのは、少しピントがずれています。
個人カウンセリング(必要に応じて5名の惨事後Mを追加)で、十分です。その中でFSの教育や応急的なストーリー説明もできます。5人ならアンケートもいりません。
それより、若しかしたら観光協会の存続にかかわり、コロナ後の生き残りをかけた地域観光の大きな足かせとなる「不祥事」への会長の対応を助けることが大きなテーマになります。 メンタルヘルスの「表の目標」をうまく使いながら、どこまで皆さんの支援ができるか。まさに応用力(戦略的アプローチ)が試される状況です。

いずれの目標(ニーズ)に対応するにも、まだ情報が足りません。
支援目的調整面接前にわかっていたのは、
  • ニーズの細部が不明
  • ケア、と会員への(不祥事の、自殺がらみの)説明とあるが、惨事ケアの対象は?、説明って、誰にどんな説明が必要?
  • リスクの細部が不明
  • どんな不祥事?、どんなうわさ?、広がるとどうなる?
  • 支援対象の細部が不明
  • 会員のどこまでを対象?ご遺族は?
支援目的調整面接に入る前に、バリア病で把握し、目的調整面接で調整するべき事項(質問していく内容)、それに使える大まかな時間。今の状況で誰のどんな苦しみにどんな対応をしていくかの白紙的目標イメージを持っているべきです。

支援目的調整面接が始まってからも、いろんな情報が出てきます(バリア病の変化)
  • 当日救命対処したと思われる2人が支援目的調整面接の対象
  • 支援目的調整面接が進むにつれ、相手役のお二人が、自殺現場対応した2人だということがわかります。さらにかなりショックな現場だったことも。お二人と亡くなった方がかなり親しいことも…。

このような状況の中で、味方になり、きちんと情報収集をし、支援目的やメニューを調整しなければなりません。支援目的調整面接1時間の中で、惨事の話をどれぐらい聞き、説明するのか、明日からのケアのためにどれぐらいの時間を残すのかの、話題の選定を、適切に決断しなければなりません。
しかし、受験者の中には、惨事対応やMRC試験などで学んだ(練習した)パターンで対応している人がいました。その方々は、目的意識が薄かったように感じます。

例えば、
  • 当日の話を聞くことが、どんな意味があるのか。
  • 亡くなった方と支援調整面接参加者のつながりを聞くことがどんな意味があるのか
  • 支援調整面接参加者の惨事反応への「みんなそうだよ、理由があるよ」の説明が、どういう意味があるのか。
  • 辞めたいというAさんと、辞めてほしくないという会長の問題解決をすることが、今どういう意味があるのか
支援目的調整面接の時間は1時間、聞くべき内容、調整するべき内容はたくさんあります。話題は、目的(意味)をきちんと理解し、受験者がコントロールしなければなりません。
この話題の選定が、きちんと意図をもって行われているのではなく、パターン化、クライアントの発言にただ対応したものである場合が多かったように思います。

自分のコミュニケーション上の癖
MRI受験クラスになると、覚えた内容をアウトプットする段階で、どうしても自分の性格、価値観の個性が出てきます。それが、現場であまり良い効果を発揮しない場合は、練習の段階から指導者から指摘を受けており、受験者は、頑張って修正しようと努力しているのです。合格不合格問わず、全ての受験者が、かなり修正してきています。その努力には頭が下がります。
ただ、まだ十分とはいえない面があります。価値観や癖の修正には、かなり気力とエネルギーを使うので、一時的はできても、長続きしない。講座の後半や、支援目的調整面接で、内容に集中した時など、癖がそのまま出てしまいがちです。

 例えば、
  • 説明は正確でなくてはならない(価値観)
  • 説明は論理的でなくてはいけない(価値観)
  • 説明は、正しい言葉、正しいイントネーションでなければならない(価値観)
  • 初対面の方との会話は、砕けてはいけない。自分の感情を出してはいけない(価値観)
  • 隙を見せてはいけない(価値観)
  • 知らないテーマは避けてしまう(癖)
  • 状況が把握できなくなったら、相互コミュニケーションをとらず、一方的な発言や、交流を止めてしまう(癖)
  • 失敗する可能性やリスクを避けてしまう(癖)
これらの価値観や癖は、一回では治りません。受験の失敗はつらいことではありますが、これらの価値観修正の貴重な機会になっていることを自覚していただきたいと思います。 人は、苦しくないと変われない生き物なのです。

そして、支援目的調整面接は、なかなか体験できる機会がないです。 出来事の状況、それにかかわる人間模様、先方のニーズ、こちらのできる範囲とできるところの淵を確認し、提案内容、自分の癖・価値観 等、様々の視点から全体をとらえる力が必要になります。 また、支援目的調整面接は、MRIが実施しますが、リーダーになってみないとわからないことがわからないということも実際ありますので、10月22日・23日(土日)に実施される ‎M04 合宿(組織支援総合体験実習)での、危機介入支援リーダーに挑戦して、体験していただけると理解が進むと思います。是非検討してください。