2019年度(令和元年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2019年度(令和元年度)MRC認定試験における主任試験員講評

2019年4月6・7日MRC認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園MRSI(主任試験員)より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。  2019.4.9 認定部
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今回は、教科書ができて初めてのMRC試験でした。教科書を読み込むことでしっかり理解を深められたせいか、受験者の皆さん、本当に高いレベルのパフォーマンスを発揮してくださいました。今後の更なる上達のために、気づいた点を記載します。
 
1.学ぶ弊害
間違いなく、教科書のおかげで皆さんの理解が深まっていると感じます。一方で、学ぶ弊害を感じました。学ぶと、そのことには詳しくなりますが、逆に全体性を見失う危険性もあります。平たく言うと「常識的判断」が崩れてしまう可能性があるのです。 今回のシナリオでは、70名の組織のリーダーとサブリーダーが厳しい惨事体験をしています。ところが常識的に考えれば、他の方々は、それほどのショックを受けているとは思えない状況なのです。しかしながらほぼ全員の方が、ミニ心理講座(15分の情報提供)で厳しいファーストショックの症状を説明していました。また、数名の受講者は、その後に予想されるセカンドショックについても注意喚起をしていました。 講座でもお伝えしているように、私たちはプロであればあるほど、不必要に不安をあおってはいけないのです。 勉強したことで視野を狭めることがないよう、常に現場の人の立場でしっかり考える癖をつけていきたいものです。
 
2.自分理論・相手理論
以前の受講者に比べて本当に基礎講座の内容の理解は進んでいると思います。 ただ、上級講座でも開設したように、教えられた内容をしっかり理解している、と感じる段階は「自分理論」のレベル。言い換えれば、一人よがりの理論です。現場で相手を動かす力があるのは「相手理論」。相手が理解しやすいロジックや言葉や表現法、事例、比喩などを使えることです。 例えば、基礎講座で使っている「情報提供」「誤った情報」「症状」「パニック」「マヒ」「プログラム」などの言葉を、何の説明もなくそのまま使うと相手は、理解できないばかりか、多くの場合裏メッセージとして受け止めてしまうのです。 私たちは、試験となると、どうしても「覚えたことをそのまま、間違えないように出そうとする」癖があります。ただ、メンタルレスキュー協会の試験は、「現場で通用するか」という点で評価されます。きちんと相手に通じる理論、表現、スピードなどで伝えられるようにしましょう。そのためには、ぜひ、自分のプレゼンを、メンタルレスキュー協会の講座内容を知らない第3者に対してリハーサルして、素直なフィードバックをもらうようにしてください。
 
3.周到な準備と柔軟性
支援目的調整面接においても、プレゼンにおいても、多くの皆さんがとてもよく準備していました。あらかじめビルの図を描いたり、白紙的な支援メニューなど準備したり、相手が理解しやすいように工夫したのは素晴らしい配慮です。これは相手理論です! ところが、そのように準備が周到な方ほど、自分の思考に引っ張られて、支援目的調整面接で相手の要望が出されているにもかかわらず、それをプレゼンなどに十分反映できない方もいらっしゃいました。結局、相手は自分の意向を無視された、自分たちを丁寧に扱ってもらえていないと感じます。 現場では、いかに相手の要望や当時の状況に応じて、柔軟に対応できるかが一番のポイントになります。
 
4.調整すべき内容と優先順位
支援目的調整面接では、相手の味方になる、ことが重要だとお伝えしてきました。そのためには、その方の体験を聞くという方法が有効だということも強調してきました。 ところが、実はそれ等は「手段」なのです。目的は、「有効な支援をすること」。 そして、その目的を達成するためには、「必要最小限の情報収集、説明をする」ということも、とても重要な手段なのです。 何人かの受験者は、練習でやったように、まず体験を聞き、そのあと相手に求められるままに、ツールの説明をするというパターンで対応していました。 例えば、何らかのツールを提供するにしても、今、皆さんが事故でどんなショックを受けているのか、何を知って、何を知らないのか、どんなうわさが流れているのか、亡くなった人と関わりがある人がいるのか、会社の今の状況(職員不足?時間がないなど)はどうなのか、…など、MR側が知らなければならない情報があるのです。それをパスして、いきなり何らかのツール、例えばミニ講座をやるという前提で、目的や対象、時間などをパターンで説明しても、現場では行き詰ってしまいます。 その中でも、「バリア病」でお伝えしている「リスク」、つまり今回のシナリオでは、どんな従業員がどれぐらいダメージを受けているか、どんなショックがあったのか(無線でどんな声を聞いたのか)などは、出来るだけ早い時期に確認しておかないと、支援目的や対象の議論がずれてきます。 たとえ相手に「どんなことをしてくれるんですか」と質問されたとしても、それに対して丁寧に答える姿勢はみせながら(つまりMCはキープしながら)、必要な情報収集や説明をして、きちんと効果のあるメニューになるように調整しなければなりません。
 
5.支援メニューの説明方法
アンケートの説明をするとき、アンケートの具体的内容や実施要領など、パターンの説明はできているようです。ところが、「なぜ、このメニューを今回提案するのか」という目的からしっかり説明できている人は少なかったようです。 上級組織3の支援戦略でお伝えしたように、一つ一つのメニューの背景には、まずリスクがあり、それに対してどう対応するのかの方針があり、最後に状況やクライアントの希望に応じて、具体的なメニューが浮かび上がってくるという流れがあります。 説明するときも、単にメニュー単品を説明するのではなく、リスク→対処の方法論→制約要望→具体的ツールの展開方法の流れで説明したいものです。 ちなみに、今回のシナリオで心理ミニ講座(15分の情報提供)を私がするとしたら、私は、ファーストショックについては、「今回の出来事に関わった数名の方には、このような症状が現われていると思います。その方々には、特別に時間をとって対応させていただこう思っています。皆さんには、今、その方々がこういう状態にあるということだけ理解していただきたいと思います」という前提で、イライラ症状、強い負担感、現場が怖いという回避症状などの概要をお話しします。このテーマは5分で切り上げ、あとの10分前後は、新元号、10連休、春の気候の変動、私生活でのライフイベントの集中などの特性がある時期であることから、ライフイベントのストレスと、疲労予防(睡眠)についてお話しし、希望者(左記に紹介したファーストショックをひそかに感じている人も含め)にはカウンセリングを提供できる旨(会社を通じて希望、もしくは協会のアドレスにメールで希望)をお伝えすると思います。 私達という資源を、ユーザーに最大限に活用してもらわなければなりません。弱っている方シフトはとるものの、惨事だけにとらわれず、常に「大きな視点」と「目的意識」をもって考察するようにしてほしいと思います。
 
6.終わりに
今回不幸にも不合格だった方々も、講座や練習の時と比べて、しっかり実力を向上させていることは十分に確認できました。ただ、パフォーマンスがメンタルレスキュー協会の設定する合格レベルに少しだけ達していないだけです。今の努力の方向で間違いはないと思います。 しかしながら本講評でも強調したように、パフォーマンスは、相手が決めることです。自分が「できた」と思う状態で止めていてはいけません。必ず誰かに評価してもらい、「相手理論」としてしっかり伝える力が持てているかを常に、チェックするようにするといいでしょう。 その意味で、次回のMRC試験には、自分のパフォーマンスを、後で自分で確認できるように、自分の机の前にスマホを設置して、自分の試験の様子を録画することを許可しようということになりました。必須ではなく、希望する人は…ということなので、録画の準備、実施、などはご自分でやっていただくことになります。詳細は次回試験案内でご案内します。