平成24年度MRL認定試験における主任試験員講評

平成24年度MRL認定試験における主任試験員講評

平成24年07月21日MRL認定試験における主任試験員講評

上半期のMRL試験に関して、受験者に共通するテーマについてアドバイスします。
 
【基礎講座講師について】
1 内容のより深い理解を
一生懸命説明しているのですが、どうも、受講者に内容が伝わってこないことがあります。大きく2つの理由があります。
ひとつは、内容を十分に理解していないため、いわゆる「借り物理論」にとどまっている場合です。自分でも、自信がないために、言葉に迫力もなく、事例や比ゆを使っても、説得力が伴いません。実技指導、課目講師、勉強会などを通じて、積極的に主任講師等に質問をして、理解を深めてください。せめて、自分自身が納得できる「自分理論」にまでは深めておかないと、人には伝わりにくいのです。
更に言えば、自分理論だけでは、自分には説得力が有っても多くの人に伝わりにくいことがあります。出来るだけ多くの人に伝わりやすい理論、つまり一般理論として説明することが必要です。たとえば、原始人の比ゆなどは、自分にはピンと来なくても、惨事場面で多くの人に理解してもらいやすい一般理論なのです。ですから「私には苦手」とあきらめずに、必死で勉強して、納得できるところまで理解しておいてください。
また、試験では1課目の実技だけですが、その後の試験員との質疑応答で、MC・惨事対応、自殺企図対応のすべての範囲で、重要と思われる要素がいくつか質問されます。準備した担当時間は何とかこなすことができても、それ以外の内容については、理解が極端に低いような気がします。MRLは、基礎講座の主任講師になれる資格です。全般に関して、深く広く理解しておいてください。(実際には、試験に合格したからといって、すぐに主任講師をすることはありません。もう少し経験を積んで、慣れてから主任講師として活躍してもらうのが普通のケースです。)
 
2 前後のつながりや全体性を意識し、それを説明する
伝わりにくさのもう一つの原因は、今説明しているスライドの全体における位置づけを十分把握・説明していないことです。
自分で教育内容を決めてスライドにしたものなら、説明の流れや、前後のスライドの意味、つなぎの言葉などが、自分の中に自然に存在しているはずです。ところが、基礎講座では協会指定のスライドを使います。前後のスライドのつなぎ、今の説明は2日間の講座のどの部分で、次のどの説明・実習につながるのか、など、全体性を常に意識しておく必要があります。
また、ただでさえ短い時間に多くのことを伝えようとする基礎講座では、スライドの枚数がもともと多いのです。受講生もスライドそのものは理解できても、それが前後とどう関連するのかを見失いがちです。受講生の理解を容易にするには、スライドの一つ一つに、「今このことを説明しています、次にこれを説明します、この説明は、前のここと関連しています」などというように、全体の位置を繰り返し提示しながら解説を進めていくことが必要です。
 
3 事例・比ゆの使い方
事例や比ゆの使い方で、印象が大きく変わります。
事例や比ゆは数多く取り入れればいいというものではありません。事例や比ゆは、その素材が持つメッセージが強く出てしまい、本当に言いたいことが逆に薄れてしまうことがあります。「とても興味深い事例だったけど、何を言いたかったのだろう…」となってはいけません。ぜひ、講義で使うまでにいろんな人に試してみて(予行)、自分の意図する方向の説明に使えるのかどうかを確かめておくといいでしょう。
また、事例は落語のようなものです。同じ落語でも、師匠が語るのと新人が語るのでは、面白さや臨場感が違う。事例を思いついたことだけで安心せず、事例を上手に(効果的に)語るためには、相当の練習が必要だということを肝に銘じてください。
 
4 受講者への配慮
上級講座(情報提供)でも強調しましたが、メンタルレスキュー協会がわざわざ情報提供をトレーニングするのは、クライシス場面(惨事、自殺企図)では、我々の情報提供が、それを受ける人を傷つけてしまう可能性があるからです。つまり、この説明、この言い回し、この表現、この表情、この事例、この比喩、質問に対するこの反応が、受講生を傷つけないか…裏に取られやすくないか…、という視点を常に持っておかなければなりません。ただ単に低姿勢で丁寧、あいまいに説明すればいいというものではありません。頼りがいのあるプロという印象も与えなければなりません。
試験を受ける前には、気の置けない仲間たちを相手に予行的に説明練習を行い、自分の説明がどのようなメッセージを与えがちなのか、苦しい人(惨事・うつ)の人にどのように受け取られやすいのかを、フランクにフィードバックしてもらうといいでしょう。一般的なテーマでは上手な講師、楽しい講師と言われる内容でも、MRLの試験としては、評価が低い場合もあるのです。
 
【惨事後ミーティングについて】
惨事後ミーティングは、現在の試験では、1時間の実技試験になっています。理屈だけの勉強では、ごまかしが利かなくなっています。何とか勉強会などの場を見つけて、実技練習を重ねてください。惨事後Mでも、構造化はされているものの、何のためにこのミーティングをやるのかという目的に応じて、柔軟に対応する必要があります。話を聞くうちに、初めに認識していた目的が変化するかもしれませんが、とにかく「このミーティングで、少しでも楽になってもらえる」「このミーティングで、今後の仲間の崩壊を防ぐ、出来れば助け合いの雰囲気を助長する」という方向に向けるようにミーティングを導く必要があります。
構造を進めることは、この一番重要な“目的”ではなく、単なる“手段”に過ぎません。
また、なんとなくうまく行っていない雰囲気のとき、PTSDの不安を掻き立ててミーティングの意義を強調(言い訳)するのも、多くの場合自分を守ろうとする行為なので、惨事後M実施の目的とは関係ない行為になります。常に、目的意識を忘れないようにしてください。
また、どうしても暗い話が続くので、カウンセラーのほうの自責感が刺激され、申し訳ないことをした、うまく行かなかったとネガティブな発想をしがちです。MRLは、メンバーが実施した惨事後Mのスーパーバイズをすることもあります。そんなときは、ミーティングをやってよかったことを、しっかり認識できる視点を持たなければなりません。