2023年度(令和5年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

2023年度(令和5年度)UCPC認定試験における主任試験員講評

令和5年8月5日・6日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評

認定試験を受験された皆さん、お疲れ様でした。当日の主任試験員講評を次に掲載しました。『CPS認定試験』『UCPC認定試験』は相通じる部分がありますので、双方の講評を参考にされて、今後の研鑽にご活用ください。

令和5年8月 認定部
——– 


主任試験員 MRSI 下園壮太

 

1.バリア病で大きい視野を持つ

私たちカウンセラーはクライアントが来ると、どうしても感情の問題とかうつ状態のトラブルの視点で相手の話を聞くことになります。
今回のクライアントは「自分の状態を客観的に見て欲しい」という主訴で来ましたが、話を聞いてみると、かなり身体症状が悪化しているようです。このような場合は、やはり病気の可能性を考えてできるだけ医療につなぐという視点を持つべきです(バリア病の病)。
クライアントが訴える第2の無力感や不安や自責などの心理的なテーマに関しては、今回のカウンセリングだけで完全に対応する必要はありません。
また、特に具体的な対応を迫るようなイベントが差し迫っている訳でもありません。そうすると、今回のカウンセリングで優先すべき目標としては、「医療につなぐ」ということが浮き上がってくるでしょう。
 

2.クライアントの特性を正しくつかむ

クライアントの話を表面的に聞いていると、どうも病院を避けているような雰囲気があります。ところが急性胃腸炎については、すぐかかりつけのお医者さんに行ったのです。それは、薬さえもらえれば翌日の仕事に行けるという見積もりがあったからです。
つまり、このクライアントの価値観は仕事が全てなのです。それは仕事へのしがみつきと考えることもできます。しがみつきなら「しがみつきは引き剥がさない」という原則を適用することができます。
また、仕事へのしがみつきだけではなく、職場やお母さんに対して、あるいはカウンセラーに対しても表面飾りが見受けられました。面接においてもクライアントの表面的な笑顔だけでなく、全体像を把握してそれが無理に作った笑顔ではないのかと察知できなければなりません。
 

3.適切な説明と要する時間の把握

一般的にまだまだ説明が上手ではないようです。
一番の原因は、説明というのは疑問(いわゆるQ)があって成り立つのですが、根本の、クライアントが持つ疑問をしっかり特定せずに、ただ説明を開始しているということです。もし「5月は何もなかったのに、症状が改善しないのはなぜ?」という疑問を持っているのだったら、経緯表を使って 3・4月の活動が蓄積疲労となって出てきていることを説明すれば良いのです。その際は3段階の説明は不要となります。
また、これは何度もお伝えしていることなのですが、図表で説明するのはわかりやすいのですが、それより説得力があるのは事例です。「以前のクライアントさんで大きいイベントが終わった後に調子を崩した方がいたんだけど、しばらくしたら元に戻った」というお話をした方が分かりやすいのです。
また、どの説明にどれぐらいの時間がかかるのかという時間の見積もりが甘い方が多いようでした。開始前のカウンセリング目標のところで、「これからの20分間、これとこれとこれを説明してこうする」と説明してくれた受験者がいましたが、私ならそれだけで1時間かかると思った内容でした。というのも説明とは、ただこちらがプレゼンするのではなく、相手の納得を得て初めて説明と言えるからです。いわゆる質疑応答の時間も見込まなければなりません。
 

4.説明等がうまく伝わらない場合

説明が相手に入らない時に、相手の状態をみて「これまでの説明はいかがですか」と確認の質問をすることは多くの受験者ができたのですが、「ちょっとここが分かりません」とか「ただ、実情はこうなんですけど」などとクライアントが発言すると、それを要約もせず、慌てて追加の説明をしてしまう人が多かったようです。
今回の場の特性を考えれば、今日ここで納得させなければならないというものではありません。説明は相手理論、つまり単なる物語です。その物語が納得いかないのであれば、それを前提とした対処に進むことはできないのです。必死に残り時間で対処に進むよりも、相手の話をしっかり聞くステージに戻って味方の関係をキープする方を重視しましょう。
 

5.目標について

私達は短期的にある行為をするためには、この準備、この論理、この手順など、逆算で考えて仕事を進める癖があります。PDCAサイクルです。
一方、カウンセリングはそれだけではなく、一旦漠然と立てた目標を、状況が変わればどんどん修正していくOODAループで進める必要があります。 大きい目標については、OODAループで、手前の小さな目標は、PDCAサイクルで進めることが多いのです。
例えば、相手の「私だけ能力がないのでは」という疑問を解消するには、まずは今の症状は疲労が原因で生じていることを説明、その次にその疲労はこのような経緯で知らない間に蓄積したことを説明、疲労を取るための期間と方法論を説明、その後できること探しをする、という一連の手順が想像できます。この流れは私たちがいつも親しんでいる一般的な計画、つまりPDCAサイクルの計画です。
そのPDCAサイクル計画を進めているうちに、実は会社はひどいブラック企業だ、という情報が入ってきたなら、休むことよりも、退職するという大きな方向性を変えなければならない場合があります。これがOODAループでの対応です。
このように、実際のカウンセリングでは、細かいPDCAサイクルを積み上げながら、大きくOODAループで目標を柔軟に変換していきながら進めていくのです。
 

6.クライアント目標について

ところがどうしても大きい目標についても、PDCAサイクルで考えてしまい、事前に考えた「クライアントには、こういうことをしてもらおう」というクライアント目標をひたすら、押し付けたり、それが無理だと分かると、代替案を探し回り、説得してしまう受験者もいました。
もう一度講座でお伝えした「原則」に立ち返りましょう。クライアントに1番受け入れてもらいやすいクライアント目標は「今のままでいいよ」という目標です(ただ、この場合は「なぜ今のままでいいのか」という説明をつける必要があります)。
PDCAサイクル系の頭では、どうしても「新しいことを何か一つ、実行させなければならない」という固定概念にカウンセラーが迫られてしまう可能性があります。「変わらなくていいよ」が一番クライアントをサポートするのだ、という原則を思い出してください。
 

7.クライアントの心情や体験を「全部聞く」?

家族向けの希死念慮対策の本に、私たちは、「クライアントの話を全部聞いてください」と記述することがあります。協会のトレーニングの中でも、痛い感情はもちろんのこと、事実認識を丹念に聞けと、口酸っぱく伝えています。
ところが1時間というプロのカウンセリングの「場」では、全てを聞けるものではないのです。クライアントは、最初は警戒から入るので、恐る恐る情報を出してくれるものです。プロのカウンセラーは、今回の時間で得られた情報を元に、クライアントのニーズに最大限に応えられるような展開をしなければなりません。 ある程度の情報と味方感を感じていれば、クライアントの状態説明やできること探しに移って、カウンセリングを集結してもいいでしょうし、そのつもりで進めていたが、途中で非常に重要な心情や体験が語られ始めたら、説明などを諦め、できるだけ多くのことを語ってもらうというカウンセリング目標に移行する手もあります。
いずれにしても、「全部聞く」は目標ではあっても、TPO(場)で変えていかなければならないことを覚えておいてください。


令和5年12月9日・10日(オンライン)UCPC認定試験における主任試験員講評

受験された皆さん、お疲れ様でした。毎回、練習を積んで徐々にクライシスカウンセリングを身に付けてこられているのが分かり、その努力に心からの敬意を表します。ここは自信を持っていけるという部分も持っていらっしゃいますが、もう少し確実にして欲しいところに気づきましたのでお伝えしていきます。

主任試験員 MRI 高楊美裕樹

——–
 

1.クライエント理解

(1)MCを意識し味方感を出せているか
基礎講座から練習を積み重ねてきた「MC」ですが、さて皆さんは自分の日頃の表情を確認したことはあるでしょうか。オンラインのカウンセリングは、お互いの表情が分かる状態になっています。「MC」を発揮し、強力に味方感を出していくチャンスが常にあるわけです。ところが、試験の中でクライエントの話に集中しているのか、「単調な、無表情なMC」になっている方が多く見られました。今回のクライエントは夫とのやり取りで「ショックだった。ともかくびっくりした。結論が怖い。」と話しています。驚きと苦しさや悲しさ、怖さが入り混じった感情を受け止める表情とうなづきは、クライエントにグッと近づいて味方になっていく重要な場面です。せっかく伝えているのにカウンセラーからの反応が薄いと「伝わっているかな」と不安を生んだり、「やっぱり分かってもらえない」に繋がっていきます。試験の緊張はあると思いますが、普段から「MC」を意識していざという時に相手に伝わるようにしておくことが求められます。
(2)何を理解したか
現在クライエントはどんな状況であるかの質問を皆さんがしていましたが、クライエントが答えてくれた内容をどう理解したかを応答せずに進めていました。カウンセリングはコミュニケーションを通して、カウンセラーがどこまで何を理解したかを伝えます。それには分かった中身と心情を掴んだ「盛った要約」が必要です。要約があることによって、クライエントは自分の状態・状況を整理しながら把握していきます。この2か月夫の事を誰にも話せず1人で抱えて、家事・子育て、夫の弁当作り、そしてミスはありながらもなんとか持ちこたえてきたクライエントをねぎらう要素を入れた「盛った要約」は、自信をなくしたクライエントを下支えする応答となり、分かってもらえたという安心感、味方感を渡すことが出来ます。自分ならどんな風に伝えるかを一度考えてみてください。

2.支援戦略シートの活用

なんのためのバリア病か
バリア病は、主訴と前半のカウンセリングで分かった内容から、気をつけていくポイントを見つけ出し、カウンセリングの流れを見立てていく重要なツールです。
後半のカウンセリングで目標とすること、それには何をどこまで聴いて説明し、どのような対応が必要かを整理していきます。頭の中でごちゃごちゃにせず、書き出して外在化させます。しかし、カウンセリングは生ものです。常に変化していくので、進めていく中で新たに分かった内容から当初の目標を変化させていく柔軟さ、伝える優先度を考慮することが必要になってきます。今回「どう生きていったらいいか」という主訴と前半から「死にたい」気持ちや離婚のリスクを挙げて確認されたことは良かったのですが、では分かったらどのようにクライエントに説明していくかが大事になってきます。
皆さんはクライエントに2つの惨事が起こっていたことをどう捉えたでしょうか。
まず夫に好きな人がいるなんて全く知らなかった、もしかしたら離婚になるかもしれないという人生を揺るがす惨事。そしてその後におばあさんと車の接触事故を見るという惨事です。夫とのことは、居場所が無くなる、家族がなくなる、愛する人がいなくなってしまうという「安心安全」が一気になくなる第3の無力感を刺激しています。そこで現れた反応は夫と話さない回避、土日も身体を動かしている過覚醒があり、経緯表で2倍モードになっていたところへ、2つ目の惨事に出会います。仕事のミスや涙が突然出る、ボーっとするという第2の無力感がいつもより大きく感じられていること、この2つの惨事を明確に切り分けて伝えることが求められます。
試験時間は20分です。この中で優先されるのが、まだまだ味方感の醸成なのか、しっかりとした説明なのか。何を選択したかによっては、図や経緯表を使用せずカウンセリングを進めるという選択肢も含まれています。

3.説明力を磨く

(1)提示した経緯表は何を説明したいのかをはっきりとさせる
図や経緯表は、クライエントのこれまでの状況と出来事が起こってからの思考や感情の変化をクライエントと共有し、現状の理解と今後の対策を一緒に考えていけるツールです。皆さんも何とか分かりやすく現状を伝えようと努力されていました。ただ、まだまだ自分のものになっていない印象があります。では「今の自分はどうなっているのか」というクライエントの第2の無力感にストレートに答えるには、ファーストショックの説明をしっかりとします。介護職の自分が動けない、助けられないことについては「いつものクライエントなら動いています。今回は夫の出来事がベースにあっていつもより事故の衝撃が大きく影響してしまったんです。」とか、実際の相談事例を用いるなど工夫をします。事故後の反応はだんだんおさまってくるので、「仕事に関しては今までのあなたに戻っていきますよ」と説明が出来ます。ただ、夫とのことはまだまだ情報がありませんし、直ぐ解決に至る話しではないので「カウンセラーとこれから一緒に考えていきませんか」と提案し、今後に繋げる対策がとれるのです。
(2)コンパクトに分かりやすく話す
クライエントには丁寧に聴いて伝えなければ、と意識し過ぎてしまうと、質問や要約が長くなってしまいます。試験の中で何を聞いているのか、何を伝えたいのかがはっきりと分からない場面が多く見られました。クライエントは混乱をして相談に来ています。聞きたい・伝えたいポイントや皆さんが理解していることを相手に分かりやすく伝わるような説明の工夫を何度も練習しましょう。

4.カウンセラーの役割と価値観の整理

カウンセラーは味方になって一緒に考えていく、これが「対策」であり「役割」です。そこで整理しておくことが必要になるのがカウンセラー自身の価値観であり、いつのも自分のやり方です。最後の提案でカウンセラーの視点で良いと思ったことが相手に受け入れられるかどうかは、クライエントの話をしっかりと聴いて味方になり、その提案がこのクライエントに本当に必要か、行動に移せるかどうか見極めが必要になってきます。カウンセラーとして役に立ちたいという思いは大事ですが、自分のやり方は一度脇に置いて、今のクライエントに何が必要かを今一度白紙的に考える習慣を付けて行きましょう。