2023年度(令和5年度)MRI認定試験における主任試験員講評

2023年度(令和5年度)MRI認定試験における主任試験員講評

2023年10月21日・22日MRI認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   2023.10.29 認定部
———-
今回も皆さんが熱心にトレーニングをして、とても高いパフォーマンスを見せてくれたことに主任試験員として満足しています。以下、今後の参考となるようなことをまとめます。

MRSI 下園壮太

     
1.基礎講座:課目講師

伝える内容をさらに深い部分で理解する
スライドについて、その伝えたい内容を的確に表現し、適切な事例や比喩で補強し、受講者とのコミュニケーションを取りながら進めていくことはほとんどの受験者がうまくなっていると思います。
一方で質問に対して十分な答えが出来ない場面が散見されました。
スライドの表面的な理解はできているのですが、そのスライドの背景にある情報の狙い、成り立ちなどについての考察が浅いように思います。
MRI指導者層でその件を話し合ったのですが、おそらく、昔はVTRも教科書もない中での勉強だったので、限られた情報の中で必死に自分の中で考えたり、他者のパフォーマンスをヒントにしたりして、深いところの理解に届く機会が多かったように思います。 それに比べて今は下園のVTRがあるが為に、自分で何度も勉強出来るのは良いのですが、表面的な表現を合わせることで満足してしまってる部分があるのではないでしょうか。
さらに、自分のパフォーマンスも、ビデオで撮って練習することもできます。第3者的な視点で自分を冷静に客観的に見る機会としては良いのですが、その作業だけでは自分が根本的に間違えている視点を見出すのは難しいのです。やはり誰かに違う視点で見てもらう必要があります。
具体的には下園や自分のビデオを見すぎない(わかったつもりにならないように)。他者に自分のパフォーマンスを見てもらう。特にメンタルレスキュー協会の会員でない全くの素人の方に自分のパフォーマンスを見ていただいて、自分が伝えたいことが伝わるのかをフィードバックしてもらうことが重要だと思います。また、そのような、素人の方の質問に答えることで深い部分の理解を自分の中で準備することができると思います。

「その人となり」を出す勇気
上級講座でもお伝えしていますが、私達がプレゼン能力を鍛えているのは、実際の惨事の現場でショックを受けて頭が回らなくなっている人にでも、きちんと必要な内容を伝えられるだけのプレゼン力を身につけたいからです。
その様な場面で特に重要になってくるのが、伝える内容そのものよりも、伝えている講師の人間性を売る(伝える)ことです。
この人になら相談してみたい、この人の言うことなら取り入れてみたい、と思ってもらえるようなパフォーマンスが必要になります。 それはAIのアナウンサーのように単に正確に、正しく、わかりやすく伝えるだけではなく、むしろ逆で、分かりにくかったり、不正確だったり、時には言い間違えたりする、しかしそれでもその対応の中に誠実さや柔らかさ、優しさなどがにじみ出るようなパフォーマンスなのです。
どうしても私たちは正しく、美しく、スマートに、間違えずに、伝えることの方を意識しすぎていると感じます。
具体的にはコンパクトでインパクトのある自己紹介を準備すること、講義の中に是非ユーモアを取り入れること、受講者と積極的に交流すること、自分のダメな部分を積極的にさらけ出すこと、などです。
これらはこれまでの自分の価値観、パターンと違い、またダメなところをさらけ出す部分もあるので、勇気が必要ですが、是非チャレンジしてみてください。

2.支援目的調整面接

リスクの見積もりを適当にしない
戦略的思考についてはかなり理解が進んでるように思いました。
一方で、具体的な事例に対すると、重要な思考過程を省いてしまう傾向も見受けられました。
今回の想定の中で重要なのは、相手側が、ある人を特にケアして欲しいというニーズを出していることです。
私たちとしては、そのニーズに最大限に応えなければなりません。
一方で、それだけではプロとは言えません。惨事のプロとして一般の方が知らないような、このようなリスクがある…ということをきちんと説明できなければならないのです。このリスク分析が甘い人が多かったと思います。
相手の要求はこれ、私たちが考えるリスクと支援すべき内容はこれ、その二つを上手に調整していくのが支援目的調整面接なのです。

心の機微への想像力がまだ足りない
今回の出来事では目的調整面接の相手2人だけでなく、様々な方が惨事に巻き込まれています。
ただ、残念ながら、それぞれの人達がどのような心理状態、心境であるかが十分に想像できていない方が多かったようです。
「痛いところ」は言葉としては理解してるいのですが、不安でも、何をどのように不安に思ってるのか、自信低下でも自責でも、登場人物ごとに、かかわりや職責などによって変わるはずです。
この心理についての予測がやや的外れな場合が多かったように思います。
ある程度の情報が得られた場合、関わる参加者にどのような心理状態が生じるか、ある程度正確に想像できていないと、共感もできないし、情報によるケアもできないのです。
シナリオを作るとき、あるいはシナリオに沿って考える時に、できるだけ先輩達の考えているレベルまでクライアントの心を想像する練習をしてください。
もちろんシナリオだけではなく、講座でも説明しているように、映画や小説、マンガ、歌詞などでそのレベルを合わせても結構です。
その様な経験値が共感のベースにはどうしても必要だと思ってください。

もちろん、私たちの共感は予測だけで成り立つわけではありません。ある程度予測したら、それが正しいのかどうかをきちんと聞いていく必要もあります。自分の想像以外の感情の動きなどを聞くことは、現場ではよくあることです。
だからといって、ただ何の予測もなく聞いていては、核心の気持ちに触れるまでにかなり遠回りになってしまうことが多いのです。
特に支援的調整面接のような調整事項の多い場面では、できるだけ短時間に相手の味方になるためにも、予測のスキルを上げていく必要があると思ってください。

2024年2月23日・24日MRI認定試験における主任試験員講評

今回の試験について下園主任試験員より講評をいただきました。皆さんの今後の参考になさってください。   2024.03.08 認定部
———-
今回も皆さんが熱心にトレーニングをして、とても高いパフォーマンスを見せてくれたことに主任試験員として満足しています。以下、今回は、課目講師及び支援目的調整面接を含めた講評を、今後の参考となるようなにまとめます。

MRSI 下園壮太

 
基礎講座:課目講師/支援目的調整面接
知識を深く濃く立体的にする努力
MRIの課目講師では、協会の提案している理論を上手に提供する能力が求められます。
多くの受験生が所定のスライドを説明できるレベルの理解はできていると思います。これは教科書を読み、ビデオを何度も見ることによって、自分だけで勉強できる範囲です。
ところが、質疑応答になると、さらに深い内容や、異なる視点からの考察が必要になります。
このレベルの知識の整理を進めるためには1人でコツコツと勉強するだけでは不十分なのです。
もちろん一番良いのは数多くの実践を経験することですが、それは難しいかもしれません。講座でも再三お伝えしますが、映画や小説などで勉強すると良いと思います。
つい、その映画や小説を楽しむことに集中してしまいますが、ある特定の個人の心情や行動にフォーカスし、講座の内容と照らし合わせて理解を進めてください。どうしてそう思ったのか、そう発言したのか、そう行動したのか…、もし分からない場合はぜひMRIに質問していただくと良いと思います。
この際、わかりやすい不安や疲労感(負担感)よりも、自責の念と3つの無力感について観察してほしいと思います。
また、同じように自分では気がつかない方向から知識が深まるのが、実技指導者で本当に受講者から質問を受けて答える体験です。ここでもその場を取り繕えたかどうかに関心を持つのではなく、自分の理解が本質的に進んでいるかどうかを意識し、先輩や主任などの解説や回答を参考にしていくと良いでしょう。

講座の解説ビデオは、本当はその気になれば色々な発見もあるのですが、どうしても1度見ると見飽きてしまうところがあり、何度も見ることはないでしょう。
ぜひ、体験会の他の人へのFBや、語ろう会などの場に参加して、先輩達の質疑対応を参考にするようにしてください。

「素朴な疑問」を忘れない
メンタルレスキュー協会は皆さんがご存知のように一般的な心理学、精神医学の用語や概念をあまり使いません。一方で、皆さんのカウンセリングの実力はグングンと向上しますし、現場ではクライアントや周囲の人達によく理解してもらっています。
恐らくメタレスキュー協会がお伝えしている内容はかなり実践的なものだと自負しています。
一方で、先程説明したようにビデオや教科書だけで勉強していると、なぜここでこの説明があるのか、この言葉をどうしてあえて使っているのか、という素朴な疑問を持つことが少なくなります。
基礎講座の内容には「場」があるのです。クライアントは10年前ぐらいの臨床心理士さんや産業カウンセラーの人々を想定しています。その人達の特性に合わせて、その人達が伸びるような工夫をしているのです。そんな意図や工夫についての全体的視点がないと、やはりどうしても単なる表面的な理解に終始してしまいます。
今一度、初学者の気持ちに戻って、どうしてメンタルレスキュー協会はこう表現しているのだろう、という素朴な疑問を持ち、自分で答えが出なければ是非、先輩達にその疑問をぶつけてみてください。

先輩を積極的に活用する
今までの人生ではどうしても、1人で頑張る、やり遂げることが求められてきたと思います。ところがこれまで指摘したように、この分野の知識は1人だけでは分厚くなりません。
ぜひ、積極的に先輩たちの経験や知恵を活用しましょう。先輩達もそのようにして成長してきたのです。
ただ、もちろん先輩たちも忙しくご自分の都合もあるので、きちんと敬意を払い、調整をして、学習のポイントを絞って指導を受けると良いと思います。しっかり指導を受けるならSVを申し込むと良いでしょう。

自分の心を落ち着ける工夫
試験はやはり緊張するものです。その中でも自分の最低限のパフォーマンスが発揮できるように準備していく必要があります。
緊張してパフォーマンスが落ちる原因が3つ程あるようです。
一つ目は、私たちがこれまで小さい頃から何度も受けてきた試験のパターンで対応してしまうことです。つまり、「学んだことをとにかく発表しなければならない」という強迫観念に駆られてしまうと、課目講師でも支援目的調整面接でも、相手のことを無視した発言が続くことになります。常に相手があるコミュニケーションを鍛えていく必要があるのです。自分が何を言いたいかより、相手が今何を考えているのかを重視する必要があります。
暴走していると自覚したら一旦止まって今相手は何を考えているのだろうと自問してください、もし分からなかったら、その時点で素直に聞く謙虚さが必要になります。
もう一つは後半エネルギーが切れる人が多いということです。試験では後半になると対応が雑になる傾向があります。また、それはおそらく勉強の時から発生しており、スライドの前半部分はよく理解しているのですが、後半になるに従って理解度が落ちる傾向があります。 三つ目はスライドの説明にやはり自信がないことです。
これまでお伝えした作業をしっかり実施して1人だけで勉強することなく、色んな視点から知識を揉むことによって、自信が深まってくると思います。